新宿ロフトプラスワンで行われた岡田斗司夫氏のトークイベント「岡田斗司夫の『遺言』第二章」に行ってきた。前回の「第一章」は昨年10月31日に開催されたが、残念ながら行けず。実はロフトプラスワンのトークイベントに行くのは初めて、生の岡田氏を見るのも初めてだ。
イベント名にある「遺言」とは、
タイトルの「遺言」という意味は、「今回語ったらもう二度と語りたくないな」「最近、老人ボケでどんどん記憶が衰えてるから、そろそろ語らないと忘れてしまうな」というような意味です。
イベントの流れ より
とのこと。今のところ同人誌化する予定もないそうで、トークでしか聞けない貴重な話も多いみたい。3月18日に「BSアニメ夜話」で『トップをねらえ!』が取り上げられる際、話される予定の内容とも若干被っている部分があるそうで、そうだと思われる部分は今回紹介しない。
本来引用であるため、引用部分を示すblockquote
要素で囲むべきなのだが、発言の趣旨は同じであるが実際の語り口調とは大きく異なるため、箇条書きで紹介する。また、トークを聴きながら取ったメモと自分の記憶を頼りに書いているため、多少の事実誤認、抜けている箇所があると思われるがご容赦を。
吹き替え版『王立宇宙軍』
-
- 公開後、アメリカ版を制作し、ハリウッドで上映するという話が来た。
- バンダイとの契約上、いかなる編集版、海外版や吹き替え版を制作する場合でも、ガイナックス・山賀博之側のチェックが必要だった。そのため吹き替え版を作るにあたって、スタッフが海外に出向くなどの、面倒臭いことになった。
- 吹き替えの時に知ったことは、アメリカの声優は下手ということ。
- 日本版の声優は全部で40人ぐらい、それに対して吹き替え版は最初に7人ぐらいしかいなかった。
- 吹き替え版の声優に台本を渡しても自分らしさを入れることしか考えていない、アドリブの嵐。勝手に「ジョン」だとか呼び始める。
- 岡田はアフレコに立ち会わなかったが、帰ってきた山賀の顔を見てひどかったということを察した。山賀曰く「僕らでやれば良かった」
- 盛り上がりのない映画なので、吹き替え版は何とかして盛り上げようとしている。
- 赤絨毯を歩いたが、スタッフはみんなアロハシャツとTシャツ。誰もタキシードや背広を着ていなかった。
- 『王立』その後・テレビシリーズ化の話
-
- バンダイの社内でも解釈が「失敗だから早く撤退しよう・忘れちゃおう」派、「これからヒットする・イケイケ」派に分かれた。
- 1年52話のテレビシリーズを作れないかという話が来た。山賀はノリノリになって「52話考えましょう!」。2時間の映画を丸々使うことに。
- 「8月の終戦記念日辺りに、あの世界で核実験をやりたい!」山賀が出したアイディア。南極に何も知らされないままシロツグたち宇宙軍が送られ、そこで核実験が行われる。キノコ雲が上がって、みんなで「バンザーイ!」。
- もし山賀の案をやる場合は“手塚治虫の24時間テレビ”方式、つまり放送時間ギリギリに納品し、チェックさせないまま放送するしかない。
- テレビ版プロットが作られ、1話「映画そのまま」、10話「リイクニとすれ違う」、18話「核実験」 など決まっていた。
- シロツグたちが戦争に“派遣”される話なども考えていた。
- 今思えば『最終兵器彼女』のような、高校生の日常が徐々に戦争などの非日常になっていく作品を作りたかったんじゃないか。
- 『王立』その後・劇場版の続編の話 (『蒼きウル』とは別)
-
- いつの間にかテレビシリーズの話は立ち消え、次は劇場版の続編の話に。
- 『王立宇宙軍』の100年後、前作の登場人物たちはみな死に、伝説になっている世界。宇宙戦艦が登場し、ワープ航法に近い亜光速飛行が可能になっている。
- 宇宙軍が戦艦で6光年先にワープすると、そこには“地球”がある。地球ともう一つの地球の両側からストーリーを描く。やがて地球 対 もう一つの地球の戦争に。
- 現在(当時、89・90年頃)の地球の科学力と、そう変わらない科学力の姿かたちもよく似た宇宙人が攻めてきたらどうなるか? ということを描きたかった。
ガイナックス版『ガンダム』
-
- バンダイが新しいガンダムを模索していた時代。サンライズ、バンダイから『ガンダム』をガイナックスで作らないかという話が来た。2つの案を考えた。
- 1つ目は、パイロットがモビルスーツに乗ってからの3分20秒をものすごくリアルに描く、というメカマニア向けの企画。『王立』以前にあった企画。
- 2つ目は、モビルスーツメーカーのメンテ要員が戦場に来て、説教をする話。メーカー側に立った『ガンダム』、メーカー側から見た戦争を描く。
- 自分たちの考えるリアリティを入れたい。
- 『ガンダム』の正史にあまりにも合わないので没。キャラクターはできていなかったが、プロットはできていた。
