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RSDについては、外傷後疼痛の特殊な型として認定基準に取り込む。 |
RSDについては、これをカウザルギーの上位概念と位置付ける考え方やカウザルギーに類似した慢性疼痛の一種と位置付ける考え方があり、意見の統一がみられていないが、カウザルギーについては現行認定基準において定着していることから、RSDとカウザルギーを同位の概念として位置付けて、障害認定実務上は狭義のRSDの定義を採用し、「神経損傷のない」上記病態をRSDとすることが妥当である。
また、「神経損傷のない」とは、正確には「解剖学的な名称の付与されていない神経は損傷されていない」が、それ以外の神経が損傷されている状態ということであることから、今後障害等級の認定実務上は、「解剖学的な名称の付与されている神経が損傷されてい」る上記病態を単にカウザルギーとし、「解剖学的な名称の付与されている神経以外の神経が損傷されている」上記病態を単にRSDとすることが妥当である。
なお、小さなカウザルギーは損傷された神経の太さがカウザルギーと異なるとはいえ、「解剖学的な名称の付与されている神経が損傷されてい」る病態であり症状も基本的には類似していることから、今後障害等級の認定実務上は、上記のようにRSDとカウザルギーの2分類とし、小さなカウザルギーという分類を用いる必要はないものと考える。 |
b |
RSDは疼くような痛みであることが多く、カウザルギーは灼熱痛を代表とするというように痛みの質の違いもあるとされているものの、両者の症状は共通している面が多いとされていることから、その評価についてはこれらを区別することなく現行認定基準において「疼痛等感覚異常」として位置づけられているカウザルギーと同一の範疇で評価しても医学的には問題は生じないものと判断する。 |
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なお、受傷部位の疼痛は、痛みが受傷部位にとどまり、他覚的所見が認められないものであるのに対して、RSDはカウザルギーと同様に他覚的な所見が明らかに認められる上、痛みが受傷部位にとどまらず、また、その痛みの性状もhyperpathia又はallodyniaのような非常に強い疼痛が認められることから、RSDについてもカウザルギーと同様に受傷部位の疼痛とは異なった扱いとすることが妥当である。 |
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【要検討】障害補償の対象とするRSDの範囲をどのように考えるか。 |
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上記のように「解剖学的な名称の付与されている神経以外の神経が損傷されている」病態をRSDとして分類することが妥当であるが、(1)カウザルギーと異なって主要な末梢神経の損傷という明瞭な診断根拠がないこと、(2)疼痛自体の客観的な尺度がないことから、障害認定実務上、RSDと診断するに足る客観的な所見を必要とすると考える。
この点について、Kozinら、Gibbonsら等による診断基準があるが、慢性期に至って初めて障害認定することを踏まえると、疼痛のほか、少なくとも(1)関節拘縮、(2)骨の萎縮、(3)皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)という慢性期の主要な3のいずれの症状も健側と比較して明らかに認められることを必要とすると考える。
すなわち、Kozinらは、腫脹を診断基準としているが、腫脹は急性期に出る症状とされていることから、これを用いることは適当ではなく、Gibbonsらの診断基準も浮腫などの急性期の症状が含まれていることから、これをそのまま用いることは妥当ではない。したがって、障害認定時においてなお、単なる受傷部位の疼痛と区別するほどの明らかな客観的な所見を有するものに限ってRSDとして分類し、疼痛の程度に応じて障害等級を決定すべきであると判断する。 |
d |
RSDに係る障害の評価について |
RSDとカウザルギーについては、前記のとおりその評価については同一の範疇で評価すべきであるが、前述のとおり疼痛の程度を客観的に測定することは現時点においても困難なことから、疼痛による労働又は日常生活上の支障の程度を疼痛の部位、性状、強度、頻度、持続時間及び日内変動を勘案して第12級(11級が新設された場合には11級)、9級、7級に認定すべきである。
また、RSDの障害認定上問題となるのは、疼痛のほかには上肢手の機能障害、関節拘縮等であるが、骨の萎縮や関節の拘縮は、RSDによる持続性の特異な疼痛のために当該部位を動かさなくなることにより筋力の萎縮が進行し、骨の萎縮や関節の拘縮にまで進展すると理解するのが一般的であり、こうした考え方に立脚すれば「持続性の特異な疼痛」と「関節の機能障害」は通常派生する関係にあるとして評価することがより蓋然性の高い評価方法であると判断した。従って、現行の障害認定の基本的考え方から判断すれば通常派生する関係にあるとして「疼痛」と「機能障害」のいずれか上位の等級をもって、当該障害の等級として評価すべきである。
なお、RSDは単なる疼痛にとどまらない病態であるので、単なる疼痛はRSDとみるべきではなく、頑固な神経症状又は単なる神経症状として評価すべきである。 |