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1/22 モンゴル放浪記2007vol.5
前回までのあらすじ
間隔が空きすぎて忘れた。
大体ですね、もう2008年ですよ、2008年。なのに2007年に行ったモンゴルの話なんて書きたくもないのですが、モンゴルの続きを書かないとリストカットも辞さないっていう薄幸の美少女からメールが来たので嫌々書くことにします。
今回、続きを執筆するにあたって過去ログを覗いてみましたところ、どうやら昨年の僕は自費出版本をモンゴル人に売りつけようと蒙古の国に飛び、そこで肝心の自費出版本を日本に忘れてきてしまうという狼藉を働き、何をトチ狂ったのか持っていたアカギ20巻をロシアの国境警備兵(すぐ発砲してくる)に売りつけようと決意したようです。頭おかしいよこの人、何考えてるの。
で、金にものを言わせて雇ったチンギスハーンにソックリな現地人ドライバーと共に国境を目指す珍道中、昼は灼熱、夜は極寒、そんな状況に死にそうになり、ガス爆発などを経て死神と何度もコンタクトを取りながらも着実に国境へと近づいていく、しかし事件はそこで起こった。
何もない大平原でまさかのガス欠、とてもじゃないが次の村までたどり着けそうにないガソリン残量。ここでドライバーチンギスは鬼とも思える非情な選択をする。
「お前、降りて歩け、俺は村まで戻ってガソリンを入れてくる。なあに、すぐ追いつくさ」
まさかの徒歩によるモンゴル大旅行。歩けど歩けど一向に景色が変わらない。もう歩けないよと何度も挫けそうになる。けれどもアカギ20巻を読んで微笑むロシア国境警備兵の人の笑顔が見たい、このアカギを待っている人がいるんだ、僕がやらなきゃ誰がやるんだ、その想いが僕を前へ前へと進ませた。
チンギスさえガソリン満タンで追いついてくれればいいんだ。なあに、それまでの辛抱さ。その思いも空しくチンギスは来なかった。いくら歩いても歩いてもチンギスどころか人間にすら、人間が住んでいた痕跡すら見つけられなかった。
人間には出会えなかったけど群れをなす野良犬には出会えた。水辺で死んでいる牛の生肉をモシャモシャと食すバイオレンスな野良犬に感嘆し、あんなもんが襲ってきたらひとたまりもないぞ、と思っていたらその夜本当に襲ってきた。ホント、野生の動物はシャレが通じないから困る。日も暮れたのでテントを張って寝ようとしていたら獣特有の唸り声、揺さぶられるポンコツテント、このままでは食われてしまう!辺りには誰も居ない完全なる独りぼっち!どうするpato!?といったところで続きです。
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「絶対に殺される・・・!」
野犬からしたら僕など格好のカモだろう、餌だろう。乗り物に乗ってるわけでもなく何故かこの大平原を徒歩で縦断、おまけに疲れてかなり弱っている。一気に喉笛を噛み切って殺してしまえば当分の食料には困らない。いや、それよりは縄張りを荒らした外敵などと思っているのかもしれない。とにかく野犬どもがテントに体当たりしてるみたいで、その度に小さなテントは揺れ、天井に吊るしていた懐中電灯が瞬いた。
「こんな貧弱なテントすぐに破られてしまうだろう。それならば外に出て果敢に戦った方がいいのでは?」
なんでそんな勇者ヘラクレスのような勇敢な考えに至ったのか分からないのだけど、このままジリ貧で終わるよりは戦って死にたい、前のめりに倒れたい、そう思っている自分がいた。
とにかく戦える武器を探さなくては、と思いリュックの中を漁ってみるのだけど、どうにもこうにもロクなものがありゃしない。着替えのパンツとニンテンドーDSくらいしかなかった。敗戦を覚悟した太平洋戦争末期の日本兵でももうちょっとマシな武器で戦ってたぞって思わざるを得ないラインナップだ。
テントの中に動きがあったのを察したのか野犬のアタックが止まる。しかしながら、相変わらずその気配はすぐそこにあって明らかに距離をとってこちらを窺っているようだった。チャンスは今しかない。テントを出て戦うのだ!ヘラクレスよ!
動物は炎を怖がるはずというマル特情報を思い出し、右手にはライターを、左手には何か気が動転していたんでしょう、ニンテンドーDS Liteを持ってテントを飛び出す僕。たぶん「カカッテコイヤー」とか叫んでたと思う。暗澹とした闇の中で対峙する僕と野犬。対峙してさらに分かったことだが、その数は最低でも5匹はいそうな、そんな気配が感じ取れた。
というか、僕はニンテンドーDS Lite(クリスタルホワイト)で、何をどうやって野犬を退治しようとしていたのか皆目分からない。犬とネット対戦でもしようとしてたのか。むしろニンテンドーDSは邪魔なんじゃないだろうか。とにかく、気が動転してしまい、ライターの炎を揺らめかせながらDSで威嚇し、ジリジリと野犬たちからの距離を引き離しにかかった。
この時、皆さんは日本で、恋人と語らったり、ゴールデンタイムのドラマなんかを観ていたのでしょう。大好きな音楽を聴いて手元にはカフェオレ、至福の時を味わっていたのかもしれませんね。もしかしたらおセックスとかいう破廉恥な行為をしていた方もいたかもしれません。「どうしようワタシすごい幸せ」「俺もだよ、芳江」とかピロートークに華が咲き乱れていたかもしれない、それでもどうか忘れないで欲しい。その時、アナタが幸せだったその時に遠くはなれた異国の地でニンテンドーDS片手に野犬の群れと戦っていた男がいたことを。どうか忘れないで。
幸いなことに、炎にビビってるのか未知のDSに恐れをなしているのか野犬たちは警戒して襲ってこない。ウーッとか唸ってるだけ。こんなもん一気に喉笛噛み切りにこられたらDSじゃ防ぎようがないのに、それでも彼らは襲ってこない。このまま少しづつ離れていってある程度の距離までいったら一気に逃げる。そのまま逃げて川の向こうに行けば大丈夫だろうし、向こう側には背の高い木があった、それに登ってしまえば殺されることはないだろう。とにかく間合いを広げなくてはならない。
ジリジリ、ジリジリ、と少しづつ後ろに下がっていく。シャブ打ちまくったマイケルジャクソンのムーンウォークみたいに後退していく。そしてついにその距離が安全圏といえるレベルまで広がった。いける!
神々の如き素早さで踵を返し、暗闇なので分からないのだけど川があったであろう方角に逃げる。脱兎の如くとはまさにこのことだ。あまりの素早さに野犬どもも呆気に取られているに違いない。いける、このまま走れば逃げ切れる。きっと生きて日本に帰れるはずだ。やれる、ぜったいにやれる!自らを鼓舞し、思いっきり走り出した。
スッテンコロリン
いやね、そんな音が聞こえてきてもおかしくないほどに見事に転びましてね、テントを固定するために杭を地面にぶっ刺していたんですけど、その固定ロープに思いっきり蹴躓いて転んじゃったんですよ。
終わったー!絶対死んだ、絶対に犬の餌になる!
「私のお墓の前で 泣かないでください そこに私はいません 眠ってなんかいません 犬の餌に 犬の餌になって」
とか言ってる場合じゃない。物の見事にズデーンとなってる僕に野犬の1匹が近づいてくる音が聞こえます。なんかグルルルルルルとか魔王みたいな音がしてた。来る、喉笛来る!ああ、モンゴルなんて来るんじゃなかった、色々と覚悟したその時でした。
まあ、普通に、これがありがちな冒険記とかそういった類のものならば、ここでズギューンという銃声と共に僕を置き去りにしたチンギスが颯爽と現れてですね、「待たせたな!ボーイ!」とさらに猟銃をズギュンズギュン!野犬どももキャンキャンと逃亡、「ありがとうチンギス、ナイスタイミングだったぜ」ってなもんですよ。安心して車に乗り込むと後部座席にはなぜか謎のモンゴル美女が。「へい、チンギス、このエキゾチックな美女は誰だい」「さっきの村で拾ったのさ、なんでも惚れちまったみたいでな」「おいおい、人が死にかけてたっていうのにお前は美女と愛のランデブーかい?やれやれだぜ」「なにをいってるんだ、惚れたのはお前にだってよ。お前の話をしたら会いたいってさ」「フフフフ、日本から来た火の玉ボーイ、神秘的な瞳だわ」「俺に惚れると火傷するぜ、なにせ火の玉だからな!」「素敵」ってこういう展開があってもいい、むしろそうあるべきだと思うんですよ。
しかし現実ってのはとことん無慈悲で残酷なものですね、チンギスが来る気配なんて毛ほどもなく、ヤツが逃げたのは疑いようのない事実。そこに存在するのは圧倒的な闇とにじり寄る野犬のみ。地面にうつ伏せになる僕は間違いなくメインディッシュ。そろそろ辞世の句でも詠むしかない。
もうこれしかない!
うつ伏せの状態のままクルッと体を廻してですね、足のところにあったロープを掴みます。先ほど足を引っ掛けて転んでしまった忌々しきロープを。で、それを思いっきり引っ張って地面にぶっ刺さっていた杭を引き抜きます。もう一方の方の杭も引き抜いてテントの杭二刃流に。
「カカッテコイヤー!」
なぜ僕はこんな異国の地の平原のど真ん中、明かり一つない暗闇の中で野犬相手に凄んでるのか分かりませんが、襲い掛かってきたらこの2本の杭で2匹までは刺し違えてやると覚悟して野犬の群れに対峙していました。
すると、そんな気迫が圧倒したのか、野犬の群れは全く襲ってこない。グルルルルルという唸り声は聞こえるのだけど、どれだけの数がどれだけの距離にいるのかもいまいち掴めない。キンキンと二本の杭を打ちつけて金属音を出し、野犬どもを牽制します。
にげるなら今しかない。この隙に川まで逃げて川を渡りきる、そいでもって木に登るしかない。しかし、犬は逃げるものを追いかけるハンター的本能があると聞く、もし逃げ出したら彼らの闘争心に火をつけてしまうんじゃないだろうか。いいや、考えてたって埒が明かない、それに戦ったって勝てるはずがないんだ。もう逃げるしか生き残る道は残されていない。
走りましたよ。ええ、走りました。川があるであろう方向に向かって全力ダッシュ、両手でテントの杭をキンキン鳴らしながら本気ダッシュ。小学校の時にリレーのアンカーに選ばれましてね、アンカーになるって大変名誉なことなんですよ。で、発奮した僕は本気で走ってやろうと靴を脱ぎましてね、裸足で走ると本気で速く走れると信じてたんですよ。で、裸足になってバトンを貰う場所に歩いていったら尖った石を踏んじゃいましてね、物凄い血が出てるの。もうありえない出血。走れないだろうってことであえなくアンカーから外されましてね。悔しかったなあ、あれは。すごい悔しい思いで大盛り上がりするリレーを救護テントから眺めてた。そんな在りし日の走りたかいと切望した思い、それをぶつけるかのように思いっきり走りましたよ。まるで人生のアンカーのように・・・。
まあ、人生のアンカーってことはもうすぐ死ぬってことですからね、最終走者ですからね。よく分からない例えだ。無理矢理まとめようとしすぎだ。とにかく、野犬どもは追ってきてるのかどうかも分からないとにかく無我夢中で走りましたよ。しばらく走るとやはり記憶していた通りの場所に川があって、何のためらいもなく水に入りました。
浅い川で渡るのは楽勝だろうって思ってたんですけど、真ん中くらいが何かのトラップかと思うほどに急激に深くなってましてね、一気に胸ぐらいの深さですよ。もう、DSを濡らさないようにするので精一杯だった。おまけに水が死ぬほど冷たくてですね、ただでさえ寒いモンゴルの夜に追い討ちをかける冷たさ。引き返そうかなって思ったんですけど、そこで闇の中から野犬の遠吠えが聞こえたので歯を食いしばりながら渡りきりました。
川を渡ると、ちょっと背の高い木が数本生えてましてね、その中でも枝振りが良くて昇りやすそうな木をチョイスしてなるべく高い場所にいきました。これで犬畜生どもは昇ってこれまい。助かった、助かったぞー!と高らかに勝利の雄叫びを上げたのでした。
その数分後、川の水で冷やされた衣服が容赦なく体の体温を奪い、ただでさえ寒いモンゴルの夜なのに恐ろしいほどの極限状態に。鏡なかったから分かりませんけど、絶対に唇とか紫色だったと思う。
降りたら犬に食われて死ぬ、寝たら寒さで死ぬ、と震えながらブツブツ言いながら木の上で過したあの夜、忘れやしません。
さて、死という単語をリアルで実感しながら迎えた朝。どうやら野犬の気配も感じられないようですし服も乾いたしで地面に降り立ちます。まあ、荷物を取りにもう一度川を渡らないといけないのですが、今度は犬に追い立てられてるわけじゃありませんので普通に裸になって渡ります。
戻ってみるとテントは見るも無残に荒らされてたというべきか、杭を二本引っこ抜いたのが良くなかったのか風に煽られてムチャクチャな状態になってました。なんとか荷物だけは無事でしたのでテキパキと片付けてまた歩き出します。
チンギスのヤロウさえ追いついていればあんな目に遭うことはなかった。野犬に追い立てられもしなければ、極寒の大河を渡ることも、木の上で震えながら一夜を過すこともなかったはずだ。ホント、あのヤロウ、今度会ったらヒゲを毟り取ってやる。
それにしても、早く次の街に辿りつかなければ本気で死んでしまう。持っていた水もやばくなったし、なにより食料がやばい、それよりなにより歩きすぎて足がパンパン、死にそうだ。次の街に、次の街にさえ到着すればなんとかなるはず、死ぬことはないはずだ。
もう考えることは次の街のことばかり。ハンディGPSと地図を駆使すると、どうもあと40キロぐらい歩けば立派な街に到達するらしい。なんとかここまで歩くしかない。そして僅かばかりの希望ながら、そこまでの道中でチンギスが追いついてくることを期待したい。っていうかアイツ、もうウランバートルに逃げ帰ってるんだろうな。
とんでもない大平原をトボトボと歩いていると、なにやら怪しげな看板が。
なにが書いてあるのか全然分かりませんが、なんか「98KM」とか書いているのを見なかったことにし、さらにトボトボ歩くことに。
何時間歩いたでしょうか、もう喉も腹も足も限界、おまけに燦々と照りつける太陽光にやられたらしく、真っ直ぐ歩けないくらいフラフラ、倒れる寸前という満身創痍の状態になったその時、奇跡は起こったのでした。
街だ!街が見えるぞ!
目の前には近代的、マンションのような建造物がそびえ立っているのです。ハッキリ言いまして、モンゴル奥地の建造物なんて皆さんご存知の「ゲル」と呼ばれるテント風家屋か、牛のクソを塗り固めて作ったようなアバラ小屋しかないんですよ。こんな鉄筋コンクリートの建造物があるなんてさぞかし大都会に違いない。
すげーよな、人間ってやればできるよな。まさかあんな置き去りにされた場所からココまで歩いてこられるなんて思いもしなかった。木の上で震えた甲斐があたよ。
これだけの大都会なら人も沢山居るだろう。幸い金だけは持ってる、新しいドライバーを雇うことだってできる。それに大きな商店もあるだろう。飲み物買って食い物買って大満足、、ホテルだってあるかもしれない。もうあのゴミみたいなテントで闇に怯えて眠らなくてもいいかもしれない。とにかく色々と極楽だ、最後の力を振り絞って歩けpato!負けるなpato!
