ニュース「『ダウンロード違法化』阻止、まだチャンスある」――MIAUがシンポジウム (1/2)「違法サイトからのダウンロード違法化」という方向で文化庁の意向がまとまりつつある中、「国会で法案が成立するまでまだ時間がある」と、MIAUがシンポジウムを開催。ダウンロード違法化によるマイナス面を確認し、ロビー活動などを行っていく。2007年12月27日 12時31分 更新
「著作者に無断でアップロードされた動画、音楽のダウンロード」について、著作権法30条に定められた『私的使用』の範囲から外し、違法とすべき――文化庁長官の諮問機関・文化審議会著作権分科会の私的録音録画小委員会でまとまった方向性についての是非を考えるシンポジウムを、MIAU(Movements for Internet Active Users:インターネット先進ユーザーの会」)が12月26日に開いた。 「ダウンロード違法化は、経済全体で見るとマイナスの方が大きい」「まともに執行しようとすれば、一般ユーザーのプライバシーを著しく害する恐れがある」「技術的な根拠が薄弱」――集まったパネリストからは違法化に反対する意見とその論拠が次々に出、国会での法案成立阻止に向けてロビー活動していく、という報告もあった。 ただ「違法化反対、という結論ありきではない」という。MIAU発起人でIT・音楽ジャーナリストの津田大介さんは、「『ダウンロード違法化』の問題点について、議論が尽くされていない」とし、今後は違法化賛成の立場の意見も聞きながら、十分に議論していきたいと話した。 ファイル交換ソフトによる売り上げのマイナスは「実証されていない」「そもそもの前提がおかしいのではないか」――上武大学教授の池田信夫さんは言う。「(ダウンロード違法化の方向で議論をまとめようとしている)文化庁は、違法コンテンツのダウンロードが日本経済にとって害がある、という前提だろうが」 「ダウンロード違法化」が主な“ターゲット”にしているのは、(1)違法着うたサイト、(2)P2Pファイル交換ソフトの2つだ。権利者団体などはこれらによって多大な経済的不利益を被っていると主張している。 池田さんは特に(2)について反論する。「ファイル交換ソフトのよる経済的な影響についての実証研究はいくつもあるが、マイナス影響があると結論づけた研究は、私が知っている限り、ない」 米国の権威ある雑誌に、ハーバードビジネススクール教授のFelix Oberholzer-Geeらが今年発表した論文では「ファイル交換ソフトによる売り上げに対する打撃と、ファイル交換で広まることによる宣伝効果はほぼ同じで、異なる場合もプラスマイナス数%の範囲にとどまる」という結果が出たという。 「消費者の便益」が無視されている加えて池田さんは「消費者にとっての便益がこれまでの議論からすっぽり抜け落ちている」とも指摘する。例えば、昨日見逃したテレビ番組のファイルを今日ダウンロードして見たり、どこにも売っていない過去の映像を、ファイル交換ソフトから見つけ出したり――といったことは、消費者にとってはメリットでありつつ、それによってコンテンツホルダーの売り上げが下がるわけではない。 つまり、ファイル交換ソフトによる売り上げのマイナスと、それによる宣伝効果がほぼ変わらないとするなら、消費者にとっての利益の分だけ社会全体にとってはプラスになる、ということになる。「ファイル共有は、社会全体から見ればプラスになっている蓋然(がいぜん)性が高い」(池田さん) 著作権法が日本のネットの成長を阻害した池田さんは「著作権法は日本のネット企業の成長を阻害してきた」と主張。ダウンロード違法化も、経済成長を阻害する政策だと批判する。「著作権法を厳密に運用しているせいで、日本には検索サーバも置けない。新しいサービスを立ち上げるのも困難だ。その一方で、Googleの時価総額20兆円。新しい価値で成長力を上げている」(池田さん) 「あえて議論をふっかけるための意見を述べると」――映画専門大学院大学助教の中川譲さんは、「1960年代の邦画は、当初無数にあった映画会社が政府の方針などで3つに統合され、体力を付けたためではないか。政府(の立法)による産業の保護にメリットもあるのではないか」と問題提起する。 池田さんは「だがその後の日本映画界はボロボロ。寡占体質で新しい人が入って来なくなったせいだ」と指摘。