◆理系の頭と文系の心で
◇『「理系思考」分からないから面白い』元村有希子・著(毎日新聞社/税込1、575円)
「記者という仕事は基本的に“お邪魔虫”だと思っている。一人の人の人生にお邪魔して、その人が精魂を傾けた仕事を記事にする。決して、そのヤ当事者ユになれないのが限界だけれど、当事者でないから見えること、感じること、伝えられることもある。それがおもしろくて、私はこの仕事をしている」
国語大好き、理科嫌いの著者は、新聞記者になり、三五歳の春、科学環境部に配属になる。最初に担当した大仕事は、ノーベル賞。小柴昌俊・東京大学特別栄誉教授が取り組んできたニュートリノ天文学研究の取材が科学記者として一歩踏み出した著者にとって一種の“洗礼”となったという。
本書は、二〇〇四年秋、三八歳で担当した毎日新聞のコラム「発信箱」三年分、一回六六〇字、一四八本を中心にした科学コラム、エッセイ集。
「智」に働きすぎて損をしているのが理系、「情」に流されて損をするのが文系。文系の心を持ち、理系の頭で考えるというのが、複雑な世の中をしたたかに生きていくにはちょうどいい、というのが著者のスタンス。
学生時代、理系からドロップアウトしていた著者が、科学記者になってようやく気づいた。その道の第一人者たちが、口をそろえて「分からないから私は科学者やってんです」と言う。分からないことを求めるのが科学する心だ、と。
二〇〇七年七月一六日、祝日、自宅でコーヒーを飲んでいる時、ぐらーぐらーっとゆっくりした揺れを著者は感じ、テレビで「柏崎震度6強」の画面の字幕を見て反射的に「あ、原発」と思う。原子力の専門家と素人の安全観のかけ離れの考察など平易でシャープだ。
<サンデー毎日 2007年12月2日号より>
2007年11月21日