コンピューターウイルスを作成した大学院生ら三人が著作権法違反容疑で京都府警に逮捕された。日本にはウイルス作成を禁じた法律がなく、摘発が難しい。時代に適応した法整備が必要だ。
大学院生らは昨年十月ごろ、アニメ画像を作者の許可なく利用して感染させやすくしたウイルスを作成し、ファイル共有ソフト「Winny(ウィニー)」のネットワークに流出させた容疑。
ウイルスは、ネットワークなどを通じて他人のコンピューターに紛れ込ませ、外部から操ったり、暴走・停止させたりする悪意を盛り込んだソフトウエアの一種。
ウイルス作成に対しては、これまで法律が未整備で、逮捕者が出たのは初めて。今回は、被害者を増やそうとウイルスに人気アニメの画像を組み込んだため、著作権法を適用してようやく摘発にこぎつけた。
ネットワークにウイルスを流すのは相手を困らせて喜ぶ愉快犯が中心だが、犯人を特定するのは難しく、政府機関のコンピューターを狙うサイバーテロも報告されている。
ウイルス被害を調べる情報処理推進機構への届け出は、二〇〇五年の約五万四千件をピークに昨年は約三万四千件と減ってはいる。
だが、ウイルス対策ソフトをくぐり抜けようとする巧妙なものが増えており、情報化が進む社会全体への脅威となっている。
ウイルス攻撃は国境を越えて行われることも多く、日本も〇一年にインターネットなどを利用した国際犯罪に対処するためのサイバー犯罪条約に署名し、条約批准に必要な関連法案を〇四年に国会に提出した。
しかし、反対意見の多い共謀罪と抱き合わせで提出されたため、審議が紛糾し、未成立となっている。
今回の事件には、アニメが利用されていたので、いわば「奇策」として、著作権法が適用された。だがアニメの自作ファンが、うっかり他人のアニメをまねて気付かぬまま法に違反することもあるに違いない。
著作権法は、市民生活に身近で表現の自由とも絡み合う微妙な性格を持っており、ウイルス取り締まりという別目的に利用するのは、本来は好ましくない。
共謀罪とは切り離し、ウイルス防止に焦点を当てた法律を整備することが必要だろう。
ウイルス作成は密室で行われるため、犯人を特定する過程で捜査が通信の秘密やプライバシー保護に抵触する懸念も強い。
私生活を侵すことのないよう十分に配慮したうえで、効果ある防止法の導入を検討すべきではないか。
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