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薬害C型肝炎訴訟:首相謝罪 4度目の正直、やっと 原告団、ねぎらいに笑み

 ◇「少しすっきりした」

 体と心をむしばみ、夢や家族を奪った薬禍に、ようやく政府のトップが謝罪した。25日、「全員一律救済」に踏み出した福田康夫首相に自分たちの苦しみを伝えた薬害C型肝炎訴訟の原告たちは「思いを受け止めてくれた」と感じ取った。何度も国に裏切られただけに、語る言葉からは慎重さが消えなかったが、表情には安堵(あんど)の色が浮かんだ。【北村和巳、北川仁士】

 原告団は3、6、12月の3回、官邸を訪れ首相との面談を求めたが、応じてもらえなかった。弁護団によると、福田首相は「反省しなければいけない。命の尊さを踏まえ、再び同じ過ちを犯さないようにしなければならない」と語った。おわびを繰り返して原告の活動をねぎらい、「みなさんに少しでも幸せになってもらいたい」と言葉を詰まらせ、「また来年お出掛けください」と話したという。

 面談後に会見した全国原告団代表の山口美智子さん(51)は「5年間、身を削り家族や生活を犠牲にして闘ってきたことが、ねぎらいの言葉で少しすっきりした」と時折笑みを浮かべた。ただ「薬害を起こし被害を拡大させた責任が盛り込まれなければ、本当の議員立法にならない」と注文も忘れなかった。

 「日本で生まれなければ感染しなかったかもしれない」。出生時に感染した九州原告の福田衣里子さん(27)は、講演などで1000回近く訴えた思いを伝えた。首相の言葉に触れ「私にとっての幸せは、350万人の肝炎患者が救われること」と話した。

 大阪原告の桑田智子さん(47)は「面談できたのはうれしいし、解決に向け大きな一歩を踏み出せた。首相は全面解決を約束してくれたと思う」と率直に喜びを語り、仲間の遺影を抱え面談に臨んだ東京原告の浅倉美津子さん(57)は「彼女の『二度と薬害が起きないように』との最期の言葉を伝えた。無念を分かってくれたと思う」と声を震わせた。

 全国弁護団の鈴木利広代表は首相の発言について「直接の言葉はなかったが、責任を踏まえて謝罪し再発防止を約束したことを意味すると思う。踏み込んだ印象だ」と評価した。

 ◇責任は当然/犠牲大き過ぎる/支持率低下の末

 薬害C型肝炎訴訟が解決する見通しになったことを受け、同じ薬害の被害者やハンセン病の元患者に、今回の政府の対応を聞いた。

 ◇大阪HIV訴訟原告団代表で全国薬害被害者団体連絡協議会代表世話人の花井十伍さんの話

 法案に国の責任が盛り込まれるのは当然。裁判所の判断で和解金を受け取る方式は薬害エイズ訴訟と同じで、被害を訴える一人一人に主張の機会が与えられ、事実関係をはっきりさせることができる。首相はもっと早く政治判断すべきで、追い詰められて動いた印象を受けた。国は医療体制を改善し、再発防止に努めてほしい。

 ◇サリドマイド被害者で財団法人「いしずえ」常務理事の増山ゆかりさんの話

 政府は「命のリスト」が出てくるなど言い訳のしようのない状況になってからしか動かず、こんなに時間をかけなければ解決に至らないのか。命を削って闘う被害者の犠牲はあまりに大きい。不都合なデータを隠すといった姿勢はサリドマイドの時と変わらない。被害者が立証するのが難しい薬害には行政の情報開示を進めるような法律の整備が必要だ。

 ◇全国ハンセン病療養所入所者協議会の神(こう)美知宏事務局長の話

 政府が01年にハンセン病訴訟の控訴を断念した際、中心的な役割を果たしたのが当時官房長官だった福田首相。このため肝炎問題を注視してきたが、首相は政治決断したというより、迷いに迷った末、支持率低下で決断を強いられたというのが本当だろう。訴訟の解決で救済されるのはほんの一握りで、首相には「これで責任を果たした」などと考えてもらっては困る。

毎日新聞 2007年12月26日 東京朝刊

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