しかしですね、近づいてみると何やら怪しげな雰囲気が。確かにマンションみたいな建造物はあるんですけど、その横には何か見るも無残に崩壊したビルディングが。どうやったらこんな風に壊れるんだって勢いで佇んでいます。
おまけに無事な方のマンションも近づいてみてみると外壁だけでしてね、中身は空っぽ、入居者がいないとかそんなレベルじゃなくて、向こうが透けて見える勢いで中身がスカスカなんですよ。たぶん、しばらくしたら支えきれなくなって崩れるんだと思う。
とにかく全く人がいないので、何か急に寂しい気分になってしまい、疲れも忘れてフラフラと街の奥へ。
マンションほどじゃないですけど結構立派な建物が並ぶ街の中へ。
こうして見ると結構な街並みなんですけど、不安になるほどの静寂、全く音が聞こえてこないんですよ。それどころか、人間がいるという気配が感じられない。
こんな風に崩れている民家も多々ありましてね、明らかに人が住んでいない。言うなれば死の街、誰もいない街なんですよ。おいおい、嘘だろ、死ぬ思いして辿りついた街が無人の街とか、モンゴルは僕を殺す気か。どこまで僕を殺す気なんだ。
これがドラクエでしたら、謎の少女が出てきて村の人は北のほこらのモンスターに捕らわれてるとか、お願い!お母さんを助けて!とか言われて僕も剣を握り、魔法使いと戦士と踊り子と共に北のほこらへ、って、もうそんなことを妄想する元気もないほどに疲れ果てた。
色々と死の街を見回った結果、残されていた道具などから推察するにどうやらここは捨てられた街のようでして、ちょっと昔は鉱山というか、何か有益な鉱石が取れたんでしょうね。そこで働く人々でたいそう賑わった大都会だったようなのです。
しかしながら、鉱石が取れなくなったのか何なのか、とにかく今までのように栄えることができなくなった。働き口もなくなり徐々に人が減っていった。街を捨てて逃げ出す人々。空っぽになった建物だけが残って長い時を経る、そして風雨に耐えかねてああやって瓦礫になっていくのでしょう。
「死んだ街か・・・へへっ、なんだかこの物悲しさが妙に俺の心に響きやがる」
とか、かっこつけてる場合じゃないですからね。計算ではここで水や食料を入手、ついでにドライバーも入手するはずでしたからね。なのに街が無人。僕もまあ、色々と予定とか計画とか立ててそれを守れない人間ですけど、ここまで豪快に予定が狂うとは思わなかった。
とにかく、こんな場所にいたって何も救いはありません。ただただ死んでいくだけでしょうから、とにかく気力を振り絞って歩き、次の街を目指すしかありません。
鉱石採取で栄えた街ということはその鉱石を運ぶ鉄道があったっということです。案の定、街の外れから伸びる線路を見つけた僕はこの線路の上を歩いて次の街を目指すのでした。スタンドバイミー、いつまでも。
つづく
といきたいところですが、じつはもう少しだけ続きがありまして、歩くことを決意して線路の上を歩き出して2分、ブルルルルンという排気音と共に草原を駆る1台の車が見えました。
「チンギスの車だ!」
ぐおおおおおお!チンギス!殴る!絶対殴る!と走って追いかけるのですが、全然追いつかない。向こうも向こうで僕を探しているみたいでゆっくり走ってるんですけど、さすが車、全然追いつかない。こっちもこっちでここで置き去りにされたら今度こそ完全なる死ですので、その辺に落ちてた石とか車に投げつけて対抗します。するとやっとこさ気付いたみたいで車が停車。
怒りにまかせて車に駆け寄り、運転席の窓に向かって怒り狂います。
「オイヒゲ!テメーどんだけ時間かかってんだよ!死ぬかと思っただろ!」
僕はまあ、普段そんなに声を荒げるタイプの人間ではないのですが、やはりよほどきつかったんでしょうね、ムチャクチャ怒ってました。しかしながら、チンギスは全く悪びれる様子もなく、それどころか死ねばよかったのにといった表情で平然としてました。これだけ怒り狂ってるというのに1/3も伝わらない。
とにかく、もう歩かなくてもいい、早く人が住んでる街へ行ってくれと告げて助手席に乗り込むと、チンギスが凄い不思議そうな表情で
「お前、そんな顔だったっけ?もっとハンサムじゃなかったか?」
とか言うもんですから、おいおい、たった二日会わなかっただけでもう僕の顔を忘れたのかよと落胆。本当にこいつと旅を続けてもいいのだろうかと不安になったのでした。ちょっと間隔が空いたくらいで忘れたとか、人間のクズとしか思えない。とにかく僕とこのクズはまた手を取り合って国境を目指すのだった。
本当につづく-次回、いよいよVS国境警備兵編-
1/15 軽蔑していた愛情
ホント、あなたたちは大した釣り師だ。こと僕を騙すことにかけては最高の技量を発揮する、そう言わざるを得ない。
釣りというのは紳士なスポーツ、紳士な趣味と捉われがちだが実際には違う。エサやルアーを使っていかに魚を騙すか、それだけに命を懸けて執念を燃やす卑劣極まりない行為だ。おまけに多くの場合で釣り上げた魚を殺すって言うんだから、もはやこれは殺戮のレベル、とてもじゃないが許されるべきものじゃあない。釣られた魚の身にもなってみろ。白身魚って美味しいよね。
なにをこんなに怒り狂ってるのかといいますとね、間違いなく僕が釣られてしまった、それも大多数の人間に無下に扱われてとんでもないことになったって話なんですけど、とにかくまあ、聞いてやってください。
まあ、僕もこういうNumeriとかいうサイトをやってますとね、それでも多くの閲覧者様から色々と誘いを受けることがあるんですよ。何をトチ狂っているのか知りませんけど、「patoさん一緒に遊ぼうよ」「一緒に飲みに行きましょう」とかですね、なかには妙齢の女性なんかから「patoさんとだったら私……」みたいなのもあるんですよ。ホント、頭おかしい。
でもね、そうなってくると僕だって嬉しいじゃないですか。やっぱこう、友達もいない、職場でも僕だけ栗拾いツアーに誘われないとか、それだけならまだしも、今度バスを借り上げて泊りがけでスキー&スノボツアーってのを職場でやるらしいんですけど、バス代1200円だけ徴収されてそれ以来音沙汰がない、風の噂によると1月の3連休に行くらしいという、ってもう3連休終わってるじゃないのって感じの僕からしたらすごく嬉しいんですよ。やっぱり人の温もりって何より温かいじゃないですか。
というわけで僕もまんざらじゃないというか、やぶさかではない感じで「飲みに行きましょうよー」ってねメッセージなんかを眺めていたわけなんですよ。やっぱり悪い気はしない。こりゃ楽しいなって思って東京に行ってやろうと決意したんです。
「patoさん!東京きたら一緒に飲みましょう!奢りますよ!」
「patoさん!東京来たら一緒に遊びましょう!案内しますよ!」
「patoさんが東京来るなら……アタイ……夜を共にしてもいいよ……」
やっぱ東京って大都会ですから人数も多いじゃないですか。色々と積極的な人も多いじゃないですか。僕も僕でそういった文言に誘われて東京に行くことにしたんですよ。人と人との温もりが欲しかった。あわよくばおセックス的展開もなんて期待してなかったと言ったら嘘になる。
でまあ、この3連休を利用して東京に行ってきたんです。途中大阪に行ってしまうとか、新幹線に乗った瞬間に切符を落としてしまうといったハプニングもあったわけなんですけど、とにかく皆さんが「patoさん!patoさん!」と誘ってくれるがままに、たまに名前間違えていて「petoさん!petoさん!」とか言う人がいるんですけど、とにかくそういうのに誘われるがままに東京上陸ですよ。
そしたらアンタ、あれだけ「patoさん!patoさん!」言ってたメンツが総スカンですよ、総スカン。間違って「petoさん!petoさん!」とか言ってる人も総スカンだった。「えー、いきなり来られてもね……」「まさか本当に来るとはさあ」「文章読んでる分にはいいけど会うのはやっぱり嫌、キチガイだもん」「会うとpato菌がうつる!」「pato死ね」とか、全員すごいテンションダウンなんですよ。あれだけ熱心に誘ってくれた人とは別人みたいになっとるんですよ。
つまりあれでしょ、そういう釣りなんでしょ、フィッシングなんでしょ。一緒に飲もう、遊ぼうという餌、挙句にはおセックスもありえるかも?みたいな極上の餌をつけて僕を誘い出し、やってきたら「残念でしたベロベロバー」みたいな状態なんでしょ。
ホント、あなた達は一流の釣り名人だよ。昔、深夜に「ワクワク釣り名人」っていう正気を疑うネーミングセンスの番組を見てたら伝説の釣り名人ってオッサンが磯に登場して、リポーターとかが伝説名人の釣りがついに見れます!とか散々煽っていたのにイキナリ名人がタモで魚を取り出した時みたいな事件を思い出すほどの釣り名人っぷりだ。
そうなるとですね、ワクワクしながら東京駅に降り立った僕がピエロですやん。大きなリュック持ってルンペンみたいな格好して東京駅に仁王立ちしている僕がピエロですやん。多くの人が行き交う東京駅で寂しく仁王立ち、かつてこれほどまでに悲しい東京駅があっただろうか、いや、ない。
とにかく、そうなってくると田舎者がわざわざ東京にやってきた理由が皆無じゃないですか。通りがかりの全然知らない人に「あんた何しに東京来たの?」とか言われても素で「すいません」って謝ってしまいそうなくらいに来た意味が皆無じゃないですか。ここはなんとかして東京に来た意味を見出さなくては、そう考えてAKB48を観にいこうと決めたのです。
AKB48とは秋元康氏のプロデュースにより2005年に誕生したアイドルを目指す女の子達48人のグループで、目下のところ話題沸騰中の女の子達なんです。そのコンセプトは「劇場に足を運べば毎日会えるアイドル」で、秋葉原にあるAKB48劇場に行けば毎日公演をしているのでいつだって会えるんですよ。
前々からAKB48には注目していたのですが、やっぱ秋葉原の劇場まで行くのって怖いじゃないですか。秋葉原といえばオタクのお兄さんが闊歩し、そのオタクお兄さんを狙ったオタク狩りが蔓延、オタクのお兄さんも自己防衛ってなもんでバタフライナイフを懐に忍ばせてね、抗争という名の血で血を洗う殺戮の殺し合いが連日連夜行われている、その傍らではメイド服着たお姉さんが微笑んでいるというね、何かピントのずれたカオスな世界なイメージがあるんですよ。水森亜土に地獄絵図を描かせたみたいなそんな世界観があるじゃないですか。
そんなもんで独りで秋葉原に行くのは非常にためらわれたのですが、とにかくここまできて何もせずに帰るってのは釣り上げられたボラみたいなもんですから、とにかく意味があって有意義な上京物語にしなければならない、そう決意して電車に飛び乗り、一路秋葉原へと向かったのでした。
秋葉原駅に降り立ち電気街口を抜けるといきなりカオスな光景が飛び込んできましてね、なんかメイドの格好をした女の子がビラとか配っててそこにワラワラと男が集まってるんですよ。まあ、別にコレくらいは秋葉原では普通、良くある光景なんでして、ウチの地元の駅とかでやったら一発で逮捕されるだろうけどとにかく当たり前の光景なんですよ。
で、そのある意味秋葉原らしい光景を眺めていたら、さすがにそりゃないだろーっていう絵に描いたような酔っ払い親父がワンカップ持って登場、メイドに向かって「こんなスカートじゃ腹が冷えるぞ」「やめてください」とスカートをめくったりして大車輪の勢いでセクハラしてました。周りの民衆は「そんな横暴を許さない!」といいたげな表情ではなく「あ、俺もやりたい」みたな顔してました。
でまあ、僕はルンペンみたいな格好ですし、でかいリュック背負ってて明らかに田舎からのおのぼりさん、このままではオタク狩りのターゲットにされることは明白ですので目の前の自由通路とかいう場所にあったコインロッカーにリュックを預けます。
で、秋葉原の町をフラフラと散策しながらAKB48劇場の場所を探します。しかしながら全然下調べが足りなかったんでしょうね、そういった計画性とか皆無な人間ですから、全然場所が分からない。フラフラ歩いてるとメイドカフェとか山のようにあるんですけどサッパリ分からない。なんか「武器屋」とか書かれた店があるんですけどその需要が分からない。
そこでね、僕を釣り上げた人達、つまり東京に来たら飲もうとか言ってて実際に言ったらシカトするという極悪非道な鬼、鬼の子達の言葉を思い出したんです。「AKB48劇場はドンキホーテがどうちゃらこうちゃら」、ああ、下劣なる鬼といえどもたまには役に立つじゃないか、ドンキホーテを目指せばAKB48劇場があるんだな、と探索を開始したのです。
でまあ、なんとか無事にドンキホーテを発見し、なにやら色々と見てみるとこの8階建てのビルの最上階にAKB48劇場があるみたいでしてね、気分的には雑居ビルの様相を呈しているんですよ。地下と1階がパチンコ屋で2階から5階くらいまでがドンキホーテ、6,7階が空いていて8階が劇場と、そんな感じになっていたんです。
で、いよいよ乗り込むぞって思ってたんですけど、なんかエレベーターがないんですよね。1階のパチンコ屋に入る入り口と2階のドンキホーテ店内に入るエスカレーターしかないの。後でわかったんですけど、AKB48劇場にはムリムリとエスカレーターを上がってドンキホーテ店内を抜けて行かなければならないらしいんですけど、僕のイメージ的には劇場まで直通のエレベーターみたいなのがあると思ってたんですよ。必死で探すんですけどそんなのが全然ない、どうやっていくんだよ、って途方に暮れてしまいました。
しかしですね、色々と探してみるとビルの裏口、まあパチンコ屋の裏入り口みたいな場所にひっそりとエレベーターがあるんですよ。なんか小汚いエレベーターなんですけど、しっかりと扉のところに注意書きがしてあって、
「このエレベーターはドンキホーテ店内および6階、7階には停止しません」
とか書いてあるんですよ。このビルは2階から5階までドンキホーテですから、つまりは2から7階までは停まらないぜって書いてあるわけ、直訳すると8階にだけ停まりますってことで、8階はAKB劇場ですから劇場専用エレベーターじゃないですか。これに乗ってみんな劇場に押し寄せるんだな、それにしては殺風景なエレベータだーだって思いながらスーッと乗ったんです。
いや、ホント、もっとこう専用エレベーターなんだからポスターとか貼ってAKBオタを煽った方がいいじゃないですか、会場に昇るまでのワクワク感を煽った方が良いに決まってるじゃないですか。なのに殺風景過ぎるエレベーター、なんだかなあって思いながら「閉」ボタンを押したんです。
「すいませーん!」
そしたらキャピキャピとうら若き声が聞こえてきましてね、同時にドタドタと走る音が聞こえてきたんです。ああ、誰か乗りたいんだなって思って「開」を押しましたよ。で、息を切らして乗ってきたのか2人の女の子。よくよく見ると結構カワイイんですよ。なんか訳の分からないメガネかけてるんですけど、落ち着いてみるとカワイイ。ああ、こんなカワイイ娘も夢中になってAKB48見ちゃうんだな、っていうかこれくらいのレベルならAKB48に入れるんじゃないか、決して負けてないと思うよ、頑張れよ!などと訳の分からない激励を心の中でしていたんです。
「ありがとうございます」
とか言いながら乗り込んでくる2人、微妙に良い匂いがして、今大地震がきてエレベーターが停まったら大変なことになる!アタイ!もう我慢できない!ブリブリブリブリブリブリとかになるに決まってる!と独りで良く分からない世界にトリップしてました。
「おつかれさまですー」
オンボロエレベーターがムリムリと8階めがけて上がっていくんですけど、娘2人がそうやって僕に話しかけてくるんです。おいおい、こりゃあ逆ナンかー、かーっさすが東京の娘は積極的だなーって思うんですけど、下手したら「キモい男が釣れた」とか後で酒の肴にされる壮大な釣りの可能性もあるじゃないですか。それよりなにより、もしかしたらAKB48ファンの間では劇場で出会った人には「おつかれさまです」って挨拶をするとかそういうルールがある可能性があるじゃないですか。挨拶されたくらいでウカレポンチになってはいけない。
「あ、おつかれさまです」
かなりぶっきらぼうに、目線も合わせずに階数表示だけを眺めてました。無言のエレベーター内、オンボロすぎてガコガコと異様な音がするんですが、なんとか8階に到着、いよいよAKB48劇場に到着、そこは華やかな別世界で夢のような世界、そして開場を待ちわびるAKB48オタの皆さん、そんなのがひしめきあう桃源郷に違いない、期待と緊張で心臓がドキドキするんですが、固唾を飲んでドアが開くのを待ちました。そして、そこには衝撃の事実が!
「よし!いくぞ!」
なんかドアが開くとちょっとガリガリのお兄さんがドアの目の前で物凄い気合を入れてるんですよ、で、手にはどう見てもプロ仕様としか思えないカメラを持ってるの。その傍らには助手みたいな小僧がいて、なんか2人で気合入れてるの。
一瞬、すげえ気合の入ったAKB48オタだな、プロ仕様のカメラ持ってるぜって思ったんですけど、よくよく考えたらこういったアイドル系の劇場て絶対に撮影禁止じゃないですか。そもそもカメラ持ってる人がいるのがおかしい。それよりなにより、その光景が酷い。
もっとこう華やいだ世界を想像していたのに、エレベーターの前に広がるのは乱雑な世界。コンクリート打ちっぱなしの汚い通路に乱雑に段ボール箱積み上げられてましてね、狭い通路を忙しそうに多くの人が行き交ってんの。
おかしい、何か変だ。
そう思ってるとエレベータに乗ってた女の子2人が
「おつかれさまですー」
とか、そのカメラ持ってる人にも挨拶しながらズイズイと中に入っていくんですよ。その瞬間に全てが繋がった。本気で全てを理解した。客を煽る気が全くないエレベーター、女の子2人の奇妙な挨拶、この乱雑なフロア、全てが氷解したね、ここは関係者以外立ち入り禁止の通用口なんだと。この先には楽屋とかあってAKB48のメンバーがキャー!とかワー!とかブリブリブリブリとか準備に余念がないんだと。そして中に入っていった2人はたぶんAKB48の誰かなんだと。恥ずかしい、心底恥ずかしい、AKB48のメンバーを指して「AKB48にも入れるよ、がんばれ」とか励ましてた自分が心底恥ずかしい。
とにかく、早くここから撤退しなければならない。分からなかったからとはいえこんな関係者以外立ち入り禁止の場所に入ったらすごい怒られるに決まってる。下手したらテロリストですからね、耳にした情報によると、紅白にも出て人気の出てきたAKB48なんですけど、今度はチケットの入手問題やメンバーへのストーキングなどなど、様々な問題が起こってきてるんですよね。そういうのに事務所サイドなんかは公演への出入り禁止措置などで毅然と対応しているらしいんです。そんな折にルンペンが裏口まで入ってきたことがバレたら大変なことになってしまう。
とにかく何事もなかったような冷静な顔でそのままエレベータのドアを閉めましてね、そのまま物凄い勢いで1階まで降りました。
「ふう、危なかったぜ、っていうか入っちゃダメならそう書いておけよなー」
とか思いながら1階に下りると、何かスーツ着た人がエレベーターの前で仁王立ち。むちゃくちゃ怒ってました。
「あのー、このエレベーター立ち入り禁止なんですけど」
「あ、すいません、間違えちゃって、今日はじめてきたんで分からなかったんです」
「あのですねー、分からないわけないでしょ」
「いやー、分からなかったですよ、入っちゃダメって書いてなかったし」
「書いてあります、ここに!」
とか見ると、エレベーターのかなり手前、外の道路から裏口に入ってきた時に見える位置にコーンが立ててありましてね、「このエレベーターは関係者以外使用禁止です」ってかいてありました。そんなの分かるわけないって、だって僕、パチンコ屋の方から出てきたんですもん。そのルートだとコーンが全く見えない位置なんですよ。
でまあ、色々とすったもんだ、いかに僕が気付かなかったかを身振り手振りで説明したんですけど、分かってもらえず。
「出入り禁止ですね」
という無情なるお言葉。いやね、色々と悪質なファンっていると思うんですよ。それこそAKB48を困らせて多大なる迷惑をかけてる人とかいると思うんです。そういう人がガンガン出入り禁止になればいいと思うんです。でもね、いずれもそういう人って劇場で何か悪いことをして出入り禁止になってると思うんです。さすがに一度も劇場に足を踏み入れてないのに出入り禁止になった人間はそうそういないはず、これは大変な騒ぎですよ。
この「出入り禁止」っていう言葉を宣告された瞬間に気が動転しちゃいましてね、なんかオタクっぽく喋らなきゃいけないとか訳の分からないこと考えちゃって、ここは最後の意地を見せるべきとかすごい執念に燃えて
「え、ミーが出入り禁止ザンスか?」
とか、どういうキャラなのか、どういう立ち位置なのか、そもそもそれはオタクらしいのか全く分からない喋り方をしてました。自分自身で思うよ、なんなんだ、コイツは。
まあでも、正真正銘の出入り禁止ってわけではなくて、住所氏名を聞かれませんでしたし、写真とかも撮られてないので本気本気じゃないんでしょう。なんかお兄さんも優しい感じがしたので、事情を話して今日は遠くから東京まで出てきてAKB48を観に来たんです、公演を見せろとはいいませんが8階の様子だけ見てもいいですか?って聞いたら「オッケー」的な感じだったので意気揚々と今度はちゃんとエスカレーターを使って8階へ。
そしたらいるわいるわ、AKB48ファンの皆さんがワラワラと劇場前のカフェみたいな場所にいましてね、もう、はやる気持ちを抑えられないといった感じでひしめき合ってました。見ると本日分のチケットは完全ソールドアウトで、どうせ出入り禁止にならなくても見れなかったやと妙に納得。なんか、戦国時代に生まれたらひとかどの武士になっていたであろう重厚なメンツがバインダーに入ったAKB48の写真を嬉しそうに整理してました。
その横を見ると金色のネームプレートが100個くらい飾ってありましてね、なんでも来場100回を超えると殿堂入りするらしく、なんか「ぷりりん」とかそんな正気を疑う名前で多くの猛者が登録されてました。さすがにこりゃすげーや。
とにかく、ひどい釣りだよなー、あんな分かりにくい場所で「8階まで行けますよ」って書いてて昇ったら関係者以外立ち入り禁止で怒られて出入り禁止っすよ、本当に東京は恐ろしい釣りが溢れている。ちょっと気を抜くとすぐこれだ。
失意のまま帰ろうとエスカレーターを降りると、その途中で横のメイドカフェから「萌え萌えじゃんけん!」とメイドさんのカワイイ声と野太い男性の声がハーモニーをしているのを聞きつつ、もう帰ろう、下のパチンコ屋でパチンコ打って帰ろうと、心底落胆したのでした。
