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【社説】

排出権取引 早く始めた方がいい

2008年1月22日

 京都議定書の約束期間が始まって、温室効果ガスの排出量を売り買いする排出権取引市場が急成長しつつある。いまだ尻込みを続ける日本。どうせいつかは参入するなら、早く始めた方がいい。

 ひょっとすると近い将来、温室効果ガスの排出権市場は、為替市場と同様の重みと広がりを持つようになるのではないか。毎朝、新聞やテレビでその値動きをチェックしてから出勤するのが、多くのビジネスマンの日課になるかもしれない。

 欧州連合(EU)が二〇〇五年一月に始めた欧州排出権取引制度(EU−ETS)は、鉄鋼やエネルギー、電力など排出量が多い約一万三千の事業所を対象に、排出量の上限(キャップ)を割り当て、それを超えると罰金を科す制度。上限を超えないように、他の事業所との売買(トレード)で融通し合う。

 二〇〇六年の取引額は、全世界の八割を占める二百四十億ドル(約二兆六千億円)。昨年は取引高が倍増し、EUは京都議定書の約束期間がスタートした新年から、排出の上限枠を低くして、罰金を高くするなど制度を強化した。

 日本では、上限設定が企業の国際競争力を阻害するとして、経団連を中心に反対の声が根強く、「総合的に検討すべき課題」のままだ。

 排出権取引については、排出枠をどう割り当てるかが難しいなどの指摘もある。だが、上限の設定は、企業にとって新しい省エネ手法や技術を切り開く強力な動機になる。

 日本は、京都議定書で定められた一九九〇年比6%の削減分のうち、1・6%を排出権取引などで賄う計画だ。すでに英国に次ぐ大口の買い手だが、制度がなく市場がないので国内に売り場がない。一方的に買うしかない。EUの規制強化で、排出権相場の高騰は必至の情勢だ。出遅れるほど、排出権を買い続けるだけの支出はかさみ、企業の国際競争力をそれこそ阻害することになる。

 二十三日開幕の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でも、この問題は主要な議題になるだろう。

 新たな削減数値目標の設定や排出権市場への参入に消極的では、温暖化対策そのものに消極的だと国際社会に受け取られても仕方がない。北海道洞爺湖サミットで発揮すべき、温暖化対策での指導力にも影響を及ぼすだろう。

 京都議定書を離脱している米国も、欧州市場との連携を念頭に、州レベルで導入を進めている。世界市場が形成される日は近い。だとすれば、取引のルールや手法、慣行などを一日も早く習熟した方がいい。

 

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