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■ 営業・マーケティング厳選!PRESIDENT Special

PRESIDENT
1999年9月号
約600店の美容室がしのぎを削る。
空前の美容室ブーム、発祥の地
原宿「カリスマ美容師」に「人情」で切り込め
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 20代前半で年収千数百万円の美容師を何人も抱え、年間売り上げは15億円超。3カ月待っても予約が取れない、そんな「スーパー美容師」集団が「アクア」だ。
空前のブームを迎えた美容業界をリードするこの店がある原宿・青山には大小合わせて 600店もの美容室が集まって、この時代にどこも活況を示している。
 "美容室の秋葉原"状態のこの場所で、今、美容室大戦争が繰り広げられている。



フリーライター
武 香織 = 文
たけ・かおり●1966年、神奈川県生まれ。編集プロダクション勤務を経て、フリーライターになる。現在は「婦人公論」や「週刊SPA!」などで、社会問題、環境問題、流行風俗などの取材、執筆で活躍している。
大原利雄 = 撮影



まるで芸能人のような「スーパー美容師」人気
原宿「カリスマ美容師」に「人情」で切り込め

 原宿・竹下通りの道幅2メートルにも満たない裏通り。知らない人だったら、そこに道があることさえわからないかもしれないそんな場所だ。フォンテーヌ通りと名付けられたその細く短い通りを中ほどまで歩くと、その美容室がある。そこが単なる美容室でないことは、そこで出合う奇妙な風景でわかる。ガラス張りの建物の周りを取り囲むようにして、若者たちが店内を覗いているのだ。特に、多くの美容室が休日となる火曜日の午後には、その人数がピークになるという。その店の美容師のカットを一目見ようと、全国各地から美容師や美容学校の生徒たちが集まってくるのである。
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ACQUA
写真左から野沢道生、綾小路竹千代、青山正幸の創業3人組。それぞれが美容界のカリスマと言われている。右の写真は原宿店のエントランス。大きなビルのほとんどをこの「アクア」が占め、青山にも全58席の店舗を構えたが、それでも予約は常に満杯だ。ライバルは同業ではなく、服飾業界と豪語し、ビューティー・エンターテイナーを目指す。
まるで芸能人やスポーツ選手のような人気がある彼らは、「スーパー美容師」とか「カリスマ美容師」と呼ばれている。テレビや雑誌に登場し、ヘアカットの腕も容姿もカッコイイ彼らには、追っかけファンが後を絶たないという。そんな彼らが働くのがこの美容室、「アクア」なのである。

 アクアは1994年に、東京・原宿に、綾小路竹千代、野沢道生、青山正幸の3人の美容師が"創業"した。多くのスーパー美容師を抱えるアクアでも、この3人の注目度はとりわけ高い。何しろ、月に一度の予約受付日には、受け付け開始と同時に電話が途切れることなく鳴り響く。電話予約をしようと思ったら、「ただいま電話がたいへん込み合っております。しばらくたってからおかけ直しください」というアナウンスを何度も聞くことを覚悟しなくてはならない。そうしてたった10〜20分で1カ月分の予約がビッシリ埋まってしまうのだ。まるで有名ミュージシャンのチケット予約のようで、「『チケットぴあ』にお願いしようかと思ったこともある(笑)」(綾小路)というほどなのだ。

 彼らは97年に、歌手でいうコンサートに値する「ヘアショー」の全国ツアーを開催した。実際にステージ上でモデルの髪をカットし、技術を見せるというそれだけのライブなのだが、東京公演では、1枚8000円の入場料にもかかわらず、武道館に1万人の観客を動員してしまった。そして、その様子を収録したビデオを発売し、約2万本を売り上げてもいる。

 そのほか、自分たちのテクニックを詰め込んだビデオ。数々の雑誌で取り上げられる特集記事。自宅や愛用品や愛車のスナップ入りでプライベートを公開し、美容師になるまでのいきさつを熱く語った単行本も発売されている。さらに、アクアの店舗内に流れるBGMを味わえるように作られた彼ら選曲のCDも発売された。まさに、これまでの美容師の商売の範疇には決してなかった“商品”を次々と売り出し、そこそこの売り上げを引き出している。昨年には、青山に第2号店を出店、そちらも原宿店同様の人気だ。