『トップをねらえ!』
-
- 「アニメ夜話ではなかなかできない、観ながら話す」。岡田持参のDVDを上映しながらのトーク。
- 第1話冒頭の新聞の文字「しびれるぜ 鋼の巨体」は樋口真嗣によるもの。他にも、作品の随所に彼のアイディア、悪ふざけが入っている。
- オープニング冒頭、未来の日本列島。原子力発電所がある場所が水没、消失している。「こういう話がNHKではカットされる」
- オープニングにも使われたマシーン兵器のシャドウボクシング、樋口コンテではもっと間抜け。だが窪岡俊之、貞本義行が上手すぎるため、格好良く見える。
- マシーン兵器に乗った女子高生たちがノリコを見下ろしてバカにし、「ねぇ~?」というシーンで、岡田曰く「当初の目的は達成した!」。
- 上映中、「バカですねぇ~」を連発する岡田。
- マシーン兵器が整列するシーン、色分けは庵野秀明の高校のジャージの色から。
- 物陰からカシハラさんが睨んでいるシーンで、試写時「ニュータイプ」の井上伸一郎が嫌な顔になった。
- ドヴォルザークの「新世界より」の権利を買った方が安いのに、似たような曲を田中公平に作ってもらった。
- 作中では、それまでアニメではあまりやられていなかった、実在のメーカーを積極的に取り入れた。その後、他のアニメもやるようになった。
- 庵野に岡田がコーチがノリコを選んだ理由を聞いたら「あれはえこひいきですね」。
- 嫌がらせの落書きのうち、「大阪に帰れ!」が岡田のお気に入り。
- 日高のり子が「お姉さまが鉄ゲタを!」のシーンで6回リテイクをした。声優が素で笑っていたのを岡田は初めて見た。
- ヴァンゲリスの『炎のランナー』に似せるよう発注した曲で、「ヴァンゲリスだー!」とスタッフが言ったら、田中が「お前らが言ったんだろう!」。
- 岡田曰く「イナズマキックの時に、何でライダーのかっこ悪い飛びが入るのか、何でタロウの捻りが入るのか、俺には分からない」。
- 放課後の戦いの後、カシハラさんの「負けたわ…」の台詞のところを、スタッフ間では「カシハラさんの成仏」と呼んでいた。その後はずっと良い人。
- バンダイからOVA 4話だったら6,000万、6話だったら9,000万、という予算の話が来た。
- 第2話の脚本の段階で、ステーキ屋の「フォルクス」の紙ナプキンに岡田がアイディアを書いて山賀が受け取り、「新潟で書いてきます」。
- 岡田曰く「山賀博之はメロドラマが上手いんですよ」。
- 「『猫のゆりかご』のカート・ヴォネガット・ジュニアのようなアニメが作れないかなぁと、ガイナックスを作った時から思っていた」。
- ガイナックス作品では徐々に「岡田斗司夫」のクレジットが小さくなっていく。公式な資料からも名前が消されていく。本人も気持ちが悪いと思っていた。
- 冗談交じりに「パチンコ『トップをねらえ!』はある話しだよなぁ(笑)」。
- 第5話、血を吐いたコーチの「言えばお前を殺す!」の台詞の元ネタは、聖悠紀版『宇宙戦艦ヤマト』の沖田艦長の台詞。沖田艦長はそんなことを絶対言わないだろうと、その当時スタッフの間で流行っていた。
- なぜ舞台が沖縄かというと、水着が出せるから。
- 第5話、作戦会議に入ってくるコーチの「提案します!」のシーン、「これでは客が笑ってくれない」と何度もリテイクした。
- 第5話、建造中のエルトリウムをノリコとキミコが地上から見上げるシーンは、『スター・ウォーズ』の初期プロットにあった“ルークが地上から双眼鏡で空を見ると、宇宙での戦闘が見える”というアイディアを岡田が格好良いと思い、元ネタにした。しかし絵が上がってみると、あんな風になっていた。
- 海岸でノリコとユングが話しているシーン、「ユングの成仏」と呼んでいた。
- 第6話のモノクロについて、「描けないものは描かない方がいい」。岡田にとって、『流星王子』や『エイトマン』などのモノクロアニメの方が未来的なものに感じられた。
- 第6話はただ絵が上手いだけでなく、止め絵で上手い人が必要だった。撮影時にはオーバーラップをやったため、一発勝負。
- 『トップをねらえ!』のテーマ
-
- バカの素晴しさを描きたい。勇気を持って主人公の知能指数を下げよう。あえて頭を悪くする。
- 「努力と根性」がテーマだとよく言われるが、そんな訳がない。
- 「努力と根性」なんて誰も信じていない。ただ「努力と~」という台詞が出てくると何となく熱くなる、「努力と~」と言われると胸が熱くなっちゃうアニメファン、オタク向け。
- わざわざ隠れた名作になるようにしている。
- オタクの大肯定アニメ。そういう意味では「『トップをねらえ2!』はけしからん。鶴巻さんは分かっていない!」。
- 真面目に観るなというサインは随所に入れている。
- インタビューやムックなどではテーマは言わないようにしている。
