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現代版「薩摩守」手口巧妙、タクシー乗り逃げあの手この手

1月26日14時44分配信 読売新聞


 値上げに禁煙と、恐縮しきりのタクシーの運転手さんたち。だが、彼らが怒りを込めて語るのが、あの手この手の料金踏み倒しだ。「この客は大丈夫」と信じたら最後。うら若き女性、身なりのいい紳士が「タダ乗り犯」にひょう変して、闇に紛れていく。

 昨年夏のこと。東京都内を走る運転手の男性(69)は午後8時ごろ、新宿駅前から“若いビジネスマン”を乗せた。行き先は中野。スーツをきちんと着こなし、物腰も柔らか。車中で会話が弾み、気を許したのが失敗だった。

 「あれっ、財布がない」。マンション前に到着すると、カバンを探り始める。「606号室だから、お金を取ってきます。携帯電話を置いていきますから」

 運転手は後部座席の携帯をちらりと見て安心してシートに背を委ねた。ところが、20分待っても戻らない。「もしや」と携帯電話を手に取ったところ、電波の発信できない模造品。すぐに606号室を見に行ったが、そこは5階建て。約1600円を踏み倒された。

 タクシー業界では、建物を通り抜けて逃げるのを「かご抜け」、所持品を置いて逃げるのを「置き抜け」と呼ぶ。運転手はこの二つを同時にやられた。

 女性でも、「かわいい子だな」なんて気を取られていると、痛い目をみる。ハンドバッグを人質に置いていったと思ったら、100円ショップの安物。デパートで買ったばかりの商品と思いきや、袋を開けると新聞紙……。置き抜けの手口は枚挙にいとまがない。

 “演技”にやられるケースもある。「道案内しますから」と一見、親切なそぶりの20代の女性。狭い路地に導かれ、車の右側を壁に寄せ、左ドアを開けると途端に走って逃げる。運転手は壁が迫って運転席のドアを開けることもできない。

 昨年12月、警視庁西新井署に恐喝容疑で逮捕された男2人は横暴の極みだった。湯飲み茶わんをわざとドアにもたせかけ、開いた瞬間、落ちて粉々に。「30万円もする骨董(こっとう)品だぞ」と騒ぎ、料金を踏み倒した上、安物の茶わんを2万2000円で弁償させた。別のタクシー会社からも届けが出ていて余罪は十数件あったそうだ。

 料金の「タダ乗り」といっても、詐欺罪に問われるれっきとした犯罪。大手の大和自動車交通(本社・東京都中央区)では被害届を運転手に義務づけ、全額を会社が負担する。130台を抱える王子営業所(北区)では過去2年で約50件20万円の被害にあった。管理担当の植田孝徳さんは「年々、女性が増えています。どういう世の中なんですかね」。

 都内を走るタクシーは約5万5000台に上るが、警察に被害を届ける会社は少数。恐喝や強盗が伴わない限り、自腹を切るケースも多く、被害総額などは明らかではない。賃金が歩合制の運転手は、警察での手続きに時間を割くより、街を流して損を取り返そうとするという。燃料の高騰などで賃金にしわ寄せが及んでいる事情もある。

 ベテラン運転手によると、対策にはやはり「人質」が効く。財布を忘れたと言って、「自宅」に取りに行こうとする若い女性。その時、「免許証か社員証を置いていってもらえますか」と丁寧にお願いしたところ、女性は急にそわそわし始め、「あったー」。不自然な笑顔で、払ってくれた。

 薩摩守忠度(さつまのかみただのり)。鉄道の無賃乗車はその昔、有名な歌人の名を借りてそう呼ばれた。日本が貧しかった時代には苦笑した人もいただろうが、今時どうだろう。せこくてみみっちいペテンの数々……。笑えますか。(天野雄介)

最終更新:1月26日14時44分

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