 そして現在の話題は、今年4月から放送が開始された深夜番組「シザーズリーグ」(フジテレビ系)の仕掛け人にもなったこと。野沢道生がチェアマンを務めるこの番組は、料理界のトップたちが腕を競う人気番組「料理の鉄人」の美容師版。アクアを含む人気ヘアサロンに所属するスーパー美容師たちが出演し、1対1でカット技術を競う。審査員役の観客300人が投票して勝ち負けを決めるこの番組、深夜の時間帯にもかかわらず、最高時には6.6%の視聴率を記録した。この数字はその時間帯に起きている人の4人に1人が見ているという計算になるというからすごい。もちろん深夜枠ではトップクラスの視聴率だ。

 彼らのこのような人気も手伝ってか、今、高校生が将来なりたい職業で女子の1位、男子の2位は美容師であるという。美容学校ではここ2、3年で入学希望者が急増。定員の3倍から5倍の応募者が殺到している。

「企業はあてにならない。『手に職』といった志向が非常に高まっているようです」(ハリウッド美容専門学校)
「『スーパー美容師』『カリスマ美容師』と呼ばれ、スター的存在となっている美容師の出現で、美容師がクリエーティブなカッコイイ職業と認知され、かつ、美容業界に勢いがついた。次なるスターを目指す若者が出てきて当然でしょう」(山野美容専門学校)

 以前は、お客のシャンプーで手は荒れ放題、立ちっぱなしで腰を痛め、ひっきりなしの散髪後の掃除にタオルの洗濯。そのうえ安月給……と、3K職(キツイ、汚い、給料が安い)の代表格だった美容師が、子供たちの夢の職業に昇格したのだ。

 その原動力となったのがアクアだった。今や、従業員150人、年商15億円の巨大美容室となったアクアは、現時点では美容室のトップ企業になっているのだ。


下町的人情サービスでリピーターを逃さない
原宿「カリスマ美容師」に「人情」で切り込め

 もともと、この地区は美容室が多かった街だった。それにしても、美容室が600店もひしめき合うというのは、信じ難いものがある。しかし、実際は美容室ばかりが並ぶ通称「美容室通り」が存在し、最近はテナント全体が美容室というビルまで出現したという。商売の常識として、競争相手が立ち並ぶ中に出店し、顧客を食い合うことほどアホらしいものはない。なのに、この地区には今も、次々と新しい美容室が出店を狙っている。
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anti
 代表の小松利幸にカットしてもらうには1日1件の新規割り当て分を引き当てなければならない。右の写真は今年オープンした原宿店。オシャレなイタリアンレストランと間違えそうな外観に、ゆったりとした100坪のフロア。率先してゴミの分別や雪かきを進める地域密着型の経営方針で、ご近所でも人気者だ。
 原宿・竹下通りの中ほどを渋谷方面に曲がった辺り、ちょうど巨艦「アクア」とはお互いの屋根を見ることができるご近所にあるのが「アンティ」。4年前に青山、今年になって原宿に開店した。従業員は25人。"事業規模"ではアクアに劣るが、代表の小松利幸は、かつて予約の電話で回線をパンクさせたこともある。「シザーズリーグ」にも出演した大スター。取材に行った日も、大阪から美容師の女性を含む数人が見学に来ていた。

「たしかに『スーパー美容師』なんて呼ばれていますけど、ただ朝から晩まで忙しいだけです。美容室というところは、いつの時代も地域に密着した"パーマ屋"なんですよ。義理人情を大切にし、小人数のスタッフで和気あいあい。スタッフ全員が家族みたいなもの。周りが『スーパー美容師』と呼んでくれてますけど、僕はそんなっ"パーマ屋"ぽい感じのほうが好きです」

 巷のイメージとは違う庶民的な意見だが、彼は本当に"地域密着型のパーマ屋"を実践している。とにかく徹底しているのは、そのサービス精神満点の姿勢。人懐こさといい、情の厚さといい、スコーンと突き抜けた明るさといい、下町の兄ちゃんといった雰囲気の温かさが伝わってくる。

