2008年1月
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2008/01/29
ニコラス・カーと言えば、『ITにお金を使うのは、もうおやめなさい』の著者としてご存知の方も多いと思いますが、彼の新しい本"The Big Switch: Rewriting the World, From Edison to Google"が発売されています。その中に、こんな一節が書かれていました。以下、少し長くなりますが引用です:
"How do we create high-quality content in a world where advertisers want to pay by the click, and consumers don't want to pay at all?" The answer may turn out to be equally simple: we don't. At least one major newspaper, The Times of London, admits that it has already begun training its reporters to craft their stories in ways that lead to higher placements in search engines. Jim Warren, the Chicago Tribune's managing editor, says that "you can't really avoid the fact that page views are increasingly the coin of the realm." As long as algorithms determine the distribution of profits, they will also determine what gets published.
「広告主がクリックいくらで広告料を払いたがり、消費者が一銭も料金を払いたがらない世界で、どうやって質の高いコンテンツを作り出していけばいいのだ?」この問に対して、シンプルな答えを用意できるかもしれない――作り出さなければいいのだ。メジャー紙の1つであるロンドンの Times は、既に記者達に対して、検索エンジンで上位に表示されるような記事の書き方をトレーニングしていることを認めている。Chicago Tribune 編集長の Jim Warren は、「ページビューが通貨のように扱われている事実を避けることはできない」と述べている。富の配分を決めるのがアルゴリズムである以上、何がニュースとして世に出るかを決めるのもアルゴリズムなのだ。
遅かれ速かれ、情報流通の主流が紙からネットに移行し、「無料配信+広告収入」というモデルが一般的になるのは避けようがありません。いまだに「紙媒体による配達」というモデルに執着している日本の主力新聞を尻目に、海外では新聞社のネット活用が進んでいるのはご存知の通り。そこでは既に、記者達がSEO(と言ってしまうと語弊があるかもしれませんが、いずれにしても検索結果で上位に表示されること)を意識して記事を書くということが始まっているのですね。数年後には、記者一人一人の成績がページビューで計られる……なんて世界になっている可能性もあるのかもしれません。
「SEOする新聞記者」が当り前の状況とは、どんな世界なのでしょうか。"The Big Switch"の中では、新聞社や雑誌社が「ネット上での広告収入が高くなるような記事=人々の注目を集めるような記事」に力を入れるようになり、注目を集めないような話題(国際情勢など)がフォローされなくなる可能性が示唆されています。これまで新聞/雑誌は「政治面30円」「社会面50円」のようにバラ売りされていたわけではなく、「○○新聞朝刊(もしくは1ヶ月購読)××円」のようにセットで販売されていたわけですね(つまり我々は自分の興味がない記事に対してもお金を払っていた、と)。それが「○○面」ですらなく、個々の記事に対して報酬(広告収入)が払われることになれば、必然的に「儲からない記事」というものが目に見えるようになり「国際情勢はいらないんじゃないか?」という判断になるかもしれない――海外や政治に目を向ければ「質が高い」とは必ずしも言えませんが、言葉は悪いですが「大衆迎合」的な記事が増える可能性は否定できないのでしょう。
個人的には、過去の伝統や「コンビニ理論(売り上げに貢献しないような品物も揃えることで、集客力を維持する)」などにより、新聞社や雑誌社が急に「儲かる記事」だけを作り始めるということにはならないと思います。また撤退する企業があれば、そこに進出しようという企業(ロングテール的に、何らかの形で「儲からない」記事を広く薄く集める?)が必ず出てくるでしょう。しかし現在も某スポーツ紙が行っているような、タイトルで釣る手法(あれも「駅キオスクの棚にどのように置かれるか」というアルゴリズムを追求した結果、かもしれません)的なものを追求する企業が出てくるのではないでしょうか。そうなるとますます、自分が本当に読みたい記事だけをピックアップしてくれるツール/サービス/コミュニティに人気が集まるかもしれません。
と、SEOする新聞記者というキーワードからはいろいろと面白い想像ができるのですが、ここ数年で状況は大きく変わるかもしれませんね。このオルタナティブ・ブログ、そして ITmedia という存在もまったく想像すらできない姿になっているかも……。
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