製紙会社の業界団体である日本製紙連合会が、古紙配合率の偽装実態調査結果を発表した。偽装があったのは、再生紙を生産する会員企業二十四社のうち最大手の王子製紙など十七社に上った。約七割である。偽装は業界に広くはびこっていた。
偽装の原因について製紙連は、中国の需要増もあって高品質の古紙の入手が難しくなり、技術的に再生紙の品質が維持できなくなったと説明する。技術的に難しければ顧客にきちんと伝えるべきなのに「古紙配合率の基準を守ることよりも品質維持を優先させた」としている。
配合率を下げれば、環境に優しい再生紙使用を強調しようとする顧客企業からの受注が減りかねないとの恐れもあったのだろう。製紙連は「売り上げを維持するためだった」と、営業優先を認めた。
地球温暖化が深刻化し、環境問題への関心が高まっている。内閣府が二〇〇五年に行った「環境問題に関する世論調査」では、家庭での環境保全への取り組みで最も多かったのは複数回答で「古紙、牛乳パック、ペットボトル、空き缶などのリサイクル、分別収集に協力する」の73・4%だった。「再生紙など環境に優しい商品を買う」は27・0%となっていた。
かけがえのない地球環境を保つには、私たち一人一人の行動が大切だ。特に森の保全のため古紙をリサイクルし、再生紙を積極的に利用しようという訴えは理解されやすく、古紙回収のボランティア活動は活発だ。
古紙配合率の偽装は、製紙メーカーに対する信頼を裏切っただけでなく、高まる環境保全意識に水を差したといえよう。リサイクルへの疑念が広がり、活動が低迷するようなことになれば、罪は深い。
経済産業省は、製紙連の報告を重く受け止め、再発防止策の早期取りまとめを指示した。製紙連は、業界ぐるみの偽装ではなかったとするが、信頼回復には業界を挙げた取り組みが必要だ。偽装発覚を受けて設置した「古紙配合率問題検討委員会」で、具体的な改善策を打ち出さなければならない。
古紙を使った再生紙には、古紙配合率などの明確な定義はないと製紙連はいう。このため、古紙をわずかしか含まない再生紙の製品も出回っている。検討委は、再生紙の表示を分かりやすくする方法や配合率の基準づくりなどを目指す方針だ。配合率が守られているかどうかを確認する第三者による認証制度の創設、さらには、古紙を使っても品質が維持できる技術開発なども重要だろう。
二十六日は文化財防火デーだった。この日に合わせ全国の市町村で文化財の防災訓練が行われてきたが、昨年は半数以上の市町村で実施されなかったことが、文化庁の初の全国調査で分かった。
国や自治体指定の文化財がある千七百四十九市町村を調べた。訓練実施は49%にとどまり、消防設備を点検した所は52%、文化財所有者に対する防災指導は42%など、他の調査項目も半数前後しか実施していなかった。
岡山県内では、二十九市町村のうち防災訓練や消防設備の点検などが行われたのは二十三市町村だった。
一九四九年一月二十六日、奈良・法隆寺金堂の火災で国宝の壁画が焼けた。衝撃は大きく、翌年文化財保護法が制定された。文化財防火デーは五五年に定められ、国はこの日を中心に自治体に防災訓練実施を求めている。
岡山県内では未実施の理由に「手が回らない」「めぼしい文化財がない」などが挙がった。防火デーの制定から半世紀以上がたつ。法隆寺金堂の教訓が、風化しつつあるのかもしれない。
八九年に拝殿などを全焼した岡山市・玉井宮東照宮では二十四日、消防訓練が行われた。宮司は「郷土の宝を守り子孫に伝えることがわれわれの責務」と話していた。その通りだろう。失われた文化財は、二度と取り戻せない。
全国では五〇年以降、国指定文化財だけで建造物八十二棟、美術工芸品二十七点が火災によって焼失または破損した。手間も費用もかかるが、市町村は防災訓練を実施してほしい。
訓練は、直接的に文化財を守るだけでなく、地域住民に文化財保護意識をはぐくむためにも役立っている。
(2008年1月27日掲載)