「いや、僕は、基本的には技術バカで、サービス精神には欠けていると思うんです。気の利いたことは何もできない。ただ、こちらが暗ければ、お客さんのフラストレーションを溜めてしまうことになってしまうじゃないですか。だからせめて、いつも元気でいるように心がけているんです。毎朝、気持ちを込めた『おはよう!』を言いたいから、夜中の3時に寝ても朝は6時には起きて、しっかり朝食をとる。あとは、お客さんに『ありがとうございました』とマニュアルどおりの挨拶をするより、『気をつけて、またね!』と、そのときの素直な気持ちを伝える。その程度ですよ」

 小松の取材をする前に、こっそりアンティでカットを終えた女性客の話を聞いたのだが、そのときにアンティの人気の秘密を見た気がした。

 その女性客はこう言う。
「小松さんが、ほかの美容室に雇われていた15年くらい前から私の髪は彼任せです。自宅からこの原宿まで、1時間はかかるし、何より原宿という若者の街に行くのが恥ずかしくて、何度か地元近くの美容室に通ったりもしました。でも、接客態度が悪かったり、気に入ったスタイルにしてもらえない。結局、気さくで上手な小松さんのところに戻ってしまいました」

 取材中、彼女の傍らには、ひっそりと若い男性が控えていた。彼女はその彼について説明してくれた。
「彼は、小松さんのところのアシスタントなんです。私が行きたいところまでの近道を案内してくれるって、ずっと待っててくれているんです。なんだか、女王様にでもなった気分にさせてくれますよねえ」 どんどん巨大化しているアクアとは違う、親しみやすい街のパーマ屋路線を好む小松の接客の神髄は、にじみ出る"人情"なのだ。

 11時半ごろ取材を終えた私たちに、別れ際、彼はこう言った。
「近くにいい昼飯屋がありますよ! 安くてうまい天ぷらなんですけどね。ぜひ行ってみてください」
 これが、リピーターを決して逃さない理由であり、また、経営規模で勝てなくても、人気では決して負けない秘密なのだ。


商売というよりは趣味。その楽しさに人が集まる
原宿「カリスマ美容師」に「人情」で切り込め

現在、アクアに迫る人気と規模を持った美容室といえば、ほかには「ビュートリアム」と「ヘアディメンション」が挙げられる。
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BEAUTRIUM
代表の川畑タケルは、他のスーパー美容師とは一線を画している。「シザーズリーグ」にも出演しないし、雑誌にもあまり登場しない。コンテストにも出ないのは「審査員が僕よりカッコ悪いから」。下は南青山店。アートな写真が配された広いフロアはゆったり感十分。多くの有名人が訪れることでも有名。
 まずはビュートリアム。化粧品の輸入会社が経営しているヘアサロンだ。10年前に青山に本店をつくり、以降その近辺に3店舗を増設。そのほかにも広尾や関西方面の店舗を合わせると全8店舗、従業員数220人の大規模美容室だ。ここの顔ともいうべきスーパー美容師、川畑タケルは、「シザーズリーグ」には出演しないという。考え方が違うのだ。

「お客さんに『いらっしゃいませ!』と言うより『ヨォ〜!』って気軽に声をかけたほうが、親近感が湧いていい。サービスといっても、うちはお客さんにクロレラ入り温泉水を振る舞っている程度。基本的にカッコよく仕上げて満足してもらい、会話でゲラゲラ笑わせて楽しい思いをして帰っていただければ、余計なサービスはいらないですよ。こっちがカッコイイことを楽しくやっていれば、売り上げもついてくるんです」

 丁寧な接客がサービスであるという一般的な価値観を、川畑は真っ向から否定した。勝つための戦略がビュートリアムにあるとしたら、それは一歩進んだカッコイイことを、誰よりも先にやるということかもしれない。外人をモデルに使った若者受けするアーティスティックな写真集を作る。技術を披露したビデオも発売している。今度は自作の映画を作る予定だという。川畑が「カッコイイことを、楽しくやっている」せいか、このビュートリアムにはモデルやタレントの常連客が多い。

