◎大クラゲ排除に成功 漁民の執念が改良網を生んだ
八月ごろから対馬暖流に乗って北上してくる漁業の敵・大型クラゲを排除する巻き網が
開発された。能登半島外浦の漁民が捕ったアジ、サバ、フクラギなどの新鮮さを守りたいとの執念から思いついたアイデアを、石川県水産総合センターに持ち込み、センターの手助けで完成、効果についてもきちんと確かめたといわれる。
大型クラゲ対策の網改良は、一歩先んじて各地で定置網や底引き網で試みられているが
、機動性のある漁船で回遊してくる魚群を帯状の網で取り囲み、短時間に大量に捕る巻き網での成功は全国に先駆けるものだそうだ。
その改良というのは、大型クラゲだけをシャットアウトする「間仕切り」の網を取り付
けたものだ。石川県で巻き網を行っているのは外浦の西海(志賀町)と輪島の二カ所だが、大型クラゲが網にかかると、一緒にかかる魚が傷ついたり死んだりして鮮度が著しく落ちる。定置網や底引き網に見られるような改良を、巻き網にも応用できないか、との話を県水産総合センターに持ち掛けて改良が始まった。
巻き網の漁民は定置網や底引き網も手掛けているために身近なところにヒントを見つけ
ることができ、アイデアがとんとん拍子に実ったわけだが、新鮮な魚を消費者に届けたいという執念が根っこにあった。新鮮であれば消費者に歓迎され、評判がよくなり、収入も伸びる。それへの執念から生まれた改良だ。
大型クラゲの大量発生による漁業被害は近年のことだ。水産庁を核として対策のプロジ
ェクトが動き出しているが、大型クラゲの大量発生の原因はまだよく分からないようだ。
中国が経済的に豊かになって東シナ海の富栄養化が進んだためとか、あるいは地球温暖
化で海水温が上昇したためとか、さらには大型クラゲの幼体を食べる「天敵」の魚が人間によってごっそり捕られたからだとの説まで飛び交っている。
日本全国の話だが、二〇〇三年の被害額は二十三億円に達し、〇五年はそれを上回った
ともいわれる。巻き網の改良は、地域おこしに貢献するだけでなく、大型クラゲに泣かされている他の地方の多くの漁民たちにとっても頼もしいニュースだ。
◎自衛隊派遣恒久法 政界再編も恐れず議論を
自衛隊を国際平和協力活動に随時派遣することを可能にする恒久法の制定論議は、日本
の外交・安全保障の在り方の根本を固め、国際社会に示す機会といえる。外交・安保政策では自民、民主両党とも一枚岩ではなく、「ねじれ」を抱えている。恒久法の議論を深めると、そのねじれが浮き彫りにされ、政界再編につながる可能性もあるが、それを恐れず積極的に協議を進めてもらいたい。
福田康夫首相は「平和協力国家」の役割を果たす上で恒久法は有意義と強調している。
自衛隊の国際貢献活動が要請される事態が起こるたびに、泥縄式に特別措置法で対処するやり方は限界に来ているという首相の主張は理解できる。
自衛隊の海外活動は昨年「本来任務」に格上げされており、それにふさわしい態勢にす
る必要もある。しかし、海外活動に関する本質的な議論は不十分で、あいまいさを残したままである。昨年行われた福田首相と小沢一郎民主党代表の会談では、大変重要な論点も提起された。国連決議があれば憲法の規定にかかわらず、武力行使も含む海外活動に自衛隊が参加できるという考え方が小沢氏から示されたことだ。日本の外交・安保の基軸を日米同盟から国連に転換するものである。
「国連至上主義」ともいうべき考え方に立脚した外交・安保政策は危うくもあり、自民
、民主両党の共通認識になるとは考えにくい。それでも恒久法の議論では避けて通れない問題点であり、自民、民主両党が与野党の枠を越えて一致点を見いだせるかどうかで、二大政党制の今後を占うこともできよう。
たとえばドイツでは保革二大政党が競い、いま大連立を組むことが可能なのは、国家の
存亡にかかわる外交・安保の基本政策で一致し、この点で一枚岩の状態になっているからといわれる。政権政党が交代するたびに外交・安保の基本政策が変わるようでは、国民に安心感を与える二大政党制にはなり得ず、大連立も難しい。自衛隊海外派遣の恒久法論議は、国の生き方や政党の枠組みにかかわる点で、ガソリン税の暫定税率などよりも国政選挙のテーマになる。そういう認識で真摯に取り組むよう与野党に求めたい。