記者の目

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記者の目:都市河川の浄化、大胆な施策必要=樋岡徹也(中部報道センターなごや支局)

 ◇行政は「マニフェスト」示せ--市民検証で水辺活性化

 ビルの間を縫うように流れる都市河川。高度成長期以降、生活排水などによる汚染が続いたが、昨今の環境意識の高まりで浄化や水辺の環境整備への市民の関心が高まっている。私は昨年、愛知県版で名古屋市を流れる「堀川」の浄化キャンペーンを展開したが、そこで感じたのは大胆な施策と市民参加が不可欠だということだ。行政は浄化がもたらす具体的な効果や費用を「浄化マニフェスト」として提示、市民がそれを検証する「官民協同」の確立を提案したい。

 堀川(16・2キロ)は1610年の名古屋城築城に合わせ開削された人工河川だ。水源がなく、名古屋港の海水遡上(そじょう)でよどみ、約20年前から官民の地道な浄化活動が続くが再生には至っていない。

 「現状を知るには川に入らないと」。昨年5月に船を出し、ごみを拾い水質を調査した。水は深緑色に濁り、ペットボトルや生ごみがタモに絡みつく。約6時間に同僚と2人で回収したごみは6袋(1袋45リットル)分だった。

 どうしたら堀川はよみがえるのか。ヒントを求め、運動が成果を上げた道頓堀川(大阪市)、紫川(北九州市)を訪れた。

 大阪の繁華街を流れる道頓堀川(2・7キロ)からは、高度成長期に漂っていた悪臭が消えていた。水質汚染の指標とされるBOD(生物化学的酸素要求量)は、1ミリグラム/リットル以下ならろ過で飲用可能となる。道頓堀川は、1970年度には35・8ミリグラム/リットルだったが、06年度は平均1・6ミリグラム/リットルと20分の1程度に改善。ギンブナやボラが泳ぐようになった。

 主因は上流からの汚れた水の流入を防ぐ「水門」の建設だった。大阪市が95年度から行う水辺整備事業(第1期事業区間約1・3キロのうち10年度までに約1キロを重点整備、事業費約240億円)の目玉だ。水門で水位が一定に保てるため水面とほぼ同じ高さの遊歩道も整備でき、夕方になると会社員やカップルが談笑する憩いの場となった。

 北九州市を流れる紫川(19・8キロ)は下水道整備で水質が改善、小魚が群れ、透明とまではいかないが川底が見えた。特徴的なのは河川改修と市街地整備を一体で行う国の事業の指定第1号に選ばれ、市が民間による開発費を含む総事業費約3600億円のうち約7割を投じて短期集中施策を実施したことだ。両岸には商業、文化施設が相次いで完成し、玄関を川側に構えたことで、市民の目が川に向く契機になった。

 切り立った護岸を親水公園に変えて、ユニークな装飾を施した橋を架けるなどした結果、岸辺に人が集まり、付近の商店街が活性化するという効果も生まれた。

 一方の堀川。96年度に中流6・2、下流4・8ミリグラム/リットルだったBODは06年度3・4、3・8ミリグラム/リットルと改善はしているが、ごみやヘドロ、悪臭が依然ひどく、人々を川から遠ざけている。汚水と雨水を同じ管で流す名古屋市の「合流式下水道」による未処理汚水の流入など、汚濁原因は多岐にわたる。他の都市河川に比べ確かに条件は悪い。

 だが、最も気になるのは「市のシンボル」とうたうにふさわしい浄化策を市が行っているかだ。「切り札は水門」と主張する専門家は多いが、市は「建設費に見合う効果があるか」と二の足を踏む。汚水と雨水を別の管で流す分流式下水道への切り替えも管の埋設場所がないとして否定的。水辺環境整備も川沿いの多くが民有地のため、手をこまねいているのが現状だ。

 昨年末、なごや支局が市民100人に行った意識調査で「市が税金を使って浄化することに賛成」は93人と高率だった。市は大胆な施策に踏み切っていいのではないか。ただ、費用や数値目標などの開示は絶対条件で、例えば「水門を建設すれば100億円以上かかるが、海水遡上がなくなって水の透視度が増し、ヘドロや悪臭の発生も大幅に抑制できる」というように、マニフェストとして市民に提案してはどうか。単年度ごとに達成目標を設け、市民にチェックしてもらい、意見を聞いて次年度に反映させる。官民キャッチボールの再生作戦だ。

 魚が跳ねる川面を望むオープンカフェが次々に出店し、浄化イベントが各所で展開される。澄んだ川はまちににぎわいをもたらしてくれると思う。

 各地の都市河川は堀川と同様の課題を抱える。キャンペーンに協力した中部大工学部都市建設工学科の松尾直規教授は「川がきれいになることはまちづくりにつながり、文化を醸成する」と話す。浄化マニフェストが新たなモデルケースになると期待している。

毎日新聞 2008年1月25日 東京朝刊

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