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2005年2月25日更新

杉並区先行!アニメを通じた産業振興

「ドラゴンボール」や「ポケモン」をはじめとした日本製TVアニメの国際的な大ヒット、また宮崎駿監督の諸作品や押井守監督による攻殻機動隊などが受けた国際的な高い評価により、日本製アニメが注目を集めつづけている。

「日本」と「アニメ」を合わせた「ジャパニメーション」という言葉の発生からも日本製アニメの世界的な評価が伺え、世界で見られるアニメの約65%が日本製という調査結果もあり驚かされる。

また、日本製アニメの市場規模は、キャラクター商品やソフト販売、映画興行収入などの波及効果も含めると今や2兆円以上の規模と言われる。

こうした日本製アニメの躍進を受け、政府では04年5月にようやく、アニメ製作を国内の重要な産業として保護・育成する方針を、経済産業省が策定した「新産業創造戦略」として発表した。また翌6月には、議員立法で「コンテンツ促進法」を制定するなど施策を打ち出すに至った。

また、アニメ制作会社を多く抱える東京都では、01年より、アニメ産業を東京の有力な成長期待産業と位置づけ支援策の推進を開始。具体的な施策として02年2月に「新世紀東京国際アニメフェスタ21」を開催するなど力を入れ始めた。

ところが、これらに先行し独自のアニメーション産業の振興を図る施策を実施している自治体がある。それが東京都の杉並区だ。

●都内のアニメ製作会社、約20%が杉並区に存在

国内外に多くの作品を発表する日本のアニメ製作会社だが、その80%が東京都内に存在する。その中でも杉並区には、都内に集まるアニメ製作会社の20%にあたる約70社が集中。「機動戦士ガンダム」シリーズを製作するサンライズなども杉並区にあり、日本屈指の「アニメの地」として知られている。

杉並区では、00年よりアニメーション産業の振興を図る施策を検討しており、都が実施したアニメフェスタに関しても「アニメーションフェスティバル2001IN杉並」を1年も先行する01年に実施。都はこれを見習う形でアニメフェスタを実施したとも言われている。

このように、アニメ産業振興施策について先行する杉並区では、どのような施策が打たれているのか「新聞・雑誌記事横断検索」を用いて調べてみた。

●杉並区のアニメ産業振興施策とは?

キーワードを「杉並区 AND アニメ」で検索すると550件以上の記事がヒットした。そのなかから産業振興施策関連についてまとめると、次の杉並区の活動状況が見える。

※杉並区によるアニメ産業振興施策

・00年9月
<21世紀ビジョン>
アニメ産業振興による雇用機会の創出、若年層転入を打ち出す。

・01年4月
<アニメーションフェスティバル2001IN杉並を開催>
2日間で1万3千人が来場する盛況を見せた。アニメ製作の実演を行った他、新人発掘を狙ったコンペを実施、38作品が集まった。

・01年9月
<杉並アニメ振興協議会設立>
中小のアニメ制作会社が、デジタル化や著作権問題などに対応するため振興協議会を設立。デジタル化関連機材の共同購入、制作業務の共同受注などを通じ、業界全体で経営体質の強化を図る。

・02年2月
<小学校の「総合的学習の時間」にアニメ製作過程を取り入れ>
「おじゃる丸」監督の大地丙太郎さんとの交流をした他、授業時間に短編映画を制作。「新世紀東京国際アニメフェア21すぎなみスペシャル」で上映された。

・02年2月
<新世紀東京国際アニメフェスタ21開催>
東京都内の複数会場でアニメの見本市を開催。杉並区もサテライト会場となる「すぎなみスペシャル」を実施した。

・02年10月
<杉並アニメ匠塾をスタート>
アニメの地域産業育成・振興の一環として、次代のアニメータ育成を目的とした塾をスタート。区内のアニメスタジオでアニメ制作の基本となる動画の技術を中心に半年間実地研修をする。費用は無料だが実地で制作した作品の賃料は支払われない。

・03年4月
<杉並アニメ資料館をオープン>
産業振興計画で決定したアニメの支援・育成の中心となる施設として、杉並区立会館にアニメ資料館を設立。アニメ資料や作品を保管・展示する他、人材育成機関や研究所を併設する。

・05年
<杉並区産業振興課内に「アニメ・新産業係」を設置>

・05年3月
<アニメーションミュージアムをオープン>
02年に開館した「杉並アニメ資料館」をリニューアル。展示・上映のほかアニメ制作教室などを通じてアニメ制作を体験ができる。産業振興関連予算が前年比32%削減されるなか、この運営費用として新たに約4900万円が予算化され、杉並区の力の入れようが伺える。

・06年
<杉並に日本初のアニメ大学院が開校へ>
区が行った構造改革特区の申請を受け「WAO大学院大学」が早ければ4月にも誕生する見通し。日本初のアニメ大学院となる同校では「クリエイティブ」「ビジネス」コースそれぞれで30人づつ募集。2年制となる。

このように様々な施策を打ち出す杉並区や東京都だが、背景としては中国や韓国のアニメ産業への参入による国際競争力の強化が必要になった事がある。

その為「アニメを東京の地場産業として位置付ける」「アニメの産業集積を世界に配信」「業界の組織化」「人材育成」「資金調達の支援策」といったテーマを上の施策などを通じて解決しようというわけだ。

●他の区も追従

こうした杉並区や東京都の施策を受けて、練馬区、三鷹市など都内でアニメ制作会社を多く持つ区も後に続いている。それぞれアニメを都市型産業・観光資産としたい狙いがあり、競争的な側面も持っている。

それぞれの活動をやはり記事情報から見てみると、

三鷹市では、スタジオジブリの宮崎監督が館主のジブリ美術館を武器とし「美術館の立地で既にアニメ文化の拠点となっている」とアピール。02年12月には、ジブリ美術館から1キロほど先の都市基盤整備公団用地にセンターを開設する構想案をまとめ、ジブリ博物館をメインとした街づくりやアニメ産業の活性化を目指している。杉並区案に比べ、より人材育成に力点を置いているのが特長だ。

練馬区は、東映アニメーションを中心とした制作関連会社が集積する他、漫画家の松本零ニをはじめとした著名な漫画家が多く存在。そうした特質を生かし、資料の保管や研究・人材育成、上映ホールなどを持ったアニメアーカイブの設立計画がある。

こうした自治体毎の競争によりアニメ産業振興が後押しされ、地場産業として国際競争力を持てることが期待されるが、アニメ制作に関する商習慣により制作会社が抱える諸問題も多く残り、それらについては次回のテーマとしたい。


(text by や)


※次回更新日は、3月3日(木)の予定です。 バックナンバーを見る トップにもどる
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