これだけ情報網が発達しても、告発する勇気のある人がいなければ、埋もれたままになっている情報は少なくない。23日付の本紙で報じた薬害肝炎に泣く女性の話もその一つである。 田辺地方に住む彼女は70歳。60歳の時にC型肝炎と診断された。27歳で出産したときに、多量の出血に対処するために輸血を受け、承認されたばかりの血液製剤フィブリノゲンを投与されたのが原因というが、それを証明する資料が見つからない。先日、薬害肝炎救済法が施行され、患者の一律救済に道が開かれたが、彼女は「救済とはほど遠い」と嘆く。 この記事を本紙が報じた直後から、同じ悩みを抱えたC型肝炎患者から相次いで声が寄せられた。 田辺市の64歳女性は、22歳の出産時に経験した緊急手術が感染の心当たりというが、病院にカルテは残っていなかった。インターフェロン治療を受けているが、効果があまりみられず、現在は肝臓がんが進行している。隔日の投薬治療が10年以上続き「辛く苦しいことばかり。なぜ助けてもらえないのか」と訴える。 みなべ町の69歳女性は、85年に心臓手術を受けた直後に感染が判明した。「記録は残っているかもしれない。けれども医療の知識はないし、カルテを手にしたところで、何をどうしたらよいのか分からない。周辺に相談するところもない」と話す。 夫が感染して長い間闘病生活を送り、自身も看病疲れや治療費の工面などで苦しんでいる女性や、「1人ではどうすることもできない。同じ悩みを持つ人たちと交流できれば」と話す女性もいた。 血液製剤によるC型肝炎感染被害者を救済する道は開かれたが、課題は多い。特措法では、フィブリノゲンなど特定の血液製剤を投与された人のみが対象となる。輸血や医療器具の使い回しによって感染した場合は対象外となり、救済されない。 B型とC型を合わせて肝炎感染患者は、全国で350万人近い。2002年の厚生労働省の報告書によると、そのうちフィブリノゲンの投与による被害者は1万人程度という。 救済対象になるには、製剤の投与が裁判所で認められることが必要だが、そのためにはカルテなど投薬の証明が必要になる。だが、医師法上のカルテ保存義務期間は5年だから、ほとんどの患者は証明が難しい。周囲の誤解を恐れ、人知れず闘病している人も多い。被害者も高齢化している。 県健康対策課によると、感染原因となった血液製剤が納入された約7700カ所の医療機関名や所在地を掲載した政府広報が配布された17日以降、県庁や県内保健所などには約2100件の電話が寄せられている。 この人たちの情報を共有し、救済する方法はないのか。まず、県や保健所が呼び掛けて、患者同士の交流に道を開いてはどうか。個人情報の秘密と関連して、難しい面もあるだろうが、すでに京都府や新潟県などでは、カルテのない薬害C型肝炎患者が集って被害者団体を結成している。 救済法の目的を生かすため、行政をはじめ紀南地域の病院や医師、弁護士らによる患者を支える取り組みに期待したい。(S)