何だか不思議な話である。十五年近く前に風船につけて飛ばした小学一年生の手紙が千葉県沖で水揚げされたサメガレイにひっついていた。
耐水性の紙に油性ペンで書かれていたことが幸いだった。手紙は底引き網漁船の船主から二十一歳になった女子大生に手渡された。手紙には住所や学校名とともに「ひろったかたは、おへんじをください」と書いてあった。
受け取った女子大生は満面の笑みを浮かべ「見つけてくれた人にもカレイにも感謝します」と話す。カレイの煮付けが大好物で「これからは、カレイがかわいそう」とちょっと困った表情だった。
ニュースを聞いて、アンデルセンの童話「スズのへいたい」を思い出した。おもちゃの兵隊が、突然開いた窓から落ちて巡り巡って魚に飲まれてしまった。ところが家人が市場で買ってきた魚を料理すると兵隊が見つかるというストーリーだ。
釣った魚から無くした物が見つかるというのは世界各地にあり、めったに起きない奇跡として語り伝えられている。日本でも「石山寺縁起絵巻」に、領地所有を証明する文書を川に落とした人が、夢のお告げで魚を買い求めて腹の中から文書を取り戻したという話がある。
魚は幸せを授けてくれる海の神様の使いであったのだろう。千葉県沖のサメガレイも、ほのぼのと心が温かくなる幸せを運んできてくれたようだ。