今夜から3夜連続「NEWS ZERO」で医師不足問題を特集します(第4回)

January 23, 2008 10:50 AM

舛添厚生労働大臣が先週土曜日、長野県飯田市でいわゆる「タウンミーティング」に臨み、医師不足問題についてたくさんの「直訴」を受けたことは今週月曜日の「NEWS ZERO」などでお伝えしました。ミーティング後の記者会見で舛添大臣からは産科医不足について「緊急事態」という発言もありましたが、その舛添大臣がきのう、総務省を通じて全都道府県に産科医不足の実態を早急に報告するよう指示を出したことを明らかにしました。 早速動いたかたちです。

ただ、逆に言うと、これほど大きな社会問題になっていたのに、厚生労働省は産科医不足の実態を具体的には把握してなかったということになります。実態を把握してなければ手を打てるわけがありません。今後、厚生労働省がどう動いていくのかは、私たちも大きな関心をもって注視していくつもりです。

さて、「NEWS ZERO」では今夜から3夜連続の予定で、医師不足問題を特集して放送します。1回目の今夜は
「“ACTION”始動!過酷37時間労働・麻酔科医不足で手術ができない」と題して、麻酔科医不足の実態にスポットをあてます。

手術を行う際に力を必要とするのが麻酔科医。その麻酔科医も不足していることは意外に知られていません。麻酔科医が足りないということは全身麻酔などを必要とする手術に影響が出ることを意味し、救急医療の現場などでは深刻な問題となっています。

番組では年間2700件もの手術を抱える大病院の麻酔科医の実情を取り上げます。過酷な勤務の実態を直視することで、医師不足の問題を考えていきたいと思っています。

今夜からの「NEWS ZERO」の特集を、ぜひ見てください。今夜10時54分からの放送です。

posted by 森田公三 at 10:50|コメントを読む/書き込む (29)

「日々是医師不足問題」・・・今夜も伝えます(第3回)

January 21, 2008 10:12 AM

連日、貴重なご意見をいただき、ありがとうございます。
医師不足、医療崩壊に関わる動きは一日として日を空けることがありません。「よくなった」という話は聞きませんから、深刻さは増すばかりです。

けさ、栃木県は「救急医療の適正利用」を呼びかけるチラシを、新聞折り込み広告として配布しました。軽い症状の人は休日や夜間の二次・三次救急機関の救急外来利用を控えるよう呼びかけるものです。(二次救急は「入院や手術が必要なレベル」、三次救急は「命にかかわるような重症」にそれぞれ対応する医療機関と言えます。) 

チラシを見ると「救急医療の現状」と題する文章の中で「医師不足」「勤務医不足」「集中」「限界」の4か所が大きな文字で記され、その窮状を訴えています。

栃木県の場合、二次・三次救急を担う中核病院の救急患者の数は平成13年度には約19万9000人であったものが平成18年度には約26万4000人になったということです。この急増の背景には、いわゆる「コンビニ的な受診」の増加が大きな要因としてあげられると思います。

栃木県のチラシの場合、遠慮してか「コンビニ的」という言葉は使っていませんが、現場の医師たちに話を聞くと、全国のあちこちでコンビニ感覚としか思えない患者さんが夜間救急に押し寄せているというのはまぎれもない事実とのことです。

患者さん側からすれば、軽いか重いかは診てもらわなければわからない、という気持ちが働くのかもしれません。軽いと思っていたら重大な症状の兆候だったというケースもあるとは思います。

とは言え、救急現場の窮状を考えるに、症状が軽い場合、なるべく通常の診療時間に診察を受け、休日・夜間であれば「初期救急」にあたる「休日夜間診療所」や「当番医」、あるいは「電話相談サービス」の利用を心がけるというのは、大切な救急医療を守るためには必要なことと思います。

軽い症状の人たちが押し寄せることがいかに救急医療を圧迫しているかについては、私たちも、国民ひとりひとりが医療崩壊を防ぐためにできることを考える中で、今後、取り上げるべきテーマと考えています。

また、おとといの土曜日(1月19日)には、長野県飯田市で舛添厚生労働大臣が医療をめぐる問題をテーマに意見を聞く「国民対話」、いわゆる「タウンミーティング」が開かれました。その周辺地域は分娩を扱う医療機関が急減し、産科医不足が深刻さを増している地域です。地元自治体の首長の中には舛添大臣にあてて「何とかしてほしい」と直訴メールを送り、そのプロセスをホームページに公表している村長もいるほどです。

ミーティングでは「医師を2000人とか3000人とかの規模で増やすことはできないのか」とか「(医師は)最近は訴えられないようにはどうしたらいいのか、ばかりに関心がいってしまっている」などの切実な意見が相次ぎ、時間ぎりぎりまで13人が発言しました。

