医療IT化「情報漏れの危険性」

 今年4月からの段階的な施行を経て、2011年4月以降は医科・歯科すべてのレセプト(診療報酬請求書)のオンライン請求を義務化する厚生労働省の方針について、患者の診療情報漏れをはじめ、情報が診療以外のことにも使用される問題点が指摘されている。患者の診療情報が外部に漏れてしまった場合、さまざまな犯罪にも悪用されかねないだけに、こうした危険性を残したまま急いでオンライン化を進めることに、医療団体や医療事務関係者から疑問の声が上がっている。(山田利和・金子俊介)

浮上する3つの問題点
 レセプトの提出方法は現在、手書きで紙レセプトを提出▽レセプト作成用コンピュータ(レセコン)で紙レセプトを作成・提出▽レセコンでデータ作成してCD-Rやフロッピーディスク等の記録メディアで提出▽レセコンで作成し、インターネット回線の閉域IP網を利用したIP-VPN接続を用いてオンラインで電子的に請求−の4つがある。これらについて、厚労省は今年4月からオンライン請求を段階的に施行し、11年度以降は原則として、ほとんどの医療機関にオンライン請求を義務づける。

 このレセプトのオンライン請求に関して、京都府保険医協会などの医療関連団体が3つの大きな問題点を指摘している。
 1つめは、患者の診療情報が漏れる危険性だ。オンライン請求の場合、医療機関から審査支払機関に送られたレセプトのデータは審査を経て、保険者にデータ送信。その後、政府に情報提供される仕組みになっているが、この流れのどこかで診療報酬が漏れる可能性があるという問題だ。特に、精神科や産科・婦人科等の受診歴・病名・診療内容が悪用されれば、恐喝・ゆすり・ストーカー行為・詐欺などの犯罪に利用される恐れがある。
 同じ電子情報としては、住基ネット(住民基本台帳システムネットワーク)で06年3月に北海道斜里町でWinny(ウイニー)を介したインターネット上への流出など情報漏えい事件が続発。同協会などは「こうした危険性を残したまま急いでオンライン化を進めることは問題」と警告している。

 2つめは、患者の情報が診療以外のことで使われる問題だ。内閣府の規制改革会議(議長=草刈隆郎・日本郵船会長)が診療情報の民間活用を求めているなど、国は民間による診療情報・健診情報の活用方法を検討している。「あなたにピッタリの薬」、「あなたのためのフィットネス」といったダイレクトメールが届くことも想定され、同協会は「診療情報・健診情報は極めてデリケートな情報であり、民間の企業が利用目的を明確にせず、患者さんの同意なしに個人情報を利用することは認めるべきではない」と指摘している。

 3つめは、地域の医者が辞めてしまうかもしれないということだ。同協会が京都府内の60歳以上の開業医にアンケートした結果、オンライン請求が義務化されれば3割を超える医師が「辞めて引退する」と回答。多くの医師は、診療情報・健診情報を国・企業が利用することや情報漏れの危険性が解決されるなら、オンライン請求自体は否定していないものの、同協会は「現在、約2割の医療機関が手書きでレセプトを作成しており、オンライン請求に対応するには相当の負担が掛かる。医師不足が社会問題となっている中、ベテラン医師の引退に拍車を掛ける義務化には問題がある」と話している。

 こうした問題点に関し、横浜市内の診療所で医療事務を担当している女性職員は「レセコンで作成しているが、オンライン化は様子見の段階。2011年度からの導入と言うが、正直、戸惑っている。近隣の医療機関でもオンライン化は1件に過ぎず、普及していない」と話したうえで、「病名や診療内容などがハッキング等によって漏れてしまう可能性は否定できない。セキュリティは大丈夫なのか」と疑問を投げ掛けている。

「医療給付費減が狙い」
 オンライン請求による患者の診療情報は2011年度までに厚労省が全国規模で収集・分析。「レセプトの診療報酬と健診情報を連携させて活用する」としている。
 オンライン請求の現状については、全国保険医団体連合会(保団連)が90%を超える医療機関がオンライン請求を導入している韓国を視察。韓国では、レセプトの診療報酬を利用して診療科目別、病気・ケガ別の平均報酬を割り出し、請求額が平均報酬より高いと厳しく減額されていることが分かった。このため、韓国の医療機関では、平均報酬より高くならないように萎縮≠オて保険診療がなされており、保険請求で認められない医療は患者の自己負担となっていることから、保団連は「日本にも同じような制度が導入される可能性がある。保険が適用される医療の標準的な範囲が狭められ、その範囲から外れる医療は患者の自己負担とするなど、国はレセプトの診療情報を使って医療費の給付を減らそうとしている」と訴えている。
 レセプトのオンライン請求の義務化によって予想される問題点などをまとめた冊子を今年1月に発行した京都府保険医協会は「この問題は、医療機関だけでなく国民の皆さんにも大きな影響がある」として、「オンライン請求の義務化は撤回する」ことなどを求めた請願署名を進めている。

レセプト
 患者が保険証を使って病院や診療所で診療を受けた場合、医療機関が社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会という2つの審査支払機関に対して提出する医療費の請求書・明細書のこと。レセプトには、患者の病気やケガの名前・治療を開始した日・投薬・処置などの内容と、その診療報酬が書かれている。


更新:2008/01/29   キャリアブレイン

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08/01/25配信

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