「たしかに、木村拓哉、松たか子、梅宮アンナ……。媒体露出の多い有名人、特にモデルさんは半分くらいはうちで切っていますね。皆さん口コミで来てくれるんですよ」

 その秘密は何かといえば、それは遊び心かもしれない。取材で訪れたとき、川畑はクロレラ入り温泉水を出してくれた。ただその温泉水にスタッフが冷蔵庫の氷を入れてしまった。すると川畑は、本気で残念そうにこう言った。

「氷が溶ける前に飲んでください。氷の臭いが付かないうちに」

 彼にとっては、温泉水を飲むことも楽しみなのである。そしてその楽しみは他人にも味わってもらいたい。アクアが商売に徹しているとしたら、ビュートリアムは趣味の追究。言い換えれば、現実的か、夢を追うかの違いかもしれない。だが、そうして彼自身が楽しんでいる姿勢が、熱烈な「ビュートリアム信者」をつくっているのだ。

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HAIR DIMENSION
スーパー美容師の店長・宮村浩気は最近過労気味でダウンとの噂もある人気店。写真は代表の飯塚保佑。原宿というよりは青山での出店に特徴がある。聖子ちゃんカットの生みの親で、現在も紀香カットといえばこの店と言われる。常にトップの座を守り続けてきた老舗的美容室の人気はいまだに健在だ。
 もう一軒の有力店ヘアディメンションも、有名人が有名にした店と言えるかもしれない。何しろあの"聖子ちゃんカット"の生みの親なのだから。約25年前、四谷に第1号店をオープンさせたヘアディメンションは、有名店の老舗的存在だ。たまたま松田聖子の所属事務所の近くにあったことから、デビュー前の松田聖子がフラリと訪れたときに作った髪形だった。松田聖子がデビューしてからは、開店時間前から女性客の行列ができるほどの人気だった。

「でも、流行はあくまでも去っていくもの。そして、それだけに頼っていた店は潰れていく。だけど、うちはいつの時代も古典的なものを大切にしてきました。例えば、少なくとも入店してからの3年間は、日本髪や着物のアップスタイルをきちんと学ぶことになっている。言葉遣いや姿勢といったマナーもマニュアル化していて、徹底的に身につけなければならないんです。だからこそ無事に、生き抜いてこられたんだと思います」(飯塚保佑代表)

 そして4年前、激戦区・青山に2号店を出店、現在は青山に全3店舗を持つに至った。多くの店が原宿を向いている現状では、むしろ珍しいケースかもしれない。 「うちの色はエレガンスです。エレガントな大人の女性が闊歩している街といえば青山。そうした女性を対象にした店にしたかったので、若い女性の集まる原宿は頭にありませんでした」

 老舗特有の落ち着きのある発言だ。今では、人気タレント・藤原紀香が通う店としても名を馳せる。今でも、聖子の成功にあやかろうと、デビューを控えた多くのタレントが通ってくるというが、奇を衒わず冷静に古典を貫き、老舗の強みで勝負している。



最大の激戦区は、やはり「アクア」周辺だった
原宿「カリスマ美容師」に「人情」で切り込め

こうした激戦地・原宿の中でも最大の激戦区といえばアクアがあるフォンテーヌ通り。全長50mにも満たない道沿いに合計6店の美容室が並ぶ。おまけに通りの突き当たりにはアンティもある立地だ。しかし、この密集地で開業する美容室には、意外なことに競争意識が少なかった。
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guzzle
アクア原宿店の真向かいにある。創業メンバーの一人稲葉隆洋は、入りやすい店づくりを目指している。実際予約しか受け付けない店が多い中、ここは時間が取れさえすれば飛び込みでもカットしてくれることもある。現在深夜のテレビ番組で、いちばん注目されているのがこの「シザーズリーグ」(フジテレビ系火曜深夜25:20〜)だろう。アクア、ZACC、ヘアディメンション、アンティ、MINX、RITZ plusといった人気店の美容師が"勝負"する。
「この辺りには洋服屋がまとまっているけどお客さんは入っている。美容室だって同じでもいいんじゃないですか。有名店がそばにあることなんて気になりません。電気屋が集合している秋葉原の美容室版みたいなもので、活気づいていいと思いますよ」
 と言うのは、3年前、巨艦アクアの正面に、堂々と出店した「ガズル」の稲葉隆洋だ。

