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2008年01月29日(火曜日)付

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ガソリン税率―とんだ奇策が飛び出した

 国会で焦点となっているガソリン税の暫定税率をめぐって自民、公明の与党から「奇策」が飛び出してきた。

 3月末で期限切れとなる暫定税率などの租税特別措置を5月末まで延長する。そんな法案を議員提案で出し、今月末までに衆院で可決しようというのである。

 与党の狙いはこうだ。

 参院でこの法案に野党が反対しても、4月1日の直前に参院での審議日数が60日間になるから、憲法の規定により衆院で3分の2の多数で再可決し、成立させられる。そうすればとりあえず税率が下がる事態は回避できる。5月末までのつなぎ期間のうちに、本来の特別措置法案を3分の2で再可決すればいい――

 このやり方は邪道というよりない。論議はやっと始まったばかりなのに、それをすっ飛ばして結論を先に決めてしまうことになる。与党は本来の法案の審議はすると言うが、野党を交えた国会審議などいらないと言っているに等しい。与党が衆院で持つ多数を乱用するものだ。

 与党にも言い分はあるだろう。

 民主党は福田政権を解散・総選挙に追い込むため、この問題を政治利用しようとしている。ガソリンの値段が下がったり上がったりすれば国民の生活は大混乱する。それを防ぐのは政権政党としての責任だ、というわけだ。

 だが、混乱を避けたいという意図は分からないでもないにせよ、国民の多くはまさにこれから与野党の主張の違いに耳を傾け、どちらの説得力が勝るかを判断しようとしている。国民のためと言いながら、これでは本末転倒だ。

 衆院と参院で多数派が異なる「ねじれ国会」では、合意づくりのための丁寧な手続きが求められる。議論を通じて法案の修正を探り、よりよい結論を導く。国民の生活に直結するものであれば、なおさらその努力と工夫が欠かせない。

 なのにこの奇策では、その芽が摘み取られてしまう。今後、福田首相がいくら低姿勢で話し合いを呼びかけたところで、野党は応じまい。結論が決まっているのに何のための話し合いか、と反発するのは当然だ。

 私たちは、ガソリン税は道路にしか使えない特定財源にするのではなく、福祉や教育など何にでも使える一般財源に改めるべきだと考える。暫定税率は維持するが、環境税といった新しい考え方を導入することもあっていい。

 政府・与党も民主党も、自らの案にこだわるばかりではなく、法案を修正するための真剣な論議を始めるべきだ。それにはまず与党が奇策を断念することだ。民主党も、政局への思惑から何が何でも特措法案を4月まで成立させないというかたくなな姿勢をとるべきではない。

 ただでさえ世界経済が大きく揺らぎ、日本への影響が懸念されている。日銀総裁の人事のみならず、与野党がきちんと意見をぶつけ合い、前に進めていかねばならない課題は少なくないのだ。

大阪府知事―言葉は重いぞ、橋下さん

 茶髪にサングラス。テレビでの挑発的な発言などで人気を集めた弁護士、橋下徹氏が大阪府知事に当選した。公選制で戦後8人目の大阪のかじ取り役は、これまでで最も若い38歳だ。

 抜群の知名度と歯切れのいい演説が有権者をひきつけた。自民と公明が党本部の推薦をやめ、府の地方組織の支援にとどめたことも、無党派層の流れを呼び込んだといえる。

 一方の民主は、小沢代表が衆院での給油新法案の採決を欠席してまで応援に駆けつけたが大敗した。ふがいない結果だが、与野党が相乗りせずに有権者の選択の幅を広げ、投票率を押し上げたことは評価できよう。

 「職員には破産会社の従業員という覚悟をもってもらいたい」。当選を決めた万歳三唱のあと、橋下氏は意外にも冷静な口調で府政運営の心構えを語った。その認識は正しい。借金5兆円を抱える大阪府の「金庫」は、財政再建団体への転落寸前だからだ。

 7人の子どもの父親である橋下氏は「子どもが笑う」府政を看板に、少子化対策を中心に掲げた。小児科、産科の救急受け入れの促進、不妊治療費の補助、子どものいる若い夫婦への家賃補助などをマニフェストに並べている。

 ほかの大都市に比べ、深刻な人口減が予想される大阪の進むべき道として適切な政策といえよう。だが、その実現も借金財政の立て直しがあっての話だ。

 実は、大阪府は財政再建の処方箋(せん)の一つを、04年秋に出している。府地方自治研究会がまとめたもので、府を廃止して、府内の市町村による広域連合「大阪新都」をつくる構想だ。

 教育や福祉など住民に身近な行政権限を、府はほとんど市町村へ移す。新都の役割は、都市圏全体の再生に向けた計画策定や財政の調整など広域事業に限る。これによって港湾や水道、病院など、府と大阪市の二重行政を解消し、節減効果は7000億円と試算している。

 大阪はバブル崩壊後、大企業が本社を首都圏へ相次いで移し、税収が大幅に減った。行財政改革を怠った大阪市の財政も、借金5兆4000億円に膨らんでいる。その大阪市も昨秋に市長が交代したばかりだ。「犬猿の仲」と言われる両自治体だが、いまこそ一体となって二重行政の解消へ取り組む好機である。

 大阪は西日本最大の都市というだけではない。災害の多い日本で、万一、首都機能がマヒしたときは、代役を期待されている。財政の改善は急務なのだ。

 橋下氏の心配なところは、言葉の軽さだ。知事選への立候補が報道されたとき「2万%ない」と否定しておきながら、すぐに前言を翻した。

 当選後には、二重行政の解消などの公約実現を「かなりハードにやる」と述べた。今度は「あれは話芸だった」ではすまされない。知事の言葉の重みを肝に銘じ、新風を吹き込んでほしい。

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