- 『トップをねらえ!』その後
-
- 『トップ!』の後、岡田は作りたいアニメがなくなってしまった。未だにない。
- 直後に続編の話が来る。山賀はやれるという。「オカエリナサイ」の後、地球に帰ると沖女があって、カシハラさんなどが居て、トレーニングをしている。山賀曰く「なんでそうなったかは岡田さんが考えてください」。
- 山賀の話が庵野の琴線に触れたらしく「学園ものだー」と感動していた。のちの『エヴァ』学園編はこの辺りが関係しているんじゃないか? と岡田は推測。
- 次回予告
-
- 『ナディア』はガイナックスクーデター事件。
- 次回は『ナディア』、『トップ2!』、貞本義行第1回監督作品『銀河空港』、『終わりなき戦い』、『湾岸戦隊トレンディー』、『ウィザード』について。岡田曰く「ガイナックスの公式の資料にも載ってないんだよなぁ」。
- 『ウィザード』は山賀脚本のファンタジー。「他のファンタジーなど吹っ飛ぶほど」と岡田が絶賛。脚本まで上がっていた。
- 終了後の質疑応答 (気になった内容のみ、『ガンダム』についてはほとんどなし)
-
- 岡田の『電脳コイル』評。『サザエさん』の絵で『攻殻機動隊』。「昔からああいう小難しい話を赤塚不二夫みたいな絵でやられるのに弱いよなぁ」。面白いとは思うが、好きな作品ではない。
- 許せるパロディ、許せないパロディについて。質問後しばらく考えて、絵でやっているパロディはあまり好きじゃない、自分で描かないからかも知れない。「絵のパロディを見て喜ぶ樋口や摩砂雪の顔がバカみたいだからかなぁ(笑)」。
- 自主制作について。他と一線を画するものを持った方がいい。他よりも優れているものがあれば有利。他にありそうなものはダメ。
- 「岡田斗司夫の『遺言』」を同人誌化、書籍化などオフィシャル化しないのか? という質問に対して。岡田の場合、やる時に「利益・意味・正義」のそれぞれのポイントを足して、総合ポイントが20を超えないとやらない。よって、予定はしていない。
- 以前岡田が言った「『電脳コイル」の補助線は『少女革命ウテナ』」について。岡田は発言自体覚えていない。『今日からマ王』を全話観て、その後『イデオン』を観て、『電脳コイル』ごときは流れてしまった。
以上。単なるメモに近いので、自分でも読みにくい。
終了予定の22時半まで予定が押しに押してしまい、用意されていたレジュメ6枚のうち、半分ぐらいしか消化できなかったそうだ。トーク終了後の質疑応答は23時過ぎまで続いた。
続きは次回、「岡田斗司夫の『遺言』第三章」は2月12日開催を予定。詳しくはロフトプラスワンの2月のスケジュールを参照。
関連項目というかおまけとして、『トップをねらえ!』発売当時のフィルムコミックに収録された岡田氏と庵野秀明氏の対談を紹介。
- トップ見ずして何を見る!?
- 『トップをねらえ!』 フィルムコミック2 より
特に、これまで出ているガイナックスについて書かれた出版物、記事、インタビューにほとんど載っていない幻の『銀河空港』以下、『終わりなき戦い』、『湾岸戦隊トレンディー』、『ウィザード』など、聞いたこともないような作品名がずらずらと挙げられていくのに驚いた。『ナディア』のあと出て、立ち消えになった企画としては『蒼きウル』と『オリンピア』がやはり有名な訳だが、それ以外にも多くの作品が存在したことになる。また、あくまで予定だが『銀河空港』のパイロットフィルムも上映予定だとか。YouTubeにもある、以下のものと同じだろうか。
- 『Route20 銀河空港』パイロットフィルム
ガイナックスの隠された歴史については岡田氏が最も多く、よく語っていると思う。ガイナックスという会社組織を離れた人間だからこそ語れる部分というのもあるのかも知れない。トークイベントのみで同人誌化の予定もないそうなので、これは次回も行かないと。
あと、次回もしこういった形で書くとしたら、もうちょっと上手くまとめるようにしたい。
いつまでもデブと思うなよ
- ベストセラーとなった。
「世界征服」は可能か?
- マンガ、アニメなどの「世界征服」を考察。
プチクリ 好き=才能!
- 岡田氏が当時提唱していた「プチクリ」について。
- カテゴリー: 雑記
- 投稿者: Haimu
- 2008年01月23日 03:26
- 前後のエントリー
トラックバックURI
http://johakyu.net/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/738
エントリーに対するコメント (2件)
コメントを投稿する
サイト管理者のミスにより1月10日から、コメント投稿ができない状態が続いておりました。申し訳ありません。
HTMLタグは使用できません。
内容に問題があると判断した場合、予告なく削除する場合があります。