「有名店にはフラリと入りにくい雰囲気がある。でもうちは入りやすさを強調しました。扉を開放したり、店のど真ん中に待ち合い席を設けて、気軽に店内の様子が窺えるようにしました」

 ガズルの隣に少し遅れてオープンした「pas de deux」も、お客が気軽にくつろげるスペースづくりを心がけているという。

「ギリシャの建築物をイメージし、鏡もテーブルも曲線にして、店内を優しい雰囲気にしました。また、イタリア料理店でも使われている本格的なエスプレッソコーヒーをいれられる機械を取り寄せ、お客さん全員にお出ししています。それから、シャンプー台にはマッサージ付きの椅子をつけました。いや、本当は満足いく髪形を提供してあげれば、それで十分だと思う。でも、うちとしては、そういう小さな配慮も大切にしていきたい」(堀田和広店長)

 アクアの隣にある、一見お洒落な一軒家にしか見えないお店が「ピカソ」。今年5月にオープンしたばかりだ。壁一面総ガラス張りの店が多いなか、店内が全く見えない造りはかなり目立つ。

「ガラス張りはアクアさんが始めたことですが、それって女性客にとってはどうかなと思うんです。髪を濡らし、ロットを巻かれた姿を他人に見られてはリラックスできないだろうと。美容室は、リラクゼーションの場所でもなくてはならないはず。だから、うちではサンルームあり中庭ありで、リラックスムードたっぷりにしました」(小澤英生代表)

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pas de deux
最大の激戦地「フォンテーヌ通り」に面している。店のデザインは店長の堀田和広自ら設計した。曲線を生かしたインテリアが評判。ヘアショーにも積極的。ライバル・アクアを「気にしている暇がない」と言う。
 それにしても、美容室がひしめくこんな場所に店を構えることに、ひとかけらの迷いもなかったのだろうか。
「原宿は、全国からいろいろな人が訪れる街ですから、マスがないんですよ。したがって、限られたパイを各店が取り合うなんてことはない。それに、各美容室がそれぞれの色を持ったブランドになっていますから、客層が違いますし、一緒に頑張りましょうというノリですね。また、原宿や青山にいれば、自然とマスコミが注目してくれる。だから、広告を出さなくても、客が集まってくるんですよ」

 どの美容室も口を揃えて言うのは、アクアの経営についてだった。
「美容院を、単なる髪切り屋さんではなく、ブランドに押し上げたのは、アクアの経営の上手さにある」
 どれだけ人気がある美容師でも、こと経営に関してはアクアには勝てないと自覚しているようなのだ。
「僕らが、長年美容師をやってきて、イヤだと思ったことは、全部やらないという当然のことをしただけ。そうすることによって、美容師の地位を向上させていこうと思ったんです」(綾小路)

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PICASO
激戦地「フォンテーヌ通り」で一番新しい店。店長の小澤英生は自由が丘の有名店で働いてきた有名人。アクアのカリスマたちとも知人関係にある。流行しているガラス張りの店づくりには抵抗を示す。

 アクアが誕生するまで、美容業界には、古き悪しき体質が蔓延していた。組合のひと言で定休日が決められてきたし、一部のエライ先生だけが潤って、指名客が多くて1日14時間働いても彼らの場合は月給8万5000円と安月給だった。しかも雑巾のようにこき使われるのが当たり前とされていた。つまり、どんなに腕のいい美容師がいても、エライ先生を飛び越えられないというのが暗黙のうちにあった。それをアクアは根こそぎ引きちぎったのだ。

「会社的、企業的考え方、マーケティング、戦略の三本立てをもって、美容室をつくってみたんです」(綾小路)
 彼らの言う会社的考え方とは何か?分業制の徹底である。

 経営者である3人は、綾小路がスタッフの才能発掘(アクアの心)、野沢がマスコミを含めた外部にビジョンを見せる(アクアの顔)、青山が対外交渉や店の環境を整える(アクアの頭脳)というように、それぞれが得意な分野を担当した。また、フロントには接客、アシスタントには床を拭いたりスタイリングをしたりを徹底して任せる。決して他人が手伝ったりしない。そうすることによって、自分の仕事に対する責任とプライドを持たせた。