パチンコも手痛いくらい負けてしまいましてね、ホント、秋葉原では全くいいことなかった、そもそも東京に来るんじゃなかったと失意のどん底で秋葉原駅へ。もう荷物持ってここではないどこかに行ってしまおうとコインロッカーを開けて預けたリュックを取り出したんです。すると、何か異変が。
荷物を入れた時は気付かなかったんですけど、ロッカーの中にキャリーバッグって言うんでしょうか、荷車のついたバッグがあるじゃないですか、あれの荷車部分だけが僕の荷物と一緒に入ってたんですよ。単純に前使った人が忘れてたんでしょうね、ゴロンと荷車だけがあって心底困惑した。
忘れた人も困ってるでしょうし、僕も僕でこんなのネコババしたって何の得にもなりませんし、とにかく届けなくてはならない、と近くにいた駅員さんに持っていったんです。
「すいません、これ忘れ物みたいなんですけど」
そしたら駅員さんは何か忙しかったみたいで
「落し物?じゃあ交番に届けて」
とかすごいぶっきらぼうに言われましてね、そんなもん交番がどこにあるかも分からないじゃないですか、いきなり言われても困るじゃないですか
「その交番はどこですか?」
とか訊ねるとさらに面倒そうな顔されましてね。
「あそこにみえるでしょ、ほら」
とか、指差す遥か先に交番のものと思われる赤いランプが。ムチャクチャ遠い。行くの面倒くさい。できれば行きたくないんですけどゴロゴロと荷車を転がして行きましたよ。途中ビラを配り終えたメイドさんがダルーって顔して車に乗り込むのを目撃しつつ交番へ、なんかオッサンの警察官の人が憮然とした表情で机に座ってました。
「すいません、駅のロッカーに忘れ物があったんですけど……」
そしたらギロリとか睨まれちゃいましてね、全く意味が分からないんですけど
「は?」
とか聞かれました。聞こえなかったのかなって思って少し大きな声で
「駅のロッカーにこれが忘れられてたんです」
っていったら警察官の人がゲハゲハ笑い出すんですよ。何が何やら意味が分からず呆然としてると
「あのね、駅の忘れ物は駅に届けなくちゃダメじゃない」
と小学生に言ってきかせるような口調で言うんですよ。僕、31歳なんですけど。
「いや、でも駅では交番に持っていけって言われたんですけど」
「そんなの知らないよ、駅の忘れ物でしょ?駅だよ」
微妙に釈然としないまま、それでも警察官が言うんだからそうなんだろうとまた駅まで舞い戻ることに。クソッ、こんなことなら見た瞬間に捨てておけばよかった。とにかく、また駅に向かったんですけど、その瞬間、事件は起きたのでした。
なんかですね、微妙に怖そうなアウトローっていうんですか、明らかに喧嘩強そうなお兄さんがこっちこっちって感じで手招きしてるんですよ。うわっやべえ、これって噂に聞くオタク狩りってやつじゃないのか。なんとか気付かないフリしてスルーしようと思ったんですけど、そうは問屋が下ろさないらしく、エグザイルの右側みたいな感じでたむろしている3人組に話しかけられました。
「あのさー、電車賃なくなったから金貸して」
とか凄まれないまでも軽やかに言われちゃいましてね、マジかよー31歳にもなってカツアゲされかけてるよーって情けなくなっちゃいましてね、「これは参考書買うお金だから」とか言い訳しようにも参考書買う歳じゃないじゃないですか。おまけにパチンコに負けてお金持ってないわ、懐にバタフライナイフは潜ませてないわで八方塞り。どうしたもんかなーって思ってたら気が動転しちゃいましてね。
「オッサン、いくら持ってんの?」
っていう問いに、なんかオタクっぽく答えなければならない!と妙な使命感を燃やしてしまい。
「お金ザンスか?」
とか、どういうキャラなのか、どういう立ち位置なのか、そもそもそれはオタクらしいのか全く分からない喋り方をしてました。自分自身で思うよ、なんなんだ、コイツは。
まあ僕は喧嘩100段ですからこんなエグザイルくらいちぎっては投げちぎっては投げ、二度とオタクを狩れないように懲らしめるんですが、僕の強さに惚れこんだエグザイルたちが弟子にしてくださいとか言ってあっという間に僕の組織が膨れ上がりましてね、チーマーなどを束ねて秋葉原を統一、秋葉原の王と呼ばれるまでになって今度は組織的にオタク狩りをさせるんですけど、そうする以前にさっきの警官が追いかけてきて
「やっぱりさっきの落し物預かるよー」
って走って来たんでエグザイルたちは脱兎の如く逃げていきました。口ほどにもないやつらだぜ。死ぬほど怖かった。
とにかく、東京はとんでもない釣りに溢れている。誘われてノコノコ行ってはいけない、エレベーターにノコノコ乗ってはいけない、落し物を見つけても届けてはいけない、それらは全て釣りなのだ。
「釣り竿とは一方の端に釣り針を、他方の端に、馬鹿者をつけた棒である」
イギリスの古いことわざにこんな言葉がある。釣り好きを自虐的に扱った言葉であるのだけど、しかし、これにはさらに「釣れるのもまた馬鹿者なのだ」と続くのではないか。
東京は狂った街、その狂った街に釣られてAKB48は観れないわ、観てもないのに出入り禁止になるわ、齢31にしてカツアゲされそうになるわ、ホント、とんでもないわと思いつつ、二度とアナタたち閲覧者様の誘いには乗らないと固く心に誓い、東京を後にした。
1/7 日曜日よりの使者
仕事に行きたくない仕事に行きたくない仕事に行きたくない。
年末年始休暇が終わる日曜日の夜、僕は心の底から湧き上がる声に耳を傾けていた。社会的体裁や社会人としての信念、そんなもので蓋をしても決して誤魔化すことのできない本当の声に。心の叫びとでも言った方が適切だろうか。
「明日から仕事か……面倒くさいな」
お気に入りのダージリンティーを飲み、そっとロッキングチェアを傾ける。タバコの煙が所在無く舞い上がる部屋の中にはこれまたお気に入りのクラシックが流れていた。決して外すことのできない心安らぐ時間、せわしない世間にあって唯一落ち着ける時間。それでも心の中に鬱積した思いが晴れることはなかった。
「本当に仕事行きたくない……」
僕は数年前に本当に仕事に行きたくなくて瀬戸内海に浮かぶ島まで逃げたことを思い出した。まさかあんなに逃げるとは自分でも思わなかった。あの時は海が綺麗で砂浜が綺麗で、一人で2時間くらい砂の城を作っていたら島の駐在さんみたいなのがやってきたんだった。
憂鬱な月曜日と仕事始めが重なる1月7日、鬱陶しい要因がダブルパンチで攻め立ててくるこの日を前にして、僕はあまりの行きたくなさに身悶えていた。休みが終わるというのもその要因であるが、昨年末に仕事を放り出し、「良いお年をー!」などとランナウェイした事実を思い出すとますます仕事に行き気力が失せる。
ちなみに余談になるけど1月7日はウチの親父の誕生日だ。けれどもそんなことは別にどうでもいい。むしろ忘れたいくらいだ。僕が子供だった頃に純度100%のピュアさで「お父さんの誕生日を祝わないといけない!」とかわいさ満点のキッズとしか言いようのないキューティクルハートで手作りのお酒ホルダーみたいな紙製のチャチな物をプレゼントしたら、泥酔していた親父に「ワシの誕生日を祝おうとは10年早いわー!この小僧がー!」と完膚なきまでにズタボロにされて以来、彼の誕生日は寒い冬の中の一日と思うことにしている。祝うのに10年早いとかムチャクチャだ。余談過ぎて自分でもビックリした。
「ああ、どうしよう、本当に行きたくないよ」
中空に向かって独り言を発し、ロッキングチェアーを揺らす。するとどこからともなく声が聞こえた。
「そんなに行きたくないなら行かなくていいよ」
音というのは波だ。声が伝わってくる時は空気が振動して耳に届く。しかしその声はその種の振動とは違うような、まるで直接頭の中に響いているように感じた。
「だ、誰だ……!?」
キョロキョロと辺りを見回す。けれども、そこにはロココ調に揃えた家具類と優雅にクラシックを奏でるレコードしか存在しなかった。
「なんだ空耳か……」
あまりの行きたくなさに空耳まで聞こえるようになったか、こりゃあいよいよ末期だな。いい加減諦めてもう寝てしまおうか、そう思っているとまた頭の中にあの声が響いた。
「行きたくないなら行かなくていいのに、うふふふふ」
イタズラに笑う頭の中の声は途絶えることがなかった。僕は何度も「これは空耳だ、仕事を嫌がる僕が作り出した幻聴に違いない!」と言い聞かせ、眠る準備をし、仕事という憂鬱な明日への入り口となる寝床へと入った。その間にも相変わらず幻聴は聞こえていて、
「行きたくないなら左に行って!いつもは右のところを左に行って!」
と、相変わらずの調子で頭の中に鳴り響いている。とんでもない幻聴だ、これはもう仕事に行ってる場合じゃないかもしれない、でも行っちゃうんだろうなあ、と自分に言い聞かせ深い眠りに着いた。
翌朝。目が覚めるとやはり憂鬱だった。これが休みの日なら好きなだけ寝ていられる、寝すぎて疲れたなんて芸当もできるのだけど仕事が始まるとそうはいかない。あまりの憂鬱さに昨晩の幻聴のことなどすっかり忘れて出勤の準備を始めていた。
憂鬱なワインディングロード、職場へと続く道。せわしなく動く街の人々はそれが社会に属していて世間は動いていることを実感させてくれた。それと同時にやはり自分も社会に属して今から仕事なのだとひどく憂鬱な気分になった。
信号で停車する。ここを右に曲がればもう職場だ。時間もピッタリ、遅刻じゃない。そこで急に昨晩の幻聴のことを思い出した。
「行きたくないなら左に行って!いつもは右のところを左に行って!」
あの声はこの場所のことを指していたのかもしれない。いつも右に曲がって職場へと向かうこの交差点、仕事に行きたくないならここを左に曲がれと言うのだろうか。まさかそんなことはないだろう。左に曲がったって何かがあるはずがない、普通に街並みがあって遠回りすることになって仕事に遅刻する、それが関の山だ。
「けど……もしかしたら……」
なにかあるのかもしれない。そう思わなかったと言えば嘘になるだろう。それよりなにより、仕事に行きたくなかった。こんな職場の直前まで来て駄々っ子のようなのだけど、それでも行きたくない気持ち、何かを期待する気持ちがハンドルを左に切らせた。
いつも右に曲がる道を左に曲がる、ああ、ここはこんな景色だったのか、見慣れない景色がサイドミラーを流れていく。その景色がなんとも新鮮で、季節を感じさせる街路樹がどこか手招いているように見えた。
「でも、やっぱりなにもないな」
少しだけ何かを期待していた自分を恥ずかしく思いながら、バカやってる場合じゃない、仕事しなきゃ、と車をUターンさせようとしたその時、ざっと車の周りを深い霧が取り囲んだ。
「わ、わ、わ!」
あっという間に周囲が見えなくなり、何か別の場所に運ばれるような、言い換えると霧に掴まれて車ごと運ばれているような奇妙な感覚だった。どうすることもできずオロオロと霧を眺めていると、これまた奇妙なことにまるで意思を持ったかのようにサッと霧が晴れたのだ。
そして、目の前には大きな湖があり、どこか懐かしくなるような、それでいて本当に心安らぐような何ともいえない景色が広がっていた。朝もやに包まれた湖は穏やかで、波がたつわけでもなく、風で水面が揺れるわけでもなく、文字通り水を打ったかのように静まりかえった光景が広がっていた。
「おかしいな、ここにこんな湖はなかったはずだが……」
車を停め、湖のほとりに降り立つ。さすがに来たことない道とはいえ、いつもの交差点からそんなに移動したわけじゃない。いくらなんでも職場の近くにこんな大きな湖があるならば気付くはずだ。それにこの雰囲気、まるで時間がゆっくり流れているようにすら感じる弛緩した空気、全てがおかしくて奇妙なものだった。湖に近づき、しゃがみこんでそっと水面に手を入れる。冷たい感覚が右手を包むのと同時にサッと波紋が広がった。やはり本物の湖のようだ。なのにこの静けさはなんだ。
「いらっしゃい、やっと会えたね」
聞き覚えのある声が耳に届く。そうだ、昨晩聞こえたあの幻聴だ。昨晩聞いたあの声が今度は頭の中じゃなく本当に耳に届いた。
「だ、誰だ……!?」
辺りを見回すが誰もいない。ただ水面だけがこちらを見ていた。
「ここだよ、ここ、ここだってば」
それでもさらに近くなって問題の声が聞こえる。そう、まるで自分の右肩辺りから聞こえるような、いや、確かに右肩から聞こえていた、僕の右肩には見たこともない小さな人間が、ボンヤリとした光に包まれて微笑みながらこちらを覗きこんでいた。
「はじめまして、私は妖精のメルル、この癒しの湖の案内人よ」
「よ……妖精!?」
普通なら面食らって腰でも抜けてしまうところだろうが、確信的でないにしろ、そういった不思議な存在を許容してしまうような、許容せざるを得ないような圧倒的な違和感がこの湖にはあった。早い話が、何が起きてもおかしくないくらい奇妙な場所だったのだ。現に僕の右肩には手のひらほどのサイズの妖精が腰を据えている、みるとその小さな顔はアイドルのようにカワイイ、背中には蝶のような羽が生えている。メルルは少しかしこまりながら話し始めた。
「私は「働きたくない」「仕事嫌だ」「遊んで暮らしたい」そんな気持ちが産み出した精霊よ」
「ずいぶん堕落した気持ちが産み出した精霊だなあ」
普通、精霊と言えば山の精霊とか森の精霊とか、もっとこう神々しさすら感じる存在だと思うのだが、目の前には仕事したくない気持ちの精霊が。
「仕事をしたくないって気持ちは堕落じゃないわ。人間ならば誰しもが持ってるものなの」
「まあ、そりゃそうだけど」
妖精にそう言われると妙に納得というか安心してしまう。そりゃそうだ、誰だって心のどこかで仕事をしたくないと思っているに決まっている。
「その気持ちが限界になった時、人々はこの癒しの湖に導かれるわ。ここでは仕事しなくていい、時間も流れない、皆が好きなようにゆっくり流れる時間を楽しんでいるの」
「僕以外にも人がいるんだ」
「もちろん、大勢いるわ、ほら、見て見て」
その瞬間、周囲を包んでいた霧のようなモヤのようなものがサッと晴れ渡った。目を凝らして見てみると、湖周辺の岩の上で寝そべる人、湖畔に腰かけて釣竿を垂れる人、アベックで土を掘りながら愛を語らう人々など、数多くの人が好き好きに過していた。
「これ、みんな……」
「そう、仕事に疲れてこの湖に導かれて来た人々、あなたと同じようにね」
メルルは腰かけていた僕の肩から立ち上がると、背中のハネを優雅に動かしながら空を飛び、楽しそうに右へ左へと飛んでいた。
「とにかく、ここでは仕事なんてしなくていいわ、好きなだけいていいのよ。そして好きなように過していいの」
メルルの言葉を聞くか聞かないかのタイミングで一番近くにいたアベックに話しかけた。
「こんにちはー」
「あ、こんにちはー」
彼女の方は警戒しているのか、それとも彼氏の前で別な男と話をするつもりがないのか、僕の挨拶に対して微妙に視線を逸らした。答えたのは彼氏の方だった。
「お二人でこの湖にやってきたんですか?」
「ええ、実は彼女とあっちの世界ではこの彼女と結婚するつもりでしてね、家を建てるために二人で必死になって働いていたんですよ」
「へえ、そりゃおめでとうございます」
僕の祝福の言葉に彼氏は微妙にはにかんだ。
「ただ、お互い仕事ばかりになってすれ違いが多くなっちゃいましてね、喧嘩ばかりするようになったんです。で、二人のために仕事してるのに何なんだろう、もう仕事したくないや、って思い始めた時、二人してこの湖にいたんです」
彼女は面白くなかったのか、ツンっと指で彼氏に合図をし、目線で何かを訴えかけた。それを察したのか彼氏は申し訳なさそうに僕の方を見ると、
「じゃあ、僕らはこれで。ここは本当に楽園ですよ、ゆっくりしていってくださいね」
と言い残して二人で森の奥へと歩いていった。
「なあメルル、本当にココでは何もしなくていいのか?」
二人の後姿を眺めながら右側を飛んでいたメルルに訊ねる。
「そう、ここでは何もしなくていいわ、曜日もなければ昼も夜も来ない、ただ漠然とした時間が流れるだけなの」
「じゃあもしさ、ここである程度過した後、急に仕事をする気になったとしたらあっちの世界には帰れるの?」
「あっ、ほら、ここのリーダーよ」
メルルは急によそよそしくなり、まるで聞いてはいけないことを聞いてしまったような雰囲気だった。そして、大きな巨石の上に腰かけた中年の男を紹介される。
「お、新入りか。WaTのウェンツじゃないほうみたいな顔したヤツだな。ここでリーダーをさせてもらってる高本というもんだ。まあ、一番古株だからってのが理由なんだけどな。そして、ここでは仕事なんてしないからリーダーって言っても名前だけだけどな!ガハハハ」
「よろしくおねがいします。patoといいます。えっと、高本さんはどれくらいここにおられるんですか?」
「まあ、あっちの世界でいうところの12年はここにいるよ、ガハハハハ!これでも向こうの世界では証券マンでな、けっこうやり手だったんだぞ」
「はあ、そうなんですか」
あまりに豪放な高本の勢いに押される僕、いつの間にかメルルはクスクスと笑いながらどこかへと飛んでいった。完全に高本にマンツーマンでロックオンされた形だ。
「じゃあ、僕はこれで……」
「まあまて、仕事もないんだからゆっくり話を聞いていけよ、あれはバブル絶頂の時だったな、毎日が仕事漬けだった俺は証券マンとして……」
高本の話は終わらない。そのうち朝飯を食っていなかったためか空腹で我慢できなくなった。それにさっきから喉が渇いて仕方がない。
「すいません、お腹減ったんですけどご飯食べるところは……? それに喉も渇いて、できればコーラの自販機とかあると嬉しいんですけど」
高本の話を遮って質問する。高本は深く溜息をつくとニヤリと笑ってこちらを一瞥。そして隣の岩に座るように促した。
「まあ聞け。あのな、昔から言うだろ、働かざるもの食うべからずって。ここでは働かなくてもいい代わりに何もない。何もないんだ。なあに、望みさえしなければいいんだ、すぐに慣れるよ」
働かなくてもいい、その代わり何も望まない、そういうものなのだろうか。何か奇妙な違和感を感じると同時に、ここに来た時に感じた無気力な雰囲気、その正体が分かった気がした。そしてあの異常な静けさの意味も。
「でもそれって……」
僕が口を開きかけた瞬間だった。
カンカンカン
森の高台に据え付けられた鐘が鳴り響き、怒号が響き渡った。
「鬼だ! 鬼が来たぞー!」
それを聞いた高本はスッと立ち上がった。
「ちっ、鬼がきやがったか、おい、新入り、逃げるぞ」
高本は余程急いでいるのか僕の返事を待たずに森の奥へと消えていった。どうしていいのか分からず所在無くウロウロしているとメルルが大急ぎで飛んできた。
「大変大変! 鬼が来たわ! アナタも早く逃げて!」
「おいおい、鬼ってなんだよ」
「文字通り仕事の鬼よ! 私たちを捕まえて死ぬまで無理矢理働かせるの!」
「鬼とかメチャクチャだな!」
「私が「仕事をしたくない」という気持ちが生んだ精霊だって説明したでしょ、あの鬼は結婚7年目で子供も4歳になったんだけど家庭を顧みない夫に主婦として暇を持て余す妻、その妻が怒り爆発してリビングで夫に詰め寄るの「仕事と家庭どっちがたいせつなの?」「股その話かよ」「真面目に答えて」「はいはい、家庭です家庭」その様子を子供はハラハラしながら覗いてるわ。たまの休みも夫は接待ゴルフ、仕事仕事、もうついていけない、私離婚しようかと思うの、もうあの人とはやっていけない。結局ねー釣った魚に餌はあげないのよ、男ってヤツは。もちろん健二は私が育てるつもりよ、って高校時代の同級生に電話で相談する時の妻のような、そんな妻の夫を、いや、仕事を憎む怨念が産み出した悪霊なのよ!」
「ずいぶん限定的な怨念だな!」
「とにかく仕事の鬼よ! 捕まったら大変! 早く逃げて!」
ズシーン、ズシーン。重厚な足音が響き渡る。湖の中央を腰まで水に浸りながら真っ直ぐにこちらに向かってくる鬼の姿が見えた。山のように大きく、その表情は文字通り鬼の形相であることがここからも伺える。
「危険よ! 早く逃げて!」
「フハハハハハ! 聞こえるか、働かないゴミ蟲ども!」
「くっ! なんて禍々しきオーラだ」
「一人残らず強制労働送りにしてくれるわ! くらえ!」
鬼はこちらに向かって右手を大きく振りかぶった。
「有給休暇は与えるけどオフィスの雰囲気で死んでも取らせない衝撃波!」
ドゥーーーン!
「きゃあ!」
右前方で爆音が轟き大きなキノコ雲が見えた。その衝撃で森の木々が炎をあげてメキメキと倒れる。メルルが僕の周りを飛び回りながら逃げるように促す。
「早く逃げて、ここは長くは持たないわ!」
「いくぞ! ゴミ蟲ども!」
「終業時間になっても誰一人帰らない、っていうか帰る雰囲気すらないから当たり前のように残業豪衝波!」
ドゥーーーン!ドゥーーーン!
「くそっ! なんて悪辣な攻撃だ!」
大きく地面が抉れ木々を揺らす。崩れた岩たちがボチャボチャと音を立てて湖へと飲みこまれていった。
「さあ仕上げだ! 給料は微々たる金額上がってるんだけどそれ以上に税金が上がってるからどうしようもない、そのまえに給与明細によると毎月3000円も引かれているデータ費ってのが良く分からない衝撃波!」
ドゥーーーーーーーーン!
「鬼や、まさに鬼や。こんな悪辣な攻撃見たことない」
周囲は爆撃でもあったかのように煙が立ち上り、傷ついた人々がそこかしこにうずくまっていった。
「pato、早く逃げて、捕まったら最後よ!」
メルルが僕の鼻先で真剣な表情で叫ぶ。そこに大きな悲鳴が聞こえてきた。
「きゃああああ!」
「はなせ! 芳江をはなせ!」
「高志! 助けて! 助けて!」
「フハハハハハハ! この娘はもらっていくぞ」
「いやーーーー!」
先ほどのアベックの女性の方が鬼に捕まってた。
「くっ……!」
彼女を助けようと一歩前に身を乗り出す。
「ダメ! 助けに行ったらpatoまで捕まってしまう!」
「しかしいかないわけには……」
メルルを振り切って救出に向かおうとしたその時だった。
「まちな、WaTの実写ゲゲゲの鬼太郎を演じてないほうみたいな顔した若いの」
「高本さん……」
「ここじゃあ何も望んじゃいけねえ、望まない代わりに働かなくていい。彼女を助けたいという思いはお前の望みだ。働きたくないのなら望みは捨てる、それがここのルールだ」
高本はボロボロの帽子を被りなおしながら寂しそうに言った。
「ここでは何も望んじゃいけねえ……ああやって仕事の鬼に捕まりさえしなければ一生働かなくていいんだ、何が起きても望んじゃいけねえ……」
「そうよ、望んじゃいけないわ。望むことはエゴなの、エゴのぶつかり合いは不幸しかもたらさない」
「そんなエゴに疲れたから俺たちはこの世界にいるんだ、理解しろ、若いの」
「高本さん……メルル……」
ズシーン、ズシーン!
