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3.疼痛等感覚異常の認定基準の見直しについて(案) 平成14年9月17日

  (1) 頭痛関係
 課題
 頭痛については、現行の認定基準において独立して項目を設定し認定基準を示しているところであるが、最新の医学的知見により頭痛の型等の記載を見直すべきではないか
    現行の取扱い
現行の認定基準は、頭痛を6つの型に分けて次のとおり記述している。
(1) 頭部の挫傷、創傷の加わった部位により生ずる疼痛
(2) 血管性頭痛(動脈の発作性拡張によって生ずるもので片頭痛というのはこの型の1つである。)
(3) 筋攣縮性頭痛(頸部、頭部の筋より疼痛が発生するもの)
(4) 頸性頭痛(後頸部交感神経症症候群)
(5) 大後頭神経痛など上位頸神経の神経痛又は三叉神経痛(後頭部から顔面や眼にかけての疼痛)
(6) 心因性頭重
なお、頭痛の型により障害等級を区分しているわけではない。
    検討の視点
頭痛の型を変更する必要があるか。また、頭痛の認定基準は必要か。
    検討内容
    (イ)  頭痛の型について
 案1
 現行の認定基準において示している頭痛の型については、当時権威があるとされていた1962年のAd Hoc Committeeの分類を基に記載されているものと思われるが、その後における頭痛の病態生理に関する研究の進歩を踏まえ、国際頭痛学会は1988年に新たな「頭痛分類」を作成しており、当時の分類を示すことの意義が乏しくなっていること、そして頭痛の型により残存する頭痛の程度が異なるとの知見はないこと、現行認定基準上は頭痛の型は注として掲げられているものであり、頭痛の型のいかんにかかわらず症状の程度に応じて障害等級を決定することになっていることから、国際頭痛学会の分類も含め、あえて頭痛の型を示す必要はないと考える。
 案2
 現行認定基準上は頭痛の型は注として掲げられている。障害認定に当たっては、頭痛の型のいかんにかかわらず症状の程度に応じて障害等級を決定することになっており、頭痛の型を示す意義は乏しいとの意見もあるが、頭痛はその発生機序も様々であり、業務上の傷病の有無にかかわらず発生するものであるので、請求人の訴えている頭痛が業務上の傷病に基づくものであるかを判断するための一助として頭痛の型を示すことは意義のあるものである。
 そこで、頭痛の型を引き続き示す必要があるが、現行の認定基準において示している頭痛の型については、当時権威があるとされていた1962年のAd Hoc Committeeの分類を基に記載されているものと思われるものの、その後における頭痛の病態生理に関する研究の進歩を踏まえ、国際頭痛学会は1988年に新たな「頭痛分類」を作成しているので、当時の分類を示すことの意義が乏しくなっていること、前述の国際頭痛学会の分類が定着していることから、1962年当時の分類を示すことは適当ではなく、国際頭痛学会の分類を示すことが妥当である。
    (ロ)  認定基準について
 頭痛については、現行認定基準上症状の程度に応じて「労働には差し支えないが、頭痛が頻回に発現しやすくなったもの」(14級の9)、「労働には差し支えないが、時には労働に差し支えない程度の強い頭痛がおこるもの」(12級の12)、「激しい頭痛により、時には労働に従事することができなくなる場合があるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」(9級の7の2)のいずれかに決定することとされているところであるが、これを改めるべき新たな医学的知見も認められないので、現行の認定基準を改正する必要はなく概ね妥当であると考える。
 しかし、頭痛は、業務上の傷病の有無にかかわらず発生するものであるので、請求人の頭痛が当初の業務上の傷病と相当因果関係を有し、かつ、その存在が医学的に認められることについて慎重な検討を要するものである。
 障害等級の認定に当たっては、疼痛の程度を客観的に測定することは現時点においても困難であることから、疼痛による労働又は日常生活上の支障の程度を疼痛の部位、性状、強度、頻度、持続時間及び日内変動並びに疼痛の原因となる他覚的所見により把握し、慎重に障害等級を決定すべきである。
    検討結果
 案1
 現行の認定基準は概ね妥当であるが、頭痛の型により障害等級を区分しておらず、現時点においてもその型により区分することは妥当ではないことから、頭痛の型は削除することとする。
 案2
 現行の認定基準は概ね妥当であるが、頭痛の型について必要な見直しを行うこととする。


       以下、案1の場合には、頭痛の分類を削除
    ───────────────────────────────────
          案2の場合には、1988年の分類をすべて示す。
【 1988年 国際頭痛学会  頭痛分類 】
1.機能性頭痛
 (1) 片頭痛
 (2) 緊張型頭痛
 (3) 群発頭痛および慢性発作性片頭痛
 (4) その他の非器質性頭痛
2.症候性頭痛
 (1) 頭部外傷による頭痛
 (2) 血管障害に伴う頭痛
 (3) 非血管性頭蓋内疾患に伴う頭痛
 (4) 薬物あるいは離脱に伴う頭痛
 (5) 頭部以外の感染症による頭痛
 (6) 代謝性疾患に伴う頭痛
 (7) 頭蓋骨、頸、眼、鼻、副鼻腔、歯、
口あるいは他の頭部・頭蓋組織に
起因する頭痛または顔面痛
 (8) 頭部神経痛、神経幹痛、除神経後痛
3.その他
 (1) 分類不能な頭痛
    ───────────────────────────────────