ミーティング後の記者会見の中で舛添大臣は「産科医を中心とした医師不足が一番大きかった。極論すれば緊急事態宣言しないといけないような状況だという認識を持ちました」と語る場面がありました。まずはこうした発言がどのような形になっていくのかを強い関心をもって見ていかなければなりません。このタウンミーティングについては今夜の「NEWS ZERO」でも取り上げる予定です。

今後とも皆様のご意見をいただければと思います。

posted by 森田公三 at 10:12|コメントを読む/書き込む (16)

何よりも「現場」の実態を取材し伝えていきたい(第2回)

January 11, 2008 6:02 PM

早速たくさんのご意見をいただきありがとうございます。現役のお医者さんからも多くの貴重なご指摘をいただきました。

医療現場を取り巻く状況がまさに一刻の猶予もない厳しい局面にあることが手に取るように伝わってきました。中でもお医者さんと患者さんの信頼関係が崩れているという問題は取材でも浮かび上がっていることなのですが、厳しい現場で働き続けている医師の心を打ち砕く深刻な問題と改めて感じました。

ご意見の中にもありましたが、お医者さんがいなくなり、病院がなくなって困るのは国民です。医療崩壊をどうやって食い止めるかという問題は国民みんなが自分たちの問題として考えなければならないと思います。また、報道に対する厳しい意見もいただきました。真摯に受け止め、番組の糧としていきたいと思います。

去年の暮れには「年末」ということもあっていろいろなデータが発表されました。
厚生労働省が発表した「平成18年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」という統計が手元にありますが、その冒頭には右肩あがりのグラフが記されています。それは「医師の数」のグラフです。そこには、簡単に次のようなコメントが記されています。

「平成18年届出医師数を平成16年(以下「前回」という。)と比べると7556人、2.8%増加している。また、人口10万対医師数は217.5人で、前回に比べ5.8人増加している。」

厚生労働省などが「医師が不足しているのではない。偏在しているだけだ」と主張する、その根拠ともいえるデータです。ちなみにこの統計資料には、病院で働く医師数についてもグラフがありますが、これも右肩上がりであたかも順調に増えているように見えます。
(この統計資料は厚生労働省のホームページにアップされています。)

これらのグラフやコメントをいくら眺めていても、病院の現場で起きている医師不足の実情は見えてきません。統計の持つ「落とし穴」と言えます。こうした数字を見るにつけ、現場を取材し、その実態を伝えるということの大切さを改めて感じました。

上記の統計と相前後して「平成18年医療施設(動態)調査の概況」という統計も厚生労働省から発表されました。この中に、平成17年に全国で9026あった病院の数が平成18年に8943に減った、つまり1年間に病院が83減ったという看過できない数字があります。4~5日に1つ病院が減っている計算になります。

ただ、この数字、もう少し細かく分析してみると「開設131、再開5」と「廃止200、休止19」の差から出た数字(136-219=△83)であることがわかります。この中には「倒産」「廃院」のようなケースのみならず「統廃合」による減少や、さらには「移転」のような場合までも統計の処理上入ってくるようで、では「1年間にいったいいくつの病院が倒産・廃院したのか」ということを知ろうとすると、どうも厚生労働省にはずばりそれを示す統計資料はないようなのです。

統計ひとつとってみても、病院の置かれた深刻さを果たして政府はちゃんと把握しているのだろうか、と感じずにはいられません。

前回のこのブログで「まず現状を知り、それをお伝えすることから始めたい」と書きました。1月6日のキックオフ番組では小児科医の過酷な勤務状況をお伝えしましたが、近いうちに「NEWS ZERO」を通じ、医師不足がもたらしているさまざまな「危うい現状」をお伝えしてゆくつもりです。
「数字の落とし穴」にはまらず、現場取材を何よりも大切にして。

これからも皆様からの貴重なご意見をお聞かせ願えればと思っています。

posted by 森田公三 at 18:02|コメントを読む/書き込む (59)

まず「医療総崩壊」の現実を直視しよう(第1回)

January 6, 2008 6:00 PM

2008年という新たな年の始めにあたり、まずひとつの問いかけから始めたい。「日本の医療は進んでいると思いますか?」

漠然とした問いではあるが、おそらく多くの人の答えは「Yes」ではないだろうか。私も正直言って「Yes」と思っていた。だが医療関係者の取材を始めて驚いた。現場の医師からは「日本の医療は危機的な状況に向かっている」という答えがいくつも返ってきたのである。

一昨年、昨年と、その危機が相次いで現実のものとなりニュースになった。からだの不調を訴え救急車を呼んだのに、病院に受け入れてもらえず、いわば「たらい回し」にされて死亡するという出来事が起きてしまったのである。06年8月奈良県大淀町の「32歳妊婦約20の病院に受け入れを断られ死亡」という件が大きく取り上げられたが、その後も07年12月兵庫県姫路市の「66歳男性18病院に受け入れを断られるなどして死亡」、07年12月大阪府富田林市の「89歳女性30病院に受け入れを断られ死亡」などと相次いだ。

