◎緊急地震速報不発 それでも備える工夫がいる
過日発生した輪島市を震源とする地震では、昨年三月の能登半島地震で大きな被害をこ
うむった同市門前で震度5弱の揺れを観測したにもかかわらず、緊急地震速報が発表されなかった。震度を実際より低く予測したのが原因であり、同様の「間違い」は、速報の一般提供がスタートする直前、神奈川県箱根で震度5強を観測した際にもあった。
ただ、予測震度に多少の誤差が出るのは最初から分かっていたことであり、驚いたり、
慌てたりする必要はあるまい。大切なのは、速報の限界を理解した上でそれを上手に役立て、被害軽減につなげる工夫であり、怖いのは、速報の不発が続いたことそのものよりも、それによって「速報に備えよう」という意識が薄れることだ。
速報によって稼げるのはたった数秒から数十秒に過ぎないが、それでも、生死を分ける
かもしれない貴重な時間である。その時にどんな行動を取るか。行政関係者だけでなく、一般家庭でもしっかりと考えておいてほしい。「家の中にいる場合は頭を保護して丈夫な机の下などに隠れる」「自動車の運転中であっても慌てて速度を落とさない」。そんな基本的な行動であっても、普段の心構えや訓練がなくてはなかなかできないものだ。
緊急地震速報は、P波と呼ばれる初期微動が大きな揺れ(S波、主要動)よりも速く地
中を伝わる性質を利用して主要動の震度や到達時間を予測する仕組みである。メディアなどによる速報の一般提供は、昨年十月に始まったばかりであり、速報を出す基準を上回る揺れが観測されたのは今回が初めてだった。地震列島・日本ならではの、他国に例のないものなのだから、最初は多少の不都合が生じるのもやむを得ないだろう。運用しながら、問題点をその都度改善し、少しずつ予測の精度を高めていくしかない。
今回の地震では、震度5弱を観測したのが局地的に地盤の弱い地域であったことが、速
報不発の一因になった可能性もあるという。気象庁などには、速報の仕組みの周知徹底やより多くの人に速報を伝えるシステムづくりとともに、不発の要因を検証し、次に生かす努力を求めておきたい。
◎「暫定税率法案」 修正協議の余地ないのか
道路特定財源の暫定税率などを維持する税制改正法案が年度内に採決されない場合に備
え、いわゆる「つなぎ法案」で暫定税率を三月末の期限切れ後も二カ月間延長するという方法は、政府・与党にとって緊急避難的な手段としてあり得るとしても、決して推奨できるやり方ではない。民主党も「非常識」などと批判ばかりもしていられないだろう。
揮発油税など道路特定財源の暫定税率に限らず、適用期間が年度内に限られた「日切れ
法」の性格を考えれば、その扱いをどうするかの結論を年度内に出すのが国会の責務ではないか。その認識に立ち、精力的に与野党協議を行って法案を仕上げる努力をしてもらいたい。
暫定税率維持に反対する民主党の小沢一郎代表は、福田内閣を追い込むため、与党との
政策協議に応じない考えを示しているが、頭から修正協議を拒否するのは、責任政党にふさわしい態度とは言えまい。与党側も、たとえば民主党の主張する道路特定財源の一般財源化について、その割合を見直すなどして妥協を図る余地があるのではないか。
政府・与党案では、道路特定財源の暫定税率を今後十年間にわたって維持し、総額約五
十九兆円を道路整備に充てることになっている。道路特定財源の〇八年度税収見込みは約五兆四千億円で、道路以外にも使用できるよう一般財源化されるのは約千九百億円にとどまる。一般財源化の枠の拡大や、暫定税率を維持する期間の短縮などで歩み寄ることは可能なのではないか。衆院での再議決は、修正協議に最善を尽くした上での最後の手段と心得たい。
これまでの国会審議では、トコロテン式で法案が次々と通されてきた。しかし、衆参ね
じれ国会ではそういうわけにいかず、国会の場で与野党協議を通じて法案を作り上げることが必要になってくる。与野党がその作業を行わず、けんかばかりでは国会の責任放棄であり、二大政党制もまだまだ未熟と批判されてもしかたあるまい。日銀の次期総裁選びなど再議決の手法がきかない国会同意人事を含めて、不毛な対立を乗り越える努力が必要であり、与野党とも代議制民主政治の成熟度が試されていると認識してほしい。