◇症例ほぼゼロ
治療の副作用や合併症に関する医学論文の数が昨年後半から急激に減少したことが、東京大医科学研究所の上(かみ)昌広客員准教授(医療ガバナンス論)らのグループの調査で分かった。このうち、診療中に起きた個別の事例を取り上げた「症例報告」はゼロに近づいた。グループは、厚生労働省が検討する医療事故調査委員会の発足後、行政処分や刑事責任の追及につながることを医師が恐れて萎縮(いしゅく)し、発表を控えたためと推測している。
グループは国内の医学論文のデータベースを使い、06年1月~07年10月に出された副作用や合併症に関する論文を探し、総論文数に対する割合を調べた。
毎月、1万~4万件前後の医学論文が発表され、一昨年から昨年前半までは合併症の論文が13~17%あった。しかし、昨夏ごろから急減し、10月には約2%になった。副作用の論文も以前は4~6%あったが、昨年10月には約2%に減った。
特に、副作用の症例報告は、以前は1%前後あったが、昨年10月にはゼロになった。合併症の症例報告も、以前は5~9%あったが、昨年10月には0・1%しかなかった。
厚労省は昨年10月、診療中の予期せぬ死亡事故の原因を究明するために創設する医療事故調査委員会の第2次試案を公表した。死亡事故届け出を医療機関に義務付け、調査報告書は行政処分や刑事責任追及にも活用する場合もあることを盛り込んだ。10年度をめどに発足を目指している。
上客員准教授は「医学が発展せず、国民の被害は大きい。リスクの高い診療科からの医師離れも促す。調査報告書は行政処分や刑事責任追及に使われないようにすべきだ」と訴えている。【河内敏康】
毎日新聞 2008年1月27日 東京朝刊