暴力を振るう夫が応じずに離婚できない女性が、新たな男性との間に産んだ子供について、東京都北区が無戸籍のままで住民票を作っていたことが分かった。DV(ドメスティックバイオレンス)被害者と警察が認定したことを示す書類を提出したケースで、他に離婚後300日規定による無戸籍児にも住民票を作成していた。区は「無戸籍は親の事情で生じており、子供の立場を考えた措置」と説明している。
区によると、06年以降、こうした理由での住民票作成は0歳から1歳4カ月の子供で計4件。(1)DVの夫が離婚に応じない状況で、別の男性との間に子供が生まれたが、夫の戸籍に記載されることを女性(妻)が拒み、無戸籍になった(2)離婚後300日以内に現夫の子を出産したものの、法務省通達の適用対象外の「離婚前妊娠」のため、現夫の戸籍に記載するには前夫を巻き込んだ裁判をしなければならないが、事情によりできない--のケースだ。
(1)では、女性が夫から住所を特定されないよう住民票の写しの発行を禁止するため、DV防止法などに伴い規定された「住民基本台帳事務における支援措置申出書」(警察署長の被害確認印付き)の提出を受け作成した。子供の本籍地や戸籍筆頭者欄は「不詳」だ。300日規定をめぐっては、東京都足立区が昨年2月に無戸籍女児に特殊事情を考慮し作成した例がある。(2)の裁判ができないケースは「前夫が裁判に出頭しない」などだ。区は「今後も2ケースに当てはまれば作成する」としている。
住民基本台帳法などは、戸籍に関する届けを受理した時は住民票の作成を義務付けているほか、役所による事実確認のうえでの職権での作成も可能としている。毎日新聞が今月実施した300日規定による都道府県庁所在市や政令市、東京23区対象の調査では、昨年末時点で少なくとも127人の無戸籍児の存在が判明したが、北区以外は住民票を作っていない。【工藤哲】
毎日新聞 2008年1月27日 2時30分