副賞百万円の小切手を贈る小野順子さん(中央右)

副賞百万円の小切手を贈る小野順子さん(中央右)

 日韓併合の時代に在日朝鮮人の妻となり、貧しさの中、ひたむきに子どもたちを育てた母の62年の生涯を描いた著書「オモニ 在日朝鮮人の妻として生きた母」で、ノンフィクション大賞(幻冬舎・フジテレビ共催)特別賞を受けた小野順子さん(61)=埼玉県草加市=は、福岡市東区原田の児童養護施設・福岡育児院で育った。小野さんはきょうだい2人と26日、同施設を訪れ、寺田正義施設長に「育児院のみなさんから、命をつないでいただいたおかげで、私たちの今日があります」と、特別賞の副賞100万円を贈った。

 小野さんの母孝子さんは、結核で家族5人を次々と亡くし、独りぼっち同然で育った。「あの家は肺病屋敷」と偏見の目で見られたという。

 一方、朝鮮慶尚北道の代々続いた儒学者の家に生まれた父李禹〓(イウヨ)さん。19歳で日本へ渡り、福岡市内のパン工場で働いているとき、孝子さんと知り合い結婚した。「朝鮮人がだまして結婚し財産を取ろうとしている」といった中傷を2人で乗り越えた。

 ただ、2人が長男の誕生を機に朝鮮に帰ると、李さんには親が決めた正妻がいた。孝子さんは1人、納屋で暮らした。戦後、福岡市に戻ってからは、川の上のバラックでの生活も経験。酒を飲むと李さんは暴力をふるった。小野さんらきょうだい3人は、父母が密造酒に手を出して警察に摘発されると、約2年間、育児院で過ごした。

 そんな過酷な運命をつづった作品を、選考委員の作家重松清さんは「決して幸せではなかった家族の歴史を飾り気のない文章でつづった。安易な涙を拒む毅然(きぜん)とした強さがあった」と評した。

 妹の廣子さん(58)、弟の龍生さん(55)と約40年ぶりに育児院を訪れた小野さんは「つらかったとき、寂しかったとき母親のように抱き締めてもらった」「いつかお返ししたいと思っていたことがやっと実現できた」と感慨深げだった。

 贈呈を受けた寺田施設長は「進学など、子どもたちのために幅広く役立てたい」と話した。

 ◇「オモニ‐」は幻冬舎刊で1365円。

 (〓は「金」に「庸」)


=2008/01/27付 西日本新聞朝刊=