仕事の鬼は高笑いしながら来た方向を歩いて帰っていく。捕らわれた芳江の悲鳴はもうここまで聞こえない。湖畔で叫ぶ高志の声が聞こえるだけだった。
「さあ、また第二波の攻撃がないとも限らない。森の奥に逃げましょう」
「逃げるぞ! 若いの!」
メルルと高本さんが僕を急かす。けれども僕の足は一歩も動かなかった。
「……間違ってる」
「どうした、若いの!」
「急いで!」
「間違ってる!」
僕は声を大にして叫んだ。
「望むことはエゴなんかじゃない。僕らは望むからこそ生きていけるんだ。その望みはお金を稼ぎたいとかそういうのじゃない、平穏で楽しい毎日、そうやって生きていくことを望んでいる」
「若いの……」
「ここに来た時、奇妙な違和感に気付いたよ。こんなに綺麗な湖畔なのに動物の気配が全くしない。水の生き物のも森の生き物も皆無だ。動物は働きたくないなんて思わないからこの世界には来ない、みんなただ生きるために餌をとったり働くって分かってるから」
「pato……」
「そりゃあ確かに仕事が嫌で嫌で仕方ないこともある、行きたくないことだってある、でも、そうやって嫌がりつつも仕事をして平穏に生きていく事を望むから毎日が楽しんじゃないかな、よくわかんないけどきっとそうだよ」
高本さんもメルルも珍しい物でも見るかのような視線で僕を眺めていた。
「さあメルル、仕事の鬼の居場所を教えてくれ。俺は俺の望むままに彼女を助けるという仕事をすることを望む」
僕の決意に根負けしたのかメルルは仕方ないといった表情で話し始めた。
「仕事の鬼は湖の向こうの鉱山にいるわ。捕まった人たちもそこで強制的に働かされている鉄壁の城砦ともいえる鉱山よ」
「湖の向こうか……ならぐるっと周っていけば辿りつけるな」
「じょ、冗談じゃねえ! 俺はいかねえぞ、12年もここで平穏に暮らしてきたんだ。俺はここで同じように過すことを望む、絶対に行かないぞ!」
「高本さん、アナタはもうその時点で望んでしまっている。結局人は望まずには生きてはいけないんですよ」
高本さんは帽子を深くかぶりなおして言い放った。
「知った風な口聞きやがって! お前なんか鬼にでも何でも食われちまえ!」
捨てゼリフのように言い残してそそくさと森の奥へと消えていく高本さんに一礼し、僕は湖畔で呆然とする高志に声をかけた。
「これから君の彼女を救出に行く。鬼の根城に行くんだ。君も来るか?」
しかし、高志はプルプルと首を左右に振るだけだった。
「ダメか……じゃあ一人で行く。メルル、来たばっかりで申し訳ないけどお別れだ。ありがとう」
僕は湖畔に沿って走り始めた。目指すは鬼のいる鉄壁の鉱山、そこに捕らわれた人々を救うため僕は走る。
「アナタみたいな人はじめて」
30分ほど走っただろうか、急に右肩辺りから声が聞こえてきた。もちろんメルルだ。
「逃げなくていいのか? メルル」
「私はこの世界の案内人よ、アナタが迷わないように案内する義務がある。それが私の仕事だもん」
「そうか、メルルは仕事があるんだな」
走りながら会話を交わす。少し黙った後、メルルが切り出した。
「アナタにだけは教えておくわ、大切なことだから」
「大切なこと?」
「この世界は働かなくていい理想郷だって説明したと思うけど……」
「実際は違うんだろ」
「そう、実際は監獄なの。働きたくない、そんな無気力な人間を誘い込んで捕らえ、懲らしめるための監獄。ここでは何も望むことは許されずただ無為に時間が過ぎていくだけ。仕事の鬼の襲撃に怯えながらね。だから元の世界に帰る手段はないわ」
「それでも俺は望み続ける。この世界で仕事と呼べるものをして生き続けるさ」
「何十年ぶりかなあ、こんなにワクワクするのって……私、アナタに会えてよかった……」
「メルル……」
「着いたわ、あそこが仕事の鬼の鉱山よ」
そこには雷雲立ち込める禍々しき鉱山がそびえ立っていた。
「ようこそ! 我が根城へ! まさかこの世界の人間がここまで来るとは思わなかったぞ!」
「出たな仕事の鬼! 捕まえた人達を返せ!」
「クククク、返すわけにはいかんな! これは罰なのだよ。働かず生きていこうとする生命体としてあるまじき思想に対する罰なのだよ!」
高笑いをする仕事の鬼、懐に隠れていたメルルが飛び出して反論した。
「違うわ。人は誰も弱いの。色々な要因で働きたくない気持ちが強くなることがある。でも……それでも……人は望むのをやめない……嫌な気持ちを抱えつつ働く、それが人間の幸せなのよ!」
「メルル……」
「ええい黙れ! 妖精ごときが! 喰らえ! 職場の忘年会に行ったら上司の前の席になってしまい2時間丸まるお前は給料泥棒だと叱咤され料理も酒も手が出せないどころか全然忘年できなかった衝撃波!」
ドゥーーーン!
「きゃあ!」
「メルル!」
鬼の攻撃を受けて紙くずのように吹っ飛ぶメルル。僕は慌ててメルルに駆け寄った。両の手に収まる大きさのメルルはボロボロで、今にも消え入りそうなほど弱っているのが分かった。
「pato……もうダメみたい……最後に聞いて欲しいの……」
「もういい喋るな、メルル!」
「いいの聞いて。わたし、アナタに会えてよかった。こんな世界で案内人をしていた私だから、自分の望みのために働く人なんて見たことなかった。でも、今日アナタを見て始めて気づいたの。エゴなんかじゃない自分の望みのために働くアナタの姿を見て眩しいと思った」
「メルル……メルル……」
「気付いたの。仕事って英語でwork、これはね、望みを叶えるためにワクワクしてる人のことを指すんじゃないかって……私、patoのことす……」
「メルルーー!」
僕の手の中で輝きを失い、そのまま粉になってボロボロと崩れていくメルル。その質量は悲しくなるくらいに感じられなかった。
「おのれ仕事の鬼! 許さん!」
「ほう、人間ごときがこの私に勝てるとでも? この悪意の塊である私に! それもこの世界に捕らわれたほどの無気力人間がな!」
ゆっくりと両の手を広げる仕事の鬼。周囲を覆っていた雷雲が鬼の下へと集まった。
「喰らえ! 我が最強奥義! 朝職場に行ったら自分のデスクがなくなっていた爆裂翔!」
「ぐはあああああああああああああ!」
ダメだ、やはり勝てない。勝てっこない。人間は所詮無力なものだ。この悪意の塊である仕事の鬼に勝てるはずがない。僕は仕事に打ち勝つことはできないのか。
「さあ、とどめだ! あの世でメルルが待っておるぞ!」
いよいよダメかと覚悟を決めた時だった。
「待たせたな! 若いの!」
「高本さん!」
「芳江を返せ!」
「高志くん!」
「俺たちはもう、働くことを怖れない!」
「それにみんな!」
あれほど無気力だった人々が群集となって鬼の鉱山へと押し寄せた。あるものは鬼に向かって石を投げつけ、あるものは牢から捕らわれの人々を救出する、百姓一揆さながらの暴動、皆はそれぞれワクワクするような冒険心に満ちた表情をしていた。
「12年ぶりだ、こうやって何かをやってワクワクするってのはな! 大口の投資を引き受けた気分だぜ! 若いの!」
高本さんがハツラツとした表情で駆け寄ってくる。
「やっちまえ! 若いの!」
「はい! くらえ!仕事の鬼! 仕事をしていたら全然知らない人に感謝されたりして、明日も頑張ってみようかなって思うスーパーソニックジェットボーイ!!!!!」
「そんなまさか! 人間ごときにいいいいい!!! ぐはあああああ!!!」
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気がつくと、そこは街路樹に囲まれた道路の真ん中だった。木々に暮らす鳥達の鳴き声が聞こえた。僕は車の運転席に座りハンドルに突っ伏して気を失っていたようだった。まさかアレは夢だったのだろうか。仕事に行きたくないという現実逃避が産み出した幻影だったのだろうか。いや、そんなはずはない、あれは間違いなく現実だった。その証拠にこの両の手に残るメルルの感触。両手を眺めるとフワッと粉が舞い上がり、メルルのようにクルクルと僕の鼻先を舞うとフッと消えていった。
「メルル……」
あれが現実だったとしたならば、こっちの世界に帰ってこれたということなのだろうか。捕らわれ、一生抜け出ることのできない無気力の世界から帰ることができたのだろうか。そうなると他の人々はどうなったのだろうか。
ふと横を見ると、見覚えのあるアベックが通りを歩いていた。男はスーツを着用し、女は何か事務服のような制服を着ている。
「ほら高志、一戸建て買うんだからもっと働かないと!」
「う、うん、でもたまには休んでデートしようよ」
その奥には、アタッシュケースを持ったサラリーマンが忙しそうに携帯で話をしながら歩いている。
「はい、先ほど投資信託の件でお電話いただいた。はい、そうです。今から伺いますので」
僕はその光景を見ながら笑顔でハンドルを切りUターンした。さあ仕事に行こう。街路樹が僕らを激励するかのように優しく揺れ動いていた。
おわり
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とまあ、新年から見紛うことなくトチ狂っているわけなんですが、いやー、みんなよくココまで読んだね、敵ながらアッパレだよ。何がメルルだ、死ね。
とにかくですね、正月休み明けの月曜日、仕事に行きたくないって気持ちが猛烈に昂ぶってしまいましてね、もう書かずにはいられない、書かなきゃいけないって訳の分からないことになっちゃいましてね、早く寝ればいいのに書いちゃったわけなんですよ。
もう面倒じゃないですか。ただでさえ月曜日って面倒でしょ、憂鬱でしょ。土曜日、日曜日とパラダイスのような休暇が無情に流れて仕事の始まる月曜日、いっそのこと月曜日なんてなくして日曜日の次は火曜日にすればいいと何度思ったことか。そして、そうなったら今度は火曜日が憂鬱になるんだぜ、と何度思い留まったことか。
とにかく、その憂鬱な月曜日と仕事始めが重なる魔のブラックマンデー1月7日、ダブルパンチ、家に帰って電気停められたー!って落胆してるところに水でも飲んで落ち着こうと蛇口をひねったら水道まで停められてたみたいな状態ですよ。よくわからんけど。とにかく、この日が本当に嫌でしてね、メルルとか書いちゃう暴挙に出ちゃったわけなんですよ。何がメルルだ、死ね。
でもまあ、上の文章のように仕事が嫌、年末に仕事で大失敗をやらかした失敗マンだっていうのも確かに大きな要因なんですけど、それ以上に仕事に行きたくない、いや、職場に行きたくない要因ってのがあってひどく憂鬱なんですよ。
ほら、年賀状ってあるじゃないですか。正月にドコドコ届くヤツ。あの年賀状ってヤツが嫌いでしてね、子供の頃はお年玉に並ぶ正月の一大スペクタクルとして楽しみにしていた節があるんですけど、どうも大人に、いや社会人になると面倒くさくてしょうがない悪習としか感じられないんですよね。
年賀状ってあまり良い思い出ないですし、昔、このサイトで閲覧者の方に年賀状出します!と宣言しててあまりの面倒くささに4通出して力尽きたとかそういう悲劇しか思い出せないんですよ。で、今の職場でも最初の方は数人の同僚から年賀状来てたんですけど丸っきり無視してたんですよね。
全然返事出さないのも社会人としてどうかと思うんだけど、仕事始めで会ったりしても何も言わないですからね。お礼も言わない。まるでそんな年賀状など存在しなかった、郵便局のバイトが配達するの面倒で側溝に速攻で捨てたのかもよって振る舞いだったんですよ。あ、今、微妙に上手いこと言えたね。
で、そうなってくると来なくなるじゃないですか、誰もそんなゴミに年賀状送らないじゃないですか。年賀ハガキって結構高いんですよ。それにそんなゴミに自分の出したハガキで「ふるさと小包」とか当てられたら嫌でしょ、だからもう職場メンツからは来なくなってましてね、去年なんかメガネ屋とピザ屋からしか来なかった。メガネ屋のなんて「その後メガネの調子はいかがでしょう?」とか書いてやがって、そんなもんとっくに壊れて捨てたつーの。
ともかく全然来なくて清々したわ!とか思いながら過してたんですけど、なんと今年、ネズミ年である今年2008年の年賀状、とんでもないことになってた。なんかですね、職場の同僚全員で示し合わせたのか知りませんけど、なんと、同僚全員から年賀状が着やがったんですよ。初めて知った、沢山年賀状が来ると輪ゴムで止めてあるんだな。
これは新手の嫌がらせの部類に入ると思うんですけど、たぶんアイツ返事出さないから皆で出して嫌がらせしようぜ的な謀略があったんだと思います。そうじゃないなら、実は僕は肛門ガンか何かで先が長くなくて、それを知らないのは僕だけで職場の皆は知っている、あいつには優しくしようぜってことになっちゃったりしてね、マミちゃんとか泣いちゃうの。
とにかく、全員で年賀状送ってくるという暴挙に新年からあったまきましてね、一人で憤慨していたわけなんですよ。望んでないのに勝手に送ってくんな。
色々と見てみますとね、やっぱ年賀状って頭に来るんですよ。なんか家族の写真とか載せやがりましてね、「今年もよろしくお願いします」とか書いてあるんですけど、僕はそんな家族までヨロシクされる筋合いはないですからね。おまけに下のほうに全員の名前が書いてあるの。祐樹(5歳)美紀(2歳)とかね、その横に手書きで「やっと一人で立てるようになりました」とか書いてあるとオメーは正月から何をトチ狂ってるんだって気分になるってなもんですよ。そんなお前の家庭のマル特情報なんか知りたくねーよ、頭の中に正月から餅を喉に詰まらせて旅立ったお爺ちゃんでも詰まってんじゃねえか。
「お正月いかがお過ごしですか?」とか書いてるのまでありましてね。そんなの知ってどうするんだよ、知ってどうするんだよ、本気で知りたいのかと、お前本気で正月のpato情報が知りたいのかと、あのな、お前の年賀状受け取った日、「全裸で日本舞踊」っていうエキサイティングなエロ動画をダウンロードしてウィルスに感染して大変なことになっとったわ。Windowsが立ち上がらなくなってな、え、満足か、コレで満足か。
まあ、こんなのはまだ良いほうで、酷いのになると干支の絵とか描いてあんの、今年ならネズミなんですけど、なんかファッショナブルにデザインしてね、正月からとんだアーティスト気取りですよ。中にはネズミってことでミッキーマウスとか書いてる土人がいるの。おいおい、正月から版権大丈夫かよってこっちが心配になる。
で、干支の絵までなら、ネズミの絵までなら正月ですし僕も耐え忍びますよ。やっぱ正月ってウカレポンチになりますからね、悪乗りして年賀状書いちゃう暴挙も許す、ネズミの絵も描いて良い、でもねその横のメッセージに
「今年もよろしくおねがいしまちゅ〜」
とか書いてあんの。ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、むかつくうううううううううううううううううううう、正月からムカつくうううううう。もう発狂するかと思ったね。意味不明に革ベルト持って暴れるくらいムカついちゃってね、この差出人は僕が猟銃の許可とか持ってなかったのを感謝すべきだってもんですよ。
で、中には裏面だけじゃ飽き足らず表面、なんか差出人の住所とか書くところにまで「正月飲みすぎチューい!」とか書いてるエテ公までいる始末。もう日本の行く末が心配だよ。アメリカだったらこんなの撃ち殺されても文句言えないよ。
とにかくまあ、同僚全員に返事出さないのってマジヤバイじゃないですか、社会的体裁とかあるんですけど、それ以上に村八分とかにされたら繊細な僕は傷つくじゃないですか。で、なんとか返事を出そうと思ったんですけど、わざわざ年賀状買ってきて書くのって面倒じゃないですか、ウィルスに感染したパソコンも直さないといけないしそんな暇ないですよ。
でもね、今は文明の利器ってやつがあるじゃないですか。そ、このパソコンですよ。このパソコン使って年賀メールってヤツを送ってやればいい、これならば面倒でもないし年賀状を出したという既成事実だけが残る、もう最高だよな、インターネット、全然関係ないのにヤマダ電機に電話してパソコン直した甲斐があったよ。ダウンロードしたファイルの名前まで言わなくていいですって女の店員さんに言われた甲斐があったよ。
そんなこんなで、先ほどシコシコと年賀メールを送信、日付にして1月6日、仕事始めの一日前、どう好意的に解釈しても駆け込み年賀メールです。とにかくこれで一安心だぜー、こりゃ新年から大快挙だな、って思ったんですけど、なんか一通出し忘れていたんですよね。
それがアパートの集合郵便ポストじゃなくて、僕の部屋のポストにダイレクトで届いていた年賀状だったんですけど、同僚の野上君がくれた年賀状に返事を出すの忘れていたんですよね。
でまあ、見ると野上君の年賀状には「飛翔」とか安いシャブでもやってんじゃねえかってことがデカデカと書いてあったんですけど、こいつにも返事出さないといけなかったんですよね。
でまあ、メールソフトを立ち上げて野上君のアドレスは年賀状に書いてありましたからそれを入力して「今年もよろしくお願いします」みたいなみんなに送った無難なメッセージをコピペしてポンポンッと送ってやった訳ですよ。もう60人くらいにやった作業ですから手馴れたもんですよ。
そしたらアンタ、上の文面マルっすよ、マル。妖精に出会って仕事の鬼と戦うファンタジーマルっすよ。更新に使うからコピペしなきゃなって入れておいたのがそのままペタアアアって貼られてやがるんですよ。正月から頭おかしい。
前にもコピペミスで女子大生にとんでもないメール送ったことあるんですけど、これはその比じゃねーでゲスよ。落ち着いてもう一度最初から読んでごらんなさい、クソ長いけどこれが職場の同僚から突如送られてきたと思いを馳せて読んで御覧なさい。色々ととんでもないことになるよ。野上君だって「飛翔」なんて書いて年賀状送ったらとんでもない方向に飛翔しちゃったなーって思うはずですよ。
とにかく、そんな事情もあってか、初春から思いっきり仕事に行きたくないわけなんですが、とにかく、出勤して挨拶して野上君に「あけましておめでとう、メルル」とか言われたらまた働かなくて良い世界に逃避しようかと思います。
こんな僕ですが、2008年もNumeri共々なにとぞよろしくお願いしまちゅ〜。
12/31 ぬめぱと年越しレィディオ2007-2008
ぬめぱと年越しレィディオ2007-2008
放送開始12/31 PM6:45
放送終了CDTVライブの大塚愛の出番終了まで
放送URL (終了しました)
放送スレ (終了しました)
放送内容
・2007年総決算
・童貞たちの年越し
・車を盗まれた話
・CR花の慶次で11万勝った話
・賞品総額8億円福袋ビンゴ大会
メールテーマ
・2007年特に印象に残ったこと
・懐かしくなるもの
聞き方 http://spill.jp/
年末年始のテレビ番組を見ながらマッタリとカックラキン大放送。あと、昨年同様親父がうちにやってくるという不穏な噂を聞きつけたのでその場合は放送中止となります。
12/29 ぬめぱと年越しレィディオ2007-2008
ヤンバルクイナのおじちゃんはすげえかっこよかった。
年末年始といいますと普段はあまり会わない人と会う機会ができるものです。遠くの親戚だったり古い友人だったり、とにかく懐かしい人だったり、どこか忙しない世間の流れにあって逆流する時間の流れがある、それが年末年始なのかもしれません。
「お、高志君大きくなったな!」
「おじちゃんあけましておめでとう!」
「なんだあ、お年玉目当てか?」
「うん!」
こんな光景が見られる年末年始、僕らが大切にするべきものなのかもしれません。未来へと行き急いでいる感じのする昨今、時間を巻き戻す年末年始こそが必要なのです。
僕が子供の頃、年末年始になると必ず我が家にやってくるおじさんがいました。親父の友人だったか知り合いだったかって感じの人で、我が家に来るたびに自分で撮ったのかヤンバルクイナの写真を見せてくれる人でした。僕はヤンバルクイナのおじさんと呼んでいたのですが、その人がすげえ大人でかっこよかった。
クソガキだった僕から見たら、落ち着いた感じのするヤンバルクイナのおじさんはすげえアダルティーで渋かった。気が狂ったっていうか気が触れた親父しかいなかったものですから、とにかく落ち着き払った大人の男性っていうのがとにかく新鮮だった。
僕も大人になったらヤンバルクイナのおじさんのように渋い大人になりたい、そう誓った8歳の時の年末年始、ヤンバルクイナのおじさんの年齢は31歳だった。
さて、あの時のヤンバルクイナのおじさんと同じ31歳となったこの僕、ここ最近は何をしていたかと言いますと、まあ、クリスマスイブにお届けした「ぬめぱとクリスマスレィディオ」ですかね。
聖夜にお送りする年に一度のノンストップ泥酔ラジオ、飲みすぎてヘベレケ、大声で歌ったりしたものですから後日アパートの管理会社の人に怒られました。それあいいんですけど、これだけでも31歳にもなってなにやってんだって思うんですけど事態はもっと深刻で、最後まで放送聞いてくださっていた方なら分かると思いますけど、途方もない事態が巻き起こってしまったのです。
泥酔しすぎてまともにトークできない僕、それでもラジオは続けるのですが、お酒のせいなのか何のか、ものすごくお腹痛くなって下痢しちゃったんですよね。ラジオ放送中といえども平気でトイレに行く僕ですからそのこと自体は別にいいんですけど、問題はその後です。
下痢が一通り治まると今度はオナラ連発タイムに突入してしまいましてね、で、そのオナラサウンドをネットラジオに乗せて世界中に配信するという行為にいたくハマってしまったんですよ。で、ブーとかピーとか音をマイクに拾わせて悦に入っていたんですけど、そこでラジオを聴いていた人からある指摘が、
「おい、音がどんどん水っぽくなってるぞ、危ない」
しかし、そんな忠告も泥酔している僕には届きません。調子にのってさらにヒートアップしてオナラを連発していると
ニュル!
