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シップバックされる「中古品」という名のアナログテレビ
2008/01/27
 住宅地をゆっくり走る、廃家電を無料回収してくれる軽トラックを時々みかけます。スピーカーから流れる謳い文句は「ご不要になったテレビ、パソコン……はございませんか。映らなくても結構です」

 家電リサイクル法に則った処分方法では、リサイクル券と運搬費を支払わなければなりませんが、「壊れていてもタダ」とは不思議なことです。ウィキペディア:「特定家庭用機器再商品化法」の項目に、「軽トラックで廃家電の無料回収を行う業者が存在する。回収された品物は、輸出して修理された後再販売される」という記述をみつけました。

 なるほど、引き取ったものを売って利益を儲けているから、タダでも引き取ってくれるというわけです。海外でリユースされるならリサイクルより環境によいですし、無理にリサイクルするよりよさそうです。しかし、はたしてそう考えてよいのでしょうか。

化学物質問題市民研究会・関根彩子氏
 化学物質問題市民研究会主催「中古テレビの行方とリサイクルを考える」学習会が、12月15日(土)東京都千代田区にある化学会館で行われ、同研究会の関根彩子氏による中古テレビの輸出についての調査報告、米国のNGOバーゼル・アクション・ネットワークが制作したドキュメンタリーの上映がありました。

 JanJanでも以前から、中古テレビのリサイクルと有害廃棄物の問題が取り上げられてきましたが、勉強会に参加してみて、あらためて筆者が考えさせられたことを報告します。

 中古(ブラウン管)テレビを海外へ輸出するにあたって、気をつけなければならないことは、それが商品としてリユースできるか否かだと筆者は思います。仮にリユースに耐えない物を輸出してしまったら、たとえばブラウン管は鉛を含むため有害廃棄物となり、国際的取り決めのバーゼル条約(有害廃棄物の先進国から途上国への越境移動について規制している条約)に違反してしまいます。

 しかし近年、中古テレビ(モニター含む)を積んだ日本の船が、香港の税関で梱包状態、製造年、品質等から中古利用できない物であると判断されたため(※1)シップバック(返送処分)される事例が多発しているそうです。

※1:我が国から輸出した貨物の返送に関する情報(環境省)

 このことを踏まえて、経済産業省と環境省は、2007年6月7日付で「香港向け使用済みブラウン管TV及びCRTモニターの輸出について(※2)」というバーゼル条約に違反しないよう通達を、(社)日本船主協会などへ出したようですが、何故このようなことがおこるのでしょうか。

※2:香港向け使用済ブラウン管TV及びCRTモニターの輸出について(お知らせ)(PDFファイル、経済産業省)

 問題の一つに、「(配布資料から)◇(中古利用の名目で輸出される使用済みテレビが)バーゼル条約に該当しうる廃棄物を含んでいても、日本では事前に届けることを求めていない ◇経済産業省環境指導室への相談が無いものは経済産業省も関知しない」という、政府のバーゼル条約を順守するための対策不足がみられるようです。

 また、港で積荷は確認されないという問題もあるようです。税関で行われる輸出の申告・検査は、「荷物は港にあって、ほとんどが書類のやりとりのみ。内容の審査は稀で、抜き打ちの現物審査(コンテナを開ける)は、あるとしても3%ぐらい。こういう現物審査が行われるのは、大体ブラックリストに載っている業者に限る」と、関根氏の調査でわかったそうです(海運関係者への聞き取りによる)。書類上「中古品」とみなされたコンテナのテレビが、リユースに耐えるか否かは輸出に際して問われない、ということです。

 さらに経済産業省からは、「梱包をきちんとなされている物か、引継ぎの業者が販売業者かといった書類審査はあるが、全てを確認できている訳ではない」と回答があったそうです。このことからも、中古テレビの輸出状況を、税関が積極的に調べていない様子がうかがわれます。

 日常、電化製品が壊れたとき、自分でちょっと様子をみることもありますが、たいていは近所の電気屋さんか、メーカーの出張修理を頼んだり、修理センターに現物を送ってみてもらうことになります。その時点ではじめて修理の判断がなされるので、「映らなくても結構」と集められたテレビがリユースできるかどうかは、積荷の時点でわからないというのは理解できなくもありません。「全部中古品として売りますよ」と言われればそれで納得もできそうです。

 とはいえ、全部が再販にまわるかは難しいと筆者は考えます。修理部品が用意できるか。修理する技術はあるのか。2006年9月24日のJanJan記事『中古家電、修理せずとも途上国で人気――モッタイナイ精神はどこへ?』で紹介されているように、優良な中古テレビだけを輸出する業者さんや、現地での修理が可能な国や地域もあるようですが、それとは別の、リユースに耐えない中古テレビを輸出する国内業者と、引き取り側の問題があるようです。

 額面通り、輸出された中古テレビがリユースに回されるのなら、それはそれで意義があると筆者には思えますが、重要な点はこれらが途上国などで「リサイクル」された場合にあります。

 「香港に着いた中古テレビは中国の農村へ送られます。ブラウン管のファンネルガラスは、25%程度の鉛が含まれていて、プリント基板にも鉛を含むハンダ、燃やすことによって有害物質を排出する樹脂が使用されており、安易な処理によった“リサイクル”は現地の環境破壊を引き起こしてしまい、さらに、リサイクルされる素材以外の部分の焼却や野積みを生み出してしまう」と関根氏は懸念します。

ドキュメンタリー「危害の輸出:アジアで処分されるハイテクごみ」より許可を得て転載
 ドキュメンタリー『危害の輸出:アジアで処分されるハイテクごみ』の映像には、中国のかつて豊かな農村だった地が、持ち込まれたパソコン(有害廃棄物)によって、ごみの山と化した姿を映し出していました。しかし人々は今も危険であることを知らないと伝えています。

 もしかしたら日本の消費者は、無意識のうちにバーゼル条約違反の加担者になっているのでしょうか。

 地上デジタル放送完全移行に向け、アナログ式の中古テレビの廃棄は増え続けています。中古テレビの輸出が環境破壊の原因とならない為にも、日本の船がシップバックされている現状では、国内のメーカーによるリサイクル処理がおこなわれる方法(リサイクル券、運搬費を支払い引き取ってもらう)が望ましいと思われます。

 しかし、毎日新聞ユニバーサロンの記事『YOU館:ブラウン管、再生危機 需要激減、輸出も難航 地デジ移行、行き場失い』(2007年10月12日)が、国内の中古ブラウン管テレビのリサイクルが危機的状況にあり、リサイクル先を中国に求めたが輸出交渉は難航している、と報じたように国内の「リサイクル」そのものにも問題があるようです。

 2011年前後に起こりうるであろう中古テレビの大量排出を前に、環境省と経済産業省による家電リサイクル法の見直しが進められています。国内の環境のためだけでなく、近隣諸国および地球環境のための法律になることを期待します。
(三富きよみ)
◇ ◇ ◇
関連リンク:
化学物質問題市民研究会

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