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2008年01月27日(日曜日)付

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福田環境構想―第1打席は出塁できた

 地球の脱温暖化をめぐって、福田首相が世界のひのき舞台で口を開いた。

 スイスのダボスで開かれている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で発表された福田構想だ。

 先進国に温室効果ガスの排出削減を義務づける現行の京都議定書第1期は12年に終わる。その後も、日本は主要排出国とともに排出量の数値目標を掲げる、と宣言したのである。

 国ごとの数値目標方式には、産業界を背景に政府内でも消極論が根強くあった。米政府も反対している。こうした状況のなかで、一歩踏み込んだメッセージを世界へ発信したことになる。

 去年暮れの国連気候変動枠組み条約締約国会議は、13年以降の枠組みづくりを09年までに仕上げることで合意した。今夏の洞爺湖G8サミットでその歩みを大きく進められるかどうかは、この半年の環境外交にかかっている。

 野球でいえば「環境シリーズ」だ。その第1打席は出塁できたといえよう。

 国際世論となりつつある「50年までに世界の温室効果ガス排出を半減」という目標を達成するためには、各国に数値の縛りを課すことが欠かせない。

 縛りがあれば、それぞれの国は、社会や産業を脱温暖化型に変えざるをえなくなる。排出を抑えるほど得をする排出量取引や、環境税など、さまざまな仕掛けをつくっていくことになるだろう。

 国別の数値目標方式は欧州が強く主張しており、それをテコに排出量取引を広めようとしている。ブッシュ後をにらむ米国内でも脱温暖化の機運は高まっている。今回の宣言で「京都後」もこの方式が柱になることが現実味を帯びた。

 問題は、今は途上国扱いで義務を負っていないが、排出量の多い中国やインドをどう引き入れるかだ。今回、福田首相が「先進国とともに」ではなく「主要排出国とともに」という言葉を選んだのは、その思いの表れだろう。

 そこで課題となってくるのが、公平感のある仕組みづくりである。

 日本は今の段階で数値目標方式の旗印を鮮明にしたことで、制度設計に積極的にかかわれるようになった。国際社会にとっても、日本にとっても、納得のいく方法を見つけなくてはならない。

 中国やインドなどに対しては、経済発展のさなかにあることや人口の多さに目配りしながら、「これ以上は出さない」という目標値を見いだす余地はあるはずだ。構想には省エネ技術を外国に移転することも盛り込んでいるが、これも一助になるだろう。

 福田構想では、国内の目標づくりは、分野ごとに削減可能な量を積み上げる方式をとる。産業界などの意向をくんで目標を甘くしすぎると、海外の風圧が高まるだろう。これは、ほかの国に応分の負担を求めることを難しくする。

 出塁をどう得点につなげるか。日本は大きな責任を負うことになった。

スリランカ―和平への戦列を立て直せ

 紛争地における平和構築がいかに難しいか。インド洋に浮かぶ島国、スリランカの内戦は、このことをまざまざと見せつけている。

 6年前にタミル人の反政府武装組織タミル・イーラム解放の虎(LTTE)と結んだ停戦合意を、政府側が破棄した。日本はこの間、両者の間に入って和平を働きかけてきた。その努力が水泡に帰そうとしている。

 停戦合意の破棄について、ラジャパクサ大統領は「頻発するテロで停戦は有名無実になっていた」と説明している。紛争が再び本格化しかねない。早急に政治対話の道に戻るべきだ。

 人口2千万人の約8割を占めるシンハラ人と、少数派タミル人との対立が内戦になったのは80年代のことだ。分離独立を求めるLTTEと政府軍との武力衝突やテロで、7万人が犠牲になった。

 両者の無期限の停戦は02年2月、ノルウェーの仲介で実現した。

 停戦から和平合意を経て、武装解除、復興開発へという平和構築の取り組みがここから始まった。LTTEは合法組織と認められ、和平に向けて地方選挙や国内避難民の帰還、政府軍の撤退などが進むことになっていた。

 日本政府は明石康・元国連事務次長を政府代表にして和平交渉を仲介する一方、米国や欧州連合(EU)、ノルウェーと連携して、東京で復興開発会議を開いた。北欧諸国は停戦監視団を戦闘地域に出し、双方の動きに目を光らせた。

 しかし当事者たちの不信感は消えなかった。翌03年には早くも和平交渉が決裂。政治家の暗殺やテロが頻発した。

 04年のインド洋大津波による被災救援で、LTTEとの協力が崩れたこともあり、政府は力による決着に踏み出した。停戦破棄も、その延長線にある。

 世界の紛争を見ると、和平合意に達した紛争の半分近くで5年以内に武力衝突が再燃しているという。スリランカも似た展開をたどろうとしている。

 もともと平和構築は容易な事業ではない。私たちは、紛争地に和平を定着させる平和構築の取り組みを日本外交の柱にしていくべきだと考える。スリランカにおける失敗から、日本や国際社会が学ぶべき教訓は少なくないはずだ。

 政府は、独立を認めない一方で、タミル人の多い東部や北部の自治を強める案を発表した。軍事的な圧力を強めることでLTTEにこれをのませる狙いだろう。しかし、LTTEが簡単に屈服するとは思えない。テロなどで犠牲者が増えるのが心配だ。

 紛争は政治対話を通じて解決していくべきだ。平和構築の試みをもう一度始めなければならない。

 福田首相は施政方針演説で、「平和協力国家」として国際的な責務を果たしていくと決意を語った。現地政府を説得するとともに、国際社会の戦列を立て直すために指導力を発揮してもらいたい。

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