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取り調べ指針 冤罪防止にはまだ不十分

 富山県の強姦(ごうかん)冤罪(えんざい)事件や鹿児島県の選挙違反無罪判決での強引な捜査の検証結果の反省を基に、警察庁は「取り調べ適正化指針」をまとめた。

 各都道府県警に取り調べ状況を監視・監督する部署を設け、自白強要につながる不適切な行為を排除することなどが柱である。反省を生かすなら取り調べの透明化に踏み込んだ姿勢は当然だ。

 適正化指針では、深夜や長時間にわたる取り調べを避け、やむを得ず八時間を超える場合は本部長らの許可を得るとした。全取調室に透視鏡(マジックミラー)を設けることも盛り込まれている。

 特に容疑者の尊厳を著しく害する言動や体に触れることなどを監督対象行為とし、違反した場合には懲戒処分など厳正な措置を取るとした。容疑者をことさら不安・困惑させる言動や直接・間接の有形力の行使、便宜供与の申し出なども禁じている。

 鹿児島県の選挙違反事件で最も問題とされたのが「長期間、長時間にわたる強圧的取り調べ」だった。病院で点滴を受ける状態だったのに簡易ベッドに横たわって長時間調べられた。親族の名前を書いた紙を踏ませた「踏み字」で自白を強要した捜査官は、特別公務員暴行陵虐罪に問われている。

 富山県の事件では、電話の通話記録でアリバイが判明したはずなのに捜査を怠り、自白の検討にも慎重さを欠くなど、捜査指揮が不十分だったことも指摘された。

 適正化指針は、相次ぐ冤罪事件で国民の批判を受けた警察が、捜査への信頼回復を目指すものだ。冤罪を生んだ自白偏重主義が変わっていくことを期待したい。市民が審理に加わる裁判員制度が、来年から導入されることも見据えての改革だろう。

 しかし、冤罪を防ぐにはこれだけでは不十分だ。監視・監督の新たな部署を設けるといっても、結局は身内が身内をチェックする仕組みである。警察は階級社会でもあり、十分な監視・監督ができるのか疑問が残る。専門知識のある第三者の参加も考慮してもよいのではないか。

 日弁連が冤罪防止策として主張する取り調べの全過程を録音・録画する「可視化」も盛り込まれなかった。可視化は、審理を迅速化でき自白の任意性を効果的に立証できるとして各地検で試行的に行われているが、警察は録画では容疑者が真実を話しにくいとして消極的だ。

 しかし裁判員制度のもとでは、捜査が適正に行われているかを示す有用な手段として期待されている。警察も避けては通れまい。


海自給油再開 転用防止の課題どうする

 新テロ対策特別措置法に基づき、米軍艦艇などへ給油活動を再開するため海上自衛隊の補給艦「おうみ」が昨日、インド洋に向け長崎県の佐世保基地を出航した。前日に神奈川県の横須賀基地を出発した護衛艦「むらさめ」とともに約三週間で活動海域に入る。

 昨年十一月に旧テロ特措法の失効で停止した洋上給油は二月中旬、三カ月半ぶりに再開される見通しとなった。

 ただ、国民の強い支持を得たものではないことを政府・与党は忘れてはならない。新法は今月十一日、与党が野党の反対を押し切って五十七年ぶりに衆院で再議決し成立させたが、共同通信社の調査では再議決は「適切でなかった」が46・7%で、「適切」41・6%を上回り、新法は「評価する」が44・1%、「評価しない」43・9%。賛否は二分しているのだ。

 審議過程で発覚した補給活動を担当する防衛省の前事務次官汚職事件、米艦船への給油量訂正問題、イラク戦争への燃料転用疑惑などが影響しているのだろう。国会の文民統制機能が試されている。

 特に燃料転用は厳しくチェックすべきだ。新法で「テロリストなどの海上阻止活動に従事する艦船への補給に活動を限定」と明記した日本政府は、使途の検証の明文化を米政府に求めたが拒否されている。転用をどう防止するのか。政府は国民に対し重い説明責任を負っている。

 新法の期限は一年間で、来年一月以降も給油活動を続けるには今秋に延長するか、自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法を制定する必要がある。テロとの戦いで国際社会と連携するのは当然としても、その在り方は立ち止まりじっくり考えなければならない。慎重な議論を要する。

(2008年1月26日掲載)
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