医療事故調査、現場に即して!

 厚生労働省が公表した診療関連死の死因を究明する第三者機関の概要を盛り込んだ「第二次試案」が、医療関係者の間に波紋を広げている。制度の仕組みが医療者個人の責任追及に結びつく懸念があるためだ。医療者・患者の双方にとって望ましい第三者機関とはどのようなものか、また医療紛争を解決するために必要なこととは何か。このほど開催され、活発な議論が交わされたシンポジウムからは、現場の関係者たちが医療の安全性の向上を図ってその答えを強く求めていることが分かる。シンポの報告を通じて、現状と展望を探った。(金子俊介)

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 日本では、医療事故などによって患者が死亡すると、医師法第21条に基づいて異状死として警察へ届け出し、刑事事件として扱われる。しかし、このような現状では真の死因究明やそれに基づく再発防止を行うことができないとする指摘があった。
 これを受けて政府・与党は、警察とは別に事故を調査する第三者機関の創設の検討に着手。厚労省は昨年10月、新しい組織の概要を示した第二次試案を発表した。試案によると、医療・法律の専門家や遺族の代表らで「医療事故調査委員会」(仮称)をつくり、医療機関による事故の届出を義務化。解剖や聞き取りなどの結果をもとに委員会が調査報告書を作成し、再発防止を図るという。
 だが、多くの医療関係者らは、この仕組みが医療者個人の責任追及に結びつくこと、「萎縮医療」につながるおそれがあることなどから疑問の声を投げかけている。そのような流れの中、全日本民主医療機関連合会(肥田泰会長)は1月19日、「医療事故を取り扱う第三者機関の設立をめざす1・19シンポジウム」を東京千代田区で開催。望ましい第三者機関の在り方や医療紛争の解決をめぐって議論を深めた。

 シンポでは、まず、全日本民医連で副会長を務める小西恭司氏が基調報告した。厚労省の試案について、制度の目的が当事者の処分を含んでいることや、委員会の報告書が刑事手続きに活用できることなどを再考することを求めた。
 その上で、小西氏は、医療機関・患者双方から相談を受け付ける相談窓口や、事故から学んだ教訓を全国へ発信する仕組みなどの整備を挙げ、「第三者機関には総合的な機能が必要。いま検討されている調査委員会はその一部分」と指摘。被害者の救済制度の創設や人材の確保・育成についても言及し、広い視野からの制度構築のため、国民的な議論を呼びかけた。

 続いて、専門家らが第三者機関の設立に向けてそれぞれの考えを訴えた。
 現場からの医療改革推進協議会・医療事故ワーキンググループ代表の上昌弘氏も厚労省の試案を批判し、医療紛争については「患者の願いに答えることが最優先」と独自の対案を紹介。調査は、死亡例に限らず、遺族が納得せず真相究明を望む例を対象にすることを挙げるとともに、国が新たな組織をつくるのではなく、地域のネットワークを最大限使い第三者の意見を聞ける仕組みを提案した。
 日本ヒューマンファクター研究所の渡利邦宏氏は、国土交通省に設置された「航空鉄道事故調査委員会」の沿革や活動を紹介しながら、事故調査の在り方を意見。「事故当事者から客観的で有益な情報を得るには、はじめから被疑者扱いする警察の捜査や、悪意のない過失行為にも大きな責任を問う現行刑法について考え直さなければならない」と語った。
 また、東京女子医科大学病院で起きた心臓手術事故の被害者家族で、歯科医師の平柳利明氏は、裁判に持ち込まずに当事者らで解決を図る同病院の「院内ADR(裁判外紛争処理)」の取り組みを紹介しながら、「患者との信頼関係構築のために医療者側が歩み寄ることが大切」と主張。さらに、淀川キリスト教病院の統括事業本部事務長の柴田康宏氏も、院内ADRなど医療者側の誠意ある対応を重要視し、「すべては信頼関係。自浄の努力と取り組みを理解してほしい」と国の制度設計について要望した。

 報告を聞き終えた会場からは、「調査委員会(仮称)をつくってもマンパワーが足りないため、現状では機能しない。国の機関に丸投げせず、院内ADRがきちんと機能することが重要」とする意見や、警察への通報に関して「何人も事故に不利益な供述を強要されないという憲法38条に触れる恐れがある」という懸念の声が上がった。
 このほかの意見として、院内ADRを重要と認めながら、人材や経費の面から困難であることを指摘し、国の支援を求める人もいた。

 厚労省の検討会は、公平中立な第三者機関の設立を目指すという点では一致し、新しい死因究明制度に関する法案を通常国会に提出するべく議論を進めているが、各論部分ではいまだ着地点を見出せていない。シンポにおける報告は、制度設計をする上で、現場の視点に立つことの重要性を伝えている。


更新:2008/01/25   キャリアブレイン

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