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【社会】

園児作品3000点匿名展示 津市の保育園展「個人情報保護に配慮」

2008年1月26日 朝刊

 津市内の全57保育園が参加し、園児の絵や手作りおもちゃ3000点を展示する2月の「津市の保育園展」で、作品に付ける名札に園児の名前を記入せず、園名と学籍番号だけを書くことが分かった。保育園側は「園児らの個人情報保護のため」と説明しているが「どんな子が頑張って仕上げたのか、大人たちがほめてあげる場なのに」と話す保護者は多く、個人情報保護への過剰な反応との指摘もある。

 保育園展は2年に1度開かれ、今回は2006年1月に10市町村が合併して現在の津市になって初の作品展。三重県総合文化センター(津市)で2月9、10日開き、市内の公立、私立全園に通う3−5歳児の大部分の園児がほぼ1点ずつ出品する。

 主催は各園長らでつくる津保育所施設長連絡協議会。協議会代表の若林広幸・公園西保育園長によると、昨年11月、ほとんどの園長が出席した協議会の会合で▽親などの家庭内暴力から逃れて暮らし、どこの園に通っているか明らかにしたくない子どもがいる▽子どもの絵を比較されたくない保護者がいる−などの意見が出て、約8割の園長の賛成で決まった。

 若林園長は「個人情報の保護という観点と、保護者には自分の子どもの作品は分かるようにとの配慮から、折衷案として園の名前と学籍番号という方法を採用した」と話している。会場では作品の名札に「○○保育園××番」とだけ表記されることになる。

 ある保護者は「自分の子どもの作品を番号で見分けるなんて、味気ない」とがっかりしている。

◆過剰反応各地で頻発

 情報公開制度に詳しい三重大人文学部の樹神成(こだま・しげる)教授は「個人情報保護制度への過剰な反応。奇異で神経質な感じがする。現場の先生たちが、情報開示に恐怖や不安を感じているならば、おおらかさを失った社会の病理の表れともいえる」と指摘する。

 文部科学省幼児教育課は、今回の判断を「個人情報の取り扱いへの過度な反応」と懸念。小中学校で同様の作品展を開くこともある津市教育委員会も「このような展示の仕方は初めて聞いた」と驚き「作品は子どもの気持ちを表現したもの。名前と一緒に展示した方がいいのではないか」と話す。

 個人情報の保護は個人情報保護法の全面施行(2005年)以前の1996年前後から各地で条例が制定されている。その時以来、小中学校などで配られる学級名簿の大半は名前だけの記載。住所や電話番号は保護者の了解が得られた場合に書き込んでもらう形だ。

 このため不審者情報や台風時の登下校時間など緊急を要する場合、一部の親にはメールで伝えたり、近所の協力者に連絡して子ども宅に伝えてもらったり。放課後、子どもを遊びに連れて行こうにも友達宅の連絡先が分からない、お母さん同士が連絡を取り合うこともできない、などのケースが報告されている。

 敬老の日に開かれる子どもとお年寄りの交流会で、双方の名簿を出さない地区は多い。このため学芸会の案内や、後でお礼の手紙を書こうにも、互いに連絡先が分からないなど「地域と学校の連携が難しくなっている」(名古屋市教委指導室)実態もある。

 こうしたことから、文科省は、子どもの個人情報の取り扱いについての指針を06年に改訂。緊急連絡網の名簿作成について「同意を得れば、従来どおりに作成、配布できる」と明記した。

 その後、「必要最低限な名簿はつくるよう市町村教委を通じ、指導している」(愛知県教委義務教育課)例もあり、愛知県では再び名簿をつくる教育現場が増えている。

 

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