っと禍々しい何かがゴールデンゲートを通過。僕の大好きだったテレビ番組でアメリカ横断ウルトラクイズってのがあって、ハワイだったかグアムだったかに向かう機内の中でクイズを解かせるんですよね。で、それに合格すれば上陸できるし、不合格だったら東京にトンボ帰りって過酷なクイズがあったんですよ。で、その合否を判定するのに飛行機のタラップのとこにゲートがあるんです。合格ならピンポンピンポーンとかいって南国美女が花輪かけてくれるの。いやー、その合格者みたいな勢いで禍々しき何かが通過してきたんですよ。
いやね、イブになにやってんだとか2000人近くの人が聞いてる前で何やってるんだって言いたくなりますけど、それ以前に31歳にもなってなにやってるんだって言うべきでしょ。ホント、色々な意味で終わってる。終わってるとしか思えない。
僕も、イブの夜に酒を飲みつつ軽やかにラジオって思ってたんですけど、まさかそれが人間としての尊厳を問われる事態になろうとは夢にも思わないですよ。誰にでもできる軽いマッサージだからって聞かされて働き始めた孝子が、思いっきり性風俗店で働くはめになった、みたいなもんですよ、よくわからんけど。
ということで、ヤンバルクイナのおじさんみたいなアダルトダンディーには程遠いですけど、そんな人間失格31歳がお送りする毎年恒例の年越しラジオの告知。今年のテーマは「時間を巻き戻す」です。
ぬめぱと年越しレィディオ2007-2008
放送日時 12/31 18:45
放送テーマ 時間を巻き戻す
です。年末年始お暇な方は是非是非お聞きください。今度はウンコ漏らしません。
12/24 Numerry Christmas
さてさて、異様にむさ苦しいトップページですが、クリスマスを彩る男臭い画像はまだまだ募集中!ただし、ネットで拾ってきたおもしろ画像を送ってくるのはやめてください。応募作品の9割は拾ってきた画像でゲンナリしました。まだ全部貼り切れてないのでちょくちょく貼っていきます。応募はこちら(終了しました)
そしてそして「ぬめぱとクリスマスレィディオ2007」の告知。
ぬめぱとクリスマスレィディオ2007-やれんのか!-
放送開始12/24 PM9:13
放送終了12/25 AM1:08
放送URL 終了しました
放送スレ 終了しました
放送内容
・クリトリスの思い出
・童貞たちのクリスマス
・車を盗まれた話
・CR花の慶次で11万2510円負けた話
・賞品総額6億円クリスマス大ビンゴ大会
・クリスマステレクラ決戦
もちろん女子供はすっこんでろで泥酔しながら放送いたします。いつもは控えめにしているお酒をリミットなしで摂取のカックラキン大放送!お一人で寂しい方はぜひぜひお聞きください!
12/18 Numeri男祭りのお知らせ
さてさて、今年もクリスマスが近づき、ウチの近所のコンビニでは毎年恒例なんですけど、店員がサンタの衣装で接客するという大暴挙に乗り出しました。バタフライナイフでも忍ばせてそうなオタク店員やら、どう見てもヤンキーあがりとしか思えない店員がサンタ衣装に身を包んでオデンとかかき混ぜてるのを見ますと、蛾のような色彩をしたファッションのオバサンが愛犬に服を着させてホクホクしてるのを見たような、そんななんとも言えないやるせなさが湧き上がってきます。
コンビニ店の暴虐はそれだけに止まらず、前々から死のそうな老婆がパートとして働いていて危なっかしさを感じると同時に、こんなお年寄りが深夜まで働かないといけない日本社会は狂ってる、と歪んだ経済大国に憤りを感じていたのですけど、なんと、その老婆にすらサンタ衣装を着せるというコンビニ店の迷走ぶり。しかも赤じゃなくて白を基調としたサンタ衣装なもんだから恐ろしい。まるで死に装束じゃないか。
もうね、クリスマスは人を狂わせるよ。狂わせる。僕はどんなにクリスマスが近づこうとも、どんなに街が華やかなイルミネーションに包まれようとも、どんなに山下達郎が出てこようとも老婆に死に装束を着せようとは思わない。決して来るべきクリスマスにウカレポンチになったりしない。
でもですね、世の中ってのは往々にしてウカレポンチでしてね、クリスマスともなると大抵が浮かれるんですよ。カップルが浮かれて「お前の鼻はなぜ赤い」とか唄いながら「あれー、ミユミユのここも赤いぞー、うりうり」「やだぁー、もう変なところばっかり!」とベッドで大ハッスルするのはモチロンで、僕がミキサー大帝ならば抜け殻になるまでミキサーを回すのですが、それ以外でも許してはならないウカレポンチが存在するのです。
例えば、彼氏のいない女の子が4人いたとしましょう。4人は仲良しで、今年も寂しいねなんて言いながらクリスマスを迎えます。クリスマスイブは女4人で集まってパーティとかしちゃうわけです。
「あーあ、結局今年も彼氏できなかったな」
「ホント、女ばかりで寂しいクリスマスイブ」
「どっかにいい男落ちてないかなー」
「でもわたし、まだ彼氏とかいいから、皆といるほうが楽しいし」
「またまたー、芳江はいい子ちゃんぶっちゃって」
「ホント、こんないい女の私たちに彼氏がいないなんておかしいよ」
「なにいってんの!朝子はモテるくせに理想が高すぎるんじゃん」
「そうそう理想が高すぎるのよ」
「なによ、満子だってワガママすぎて男がついてこれないだけじゃない」
「あー、ひっどーい」
「その点、芳江は彼氏できないのが不思議だよねー、かわいいし料理上手だし性格もいいし満子とは大違い」
「そんな、私は彼氏とかは別にまだいいし……」
「なにいってんの!私知ってるんだから、最近芳江が高志君といい感じなの!」
「えー、高志君ってあの爽やかボーイ?」
「違うよ!朝子何いってんの!そんなんじゃないってば!」
「芳江、顔真っ赤だよ」
「あれあれー、これはもう高志君呼んじゃうしかないんじゃないかなー」
「いいねー、呼んじゃおうよ」
「ダメだって!迷惑だよ!クリスマスイブに!」
「おー、メアド発見!芳江っぽく「寂しいから今すぐ来て!」って送っちゃおう!」
「ダメ!やめて!携帯返して!」
「あっ!すぐに返信きたよー、高志君も暇なんだねー」
こうして訳もわからぬうちに女の子だけのパーティーに呼ばれることとなった高志。女の子の家なんて初めてだよ、とドキドキしながらインターフォンを鳴らします。
「おーきたねー!」
「ひゅーひゅー!」
「芳江がどうしても高志君に会いたいっていうからさー」
「そんな!アタシは別に!」
「まあまあ!二人とも飲んで飲んで!」
借りてきた猫のように大人しくしている高志を尻目に朝子たちは酒池肉林の宴を繰り広げる。そのうち酔いつぶれて寝てしまい、酒の空缶が転がり焦土と化した部屋で高志と芳江が二人っきりになってしまう。
「ごめんね、朝子が急に高志君を呼ぶって言うから」
「うん、でも楽しかったよ」
「クリスマスイブなのに……高志君も忙しかったでしょ?」
「一人で暇してたよ。パソコンの前でキチガイのネットラジオ聞いたりしてね、ははははは」
「そうなんだ」
妙にお互いを意識してしまう二人、静寂だけが二人を包んだかに思えたが、朝子のいびきが異様にうるさい。芳江は決意する、この気持ちを高志君に伝えよう、今しかチャンスはない、勇気を出して伝えるんだ。心臓の鼓動が高鳴り口から飛び出しそうな感覚を覚える。
「あの……!」
「あの……!」
二人同時だった。二人とも同時にお互いに向き直り、何かを決意したかのように話を切り出したのだった。
「あ、どうぞ」
「ううん、高志君からどうぞ」
「いやいやどうぞどうぞ」
先ほどまでの緊張が嘘のように場の空気が弛緩するのを感じた。なんだかお互いにバツが悪い思いをしながらドギマギしてるいるのが無性におかしかった。
「クスクス……」
「な、なにかおかしかったかな?」
「だって、高志君いっつもそうなんだもん。初めて会った時もほら」
「ああ、大学の事務室で」
「そう、履修届けを出すのに、私と高志君が一緒のタイミングで、お互いに譲り合ったじゃない」
「そうだったねえ」
「わたし、田舎から出てきたばかりで東京の大学って怖かったから、こんなに腰の低い人がいるんだーって安心したんだよ」
「それって褒めてるのかな?」
「そうそう、それに社会学のゲシュタポ教授が怒った時あったじゃない」
いつも無口な芳江が饒舌に口を開く。きっとサンタさんが一握りの勇気をプレゼントしてくれたんだ。
「あ、みてみて、雪!」
窓の外を見ると静かに雪が舞い降りてきている。大喜びでベランダへと出る高志と芳江、雪を背景に都会の街明かりがクリスマスイルミネーションのように瞬いていた。
「ホワイトクリスマスだね、綺麗……」
「うん、本当に綺麗だ」
しばらく雪を眺める二人、また静寂が訪れた。音もなく降り続ける粉雪をただただジッと眺めていた。
「小さい頃、サンタさんにスーパーファミコンをお願いしたんだ。でも、その年のクリスマスプレゼントは百科事典だった」
「えー、そっちの方が高価じゃない?」
「うん、それ以来、サンタはいない、サンタは親父だ、サンタにプレゼントのお願いなんかしないって決めてた」
「高志は頑固だから(笑)」
「でも、今はサンタにお願いしたい。十数年ぶりにサンタにお願いしたい気分なんだ」
「へえー、何をお願いしたいの?」
高志は黙って雪を見つめると、何かを決意したように切り出した。
「勇気をくださいってね」
「勇気?」
「うん、自分の思いを伝える勇気。ほんの一握りの勇気でいいんだ」
「…………」
吐く息が白くなるほどの寒さなのに、芳江の顔はカーッと赤くなった。
「芳江ちゃん、初めて会ったときからずっと好きだったんだ」
芳江は手のひらで降り積もる雪を受け取るとそれをギュッと握り締めた。
「この一粒の雪ほどでいい。だから私にも勇気をください。高志君、ずっとあなたのことが好きでした」
「芳江ちゃん……」
「高志君……」
「メリークリスマス」
薄っすらと地面に積もっていた雪、部屋からの明かりに照らされて二人の影を映し出す、その2つの影が重なる。朝子のイビキがクリスマスキャロルのように鳴り響き、まるで二人を祝福しているかのようだった。
クリスマスは全ての人に優しい。クリスマスにほんの一握りの勇気を。
おわり
っていうね、こういうウカレポンチというかウカレチンポな物語があらゆるところで展開されてるわけですよ。なーにが「一握りの勇気を」だ。言ってて恥ずかしくないのか。ホントね、僕がウナギの養殖業者だったら間違いなくイブにウナギを撒きまくるよ。ピチピチんぽ活きのいいウナギをクリスマスツリーとかにかけまくるよ。それくらいね、昨今のウカレポンチなクリスマスに憤りを覚えてる。
ということで、今年も毎年恒例の「ぬめぱとクリスマスレィディオ」と「Numeri男祭り」をクリスマスイブに決行致します。で、今日は男祭りの告知です。
これはまあ、皆様から画像を送っていただいて、それをイブの日にNumeriトップに貼りまくるという企画なのですが、是非ともウカレポンチな女子供がページを開いた瞬間に悲鳴を上げるような強烈な画像を送っていただきたい。詳しくは募集要項を見て頂くとして、とにかく画像を送って欲しい。
昨年は男性のネットアイドル風プロマイドがツボでして、約80枚ほどのむさくるしい画像が所狭しとNumeriトップに貼られておりました。ちなみに、あまりの熱気にNumeriサーバーがダウンするという前代未聞の異常事態まで勃発しました。今年も是非ともNumeriサーバーを落として欲しい。ということで募集要項。
Numeri男祭り2007
募集要項
男性の、もうムンムンに男臭い画像を送付してください。メールからクサプーンと臭ってきそうなものをお願いします。
開催日
12月24日0時
Numeriトップにモリモリと男画像を貼りまくりむさくるしいトップでクリスマスイブを過します。
あて先
こちらまで題名を「Numeri男祭り」として添付画像を貼ってお送りください。その際にはお名前、サイト名(あれば)、何かメッセージなどをお願いします。
注意事項
・男ッ!って画像ならなんでもいいです。
・他者の著作権、肖像権を侵害する画像は禁止です。
・自分の顔写真の場合は「Numeri」などのメモ書きを持って写ってくれるとやりやすいです。
・チンポコ禁止 サイトが焦土と化します。
・イケメン禁止
・イケメンが「おれ、ブサイクっすからw」とか決め決めの表情を送ってくるのが一番ムカつく
・筋肉ムキムキとか最高、照り焼きみたいになってるの待ってます!
・もちろん、女禁止
ということでお待ちしております。クリスマスは全ての人に優しい。クリスマスにほんの一握りの勇気を。勇気を出して画像を送ろう。
12/13 甘き死よ来たれ
いやー、車盗まれましてね。
とまあ、軽やかに季節の挨拶の如く導入してますけど事態は深刻でしてね、なにせ車ですよ、車、キティちゃんのシャーペンを盗まれるのとは訳が違います。あまりの動揺に取り急ぎ1行更新だけして皆様と悲しみを分ち合おうとしたのが一つ前の日記なんですけど、その、あれですよ、いくらなんでも一行日記はないと思うんですよ、一行日記は。そういうのって自分で書きながら頭腐ってるとしか思えない。もっとどういう状況で盗まれたのか、どうして盗まれたのか、それは社会のせいだ!みたいな文章を切々と書かないといけないと思うんですよ。1行日記、ダメ!ゼッタイ!
でもまあ、どこにでもいると思うんですけど、妙に不幸自慢するパッパラパーな女性とかいるじゃないですか。ウチの職場にもいかに男に騙されて象牙の印鑑を買わされたとかラッセンの絵とかそういった類の不幸話を切々と語る女性がいるんですけど、そういうのって結構、可哀想な自分を見て!そして慰めて!的な素養をふんだんに含んだ感じで一行日記を更新した僕の気持ちも汲み取って欲しい。
そういった26歳OL的なフィーリングで「コンビニで車盗まれた」とサイト上で力強く一行カミングアウト、それを見て心配した閲覧者の方々から「大丈夫ですか?」「元気出してください」「僕のポルシェあげます!」といったメールがドコドコ来ることを期待していたんですよ。うん、期待してなかったって言ったら嘘になるからね。マジ期待していた。
でまあ数日後に、よしよし、今日はみんなに慰められちゃうぞー、メールボックスがパンクしてたらどうしよう!もしかしたら体で慰めてあげるとか書いてる女の子がいたりして、むふふ、と喜び勇んでメールチェックをしたんですよ。そしたらアンタ。
「ざまあみろ!」
「盗人ナイス!」
「patoしね!」
「pato生まれてくるな!」
「はやく本送れ!」
といった正視に耐えないメールがドコドコやってきましてね。僕の心の非常にデリケートな部分を揺さぶったんですよ。生まれてくるな!ってもう生まれてしまって31年も生きてしまってますがな。
ホント、皆さんが何を考えてるのか分からない。どうしてそこまで非道な鬼になれてしまうのか、どうしてそんな悪辣な言葉を吐けるのか、人の心に巣食う修羅を見た気分にすらなってきます。アナタたちは根本的に間違っている。なんでもっとこう犯罪被害者をいたわれないのか。
アメリカのドラマとか映画とか観てますと、犯人が逃げる時とか犯人を追いかける刑事みたいな人とか、よく道端に停めてある車を盗むじゃないですか。それはそれは鮮やかに、中国人窃盗団も真っ青のお手並みで盗みますよね。まあ、物語の進行上必要なんでしょうけど、以前は「よしいったれ!」とエキサイトして見ていた僕も、いまやそのシーンを見るだけで腹が立ちますからね。お前らはそうやってタクシー気分でホイホイと人の車盗むけど、もっと盗まれた人の気持ちを考えろ!って言いたくなっちゃいますからね。ホント、盗まれた立場になって初めて気持ちがわかったよ。
世の中ってのは往々にしてこういった構図になっているもので、人は人が痛んでいてもその心は痛まない。なぜなら自分は痛くないからだ。自分が痛む段になって初めてその痛みを知る。人の痛みを知ろうとしないのに、前述の同僚女性のように自分の痛みは他人に死って欲しい、人間とはかくも矛盾を含んだ面白い生物なのです。
アメリカのジャーナリストであり広島市の名誉市民でもあるノーマン・カズンズは「人間の選択」の中でこのような言葉を述べています。
「人間の傷や痛みに無頓着な態度は、教育失敗のこの上なく明白なしるしである。それは、また自由社会の終わりの始まりである」
傷や痛みを知らないということは言うまでもなく他者へのいたわりを失うことを示しています。自由社会とは完全なるフリーダムではなく、人が他者をいたわることを前提に絶妙なバランスで成り立っている。他者の傷や痛みを知らずに好き勝手、多くの人がそれをやり始めると自由社会は崩壊してしまうのです。
勝ち組だ負け組みだともてはやし、未曾有の平成大不況を通り抜けた日本社会にアメリカ式のドライなビジネス哲学が導入されました。それに伴ってなんだか人の痛みに無頓着な方向に傾いている感覚すら感じ、日本特有の「情」という言葉が前世紀の遺物に成り果てた気さえします。あらゆるニュース、あらゆる現象、そこに確実にいるであろう痛んでいる人の痛みが聞こえてこないのです。このまま日本という自由社会は終焉に向かっていくのではないか、漠然とそう思うことがあるのです。
とにかく、皆さんが「ざまあみろ」とか口汚い罵りを口にするのは別に構わず、僕はまあ生粋のマゾ気質ですから、そのような罵倒を頂く度に「アヒィ!」などと快楽に身悶えるのですが、もっと他人をいたわってもいいのではないか、顔の見えないインターネットだからこそ、バーチャルの世界だからこそ、希薄な他者という存在をいたわる必要があるんじゃないか。過激で攻撃的なインターネットの時代は終わった、これからは優しいインターネットの時代だよ、ってことで今日は事件の顛末を皆さんにお話したいと思います。そうすることで少しは僕の痛みを分かってもらえると思うから。
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「本当にあの日の僕はどうかしていた……」
今回、車両窃盗という未曾有の凶悪犯罪、その被害に遭ったP氏は我々の取材に対し深刻な面持ちで重い口を開き、当時の状況を語り始めた。
「犯人に人の心があるなら、少しでも悪いと思うなら返して欲しい……僕の車を……」
事件当時の心情が蘇ったのか、P氏は俯きながら弱々しく言い放った。頬を伝い膝の上に落ちる涙が記者の目からも確認できた。
「あの日は寝坊したんです。大切な仕事に寝坊したんです。今思うとそれが終わりの始まりでした」
P氏はまるで心の中に溜めていたモヤを吐き出すかのように、忘れたい過去を搾り出すかのようにその日の状況を語り始めた。
P氏は今年31歳、田舎町に生まれ、普通に進学して普通に就職をした。就職先は生まれ故郷から遠く離れた町、同じように田舎だった。インターネットなどで自身の文章を発表するのが趣味のようで、暇を見つけては文章を書く、そんな日々を繰り返していたようだ。
職場での評価は低く、我々の取材によっても「仕事をしない」「セクハラ」「死んで欲しい」「飲み会には誘わない」などの辛辣な意見が多く聞かれた。そんな彼が寝坊し、仕事に遅刻しそうになったのが今回の事件の発端のようだ。
「いやー2時間くらい寝坊したら諦めもつくんですけど、5分寝坊って結構微妙じゃないっすか、急いだら全然取り戻せるじゃないっすか」
悪びれずこう発言するP氏、その後も楽しそうに状況を語り続ける。普段は無口だが話し始めると止まらないタイプのようだ。職場で嫌われているというのも頷ける。
焦ったP氏は急いで身支度を整え、車を走らせて職場へと向かう。職場までの通勤時間は1時間。いつもより速度を出して5分の寝坊を挽回しようと必死だったようだ。この時は自慢の愛車も元気だった、まるで跳ね馬のようだったとP氏は語る。
急いだ甲斐もあって彼は規定の時間に職場へと到着する。朝の挨拶と共に元気に職場へと入る、そこで彼は衝撃の光景を目撃する。
「いやね、何か大切な行事があったらしくて、同僚全員がギッシリスーツ着て偉い人の話を聞いてるんですよ。僕は偉い人が来るってのすっかり忘れちゃってましてね、思いっきりジャージ姿で普段の仕事スタイルですよ、笑っちゃうでしょ」
彼の表情からは反省の色は読み取れない。自分で話をしながらドンドン盛り上がってくるタイプのようで、笑いながら話し続ける。記者はそんな彼を心底気持ち悪いと思った。
「上司にもう帰っていいよとか冷酷に言われちゃってね、そうなると困るじゃないですか、さすがの僕も困るじゃないですか」
確かに、上司にそんなセリフを言われたら社会人として困り果ててしまう。何が何でも謝罪してその場を凌ぐしかないだろう。上司の機嫌を損なうことだけはしてはいけない、帰るわけにはいかないと石にかじりついてでも仕事をするべきだ。
「だって、こんなに早く帰ってもすることないじゃないですか」
