出産時のトラブルで重い脳性まひになった赤ちゃんに補償金を支払う「無過失補償制度」の内容が固まった。1人当たり2000万円余りを支払う方針で、2008年度中に発足する見通しだ。
出産時に予期せぬトラブルは起きてしまう。分娩中、赤ちゃんに酸素が十分に届かないと、脳に障害を負うことがある。医師の責任を問う裁判は長期化しがちで、家族、医師、双方に負担が大きい。出産をめぐる訴訟が多いことは、医師の産科離れの一因ともされている。
この制度が産科医不足の解消にどこまで効果があるか分からないが、導入はいいことだ。ただし、原因の徹底解明と再発防止のための情報公開は最優先にしてほしい。そこがあいまいでは、金銭的な補償を受けても家族は救われない。
無過失補償制度は、財団法人日本医療機能評価機構が仕組みを検討してきた。まとまった報告書によると、対象となるのは出産時の医療事故で脳性まひになり、身体障害者等級1−2級と診断された赤ちゃん。介護準備のための一時金数百万円を支払い、残りは成人するまでに分割して支払う。
民間の損害保険を活用し、医療機関が契約を結ぶことが前提になる。保険料は出産費用に上乗せされるが、健康保険の出産育児一時金の引き上げでカバーする。
出産にかかわる事故では、医師に過失があるか、判断が難しい場合が多い。訴訟を起こさなければ泣き寝入りになるケースもある。この制度で家族の負担が軽減されるのはいいけれど、心配な点はある。
第一に、医師側の責任があいまいになるようでは困る。
補償の対象となるかどうかは、運営組織で判断する。専門家らが検討し、明らかな過失があれば医師側に賠償責任を求めることになる。判断の前提となる出産時のカルテなどがきちんと提出されるか、厳しく点検すべきである。原因分析の結果は、プライバシーに配慮したうえで、積極的に公開すべきだ。
第二に、補償の範囲が限られ、不公平感が出かねないことだ。
報告書では、補償対象を通常の妊娠、出産とし、出生時の体重2000グラム以上で妊娠33週以上、と線引きする。未熟児や先天性の障害は原則対象外だ。同じ脳性まひの子どもを抱えても、経済的な負担に格差が出るのは残念だ。今後の運用を踏まえて救済策を考えたい。
重い障害のある子どもを育てている家庭では、24時間介護の負担がのしかかる。金銭補償にとどまらず、行政や地域の支援を手厚くすることも、大切なことだ。