京都と大阪の県境に位置する兵庫県・猪名川町。
この町の民家の井戸で、阪神大震災の直後、ある奇妙な変化が現れました。
<井戸の管理者>
「(阪神大震災直後)水が30度、35度くらいあったかな。熱い水が出てきて、ここを越していた、真っ白な水が…温泉みたいなもの」
東京大学の佃為成准教授は、この井戸に注目し、阪神大震災以降、ここからわきでる水の観測を続けています。
<東京大学地震研究所・佃為成准教授>
「これが精密温度計です、14.8221、1万分の1度の単位まで測っている」
この井戸では阪神大震災後、数年間は元の温度に戻っていましたが、佃さんの研究によると2002年ごろから再び上昇を始め、現在も続いているというのです。
<東京大学地震研究所・佃為成准教授>
「温度が上がるということは、熱いものが入ってきている」
去年10月、仙台で開かれた「日本地震学会」で、佃さんは近畿で大地震が起きる危険性について発表したのです。
<東京大学地震研究所・佃為成准教授>
「地下で岩盤が動いている。それのサインが出ている。それが激しくなると地震になる」
地下水と地震の関係については科学的にはまだ明らかにされていませんが、佃さんの仮説はこうです。
地殻深くには温度の高い水が存在していて、地震が起きる前、地盤に力がかかることで、この水が岩盤の亀裂を通って上昇し、井戸水に混じると考えています。
地震と井戸水の関係を示す場所は、他にもあります。
同じ猪名川町の別の民家では阪神大震災を境に、枯れた井戸に水が戻るという現象が起きています。
<住民〜2007年12月>
「(阪神大震災の時)主人が見たら、井戸に水が増えていて、他の家でもあふれ出るほどになった」
そして、この井戸でも最近、異常なことが起こりつつあるといいます。
<住民〜2007年12月>
「この何か月前までは井戸水は増えていたのですが、3週間ほど前から井戸水が底まで減っていた」
佃さんら地震学者が猪名川町に注目するのは、井戸水だけではありません。
阪神大震災が起きる前の年、ここでは前兆現象ともいえる「群発地震」が発生していたのです。
震災前の94年秋ごろから猪名川町では小規模の地震が連続して発生し、12月ごろにいったん、小康状態になったところ、翌年1月に阪神大震災が起きたのです。
このため、猪名川町は地震の前兆現象が「現れる場所」として知られるようになりました。
ところで、こうした地下水の異変は近畿一円でも観測され始めています。
日本三名泉のひとつ、神戸の有馬温泉も、そのひとつです。
<東京大学地震研究所・佃為成准教授>
「2000年秋ごろから、お湯が真っ黒になった…最近は炭酸カルシウムの沈殿物がつくようになって、パイプを替えなければならない」
そして京都・亀岡の民家では、本来ありえない驚くべき現象が起きています。
火山地帯でもない亀岡の井戸から、なんと硫黄の臭いが漂ってきているです。
そして井戸水の表面には「湯の花」のような膜が張り始めたというのです。
<住民>
「(井戸水は)手洗いとか洗い物、お風呂に使っていた。臭いがきつくなりすぎて、臭いでお風呂酔いするようになって、ちょっと危険かなと思い、使うのをやめた」
<東京大学地震研究所・佃為成准教授>
「(井戸からバケツをくみ出し)赤サビの臭いがします」
「卵が腐ったような臭い。おそらく硫化水素のガスではないか。これ自体が異常現象ですね。150年間、続いた井戸で今までなかったこと」
そして、これらの現象と呼応するかのように、京都大学では2002年の終わりごろから近畿地方の地盤にかかる力の速度が従来の2倍に増えていることを突き止めました。
さらに京都から神戸にかけて地震の数が、以前の6割くらいにまで減ってきていることもわかりました。
地震の数が減ることは地盤にかかるエネルギーが発散されていないわけで、大きな地震を起こす可能性があります。
つまり近畿にある活断層が動く恐れがあることを意味します。
地震予知を研究する京大の伊藤潔教授は、猪名川町の井戸水の変化とこれらの異常現象が直接結びついているわけではないとしながらも…
<京都大学防災研究所・伊藤潔教授>
「京大でやっている観測網の場所と佃さんがやっている場所が一致…もしかしたら、互いに関係があるかもしれない…(大地震に)安心はできない状態ですね。危ないと思った方がいい」
政府は一昨年、近畿で震度6強以上の強い揺れを起こす恐れがある8つの活断層について、改めて警鐘を鳴らしました。
京都市内を通る花折断層をはじめ、一度動けば、阪神大震災以上の被害を出す可能性がある8つの活断層は近畿の都市部すべてを通っていて、決して安心していられる状況ではありません。
政府はこうしたことを受けて、地震の発生確率の精度をさらに高めようと、近畿各地でおよそ10年ぶりの調査を始めています。
近畿各地で起きている地下水の異変。
はたして、大地震は本当に来るのか?
13年前のあの辛い経験を繰り返さないためにも、研究者らの手腕に期待が集まります。
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