ケタケタと笑うP氏、記者はそんな彼を心底クズだと思った。
「とにかく、思いもがけず仕事が早く終わっちゃいましてね、しょうがないから車を走らせてパチンコ屋に行ったんですよ」
クズのフルコース、仕事をサボってパチンコ三昧、ここまでクズだと清々しさすら感じてしまう。彼はそのままフラリとパチンコ屋に立ち寄り、最近は色々なパチンコ台があるんだなー、アニメオタをターゲットにした台やアイドルオタクをターゲットにした台などなど様々だ、そんな中にあって一体どの層を狙ったのかサッパリ分からないCRアン・ルイスという台を打ったそうだ。
「CRアン・ルイス打ってたらパスタ食いたくなったんですよ、パスタ」
あまりに突拍子のない発言に記者から声が漏れる。
「パスタですか……?」
「そういうことないですか?僕はCRアン・ルイスを打っていたら無性にパスタ食べたくなる。普段は全然食べないんですけどね」
でまあ、いい加減記者とP氏って語り口に疲れてきたので普通に書かせてもらいますけど、何でか知らないけど無性にパスタを食べたくなったんですよね。
でも、パスタってアレじゃないですか、オシャレの必須アイテムじゃないですか。パスタを出す店ってオシャレのコロシアムみたいな状態になってるでしょ、とてもじゃないが僕のようながジャージ姿の野武士一人で食べにいっちゃったりしたら絶妙な営業妨害になると思ったんですよ。
で、誰かと食べに行くべきだ、それも女がいい、と色々な思案を巡らせた結果、そうだ!とびっきりのキチガイ女とパスタを食べに行こう!と決断してしまったんです。
なんでそんな考えに至ったのか分かりませんが、多分ムシャクシャしてたんでしょうね、パチンコ台の中で咆哮するアン・ルイスを尻目にとにかくキチガイとパスタを食べたいと渇望してしまったんです。
そうなるとキチガイ女を調達しないといけないんですけど、それにはうってつけの場所がありましてね、キチガイ女が巣食う禁断の花園と評判の掲示板があったんですよ。ここはツウの間では評判の場所で、とにかく途方もないクリーチャーやキチガイが量産されると大評判、アン・ルイスにシャブ打ちまくったみたいな女がナタ持って待ち合わせ場所に来た、なんてクレイジーな逸話が残るくらいのとんでもない場所なんですよ。
で、早速携帯電話でアクセス。まあ、するといるわいるわ、とんでもない女性どもが「10万で私の体を買って!」「ラッセンの絵を買って!」みたいなとんでもないスパイシーな書き込みをしてるんですよ。結構活発でそういった女性がモサモサといましてね、まるで戦国武将のような群雄割拠の様相を呈しているのですが、そんな中にキラリと光る書き込みが。
「ひまー、ごはん食べにいこー」
ぐおおおおおお、これだ、これにいくしかない!とんでもないクリーチャーを10万とかそんな場合じゃないよ、なんとパスタを食べに行きたいという僕の欲求を完璧に満たす書き込みじゃないですか。こいつを逃してはならん、と早速メールを送ります。
「パスタ食いに行こうぜ!」
イメージとしてはドラゴンボールを掴もうぜ!みたいなノリで送信しました。するとすぐに返事が返ってきて、
「いいよー、奢ってねー」
みたいな感じに。コイツはトントン拍子過ぎて怖いですな!あわよくばパスタからおセックスもあり得るかもしれん、と半ば猪突猛進気味に車を走らせて待ち合わせ場所に向かったんです。もうCRアン・ルイスなんて打ってる場合じゃねえよ。
なぜか相手の女性が指定した待ち合わせ場所がコインランドリーなんですけど、普通待ち合わせにコインランドリーはないだろ、ちょっと頭おかしい子なのかな?とか思うじゃないですか、でもそれってキチガイとパスタ食いたいっていう僕の欲求に近づいてるわけですから結構歓迎すべき事象だったんですよ。
「ついたよ!」
みたいなメールが来てキョロキョロと辺りを見回す、といってもコインランドリーですからでっかい洗濯機とどっかのオッサンが忘れたパンツくらいしか見当たらないんですけど、ふと入り口付近に女性が立ってるんですよね。
ここですごいカワイイ娘とかそういった高ポテンシャルな娘が来ると僕としてもネタになるしカワイイしで一粒で二度美味しいんですが、世の中ってそう上手くはできてないですよね。
ウチの職場は旧社屋と新社屋に分かれてまして、3階にそれらの社屋を繋ぐ連絡通路みたいなのがあるんですよ。で、もう2年位前からずっと気になってたんですけど、なぜか通路の真ん中にモップが置いてあるんですよね。なんでこんな場所にモップが?って思いつつベテラン社員の人に聞いてみたら、なんか深刻な顔になっちゃいましてね、俺も別にこういうの信じるわけじゃないんだけどと前置して話してくれたんです。実は、あの通路、出るんだよ、とか言い出しまして、なんでも雨が降るとあの通路の屋根のところにボヤーッと女の顔みたいなシミが浮かび上がるみたいなんんですよ。で、それがオフィスラブで失恋した女子社員の怨霊だとか言われてまして、僕もあまりの怖さにON!RYO!と微妙にラップ調に唄って誤魔化すことしかできなかったんですけど、とにかく気味が悪いっていうんで定期的にモップで消してるらしいんですよ。でもまあ、そんなのって結構見間違えとか多いじゃないですか。まさか、そんなわけあるはずない、って実際に注意して見ていたら、本当に女の顔みたいなシミが通路の屋根のところに浮かび上がってるんですよ。もう震えたね、心底震えた。
と、とにかく、やってきた女がそのシミみたいな顔してたんですよ。屋根に出る怨霊のシミみたいな顔してやがんの。危うくモップで消しそうになった。
まあ僕は心底落胆してるわけなんですけど、そういうのが相手に伝わるとなんか悪い気がするじゃないですか、で、文字通りカラ元気なんですけど
元気いっぱいに
「さあ!パスタ食いに行こうぜ!」
みたいなノリで言ったんです。しかし、シミ、じゃないや彼女の反応は冷ややかで
「パスタ…ですか…」
みたいな、お前、本当に怨霊なんじゃないかって消え入りそうなトーンなんですよ。でももう僕も元気キャラでいっちゃってますから
「そうだよ!何か行きたい店とかある!?パスタ!」
みたいな、いつの間にこんなウザったいキャラになったんだろうって自分でも不思議に思うテンションで切り返すと、
「どこでもいいです…ただ、大切な相談があるから静かな店がいいかな…」
とか、怨霊が妙に気になること言うんですよ。まあ、そんなこと気にしたって始まりませんし、とにかくパスタ食いたいって勢いで車走らせてパスタ屋にいったんです。
もう何頼んだか忘れたんですけど、とにかく二人でパスタ頼みましてね、ものすごい沈黙が襲ってきて何か喋らないといけないって妙に気を使っちゃって、いやーパスタって最高!みたいな訳の分からない会話を切り出したんですけど、すると怨霊が言うわけですよ。
「50万円貸してくれませんか?」
いやーぶっ飛んだね、まさにぶっ飛んだ。まさかパスタ食いにいって50万貸してて言われるとは思わなかった。あまりの出来事に僕も動揺してしまい、
「ご、50万!?」
とか素っ頓狂な声出してテーブルの上に置かれたメニューをウチワ代わりにすることしかできなかった。それでも聞いたからにはどういう事情があるのか掘り進めていかないといけないので、
「50万円も何に使うの?」
と聞くと、
「私、失明寸前なんです。目の病気で……」
とかとんでもないこと言うじゃないですか。なんかパスタ屋とかいうと語感的にもポップな感じがするじゃない。なんかウキウキみたいな。なのに店内のこのテーブルだけ大好きなおじいちゃんが死んだ時のお通夜みたいな深刻さになっとるんですよ。
「もう今もほとんど見えなくて……1週間以内に手術しないと完全に失明するんです……」
こりゃとんでもない暗黒ゾーンに踏み込んでしまったなーって思いつつ、それでも会話を進めます。
「1週間って!なんでそこまで放置してたの!」
ここにきてもまだ元気キャラを止めない僕って結構すごい、と思うんですけど、彼女はもう演技派女優も真っ青な感じで言うんです。
「放置していたわけじゃありません。貯めてたんです。手術代を。手術代の50万円をやっと貯めて喜んでいたんです。これで目が治るって、でも……」
「でも?」
「その手術代が入ったカバンを盗まれたんです。手術代だけじゃなく携帯電話や家の鍵まで盗まれて私どうしたら……!」
あのね、アンタ、さっきまで僕と携帯電話でメールしてたじゃない、おもっくそ携帯電話使ってたじゃない、って思うんですけどとても言い出せる雰囲気ではないので黙ってグラスに注がれた水を飲み干します。
「お願いします!50万円貸してください!絶対に返しますから!」
とか懇願されるんですけど、思いっきり嘘8000じゃないですか、絶対に騙されるじゃないですか。だって携帯電話の件もそうですけど、失明寸前で
目が見えないって自分で言ってたのに、さっきメニュー見ながら思いっきり「シェフの気まぐれ秋風パスタ」注文してましたからね。っていうかそもそも50万円も持ってない。
「50万円もないから無理だよ、5千円だって厳しいし」
まあ、CRアン・ルイスにやられましたからね、そんな金ありませんよ。で、ピシャリと断わったんですけど、彼女も諦めない。
「じゃあ、あの車売って50万円作ってください!」
とか、とんでもないこと言い出しやがるんですよ。もうこの時には注文したパスタが運ばれてきてたんですけど、食ってたパスタ噴出しそうになったからね。なんでそこまで考えが飛躍するんだ。ホント、望みどおりすげえキチガイとパスタ食ってる、僕、キチガイとパスタ食ってるよ!
「いや、車がないと仕事にもいけないし」
と絶妙に断わるんですけど
「私が失明してもいいんですか!」
とか、ぶっちゃけると、本気の本気でぶっちゃけると僕が失明するわけではないですから「いい」という答えしかないんですけど、それを言ったら人間お終いじゃないですか。色々と終わってるじゃないですか。
「そりゃあ失明しない方がいいと思うけど」
「じゃあ50万」
こんな感じで物凄い不毛なやり取りを1時間ですよ。とっくの昔にパスタなんか食い終わってましてね、なのに帰ろうとか言い出せない重苦しい雰囲気。もうどうしていいのか分からないんですけど、そうすると怨霊が言い出すんです。
「私だって借りたくないよ……でも……でも……」
とか泣き出すじゃない。傍目にはなんか僕がDVかなんかで泣かせてるみたいじゃないですか。
「カバンさえ盗まれなかったら私だってこんなこと言わないよ」
とか泣くんですけど、「でも盗んだのは僕じゃないからねえ」と言いたいんですけど言ったら結構人間として終わってるじゃないですか。っていうか、彼女明らかに目が見えていて、50万円盗まれたってのも壮大なるペテンなんでしょうけど、それでも聞いてみるじゃないですか。
「だいたい、なんで50万も入ったカバンを盗まれたの?」
すると彼女は一瞬困った表情を見せた後に言いました。
「身長2mくらいの外国人風の男にひったくられた。本当に怖かった」
僕水飲んでたんですけどブホッってなりましたからね。2mはねーよ、とか、外国人風て、とか色々言いたいことはあるんですけど、その前に目が見えないんじゃなかったのか。
「盗まれたのは災難だけど、やっぱ貸せないよ、ごめんね」
まあ、僕が盗まれたわけでも何でもないので痛くも痒くもないんですけど、とにかくそう告げるとやっと彼女も諦めてくれたみたいで、それどころか凄い方向に開き直っちゃったみたいでカバンから携帯出してメールをピコピコ、目が見えないのにあんな小さい携帯の画面を・・・!その前に携帯は50万円と一緒に盗まれたのでは・・・!とか思うんですけど、そんなことはお構い無しに憮然としてました。
やれやれ、とんでもないキチガイだったぜ、50万円のために車売れって言われた時はあまりの事態に血湧き肉踊ったけど、それにしても2時間も拘束されるとは思わなかった。望みどおりキチガイとパスタ食えたけど精神的にかなりつかれちゃったぜ、と家に帰ってホッと一息。
で、ここまで書いて気がついたんですけど、ここまで長々と書いたことが車を盗まれたことに全く関係がなかった。盗まれた日の出来事を書き綴ったけど、あまり事件に関係なくて本気でビビッた。戦慄すら覚えた。とにかく、無関係な日常部分をやっと終えて事件の核心に迫りますけど、家に帰ってホッと一息、腹減ったなーオデンでも食うか、と近所のコンビニに車で行ったんです。で、
コンビニで車盗まれた。
結局一行日記と変わらないじゃないか!pato死ね!とかお怒りはごもっともですけど、そういった怒りのメールは送ってこないでください。それは僕の痛みに無頓着ということで自由社会の終わりの始まりですから。
とにかく、車盗まれて大変なので誰か僕に50万円貸してください。
12/9 いつもそばに
コンビニで車盗まれた。
12/7 ジュウテツ
従兄弟の娘ってなんて呼ぶんだろうって急激に気になってしまい方々手を尽くして調べてみたところ途方もない衝撃の事実が僕の目に飛び込んできたのです。自分の兄弟の娘とかだと姪(めい)と呼ぶわけで、なんとも響きがかわいらしく、その音からロリの匂いすら漂ってきていたく興奮するのですが、なんと、従兄弟の娘となると従姪(じゅうてつ)と呼ぶそうです。一気に何か岩石的な堅い呼びに変化、鉄道マニアの気品すら漂ってきます。
兄弟の娘ならばメイ、従兄弟の娘ならばジュウテツ、同じロリっ子であるに違いないのにこのクラスチェンジは大変解せないものがあります。ちなみにその従兄弟の娘の娘ともともなると従姪孫(じゅうてっそん)と呼ぶらしく、何か中国の偉い人のような、三国志に出てきても何らおかしくない呼び名に変化します。同じロリっ子なのに血の関係が遠くなるほど呼び名がお堅くなっていく、こりゃあ従兄弟の娘の娘の娘とかになったら国家公務員とかそんなお堅い呼び名になってるのかもしれません。
さて、なぜ従姪の、いや従兄弟の娘の話題から入ったかといいますとね、最近僕の中で異常に従兄弟の娘が熱いんですよ。言ったかどうかわかりませんけど、僕には同じ年の従兄弟がいましてね、まあ、小さい頃からイケメンのナイスガイ、高校時代はバンドとかやってて女の子にキャーキャーってな感じのとても僕と血が繋がってるとは思えない従兄弟がいたんですよ。
まあ、幼い頃から彼は親戚中のスターダムで、中学時代だけ同じ学校に通ったんですけど、従兄弟は女の子に大人気、すげえカッコイイ!とか女子の話題の的でしてね、僕は僕でとんでもアニマルなわけで別な意味で女子の話題の的、それが従兄弟的にNGだったのかいつだったかの法事の時に「お前、恥ずかしいから学校で話しかけるなよ」って言われちゃいましてね、どうも従兄弟だと思われたくなかったみたいでして、その事実に微妙にブルーになったのを今でも覚えています。
そんな従兄弟ですが、この間帰省した時に会いましてね、実家で何をトチ狂ったのか食用カエルの刺身を食わせようと奮闘している親父の魔の手をかいくぐり、命からがら従兄弟に会いに行ったわけなんですよ。
もう何年会ってないかも分からない、彼が今どうしているかも分からない、それでもやっぱ従兄弟として幼き日を一緒に過した仲じゃないですか、話しかけるなとか言われたりもしたけど、やっぱり微妙に血の繋がった従兄弟じゃないですか。というわけで会いに行ったんです。
いやー、行ったらビックリしたね。やはりまあ、従兄弟は僕と同じ歳ですからやはり彼も31歳となってるわけなんですよ。かっこよかった彼もさぞかしオッサンになってるだろうな、なんて思ってたら普通にカッコイイじゃない。それどころか齢31にして家とか建てちゃったりする奮闘ぶり。奥さん美人だしリビングのテレビでかいし庭にゴルフの練習セット置いてあるしでもうコイツに勝てる気がしない。
あのですね、田舎とはいえ31歳にして家ですよ、家。僕なんか近所のスーパーに夜8時に行って惣菜に半額シールが貼られるの待ってるんですよ。31歳にして住宅ローンに子供の習い事にとか悩んでるんですよ。僕なんか近所のコンビニの深夜枠にヤンキーのバイトが入りましてね、お弁当買って「温めっすか」とかぶっきらぼうに聞かれて「はい」って答えたら「チッ」ってヤンキーがあからさまに不快感を顕にしてですね、妙に気を使った僕が「あっ、やっぱいいです」って引き下がる始末。毎日冷たい弁当食ってるのが悩みなんですよ。
まあ、そんな人生の勝ち組とか負け組みとかそういったことはこの際忘れて今日も楽しい楽しい日記の続きを書こう、例え涙が溢れようとも書き続けようって思うんですが、その従兄弟の娘っ子、つまり従姪(じゅうてつ)がもうカワイイんですよ。かわいくてどうしようかってくらいにもうたまらんのですよ。
いやいやいや、決してロリ的要素で言ってるわけじゃなくて、宮崎美子さんとか岡江久美子さんとか熟女も好きなんで決して生粋のロリってわけじゃないですよ。ただ、こんなカワイイ幼女が従姪(じゅうてつ)とはいえ自分と血が繋がってるってのが凄い妙な気分で愛おしいんですよ。
なんか従兄弟の家で嫁のマズイ手料理食わされててですね、元がなんだったのか分からない複雑怪奇な茶色い物体を食べるんですけど、そこでも幼女はお手伝いとかしててね、フリフリの服を着て目をクリクリさせてるんですよ。何か知らないけどすごい楽しそう。
そういえば僕が子供の時も家に客が来ると何か妙に楽しかったな。なんであんなに楽しかったんだろう。結局いつもと違う非日常が嬉しかったんだなって感じたんです。
でまあ、僕と従兄弟は酒まで飲んでしまって大変な状態、でもなんか従兄弟は住宅ローンのために休みの日も仕事に行かなければならないらしく、「仕事いってくるけどゆっくりしてってよ」と言い残して颯爽と出かけてしまいました。
そうなると、残された奥さんと、あの料理が超絶的にまずい奥さんと淫らな行為に走るかと思いがち、「あの人とは全然ご無沙汰、ああああああ、久しぶりよー!」ぶしゅーってなるかとも思ったのですが、全然そんなことなくて奥さんは普通に大忙しな感じで家事してました。
そうなると僕と幼女、まあリサちゃんっていうんですけど、二人で遊ぶことになりましてね、なんか一緒にプリキュアを見ようってことになって大画面テレビでプリキュア見ましたよ。なんかいつの間にかプリキュアが5人に増殖していてセーラームーンみたいになってるんですけどリサちゃんは大喜び。さらにその横で僕が「メップル」っていう初代プリキュアに出ていた奇妙な小動物のモノマネをするもんですからリサちゃん大喜びですよ。
いやー、こんなに喜んでもらえるとやりがいがあるってもんですよ。会社の忘年会で同じモノマネした時なんて誰も微動だにしなかったからね。それどころかその後、誰も話しかけてくれなかった。忘年どころか色々と忘れ去りたい過去だけど、リサちゃんは大喜びっすよ。
その後もWiiとかいう未来から来たゲーム機で楽しんだりと大変有意義な時間を過しましてね、あっという間に長居してしまったので帰ることにしたんですよ。そしたらリサちゃんが泣いちゃってね。玄関まで見送りに来てちっちゃい手を振ってるんですよ。もうカワイイったらありゃしない。
そんなこんなで涙涙のお別れを経て、実家に戻ったら親父がまだ食用カエルの刺身作ってて食え食え言ってきましてね、もうどうしようもないんですけど逃げるように実家からも逃亡してまたいつもの日常へと戻ったわけなんです。
で、いつものように仕事しつつ、リサちゃんは本当にかわいかったなあ、あの嫌な従兄弟の娘とは思えないくらいかわいくていい子だった。あんな幼い子も時間の経過と共に成長していき、どこの馬の骨か分からない男と付き合ったりするんだろうな。切ない恋に身を焦がれアユの歌を聞きながら夜空を見上げて涙したりするんだろうな。そんなリサも結婚、相手は職場の先輩、結婚式では暴走する友人たちの横で僕は泣いちゃうかもしれんぞ。で、リサちゃんもお母さんの血を受け継いで料理へたでね。
とか悶々とリサちゃんの将来を考えながらパソコンに向かっていたら目頭が熱くなってきちゃいましてね、時間の経過ってのは儚く美しい、だから時に優しく時に残酷だ、なんて悟りを開いていたんです。そしたら携帯電話に着信が。
見ると従兄弟からの着信でして、なんかやばいことしたかな、お前俺がいない間に嫁の尻を触っただろ嫁が泣きながら告白してきた、とか言われたらどうしよう、そんなことしてないけど干してある嫁の下着を興味深く見つめていたのは事実だ、それを指摘されたら言い逃れできない。と戦々恐々としつつ電話に出たんです。
「なんか娘がお前と話をしたいらしくて、ちょっと変わるわ」
と従兄弟がぶっきらぼうに言うじゃないですか、で、娘のリサちゃんに変わるんですけど、あんまり電話ってしないんでしょうね、すごい緊張しながら話をするんですよ。内容は他愛もないもので、今日プリキュアに出てきた敵が強くてとかそんな話、職場のブスがそんな話してたら間違いなく脳みそ煮るんですけど、リサちゃんなら話は別ですよ。