 スタッフに責任を持たせるという意味では、面接を、スタッフの中でいちばん下っ端、つまり新人の面倒を見ることになる人物にやらせているという。その人物はとんでもない新人を採用したら自分が苦しむから、いい人材を見極めようとする。自分が採用した新人がいい仕事をしないと自分の責任になるので、一生懸命育てる。一石二鳥なのだと、綾小路は言う。

「僕は、"教える"と"育てる"は別物だと思っている。技術はマニュアルで教えることができるけど、"育てる"は、人間対人間のコミュニケーションでしかできない。その"育てる"を、今までの商店の域を出なかった美容室はやってこなかった。だから、採用した美容師がすぐ辞めていったりする。ハッキリ言って、従業員が増えない店に明日はないですよ」

 アクアの従業員は辞めない。その理由は、心を込めて育てられたからというだけではない。綾小路によると「指名数による歩合制、それに伴う技術料を含めた給料を徹底している。その結果、23歳で月収120万円なんて美容師がゴロゴロいる」とか。

「マーケティングの手法はいたって単純。お客様の気持ちになって、ヘアデザインを提案できること。でもそれがお客さんにとって一番でしょ?」

 CD発売も「BGMがいいから自宅でも聴きたい」というお客さんの声が多かったからだという。たとえば、髪を短く切ったら、イヤリングでもつけてみようかと気持ちも変わる。すなわち、"きれい"を気づかせてあげることだと言う。営業時間を他店とは違う夜11時までにしたのも「仕事を終えてから通いたい」というOLの願いを叶えるため。定休日を月曜日にしたのはお客さんの声ではないが、若いスタッフが「日曜日が17時までの営業なので、月曜日が休日ならまとまった時間が手に入る」という夢を実現してあげた結果なのだという。

「でも、お茶も出さないし、カット中には雑誌も見せない。カットに集中したいからなんだけど。サービスは技術のみなんですよ。ほかは要らない」 最後は戦略面。周知のとおり、マスコミを大いに利用したのは事実。

「あとは、人気が出てすべてのお客さんに対応できないからといって、すぐに新しい店をつくるという安易なことはしないってこと。スタッフがきちんと育ち、新しい店を任せられるまではね」(綾小路)

 彼ら3人は言う。
「21世紀の美容は変わらなければおかしい。アクアは動きはじめたんです」

 巨艦アクアの天下はしばらく続く見込みだ。なにしろ、いわば大企業対商店だ。もしも、アクアの牙城を揺るがすものがいるとしたら、それはとんでもない新たな発想をする美容室以外には考えられない。

 そんな環境の中で異常なまでの激安戦略で、急激に売り上げを伸ばしている美容室がある。昨年の11月にこの地区のカット代金の相場の6分の1以下という1000円カットのお店をつくった「AOYAMA ONLY CUT21」だ。

「私の家は、妻と子供3人の5人家族。カットに1人1万円もかかったら、月に一度ずつどころか2カ月に一度も行けないですよね。そうしたら、髪は伸び放題で形も崩れるし、そんなの本当のオシャレとは言えない。お客さんはカットしたいだけなのに、わざわざシャンプーをセットにして、その分、料金を取る。料金が高くなれば、客が美容室に通う回数を減らすことになるのに。僕らのやっていることは、高い料金を取っている有名美容室への挑戦です。だから、あえてそうした美容室が集中している青山に出店したんです」(渋谷覚社長)

 この店には、シャンプー台やパーマ用機械もない。だから当然、シャンプーもリンスも備える必要がない。看板も内装も知人の職人に頼み、激安価格でやってもらったもの。そうやって余計な経費を省き、料金1000円を実現したのだ。

「でも安かろう悪かろうでは駄目。技術力は有名店と同じくらいあると自負してます。5人の従業員は、面接時、実際にカットをやらせて技術力の高かった人ばかりですし。紀香カットだって、当然やりますよ」

 それを裏付けるように、売り上げは伸び続け、現在は月間に2200人の客が訪れ、繁盛している。さらに直営の支店もすでに4軒出した。年商15億円のアクアにはまだまだ遠く及ばないが、一人勝ち企業を打ち破るのは、意外とこんな常識を打ち破る冒険がカギになるのかもしれない。

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