|
現在位置:asahi.com>社説 社説2008年01月26日(土曜日)付 NHK新会長―報道機関を率いる自覚をNHKの新会長に、アサヒビール社長などを務めた福地茂雄氏が就任した。 2代続けて会長が任期を全うできずに、不祥事で辞任する。そんな異常事態での船出である。強い逆風に、どんなかじ取りをして向かっていくのか。新会長に託された使命はきわめて重い。 NHKがこれまでにない危機にあるのは、単に不祥事が続いているからではない。記者らによる株のインサイダー取引という今回の事件は、報道機関の根幹にかかわるものだ。取材で入手した情報で金もうけをしたら、取材先や視聴者から全く信用されなくなる。報道機関としても公共放送としても、NHKはいまや存在意義そのものが問われているのだ。 その意味で、「私の最大のミッションは信頼回復だ」という新会長の認識は正しい。しかし、そのために何をするのかとなると、就任初日の発言を聞く限り、なんとも心もとない。 職員向けの就任あいさつや記者会見では、「コンプライアンス徹底をNHKの組織風土にする」というような抽象的な言い方が目立った。19年ぶりに外部から起用されたうえに、就任早々だから無理もないともいえるが、いまのNHKはそんな悠長なことをいっていられる状況にはない。 私たちはこれまで社説で、NHK会長は高いジャーナリズム精神の持ち主でなくてはならない、と強調してきた。ジャーナリズムにも放送界にも無縁な福地氏は、報道機関のトップとしてはふさわしくない、とも指摘した。 とはいえ、会長となったからには、福地氏には報道機関のトップとしての自覚を持ってもらいたい。そのうえで、報道機関や公共放送としての信頼をどう回復するか、はっきりとした姿勢を示さなければならない。 そんな中で、心配なのは政治との距離だ。NHKは予算を国会で通さなければならないため、たえず政治家に介入される危険を抱えている。政治家らから理不尽な要求があったときは、がんとしてはねつける覚悟がいる。 そのことを記者会見で問われた福地氏は「不偏不党という軸足だけはしっかり持っておきたい」と述べたが、心してもらいたい。 組織の抜本改革も待ったなしだ。ところが、いま八つあるチャンネル数を減らすといったスリム化についても、福地氏は「現在、判断がつきません」と語った。これでは物足りない。 福地氏には本当に危機感があるのか、疑問を抱かせることもある。 NHK会長になったのに、企業メセナ協議会理事長や東京芸術劇場館長を辞めないことだ。「会長としての業務執行に影響しない」というのだが、ここはやはりNHK会長に専念すべきだろう。 報道機関を率いる自覚を持って、改革の具体策を急がねばならない。視聴者はいつまでも待ってくれない。 ネット犯罪―ウイルスの規制法を急げ道路に無数の鉄のまきびしを置いて車のタイヤを次々にパンクさせたら――。犯罪に問われるのは当然だ。 コンピューターネットワークを道路にたとえれば、ウイルスはまきびしのようなものだ。 ところが、ウイルスを作ってネット上にまき散らしても犯罪にはならない。取り締まる法律が、まだないからだ。 そうしたなかで、京都府警がウイルスを作った人物を初めて摘発した。著作権法違反容疑を適用したのだ。 逮捕された大学院生は、ネット上に蔓延(まんえん)している「原田ウイルス」を作ったと供述している。データを破壊するウイルスを作ることが許されないのは言うまでもない。 彼は自作のウイルスの中に勝手にアニメ画像を組み込み、ファイル交換ソフトのウィニーを使ってネット上に流した。この行為によってアニメ制作者の著作権を侵害したというのが直接の逮捕容疑だ。 原田ウイルスやその亜種に感染すると、それまでに蓄積されたデータが消えたり、ファイルなど個人情報がネット上に流出したりする。画像をダウンロードした人たちの被害は甚大だ。 ネット犯罪をめぐっては01年、国際的な枠組みで対応するためのサイバー犯罪条約に政府が署名した。それを受けて、ウイルスを作る行為なども罰する「ウイルス作成罪」を盛り込んだ刑法の改正案が、「共謀罪」と抱き合わせで国会に提出されている。 二つの罪がセットになったのは、国境を超える犯罪を取り締まるという共通のねらいがあったからだ。共謀罪は犯罪を実行しなくても話し合って合意しただけで罪となるというもので、与野党が対立している。そのため、ウイルス作成罪を盛り込んだ改正法は成立のめどが立っていない。 インターネットは情報社会の重要なインフラになっており、ウイルス規制の法整備は待ったなしの状況だ。今回、摘発できたのはウイルスとアニメ画像を組みあわせていたからで、ウイルスだけを単独で送りつけたら摘発の手立てはない。 共謀罪とは切り離し、みんなが合意できる範囲のウイルス作成罪を、今国会で早急に成立させるべきだ。 インターネットは暮らしを便利に、豊かにしてくれる半面、危険も潜む。私たち一人ひとりにもネット時代を生きるための知恵と責任が求められる。 クレジットカードの番号など、パソコンの中にある大切な個人情報を不特定多数の人にさらしてしまう新たなウイルスも広がっている。ウイルスを退治するワクチンでパソコンを守り、心当たりのないメールとともに送られてきたファイルは決して開けないことだ。 見知らぬ人を不用意に家に入れたりはしないだろう。日常の暮らしと同じ常識を、ネットの世界でもはたらかせたい。 PR情報 |
ここから広告です 広告終わり どらく
一覧企画特集
朝日新聞社から |