「へえー、すごいねー」
とか僕も満面の笑みですよ。
それからというもの、どうも従兄弟に簡単な電話のかけ方を習ったみたいで、多分ボタン押したらかかるみたいな設定にしたんでしょうけど、結構な頻度でリサちゃんからダイレクトに電話がかかってくるようになったんですよ。で、たぶんお母さんか何かに「patoおじさんはお仕事してるんだからあまりかけちゃダメよ」とか怒られたんでしょうね、かかってくるたびに
「リサです。おしごとおわりましたかー?」
とかかかってくるんですよ。舌ったらずな感じでかかってくるんですよ。もうカワイイ。そんなもん仕事していられるか。
「全然大丈夫だよー、今日はどうしたの?」
とか、思いっきり職場で打ち合わせとかしてるのにリサちゃんと戯れるわけなんですよ。結局、話の内容はプリキュアとかなんですけど、そうなるとリサちゃんを喜ばせるためにまたメップルのモノマネしなきゃいけないじゃないですか。
「今度はいつ来ますかー?」
みたいなこと言ってるリサちゃんに
「リサちゃんがいい子にしてたらまた行くメポー」
とか職場のデスクでメップル発言する僕の身にもなって欲しい。打ち合わせしていた同僚が目を丸くして「ああ、この人ついに狂うたか」って顔してるじゃないか。
そんな折、またいつものようにリサちゃんから電話がかかってきたんですけど、なんでもリサちゃんはもう少しで誕生日らしい。そうなると僕も
「リサちゃんは誕生日なにが欲しいメポ?」
とか、職場で顔を真っ赤にしながら聞くんですけど、そうすると遠慮がちにいうわけですよ。たぶん子供心に僕の財布を案じて言うわけですよ。
「リサは小熊ちゃんが欲しい」
ニンテンドーDSとかPS3とか言われたらどうしようかと思ったのですが、どうも小さな子が欲しがる安い物っぽいです。これならいくらでも買ってあげられるので
「いい子にしてたらプレゼントするメポー!」
と自分、職場で何やってるんだろうって思いながら返答ですよ。しかしまあ、その小熊ちゃんってのが何なのか全く分からないので色々聞くんですけど、どうやら何か本か絵本のたぐいなんですよ。
あとから分かったんですけど、このカワイイ表紙の本がリサちゃんの欲している絵本みたいで、ちょっとリサちゃんより低年齢向けっぽいんですけど、なんかこのシリーズを集めてるみたいなんですよ。こういった絵本で「こぐま」が出てくる話の絵本がいっぱいあるみたいなんです。こんなもん800円くらいですからね、そんならリサちゃんのために何冊でも買ったるわって思うじゃないですか。
しかしですね、今はこうして欲しいものがわかってるんですけど、その時はリサちゃんの話が全く要領を得ないものですからサッパリ意味不明だったんですよ。「小熊」「本」「シリーズ物」この3つのキーワードしか分からないんです。
もうどうやってもリサちゃんが望むものを買える気がしないんですけど、それでもやっぱ喜ばせてあげたいじゃないですか。なんとかしてプレゼントしてあげたいじゃないですか。そこは従兄弟に電話して何が欲しいのか正確に聞くのが一番なんでしょうけど、そうなると絶対に遠慮して「いらない」とか言うに決まってます。ここはなんとか「小熊」「本」「シリーズ物」の3つのキーワードから探し当てないといけません。
まずは、どう考えても本には間違いないので颯爽と本屋に赴きます。本のプロである店員ならば多分わかるだろうと思い、カウンターに行って尋ねます。
「あのすいません、幼い子が読むような本で、熊が出てくる本ってありますかね。なんかシリーズものらしいんですけど」
すると店員のメガネお姉さんは難しそうな顔しましてね、何やらパソコンに向かったり台帳みたいなものをパラパラめくって困惑顔。それでも見つかったみたいで、「これかな……」とポツリ。で少々お待ちくださいと言い残して店の奥に消えていきました。
しばらくして何やら本を抱えて帰ってきたメガネお姉さん。颯爽とカウンタに本を置きます。
そこにはこんな感じの熊が表紙になってる本が。
いやね、僕もこんなこと言いたかないですよ。そこまで責め立てたかないですよ。でも普通に考えて欲しい。何も特別なこといってない、普通に考えて欲しい。プリキュアに夢中になる年代の女の子が、こんな熊が猛り狂ってる表紙の本を読むと思うか。ホント、脳みそ煮るぞ。
「これはちょっと違うような……」
「でも熊ですし、シリーズ物ですよ、色々な動物の生態というか写真集という感じで出されてまして……」
いやいやいやいや、熊とシリーズ物はあってるけど幼い子は読まないだろ、これ。って思うんですけど店員めがねっ子お姉さんのスパークは止まらない。ヒートアップしてきて同じシリーズのアライグマ編とか出してきやがった。ホント、いい加減にしないと、メアド交換してドキドキのメール交換、ワクワクの初デート、でもなかなか手は出さないで私って大切にされてるのねって思わせて、夜景の綺麗なレストランで給料3か月分の指輪を渡してプロポーズ「絶対に幸せにするから」新婚旅行はアメリカ西海岸で、平穏だけどどこか安心できる結婚生活を過して子供も育てて、何不自由ない幸せな結婚生活、毎年の結婚記念日にはバラの花束をプレゼント、たまには家族で温泉に行ったりしてね、で、20年後の結婚記念日に「グハハ、バカめ!最初からお前とはブラフで結婚したんだよ、全然愛してないよ、幸せだったかい?」ってカミングアウトしてやるぞ、ホント。
とにかく、色々な本屋に行くんですけど全然見つからなくてですね、そりゃ「熊」っていうヒントだけじゃあ難しいんですけど、どうしよう、このままじゃリサちゃんの喜ぶ顔が見れないよって心底落胆したんです。
でもね、こういう探し物って大体がそうじゃないですか。ここにはあるだろうって大型店舗なんかに探しに行っても見つからない。で、諦めたくらいに適当にブラッと、それこそこんな店にあるのっていうマイナーな店に行ったら発見したりするじゃないですか。
ということは最初からマイナーな本屋を探せばいいじゃないかってことで、国道の脇にある怪しげな本屋に行ったんですよ。皆さんがお住まいの街にも多分あると思うんですけど、なんか「アダルト」「DVD」「高価買取」とかの文字が躍ってる怪しげな本屋がないですか。微妙にマイナー臭のする怪しげな店舗がひっそりと建っていませんか。こんなところに幼子が好む本があるとはとても思えないんですけど、とにかくヒョッコリとあるんじゃないかって期待して店内に足を踏み入れたんです。
入ってみると普通の店舗で、普通に名探偵コナンの最新刊とか置いてあるんですけど、やっぱりよくよく観察するとどこかおかしい。「同人誌高価買取中」とか勇ましい謳い文句の張り紙が平然と貼ってあるんですよ。で、その奥にはズラーッとエロマンガや同人誌が大名行列ですよ。
しかも店員もすごくて、メガネで長髪のヒョロい感じ、別にオタクテイスト漂う外観はいいんですけど、そのレジの奥にオタ仲間みたいな、どう見ても店員じゃない人間が複数いるんですよ。で、客そっちのけでアニメ見ながらみんなで熱心に議論してるの。客商売を舐めてるとしか思えない。何言ってるんだか言語が理解できないんで分からないんでアレなんですけど、とにかく「今期のアニメは……」とかオタク談義に華を咲かせてるんですよ。
で、非常に遺憾だったんですけど、おずおずとレジに近づいてヒョロい店員に話しかけたんですよね。
「あの……本を探してるんですけど……」
そしたらヒョロいのが中指でクイッとメガネを直しながら
「どういったのをお探しで?」
とか言うてるんですよ。で、その奥ではオタ仲間がアニメ見てゲハゲハ笑ってるの。何か知らないけど無性にムカムカする。
「熊が出てくるヤツでシリーズ物らしいんですけど……」
「ふむ……」
とかヒョロ店員が腕組みで考えてるんですよ。でもやっぱり彼のデーターベースの中に該当する本はないみたいで
「せめてジャンルがわからないとね、フフン」
みたいな、なぜか自信たっぷりに言いやがるんですよ。で、それを聞いていた奥のオタ仲間が
「違いない!」
とか言い出して大騒ぎ、別に彼らは全く悪くないんですけど異常にムカついちゃいましてね。さらに創作がどうのとか二次創作がとかサークルとか訳の分からないこと言い出しましてね、僕も僕で少し挑発的になっちゃって
「そうですか、この店なら見つかると思ったのに……」
的なガッカリしたぜって感じを醸し出してみたら、ヒョロ店員とオタ仲間たち(Tシャツにラッキーストライクって書いてあった)が何故か発奮しましてね。
「そういうことなら探しましょう!」
と店員と僕とオタ仲間総出で店内を捜索ですよ。なんとか熊っぽい本はないかと大捜索。まあ、この、店マンガの最新刊とエロ同人誌とエロ本しか置いてないんで、どう考えても幼女向けの本があるわけないんですけど、こうまで探してもらえるとなんか気持ちいいじゃないですか。
「ないなあ」
「ないねえ」
多分、彼らは熊が出てくるエロ本的なのを探してるんでしょうけど、なかなかそういったものがない様子。
「そういえば、熊じゃなくて小熊って言ってました。小熊ちゃんって」
と、ここで僕が最も重要な情報をカミングアウト。するとオタの一人が何か天啓を受けたかのように閃いたみたいなんです。
「そういえば確か……」
オタが持ってきたのが見紛う事なきエロ本ていうかエロマンガで、表紙にドバーッといかがわしい液体をぶっかけられてる女の子が書いてあるんですけど、この主人公の名前が「こぐま」らしいんです。
「まさに「こぐまちゃん」じゃん!」
と思うんですけど、そこで僕が
「探してるのはシリーズ物らしいんだけど……」
と言うとオタが得意気な顔で何冊か出してくるじゃないですか。
「これ、シリーズ物だよ」
ホントにシリーズになってるみたいで主人公こぐまちゃんのエロ本が3冊くらい出てくるんですよ。本気でシリーズ物なんですよ。あの時のオタの得意気な顔を僕は一生忘れないよ。
もうエロマンガって時点で明らかにリサちゃんが望んだものとは違うんですけど、こぐまちゃんだしシリーズものだしっていうんでこれにするしかなく、というか、ぶっちゃけると探すの面倒になっちゃいましてね、もうこれでいいやって買って帰っちゃったんですよ。
家に帰って、さあリサちゃんに送るぞって買ってきた本をめくるんですけど、さすがにこれはひどい、と思いましてね、内容は何か主人公の「こぐまちゃん」アルバイトマニアで色々な場所でバイトするって話なんですけど、そこでオムニバス形式で様々な陵辱を受けるんですよ。メイド喫茶で客に過度の奉仕をさせられたり、フライドチキン店でゴキブリは揚げてませんでしたけど3ピースくらい入れられたりしてね。「こぐま変になっちゃうー!」とかいってんの。こんなの幼女に見せるわけにはいかない。
仕方ないんでね、エロいページは全部マジックで修正しましたよ。200ページくらい。その結果、内容はまっくろくろすけになっちゃって何が何やらわからないんですけど、とにかくこれでOK。早速リサちゃんに宅配便で送っておきました。リサちゃん喜んでくれるに違いないで。
それから数日して従兄弟の番号から着信があり、おお、プレゼントが届いたリサちゃんからお礼の電話かな?と意気揚々と電話に出て
「リサちゃん、プレゼント届いたメポ?」
「ふざけんじゃねー!娘になんてもの送りつけるんだ!殺すぞ!」
と電話の向こうには修羅と化した従兄弟が。あまりの怒りっぷりに僕ももうどうしていいのか分からず
「こ、小熊の本、メポ……」
とか言うと
「メポじゃねえよ!ふざけんな!死ね!二度と娘に近づくな!」
とんでもなく怒られました。
従姪(じゅうてつ)であるリサちゃんを愛するあまり僕の行為がエスカレートし、こぐまちゃんのエロ漫画を送りつけるという暴挙に発展、怒り狂った従兄弟によって僕とリサちゃんの仲は引き裂かれてしまったのです。
愛する対象を自らの愚かな行為で失った人の痛みがわかりますか。愛するリサちゃんを、愛する従姪を。何かポッカリと心に穴が開いて、それなのに心が重い、まるで心に重い重い鉄が詰まってしまったようだ。重い鉄だけに重鉄とか。いつになく酷いオチだメポ。
11/29 訪問販売
おしりかじり虫は元気のない人々のお尻を噛んで元気にする虫で、何かと元気のない日本に渇を入れるという大沢親分も真っ青のありがた迷惑な虫です。得体の知れない虫に尻を噛み付かれて平然としていられるわけなく、元気になって感謝するなんて持ってのほか、怒りに打ち震えてその虫を殺しかねない。余計なお世話だって殺虫剤を散布するかもしれない。
そもそもお尻を噛まれて元気になるってのがナンセンスで夢物語、同じ元気になるのならクリトリスでも噛んだ方がまだ元気になるってもんだ。寂しい女性のクリトリスを噛んで元気にするクリトリスかじり虫。こっちのほうが何倍も許せる。
「クリトリスかじり虫ー」
と誰も見ていないと思って職場の休憩室で身振り手振りで唄っていたら、その光景を同僚の山本さん(24歳OL、控えめな性格なのであまり目立たないが隠れ美人)に見られてしまい、もうどうしていいか分からない絶妙な空気が二人の間を流れた。
重苦しい沈黙、この休憩室だけ重力が2倍になったかのように感じる。その沈黙に耐え切れなくなった僕は、もうひっこみがつかなくなったということもあり続けてクリトリスかじり虫の歌を唄い続けた。まるで不治の病に侵されて大切なアノ人に届けるものがなにもない、自分の歌しかない薄幸の美少女のように。ただあの人に安らいで欲しい、少女は力の限り唄った。
職場の同僚がいきなり狂ったかのようにクリトリスとか言っている、いや唄っている。どうしていいのか分からないのは山本さんも同じのようで、しかも彼女は「やだー!」とか「それってセクハラ!めっ!」ってやるような砕けた性格ではなく、どちらかといえば内に秘めて悶々と恨むような性格なので、ただただ黙って気が狂うてしまった同僚を見つめていた。
微動だにしない山本さんに、拳を振り上げてクリトリスかじり虫を唄う僕、ここに他の同僚が来たらなんだと思うくらい衝撃的にシュールな光景なのだけど、もうどちらも引き下がるわけにはいかない。先に自分のスタイルを崩した方が負けだ。
いよいよ根負けしたのは山本さんの方で、シドロモドロしながらも口を開いた。ここで「セクハラですよ!」と軽やかに言ってくれれば僕も「メンゴメンゴ、てへっ」とでも言って軽く自分で自分にゲンコツ、舌でも出していたずらに笑うことができるのだけど、山本さんの言葉はそんな想像とは全く異次元に存在する、驚愕するしかないものだった。
「だから女子社員全員から嫌われるんですよ」
あのですね、世の中には言って良いことと悪いことがあるじゃないですか。間違いなくこれは言ってはいけないことですよ。そりゃね、僕だってそれくらいは薄々勘付いてますよ。なんとなくそうなんだろうなーって微妙に感じていましたよ。でもね、いくらなんでもそれを公然と指摘するってのは大人気ないと思うんですよ。ハゲな人にハゲって言うもんですよ。シャレにならない。
「そ、そうだよね……ギヒヒヒヒ」
もう引っ込みがつかなくなっちゃいましてね、それでもクリトリスかじり虫の歌を唄い続ける僕。これはもうテロですよ、テロ。そうこうしていたら山本さんがマジになっちゃいまして、
「どうしてそんなことばかりするんですか!ワタシ、patoさんがそうやって悪口言われたり除け者にされて飲み会に誘われないのとか見てられない。どうして仲良くしようとしないんですか!」
とまあ、山本さんは真面目ですから目に涙を溜めて訴えてくるんですよ。本気と書いてマジと読むみたいな状態になって、そんなに本気になられても困るってもんですよ。それはそうと薄々勘付いていたけどやっぱり僕は飲み会に誘われないとかとんでもないことになっていたのか。知らなくてもいいマルトク情報をわざわざ教えてくれてありがとう、山本さん。
とにかく、突如現れた山本さんのピュア心に触れてしまい、クリトリスかじり虫とか歌っていた自分が汚らわしい存在に思えてきましてね、中学生の時にカッコイイ言葉を使ってみたい衝動に駆られて「汚らわしい!」と言おうとしたら「毛皮らしい」と言ってしまい、「は?何が毛皮なの?何の毛皮?温かいの?ねえ?ねえ?」などと真顔で1時間くらい問い詰められて陵辱されたことを思い出したほどでした。
世の中には「よけいなお世話」が蔓延しています。多くの場合が相手を思いやる故の余計なお世話であり、それ故によけいなお世話、と断罪するのが心苦しい。この山本さんの例にしたって泣くくらいの僕の身を案じているわけで、その心中を思うと「余計なお世話だ、クリトリスかじるぞ!」とは口が裂けても言えない。
けれどもね、これが全く知らない相手だったらどうしますか。全く知らず、しかも余計なお世話なんですけどその裏に僕を騙してやろうというとんでもない邪な心を持っている相手だったらどうしますか。
あれは何もすることがない日曜日のことでした。あまりにも暇だった僕はパソコンに向かいフリーセルに没頭、ゲームを開始して「Ctrl」と「Shift」と「F10」を押して「中止」をセ選択、カードを1枚動かすと一瞬で勝利を収めることが出来るのですが、それを何度も繰り返して一人でケタケタ笑ってました。
ピンポーン!
不意に鳴るインターホン。休日の午後になるインターホンなんて恐ろしいくらいに予定調和で、明らかに何か悪意が在る来訪者、具体的に言えば訪問販売や宗教勧誘、家賃の督促など、隙あらば取って食ってやろうと企む邪悪な存在しかありえないのです。「きちゃった」とか言ってカワイイ、具体的に言うと白いコートが似合う女の子が肉じゃがもって来たりしないんですよ。
めんどくせーなーと思いつつ、それでも暇すぎるのでパンツ一丁でドア開けるのですが、そこには何か小汚い作業服を着た男が。けれども顔は色男で爽やか好青年、僕がゲイだったらほっとかないタイプの青年が立っておりました。
「こんにちは!今日はこのアパートの管理会社からの依頼を受けて水道の水質調査に参りました。無料ですのでお時間よろしいですか?」
はて、ウチのアパートの管理会社は親切に水質調査してくれるような慈悲深い人達だったか。家賃払えないなら実家に連絡します、契約を解除します、鍵を変えます、出て行ってください、パンツ姿で通路を歩かないでください、冷酷な鬼であるという印象しかない。
まあ、これは歴然とした詐欺で、水質調査して適当な薬品なんか混ぜてね、見る見る色が変わる水道水、この水は汚れている、見てくださいこんなの飲んでたら死にますよ、とか言いながら高価な浄水器を売りつける類の悪徳商法です。目の前で水道水が真っ赤に変わるのを見た主婦なんかは不安になっちゃってね、家族のために良かれと思って購入しちゃうわけなんですよ。
こういった詐欺師は絶対に家に入れない、「検査なんていりません」と毅然と断わりましょう。しつこく「検査してないのはお宅だけですよ」とか粘るかもしれませんが、場合によってはおしりをかじったら検査させてやるとペロンと尻でも出して追い返しましょう。
まあ、お尻見せないまでもここで身分証を見せてくださいとか、管理会社が水質調査を委託をしたのか確認しますのでそれからお願いしますとか毅然と断わることもできるのですが、まあ暇ですし、ここはどんな詐欺っぷりが見られるかお手並み拝見といこうじゃないですか。少なくともフリーセルやってるよりは面白そうだ。
「どうぞどうぞ」
笑顔で招き入れると、青年はいたずらな小僧のような満面の笑みで入ってきた。僕がゲイだったら食ってるところだ。それにしても爽やかで一片の毛皮らしさもない無垢な青年だ。こんな良さそうな青年が浄水器詐欺か、一体何があったのだろう。
僕は詐欺をする人間を認めません。どんな理由があるにしろ、止むに止まれぬ事情があったにせよ、そこで誰かを騙してご飯を食べていくという道を選択した人間を絶対に認めません。人間として最底辺だと思っています。この青年だって爽やかな笑顔の下は醜い笑顔で満ち溢れているに違いありません。
「で、どうするんですか?」
「はい、水質検査をしますので台所をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞどうぞ」
なにやら黒いカバンを開けてガチャガチャと準備を始める青年、その光景を見守っていたのですが、いざ準備が出来て台所の流し台を見た青年が絶句ですよ。おもいっきりゴミダメですからね。なぜか流し台に乾電池とか捨ててある大暴挙、これにはさすがの青年も絶句していたね。
なにやら異臭とかする流し台におそるおそる近づいて水道水を採取する青年。で、なんかガチャガチャと機械使ったり怪しげな正体不明の薬品を入れたりとしてるわけなんですよ。で、得意気な顔でこっちにやってきてですね、
「見てください、この水が赤色に変わったら危険サインです」
とか言うんです。で、見てると徐々に徐々に水の色が赤に変わっていくんですよ。ワオ!