「新聞も1400紙あったのが現在の形に統合されて寡占体質になり、質が下がった。政府が産業を保護してうまくいくという例はほとんどない」と反論した。 「著作権法が情報統制法になる」と小倉弁護士弁護士の小倉秀夫さんは、「違法ダウンロードを取り締まろうとすると、一般ユーザーのプライバシーが害される」と指摘する。 文化庁のまとめた資料には「現行法のまま違法アップロードを取り締まるだけでは不十分」などとある。だが「権利者は、違法にアップロードした人(アップローダー)に対してほとんど権利行使していない」と小倉弁護士は言う。 「米国やドイツでは、権利者が違法アップローダーに対して数千・数万件単位で訴訟を起こしている。日本では報道で知る限り、1、2件しかない。Winnyの場合も、違法アップロードで逮捕された人は2人しかいない」(小倉弁護士) 加えて、正規のコンテンツが十分に提供されていないため、違法アップローダーに「正規コンテンツにないものをアップロードすべき正当性」を与えてしまっていること、公衆送信権という権利自体が、一般ユーザーをかやの外に置いて設定されたことなどを指摘。違法アップローダーに「後ろめたさ」がないと話す。 さらに「ダウンロード時のIPアドレスを確認する方法が技術的に存在しないため、違法ダウンローダーを取り締まるためには、違法ダウンロードしていそうなユーザーの家に行ってPC内のデータや操作ログを全部コピーする証拠保全手続きが必要になり、プライバシーが著しく害される」と指摘する。「権利者がそこまでする気がないと言うなら、そもそもダウンロードを違法化する意味はない」(小倉さん) また、文化庁の提出した資料には「違法ダウンロードの立証責任は権利者にあるため、一般ユーザーが法的に不安定な立場に置かれることはない」などと書かれているが、「権利行使されるとユーザーとってつらい結果になる、という前提に文化庁も立っているということ。そういう前提で立法し、権利を創設しようとしう考え方自体が間違っている」と小倉さんは指摘する。 「適法サイトマーク」の無意味さ適法サイトと違法サイトは見分けるのは難しいという指摘に対して、権利者側は「適法マークを普及させ、一目で見分けられるようにする」としている。だが「マーク付きのサイト以外は違法性を疑ってかかるべし」となれば、“権利者お墨付き”サイト以外へのアクセスが減り、結果としてネットの利用が減ったり、マークのない海外のサイトを見ることの法的リスクが高まるということにもなる。 「現行の著作権法は、業者保護のための競業規制法だが、法改正後は、一般市民が知っていい情報と悪い情報を、権利者団体などにコントロールされる情報統制法に変わってしまう」(小倉さん) 池田さんも個人情報保護法を例に、違法化による萎縮効果の危険性を指摘する。 「個人情報は、企業が扱うほぼすべての情報に含まれているもの。保護法によって企業は、USBメモリの全面使用禁止や、シンクライアント端末の利用など、社内で厳重な“情報規制”を行った。(ダウンロード違法化が決まれば)コンプライアンスということで、(違法コンテンツのアップロードされたサイトにアクセスして『違法ダウンロード』する可能性を避けるため)企業内ではインターネットへのアクセス一切禁止、ということにもなりかねない」(池田さん) 慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構講師の斉藤賢爾さんも、技術者の立場から、適法サイトマークの実効性に疑問符を投げかける。 「違法サイト運営者は、適法サイトマークをコピーして自分のサイトに置くこともできるだろう。それを防ぐために電子署名で認証する――といったことになれば『コストがかかるからできない』という権利者も現れるだろう。より自由な権利者と、不自由な権利者の間で格差が生まれる」(斉藤さん) 「ストリーミング」「ダウンロード」の区別に意味はあるかダウンロードを違法にする際の条件として、文化庁のまとめなどでは「ダウンロードのみで、ストリーミング視聴は含まない」とされているが、斉藤さんはこの区別も無意味だと指摘する。 [岡田有花,ITmedia] Copyright© 2008 ITmedia, Inc. All Rights Reserved. 新着記事
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