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解説:産科無過失補償制度 「訴訟減少」は疑問

 来年度中に始まる産科無過失補償制度は、重度の障害を負った子への福祉としては一定の意義がある。しかし政府・与党が目的に掲げる「産科医師不足の解消」を考えると、効果には疑問も多い。

 第一の問題は、補償範囲の狭さだ。制度案では、対象となる子は年間500~800人で、同じ脳性まひでも「通常の分娩(ぶんべん)による事故」に該当しない体重2000グラム以下、在胎週数33週以下の未熟児は原則的に外される。

 産科医が民事裁判で訴えられる率は、他の診療科より高い1000人当たり12・4人(04年調査)だが、脳性まひ関連の訴訟はその一部。無過失補償制度で訴訟を回避できるケースは多くて年数十件だろう。産科医の訴訟リスクを減らすなら、対象拡大が必要だ。

 第二の問題は医師の過失を巡る扱いだ。制度案は妊産婦側が医師に損害賠償を求めることを妨げていない。運営組織に設ける専門委員会も過失の有無を判断するとしているが、結論が出るのは早くても半年以上先になる。医療事故被害者の立場で準備委員会に参加した勝村久司さんは「医師を中心とした原因分析に懐疑的な被害者も多く、裁判は減らないだろう」と予測する。

 もともと無過失補償制度は、主に医師側が医事紛争解決の観点から求めていたものを政府・与党が医師不足解消の有効策として白羽の矢を立てた経緯がある。被害者側の理解を十分に得ないままの見切り発車では「医師の免責に役立つだけ」という反発が強まる恐れもある。【清水健二】

毎日新聞 2008年1月24日 東京朝刊

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