  (2) RSD関係
 課題
 現行認定基準には、「疼痛等感覚異常」の項において「脳神経及びせき髄神経の外傷その他の原因による神経痛」、「カウザルギー」及び「受傷部位の疼痛」については規定しているものの、近年、請求が増加している反射性交感神経性ジストロフィーについては認定基準に明文で規定されていないことからこの対応について方針を検討すべきではないか。また、検討に当たっては、症状が似ているといわれている「カウザルギー」との関係についても言及すべきではないか。
    現行の取扱い
現行認定基準には、「疼痛等感覚異常」の項において外傷後疼痛の特殊な型としてのカウザルギーについては規定しているものの、近年、請求が増加している反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy以下「RSD」という。)については、明文ではその取扱いは規定されていない。
    検討の視点
RSDの取扱いを認定基準上明らかにすべきか。また、その場合RSDの病態、診断基準等をどのように考えるべきか。
    検討内容
    (イ)  RSDに関する当検討会の基本認識
 RSDに対する当検討会の基本認識は次のとおりである。
 RSDに係る発生機序、病態、定義等については現在種々の説があり、未だ現在の医学界においてコンセンサスを得た見解が確立しているとはいい難い状況にあり、その解明に当たっては今後の更なる研究成果を待たなければならないと考える。
 従って、以下に述べる見解はあくまでも検討時点において有力とされている考え方ではあるものの、今後変更される可能性は否定できないことに留意すべきである。
a  現在RSDの発生機序については、「外傷治ゆ後も交感神経反射が消失しないため交感神経の異常が生じ、四肢の循環動態が変化することによって、亢進状態(血管収縮)による虚血状態から疼痛が生じ、この疼痛がさらに交感神経を刺激するという悪循環によって生じている」ものとする説が有力であるが、この説が全てを満たすものではない。
b  RSDの病態については、急性症状の主な症状は、疼痛・腫張・発汗異常であり、慢性症状の主な症状については、関節拘縮、皮膚の色調変化、骨萎縮が認められるとされている。なお、皮膚温については、急性期には高く、慢性期には低くなるとされており、慢性期の主な症状とされる関節拘縮は、場合によっては発症初期から認められることがあるとされている。また、Gibbonsらは、諸症状を点数化してRSDの判定を行うとしている。Gibbonsらの「RSDスコア」は表―○のとおり。
c  RSDの定義については、現在は、広義にはカウザルギーを含み神経幹の損傷の有無にかかわらない上記病態を示すものとされ、狭義には神経損傷のない上記病態を示すものとして使用されている実情にある。
 こは、1994年に世界疼痛学会(International Association for the Study of Pain = IASP)が慢性疼痛をCRPS(Complex Regional Pain Syndrome)-TypeIとCRPS TypeIIの2つに分類し、CRPS-TypeIは神経損傷のないもの、CRPS-TypeIIは神経損傷を伴うものとしたことにより、狭義のRSDをCRPS-TypeI、カウザルギーをCRPS-TypeIIに分類することが提唱されたことによる
    (ロ)  RSDの認定基準への取り込みに関する考え方
 RSDの認定基準への取り込みに関しては当面次のように整理することが望ましいと考える。
a  RSDについては、外傷後疼痛の特殊な型として認定基準に取り込む。
 RSDについては、これをカウザルギーの上位概念と位置付ける考え方やカウザルギーに類似した慢性疼痛の一種と位置付ける考え方があり、意見の統一がみられていないが、カウザルギーについては現行認定基準において定着していることから、RSDとカウザルギーを同位の概念として位置付けて、障害認定実務上は狭義のRSDの定義を採用し、「神経損傷のない」上記病態をRSDとすることが妥当である。
 また、「神経損傷のない」とは、正確には「解剖学的な名称の付与されていない神経は損傷されていない」が、それ以外の神経が損傷されている状態ということであることから、今後障害等級の認定実務上は、「解剖学的な名称の付与されている神経が損傷されてい」る上記病態を単にカウザルギーとし、「解剖学的な名称の付与されている神経以外の神経が損傷されている」上記病態を単にRSDとすることが妥当である。
 なお、小さなカウザルギーは損傷された神経の太さがカウザルギーと異なるとはいえ、「解剖学的な名称の付与されている神経が損傷されてい」る病態であり症状も基本的には類似していることから、今後障害等級の認定実務上は、上記のようにRSDとカウザルギーの2分類とし、小さなカウザルギーという分類を用いる必要はないものと考える。
b  RSDは疼くような痛みであることが多く、カウザルギーは灼熱痛を代表とするというように痛みの質の違いもあるとされているものの、両者の症状は共通している面が多いとされていることから、その評価についてはこれらを区別することなく現行認定基準において「疼痛等感覚異常」として位置づけられているカウザルギーと同一の範疇で評価しても医学的には問題は生じないものと判断する。
