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2008年1月27日

◎町家ビジネス 事業化の流れを再生の力に

 金沢市内で町家を宿泊施設として貸し出したり、住宅として販売するビジネスが活発化 してきた。伝統建築を残すにしても、文化財を保護するような手法だけではやはり限界がある。ビジネスとして成り立ち、住宅が不動産市場に流通してこそ町家の現代的な価値が高まっていくだろう。ビジネスの芽を大事に育て、町家再生の大きな力にしたい。

 町家に関しては、学識者でつくる金澤町家研究会がセミナーや相談事業を展開し、町家 でのイベントなどを通して活用策を示してきた。金沢市も年度内に町家活性化基本計画を策定し、新年度からは新たな支援制度も創設する。町家再生ビジネスは京都で先行しているが、金沢でも今年は官民一体の運動として盛り上げる好機と言える。

 野々市町の建築会社は昨年の東山地区の物件に続き、野町地区で町家再生住宅を完成さ せた。空き家を買い取り、リフォームして販売する事業である。老朽化した町家は、不便で住み心地が悪いとして不動産市場での価値は低かったが、オール電化や耐震補強で居住性を高めた。古いものをただ直すだけでなく、現代の生活スタイルに合わせていくことも活用を促す大事な視点である。

 ひがし茶屋街では、改修した町家を宿泊施設として貸し出す事業が二月から動き出す。 金沢の伝統的な住まいに泊まって城下町の風情を満喫する新たな滞在スタイルであり、人気が広がれば地元の人たちも町家の魅力に気づくきっかけになるかもしれない

 町家の活用形態も、ギャラリーや飲食、物販など多様化してきた。歴史資源、文化資源 としてだけでなく、経済資源としての可能性を追求する新たな動きは町家再生の追い風である。成功例を増やし、新たなビジネスモデルを探る中で、町家への関心も一層高まるだろう。

 金沢市が「町家」と定めているのは一九五〇年以前に建てられた建築物で、二〇〇七年 一月時点で市内に約八千七百棟ある。年々減っているとはいえ、これだけの数があるのは金沢が戦災を免れたからである。歴史都市としての陰影をつくり、歴史に面的な広がりを持たせているのが金沢の町家である。暮らしや商い、公的活用など、さまざまに使いこなし、その価値に磨きをかけたい。

◎取り調べ指針に限界 冤罪防ぐには根拠の吟味

 富山県や鹿児島県で起きた冤罪事件の問題点を検証し、警察庁は「取り調べ適正化指針 」をまとめた。

 捜査部門以外が取り調べ状況を監視する仕組みをつくるほか、長時間にわたる取り調べ を避けることを犯罪捜査規範に盛り込み、やむを得ず八時間を超える取り調べが必要なときは本部長らの許可を必要とするなどとされている。

 しかし、ガイドラインには限界があり、現場を指揮・監督する幹部の適正な指導こそ一 番大事だ。

 時代小説作家の山本周五郎に「寝ぼけ署長」と題した、異色の現代小説がある。ぼうよ うとした人柄の警察署長を主人公にした人情を織り交ぜた推理小説で、この署長は捜査の進展などを見聞きしながら豊かな発想で根拠を合理的に吟味していき、出来事の要点をつかみ、捜査にヒントを与え、解決していく。

 小説だとばかにしないで読んでもらいたい。家が水害に見舞われ、小学校を卒業すると 同時に、でっち奉公に出されるなどの苦労をして人間や社会の裏側をもしっかり見てきた周五郎ならではの作品であり、庶民からすれば、こうあってほしいという、警察のお偉方の理想の姿の一つが描かれているのだから。

 富山県の冤罪事件では、強姦未遂の犯行時間に被疑者とされた人が兄に電話を掛けたア リバイがあったことを見逃し、現場にあった足跡がその人のものと合わなかったりした重要な証拠を見落としたことが分かった。

 鹿児島県の公選法違反事件は裏付けのないまま、買収が行われたとのシナリオを前もっ てつくり、脅してそれに沿った自白をでっち上げたものだった。

 寝ぼけ署長のように、納得がいくまで吟味に吟味を重ねる辛抱強さがあれば、冤罪を防 ぐことができたのが両事件だった。冤罪は事実に対する軽視によって生み出されるのだ。

 捜査に当たる部下たちをして事実を尊重するようにし向けていく指導力が、警察の幹部 に強く求められている。捜査に従事する刑事らも、人間の能力には限界があることをつねに忘れず切磋琢磨してほしい。取り調べ適正化指針を生かすも殺すもそれらにかかっているのだ。


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