いずれも近くに病院がある地域での出来事だ。18とか30とかの打診先があるということはむしろ病院がかなりの数存在する地域で起きているともいえる。

さらには新年早々の1月2日夜、大阪府東大阪市で交通事故に遭った49歳の男性が救急車で搬送される際、5つの病院から受け入れを断られるなどした末に死亡した。この5つの病院はいずれも「第3次救急医療機関」で、命に関わる重い症状の患者に対応する施設だった。いわば救急救命の「最後のとりで」の医療施設である。もろもろの悪条件が重なったのかもしれない。だがこれが日本の救急医療の実情なのだ。

調べてみてわかったことだが、救急車が搬送を打診しても受け入れを断られるということは実は全国各地で日常的に起きているのだという。

結果が「死亡」という場合のみがニュースとして大きく取り上げられたのであって、こうした不幸な出来事は日本のどこでおきてもおかしくないのが現実なのだ。「今のままではこのような事案は増えるであろう」と、医療現場からは絶望的な予言が返ってくる。からだに異変が起き、あるいは事故に遭い、すがる思いで救急車を呼んだのに病院は受け入れてくれず助けてもらえない。こんなことが起きている国の医療が「進んでいる」と言えるはずがない。私たちはまずその現実を知り、危機感を持たなければならない。

崩壊が進んでいるのは救急医療だけではない。分娩が出来る産科医がどんどん減っているという。遠くまでいかなければお産ができない。大きなお腹で遠くまで通わなければならない、そんな地域が増えているのだ。出産のあとお世話になる小児科医も減っているという。そんな現実を改善しないままで「少子化対策」をうたってみてもむなしく聞こえるだけだ。

外科医も減っているという。大ケガをしたり、手術を要するような病気になった時、頼りになるのは外科医だ。それが減っているという。大変なことだ。すでに「ガンの手術で何か月も待たされる」ということも起き始めているという。

まさに「医療総崩壊」である。そしてこれらの根底にある問題として指摘されるのは「医師不足」という問題である。

政府は長らく医師数抑制策を取ってきた。なぜだろうか。どうやらその理由は、医師が増えるとそれだけ医療費が増えてしまうからだという。医療費が国の財政を圧迫しているから、その医療費を抑えたい。そのために医師の数を抑制しているのだという。

多くの人は「病院でちゃんとした診療をするためにどのくらいの医師が必要なのか」とか、「患者の数から考えてどのくらい医者が必要なのか」とか、そういうことから国は計算して必要な医師数を考えていると思っていたのではないだろうか。どうやらそんな考えには立っていないようなのだ。この医師数抑制策の決め方を見ていると、「本末転倒」という四字熟語がぴたりあてはまるような気がする。

現実はどうか。病院の医師に聞くと、誰もが「医師が足りない」と言う。病院の勤務医はどこを見渡しても数が足りていないようだ。残された医師たちは過酷な労働時間に耐えて診療を続けている。こんな状態は改善してもらわなければならない。医師本人のためにも、であるし、患者の側から考えても、疲れきったお医者さんに診てもらいたい人などいないはずだ。

もちろん「不足」を言う前に「医師の偏在」という問題はあるだろう。厚生労働省はずっと「偏在」こそが問題だという姿勢をとっている。では偏在を解決するために本当に一生懸命策を講じてきたのだろうか。実は「偏在」を解決するというのは口で言うほどたやすい問題ではない。医師は自分の意思で診療科を決め、どこで診療するかを決めている。勤務医として診療するのか、開業医としてやるのか、などは基本的に他者が強制するものではないからだ。

医師を増やすというのもたやすいことではない。国は大学医学部の定員を制限することによって医師の数をコントロールしてきたのだが、仮に医学部の定員を増やしたとして、医師が一人前になるには10年かかるといわれている。

医師不足の問題は文字通りすぐに取り組まなければならない「急務」なのだ。一方で、政府が一番気にしている「医療費」の問題もある。高齢化社会の中、さらに増えることが予想される国民の医療費の負担をどうするのか。医療を充実させるためなら医療費が際限なく増えていい、というわけにはいかない。本当に頭の痛い問題だ。

状況はかなり危機的な段階を迎えている。私たちはまず現状を知り、それをお伝えすることから始めたい。知れば知るほど今の状況の厳しさがわかってくる。わかったうえで国民にとってもっともよい制度を、国民が納得するかたちで設計しなければならない。1年後、有意義な問題提起ができたと思えるよう、取り組んでいきたい。

posted by 森田公三 at 18:00|コメントを読む/書き込む (68)

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ACTION医者不足を特集
1/23(水)・24(木)・25(金)
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