c  なお、受傷部位の疼痛は、痛みが受傷部位にとどまり、他覚的所見が認められないものであるのに対して、RSDはカウザルギーと同様に他覚的な所見が明らかに認められる上、痛みが受傷部位にとどまらず、また、その痛みの性状もhyperpathia又はallodyniaのような非常に強い疼痛が認められることから、RSDについてもカウザルギーと同様に受傷部位の疼痛とは異なった扱いとすることが妥当である。
【要検討】障害補償の対象とするRSDの範囲をどのように考えるか。
c  上記のように「解剖学的な名称の付与されている神経以外の神経が損傷されている」病態をRSDとして分類することが妥当であるが、(1)カウザルギーと異なって主要な末梢神経の損傷という明瞭な診断根拠がないこと、(2)疼痛自体の客観的な尺度がないことから、障害認定実務上、RSDと診断するに足る客観的な所見を必要とすると考える。
 この点について、Kozinら、Gibbonsら等による診断基準があるが、慢性期に至って初めて障害認定することを踏まえると、疼痛のほか、少なくとも(1)関節拘縮、(2)骨の萎縮、(3)皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)という慢性期の主要な3のいずれの症状も健側と比較して明らかに認められることを必要とすると考える。
 すなわち、Kozinらは、腫脹を診断基準としているが、腫脹は急性期に出る症状とされていることから、これを用いることは適当ではなく、Gibbonsらの診断基準も浮腫などの急性期の症状が含まれていることから、これをそのまま用いることは妥当ではない。したがって、障害認定時においてなお、単なる受傷部位の疼痛と区別するほどの明らかな客観的な所見を有するものに限ってRSDとして分類し、疼痛の程度に応じて障害等級を決定すべきであると判断する。
d  RSDに係る障害の評価について
 RSDとカウザルギーについては、前記のとおりその評価については同一の範疇で評価すべきであるが、前述のとおり疼痛の程度を客観的に測定することは現時点においても困難なことから、疼痛による労働又は日常生活上の支障の程度を疼痛の部位、性状、強度、頻度、持続時間及び日内変動を勘案して第12級(11級が新設された場合には11級)、9級、7級に認定すべきである。
 また、RSDの障害認定上問題となるのは、疼痛のほかには上肢手の機能障害、関節拘縮等であるが、骨の萎縮や関節の拘縮は、RSDによる持続性の特異な疼痛のために当該部位を動かさなくなることにより筋力の萎縮が進行し、骨の萎縮や関節の拘縮にまで進展すると理解するのが一般的であり、こうした考え方に立脚すれば「持続性の特異な疼痛」と「関節の機能障害」は通常派生する関係にあるとして評価することがより蓋然性の高い評価方法であると判断した。従って、現行の障害認定の基本的考え方から判断すれば通常派生する関係にあるとして「疼痛」と「機能障害」のいずれか上位の等級をもって、当該障害の等級として評価すべきである。
 なお、RSDは単なる疼痛にとどまらない病態であるので、単なる疼痛はRSDとみるべきではなく、頑固な神経症状又は単なる神経症状として評価すべきである。
    検討結果
 RSDについては、その定義が一義的に確立しているとはいえないものの、そのような病態が存在することについては争いがない。RSDは「解剖学的な名称の付与されている神経以外の神経が損傷されている」病態として、カウザルギーは「解剖学的な名称の付与されている神経が損傷されている」病態として整理すべきである。
 RSDの症状は、現行の認定基準に規定されているカウザルギーと類似しており、基本的に同様に評価すべきである。
 なお、単なる疼痛にとどまるものはRSDとして取り扱うことは妥当ではなく、障害認定実務上は、症状固定時においてRSDの慢性期の主要な症状とされる3の症状について明らかな所見を有するものに限り、RSDとして取り扱うことが適当である。


  (3) 失調・めまい及び平衡機能障害
「耳鼻咽喉科領域の障害認定に関する専門検討会報告書」に沿って変更するにとどめる。
理由  現行認定基準は、中枢性による障害のみならず、内耳性によるものも含めて、最上位の等級を「生命の維持に必要な身の回り処理の動作は可能であるが、高度の失調又は平衡機能障害のために終身にわたりおよそ労務に就くことができないもの」(第3級)としており、9級を超える障害等級に該当することもあり得るものとしている。
 一方、上記報告書においては、内耳性の障害については、9級を超えることはないとされたものの、中枢性の場合は9級を超える障害が生じることもあるとされたことから、9級を超える認定基準を廃止することは妥当ではなく、また、9級を超える認定基準の改正を要するとまでは解されないことから、上記報告書に沿った変更すれば足りるものと考える。


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