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2008年1月25日

◎北陸新幹線の延伸 JRにほしい先行投資の発想

 全額自己負担で超伝導リニアの「中央新幹線」建設に乗り出すJR東海の決断を、北陸 など整備新幹線を抱えるJR各社は、どう受け止めただろうか。JR各社は、政府・与党から求められている新幹線施設の「貸付料」や、延伸に伴う増収分「根元受益」の前払いを認めない方針だが、JR東海は国の予算をあてにせず、自力で中央新幹線を建設するのである。

 むろん、首都圏と中京を結ぶ中央新幹線と、北陸新幹線の金沢―敦賀を単純には比較で きないが、民間企業は新たな事業に踏み出すとき、設備投資のリスクを負う。「貸付料」や「根元受益」を、先行投資と考えて、着工を後押しする発想があってもよいのではないか。金を出さずとも黙っていれば、いずれ新幹線はできると考えているなら寂しい話だ。国、地元、JRの三者が得をする方法を、もっと柔軟に考えてほしい。

 JR東海が自力でリニア建設を目指すのは、国の予算措置を待っていては、いつまでた っても中央新幹線の建設メドは立たないという苦渋の思いからだろう。東海道新幹線の輸送力は限界に達しており、将来起こりうる大地震に備える必要もあったとみられる。リニア建設に向けては、輸送需要の検討やJR東日本との協議など、高いハードルはまだまだあるにせよ、リニアの商用化は、日本が世界に誇る新幹線技術を大きく飛躍させる契機になる。国をあてにせず、リニア新幹線に挑むJR東海の経営姿勢は評価されてよい。

 国の予算措置で建設される北陸新幹線の場合、金沢―敦賀の新規着工財源を確保する手 として、JR各社が国に支払う新幹線施設の貸付料や、延伸に伴って増える根元受益をJR各社に出してもらう案が浮上している。財政が厳しいなか、業績好調なJR各社に将来増えるであろう利益を「前払い」してもらう案だが、JR側は「合理的な根拠がない」と反発している。

 JR各社にすれば、前払いをさせられる根拠はなく、株主への説明責任も果たせないと いう思いがあるのは分かる。だが、建設資金の提供が収益機会を早める結果につながるなら、決して損な話ではないはずだ。一四年度までの金沢開業を担保したうえで、「先行投資」の知恵を出し合う余地は十分あるのではないか。

◎首相、ダボス会議へ 「日本売り」止める覚悟で

 世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」で特別講演する福田康夫首相に望みたい のは、地球温暖化対策に劣らず、自らの言葉で「日本売り」を食い止めるくらいの覚悟で、政権運営や経済政策について明確かつ力強いメッセージを世界に発してほしいということだ。

 ダボス会議は、七月の洞爺湖サミット議長国首脳としての手腕が試される舞台となるが 、温暖化対策で主導権を確保するのと同時に、世界的な株安連鎖という差し迫った現実課題に対して的確なメッセージを出せなければ、かえって日本への失望感や疑念を抱かせかねない。

 日本の株価下落は米国発のサブプライムローン問題があるとしても、構造改革からの後 退イメージが嫌気され、外国人投資家の「日本売り」につながっているとの指摘もある。

 首相は「国際的な株安であり、日本の経済実体からくるものではない」との見方を強調 しているが、冷静な物言いは国内で通用しても、国際舞台では危機感の欠如と受け取られることもある。企業の業績が好調にもかかわらず、大幅に株が下落したのは日本の先行きや不安定な政治に外国人投資家が予想以上に敏感に反応していることの表れであろう。

 ダボス会議は八十八カ国から政財界の指導者ら約二千五百人が参加する。日本にとって は京都議定書に定めのない二〇一三年以降の温室効果ガス削減の具体的目標を設定することや発展途上国の支援の枠組みを表明することで、サミットへの道筋を付けるシナリオだった。だが、世界経済の失速懸念が広がる中、会議初日の討議では米景気が減速、後退局面に入るのは避けられないとの認識が相次ぎ、危機感に覆われた。温暖化問題の対応と合わせ、日本のリーダーの発言に関心が高まっていることは間違いないだろう。

 福田首相は世界同時株安の流れに関し、日本の景気回復が続き、実体経済が底堅いこと を説明しながら各国の連携を促す方針だが、もっと踏み込み、景気後退を何としても食い止めるという意思を明らかにし、国際協調への強い姿勢を示してもらいたい。国際舞台でのメッセージを通して、日本への関心や期待値を高めることも首相の重要な責務である。


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