「これは発癌性物質が含まれてますね。このアパート全体がそうでしたから貯水タンクの関係だと思いますが……」
そんな!この水飲んでたら僕ガンになっちゃうの!?死んじゃうの!?そんなのやだよ!速く浄水器つけてよ!いくらでも払うから!と思うはずもなく、こりゃとんでもねーなーと思うことしかできませんでした。
発癌性物質ってなんて名前ですか?構造式はどうなってますか?その物質が何と反応すると赤くなるんですか?そのメカニズムは?とか色々と質問することもできますし、何か薬品を入れて水が赤くなるなんてチャチな手品レベルだぜ、俺なら薬品入れた瞬間に大爆発するような水を作ってやる、と豪語することも出来るのですが、ここはまあ、面白くないので真剣に聞き入ることにします。
「な、なんてことだ……まさかこんな……」
僕も結構な演技派ですから凄い深刻な表情でマジマジと紅に染まった水を見つめます。もう不安で不安でどうしようもないといった表情をします。
「実は今ちょうど浄水器を持ってきていまして……」
どうせ全部シナリオどおりなんでしょうけど、さも偶然良い物を持っていたみたいな顔してちゃちな箱みたいな浄水器とパンフレットを取り出すわけなんですよ。
「今ならお安くしておきますし、すぐに取り付けできますよ。工事費もサービスしておきます」
もう売ったった!みたいな何か一つの仕事をやり遂げたみたいな顔している青年。さらに畳み掛けてきます。
「流しを見ると荒んだ生活を送ってるようですね……荒んだ生活に汚れた水、これじゃあ早死にしますよ……」
これぞまさに余計なお世話と言わんばかりの状態でしてね、冒頭の山本さんのように僕を思いやる故のお世話ならいいんですけど、見ず知らずの人間の余計なお世話、しかも騙そうとしてる人間ですからね、そりゃ温厚な僕でも「余計なお世話だ」って言いたくなりますよ。
しかしまあ、ここはグッと堪えて
「ちなみにいくらなんですか?」
と訊ねると、青年は万面の笑みで
「26万円です!」
とか言うじゃないですか。お前、26万がどういう額のお金なのか分かってんのか。
あのですね、言いたかないですけど、それなりに大きな金額なんですよ、26万円って。今僕のアパートの家賃が3万6千円なんですけど、ざっと考えて家賃7.2か月分ですよ。半年までならなんとか督促から逃げることも出来ますけど、7ヶ月ともなると深刻です。いつ鍵を変えられるか、いつ追い出されるか、そうなったら中の荷物はどうなってしまうんだろう、法律的に追い詰められたらどうしよう、という心臓に悪いハラハラドキドキを7ヶ月、それを経てやっと滞納できる金額、それが26万なんですよ、彼はその金額の重みが全く分かってない。
「いやー、浄水器に26万円はちょっと……」
と買いたいんだけどお金がない風味をムンムンと醸し出すと、
「大丈夫ですよ、ローンもできますし。月々1万5千円の24回払いです!」
と準備万端、いつでもいけるぜ!って感じで契約書みたいなのをペラペラ出してくるんですよ。1万5千の24回払いって微妙に金利がえらいことになってるなって思うんですが、彼は悪びれるでもなく、恐縮するでもなく、
「月1万5千円くらいならタバコを我慢すればすぐですよ。タバコお吸いになるんでしょ?健康に悪いからやめたほうがいいですよ」
と、まさに余計なお世話というしかないこと言いやがるんですよ。でまあ、ここからは契約するまで帰らない、もう箱から出しちゃったんで設置するしかない、契約書書いてください、と非常に面倒なことになる、まさに悪徳商法の教科書みたいな展開が待っており、あまり面白味がないのですが、ここからが凄かった。
「この値段で帰るなんてもうないですよ、これはチャンスです。ぜひ美味しい水を!」
「でも水道水ってあんま飲まないし……別に水が汚くてもいいよ」
と僕が核心に迫った時、異変が起こったのです。
ピンポーン!
またもや玄関のインターホンが鳴ります。またもや来客です。大抵こういう場合は、離れた場所に控えていた詐欺仲間がやってきていて、その仲間を交えてツインカムで責められることになるのです。で、まあ、このお仲間ってのがとてもカタギには見えないとんでもない強面だったりするんですよ。
いよいよご本尊登場か、どんな凶悪顔がどんな脅しを駆使してくるか、こんな爽やか兄ちゃんの詐欺じゃ生ぬるいんだよ、とワクワクしながらドアを開けると、そこには綺麗な女性が立っていました。キリッとしたスーツ姿にまとめた黒髪がなんとも凛々しくてですね、おお、コワモテの仲間じゃなくて女とは珍しい!とマジマジと見つめていると
「お時間よろしいでしょうか?じつはこちらアパートの管理会社様のご依頼で水道水の水質調査に」
ってさっきの兄ちゃんと同じこと言うんですよ。
「ああ、それならもう来てますよ、同じ会社の人ですか?」
と、ああ、仲間ねという手馴れた感じの対応をすると、
「え!?」
とお姉さんは困惑顔。
「ですから、水質調査して水が赤くなって26万円の浄水器をローンでもいいからって売りつけるんですよね?余計お世話な感じで」
と、僕も、もう分かってるよって感じで洗いざらいぶちまけるんですけど、お姉さんは要領を得ない様子。
「良く分かりませんが、水質調査を……」
「先客がいるけど構わないならどうぞ」
「ええ、失礼します」
とにかく良く分かりませんが、お姉さんを部屋に招き入れます。で、爽やか兄ちゃんとお姉ちゃんの話を色々と聞いて、名刺とかもらって判断したんですけど、どうやら全く別の詐欺会社がたまたまウチをターゲットに選んでかち合ってしまった様子。2つの詐欺が同時に我が家を急襲、こりゃあ盆と正月がいっぺんに来て、ついでにこの間痴漢で捕まって会社をクビになったらしい神奈川のおじさんがまで金を無心にやってきたみたいな状態ですよ。あの人結構ろくでもないんだよな。
で、2つの詐欺人どもはお互いにお互いの存在を認識していたっぽいんですけどかち合うのは始めてみたいで、なんか当人達が一番驚いてました。
まあ、ここで、あれれー、おかしいよ!どうしたのコナン君!だって、アパートの管理会社が依頼したのに2社が調査に来るって絶対におかしいよ!バーローって感じにもできるんですが、まあ、それを言ったら野暮なので一応黙っておきます。
「では調査させてもらってよろしいでしょうか」
僕も青年も「さっきやったよ、赤くなるんでしょ」って顔してたんですが、まあ、言っても無駄なので好きなようにやってもらいます。
それにしてもこんな綺麗なお姉さんが詐欺をやってるなんて信じられない。見ると結構おっぱいもでかくて性格も良さそう、清楚な感じなのに。きっと何か理由があるに違いない。たぶん、病気のお父さんか何かがいて、日本では未承認の薬が必要になる。それは高額でとても二十代の小娘が買えるようなものではなかった。悩みぬいた彼女はインターネットで知り合ったスナフキンという男に相談をします。こいつがまた悪い男でしてね、彼女は騙されて逆に多額の借金を背負わされることになるんです。で、嫌々ながらスナフキンが経営するこの詐欺グループで働くことになったんですが、そこのセクハラ部長に体の関係を強要されて……冗談じゃない、こんなことあってたまるか!僕が彼女を救ってやる!って妄想を書き始めると異常に長くなり、脱線するにもほどがあるって感じなので続きはこちらで楽しんでいただくとして本題に戻ります。
「ほら、赤くなりました」
「な、なんてことだ!」
とまるで台本のあるコントのようなセリフを交わしていよいよ商談です。やっぱりお姉さんも、青年とは違ったタイプの浄水器を持っていて、これが29万円だって言うんですからたいしたものですよ。青年より3万円も高い。29万円って家賃8ヶ月分超えますからね。
でまあ、どちらも電気屋いけば1万円くらいで買えそうな浄水器で、それを高値で売ろう、不安を煽って売ろうって言うんですからタチの悪い詐欺なんですけど、そこで僕はこうすることにしたんです。
「でもさあ、さすがに2つも浄水器はいらないよね。どちらか一方を買うよ」
さあ、これに火がついたお二人、火のようなセールストークが始まります。
「我が社の製品の方が性能が上ですから!」
「たしかにこちらの方が値段は高いですがその分高性能ですよ」
爽やか青年と綺麗なお姉さん、美男美女が必死にセールストーク、それを見ていた僕もドラマの6話くらいから急に出てこなくなる脇役みたいな感じで「もうお前ら付き合っちまえよ」みたいなこと言おうと思ったのですが、それこそ当人達には「余計なお世話」と言われるでしょう。
で、必死になる二人ってのを見て楽しんでるってのもあまり趣味がよろしくありませんですし、どうせどちらかを選んでも選ばれなかった方が契約するまで帰らないといった意固地な姿勢を見せるに決まってる、お姉さんのほうが帰らない!って言い出したら喜ばしい限りなんですが、とにかく、相手は騙して契約させるプロです、いくら抵抗したってムダですから、その際は普通に契約してあげましょう。
「じゃあ両方買います」
その瞬間、二人が「えっ?」って顔したのを見逃さなかったね。そりゃそうだ、浄水器を二つも買ってもしょうがない。買う人はいるかもしれないけど、二つ合わせて55万円ですよ。まあ、それでも比較的面倒なのでここは素直に買ってあげましょう。
「もう面倒なんで二つ直列に繋いでつけておいてください」
とだけ指示して僕は契約書にサイン、なんか美男美女の二人は仲睦まじく二人で設置作業してました。
見ると、とんでもなく無理矢理つけたみたいな浄水器がゴテンゴテンとついていて水道周りが合体ロボみたいになってるんですが、ツインカムで処理したのに出てきた水は、まあ美味いとは思えず、普通に水道水でした。
満面の笑みで「これで水が美味しくなりました!」と二人を送り出し、まあ、美男美女ですから意気投合した二人はこの後飲みに行ったりして「あの客バカだったね」とか会話してセックスと相成るのでしょうが、僕は僕で忙しい。この契約をなかったことにしないといけない。
とにかくこういった訪問販売っていうのは一度セールスを開始するとなかなか諦めません。ですから僕もとっとと諦めてツインカムで浄水器をつけてもらい、合計55万円の契約を結んだのですが、そんなもの払ってられないので思いっきりクーリングオフしましょう。
クーリングオフとは訪問販売やキャッチセールにおいて、契約したものは8日以内なら無条件で解約できるといった大変便利な法律なのですが、きちんと文書に「契約を解除する」「浄水器はいらんから引取りに来てくれ」と明記して会社所在地に送付してあげましょう。
こういった訪問販売ってのは違法で、特定商取引法の第六条で規定されているように販売目的を告げずに勧誘することを禁止しています。つまり、水質調査といって家に上がりこんで浄水器を売るってのはそれだけで違法行為、きちんと法律でもそんなものはダメだよって規定されてるものなんです。
このクーリングオフは業者側が妨害することもできませんので、数日したらちゃんと業者が浄水器を引き取りにきます。また綺麗なお姉ちゃんに会えるかなって期待してたら小汚いオッサンが取り外しに来ました。もう一社の方はあの爽やか青年が死んだ魚のような目をして引き取りに来たのですが、その際に
「大丈夫ですか?水質調査と偽って浄水器を売るのは特定商取引法第六条違反ですよ。それにこういう訪問販売ってガンガンとクーリングオフされますよね、皆がつけてもらってクーリングオフしたら儲からない、手間賃ばっかりかかるんじゃないですか?」
と心配して言ったら、青年はすごい元気ない様子で「余計なお世話です」って言ってました。そりゃそうだ。ごもっとも。とにかくあまりに元気なかったのでおしりをかじって元気にしてあげたい、そう思ったのでした。
11/21 恋空
ほら、ブスって言葉あるじゃないですか。
いやいやいやいや、まるで軽やかな挨拶の如くこんな出だしで始めると「ああ、またpatoのブス叩きか、いい加減にしろよ」なんて思う方がおられるかもしれませんが、どうか冷静になって考えて欲しい。この世知辛い世の中に蔓延する不安や欲望、それらが絶妙に入り混じった複雑怪奇な支配構造、マスメディアの横暴、それら全てを取り去って考えてみて欲しい。
僕はですね、女の人を指して「ブス」って言う時に二種類のブスがあると思うんですよ。一つは悪意あるブスという言葉、もう一つは悪意のない単純な能力値としてのブスという言葉です。前者は確かに許せない。人を貶め、傷つける目的で「ブス」と言葉を発する。これはもう言葉の暴力です。言葉のレイプです。絶対にあってはならないことだと思います。
しかしながら、後者の能力値としての「ブス」これはもうそこまで責められるものじゃないと思うんです。例えば、田村君は算数が得意だとするじゃないですか。おまけに足が速くてリレーではいつもアンカー、勉強もスポーツも出来て女子達の憧れの的、でも国語は苦手だったりするんです。
その際に「田村君は算数もできるしスポーツもできる、でも国語は苦手だよね」と指摘することに何の悪意があるでしょうか。そこには田村君の能力値としての評価しかありえません。そう、他人の能力値を客観的に評価することはそこまで悪いことじゃないのです。
ブスであるブサイクである、美人であるイケメンである、これらを能力値として捉えた場合、あくまでも算数ができるできないレベルでの評価とした場合、それはそこまで悪いことじゃあない。単純に能力を評価しているだけ、それだけに過ぎないのだ。悟空がサイヤ人に出会った時、「すげえ気だ」とまだ見ぬ強敵にワクワクしながら客観的な評価を下した、それと同じでブスの気を感じて「すげえブスだ」とワクワクして何が悪いのだろうか。
僕はまあそういう考えですから、職場の給湯室の前を通った時にブランド物バッグに命すら賭けかねない若手OLがワイワイキャキャッと談笑してる声が聞こえましてね、「えー、patoさん?あの人生理的に受け付けないー」なんて陰口が聞こえてきても凹むわけでもなく、へっへっ生理的ときたか、まいったな、なんて鼻の下を人差し指でこすったりするわけですよ。それは悪口でも何でもなくて能力値を評価してるに過ぎないのですから。
とにかく、決してブスという言葉にそこまで悪意があるわけではないということを前置きして本題に入るわけなんですが、ウチの職場にすっごいブスがいるんですよね。例えるならば映画ジュラシックパークに出てくる博士みたいな顔したブスなんですけど、爽やかな朝に出勤するとそのブスが発狂してるわけなんですよ。
キチガイしかいないこの職場で何が起ころうともそんなに驚かないんですけど、さすがに朝っぱらから発狂してる様は異様でしてね、何事かと事の推移を見守っておったんです。そしたらアンタ、そのブスが映画観にいきたいとか異様なまでの情熱をパッションさせてるじゃないですか。
いやいや、映画観るのは自由っすよ、ブスが映画観ても全然かまわないっすよ。でもね、いくら観たいからって職場で大興奮、大車輪の如き勢いで言わなくてもいいじゃなっすか。頭おかしい。そんなの言われたって僕らとしては「じゃ、いけば?」くらいにしか思わないですよ。
職場の面々は大変不愉快な思いをしてるのがありありと分かったのですが、僕としてはその光景が面白いというか興味深いというか、スパークしたブスは秋茄子より趣き深いと思ってますので満面の笑みでその光景を見守っておったのです。
そしたらアンタ、誰も相手にしてくれなくて寂しかったのかそのブスがデロデロとこっちにやってくるではないですか。アメリカのバスケット選手って突破する時にすごいフェイントとかかけるじゃない、そういった感じで真っ直ぐこっちに来るんじゃなくてフェイント入れつつ近づいてくるんですよ。ありゃ一流のNBA選手だよ。
あ、やばい、逃げなきゃて思った時は既に遅く、彼女の領域(テリトリー)内に取り込まれてしまって一歩も動けない、身動きできない状況に。もうどうしていいか分からなかったんですけどゴクリと生唾飲み込んで色々な覚悟を決めていると、
「映画観にいきましょうよ」
正直言ってレイプくらいは覚悟していたのですが、やはりさっきから騒いでいるとおり映画を観に行きたい様子。まあ、一般的で気遣いのある同僚なんかは妙に気を使って顔を引きつらせつつ「そうだね、いきたいね」なんて無難な答え方をするんでしょうが、僕は違いますよ、誰もが心の中で思っていつつも言えない言葉をガツンと言ってやりますよ。
「1人で行けばいいじゃん」
その瞬間、職場の空気が凍てつくのを感じ、ブス以外のメンツ全員が「いっちゃった!」的な表情をしたのを見逃さなかったのですが、それでもブスは引き下がりませんよ。
「バカじゃない!1人で映画なんて考えられない!」
どうもブス理論では1人で映画ってのはあるまじき非国民であり、売国行為であるような口ぶりなんですよ。そんなこと言うならポルノ映画館に行ってみろ、みんな1人で淫乱人妻シリーズ3本立てとか地獄のような上映スケジュールをこなしてるから、と言いたかったのですが、色々な意味でセクハラになりそうなんでやめておきました。
「恋愛映画を1人で観るなんてナンセンスよ」
みたいな、僕が全能の神ならば裁きのイカヅチを落としまくる、いや、そもそもコイツをこの世に生まれさせない、と思わざるを得ないことをのたまいましてね、僕ももうどうしていいかわかんなくなっちゃいましてね、ちょっと意地もあったんでしょうが
「そう?でも僕いつも1人で観にいくよ、ヱヴァンゲリヲン新劇場版とか行ったし」
と精一杯の抵抗をするのですが、やれオタクだの気持ち悪いだの寂しいロンリーウルフだの、それだけならいんですけど、いつもいやらしい目つきで私の胸元を見てる、それてセクハラですよ、みたいな関係ないことまで言い出すブス、大スパークですよ。
「もしかして、patoさんって女の子と映画観たことないんですか?」
ホント、この世で許せないことってけっこうあるじゃないですか。税金の無駄遣いとか無駄な公共事業、福祉を食い物にするとんでもない人たちとか。そういうのを一切合切超越してブスの挑発的な目線ってのはなんでこんなにムカつくんだろうって勢いでムカついたんですよ。
「み、み、観たことあるわ!」
僕だってそりゃ女の子と映画とか観ますよ、劇場が暗くなってる時に彼女の手を握って感動的な場面でスッと指輪をはめたりしてね。驚く彼女、キラキラと眩い光を放つ左手薬指の指輪、それを見た見ず知らずの子供が「スイートテンダイヤモンドだ!」とかいうんですけど、まあ嘘ですけど、とにかく、いつも独りで観るわけじゃないってことを顔を真っ赤にして反論したんです。
「何を観たんですかあ?」
「ゴジラVSメカゴジラ」
このやり取りを自分のデスクで聞いていたマミちゃんがお茶を噴出したのを僕は見逃さなかったね。ブスもブスで、生類憐みの令みたいな憐れみの視線で、外国人が困った時にやるみたいな両手を広げたジェスチャーするんですよ。
「しょうがない、私が連れて行ってあげます。きっと楽しいですよ」
とブスがすごい不本意な感じで言うんですが、僕もそこまで言われたら、ああ、なんて親切な人なんだ、僕に映画の楽しさを教えてくれるなんて、と感謝の念すら湧いてきましてね、
「おねがいします」
となり、晴れて貴重な休みの日に早起きしてブスと映画を観にいくというとんでもない、親に連れられて聞いたこともない遠い親戚の法事に連れて行かれたくらい不本意な休日を過すことになったのでした。
「ちなみに、何を観にいくの?」
「恋空だよ」
今話題の大人気携帯小説が映画化された「恋空」、1200万人が泣いたという暴れん坊なキャッチコピー、これを全く興味ないのに観にいくのでした。こんなに興味ないのに劇場に行くなんて「デビルマン」以来だよ。
さて、当日、待ち合わせの時間にシネコンの前で仁王立ちして待っている僕、頭が寝ぐせバリバリ伝説なのが微妙に僕のやる気度合いを示しています。しかしながら、今や遅しと待ち構えているのですが、時間になってもブスが全然来ない。待ち合わせの相手が大塚愛さんとかなら僕もヤキモキし、まさか急なレコーディングが入ったのでは?それとも途中で暴漢に襲われたのでは?と右往左往するのですが、この日の僕は実に堂々としていた。全く動じない不動明王の如き力強さだった。
30分くらい経っても全然来なくて、もうこの日の第一回目の上映が始まったんですけど、それでも僕は動じない。こっちから電話とかメールとかで連絡取ると、まるでこの日を一日千秋の思いで楽しみにしてたかのような錯覚に捉われかねないので何も連絡することなく不動明王ですよ。っていうか、シネコンの隣りのゲーセンでマリオカートしてた。
2時間くらいしてブスから「今ついたよ、どこ?」ってメールが着たんですが、2時間遅れて今ついたのもクソもないだろって思いつつ待ち合わせ場所へ。
「ごめんごめん、上映時間に遅れそうだったからさ、次の回でもいいかなって思って」
確かに、上映時間に遅れそうなら次の回を観ればいい、非常に合理的な考えだ。その合理性は賞賛に値する。しかし、2時間遅れるとか連絡くらいしろ、勝手に次の回にするな、2時間もマリオカートして見知らぬ小学生とかと対戦したんだぞ。
とにかく、休日のブスはやっぱりブスでホリデーブス、そんな人と興味ない映画を観るとか何やってるんだ。休日前日に夜更かししすぎて、目が覚めたら日曜の夕方だった、くらい切ないものがあるのですが、とにかく映画を観なくては始まりません。
「じゃあ、券買いにいこうか」
とか僕が言うんですけど、今度はブスが不動明王なんですよ。
「こういう時は男が買うものなのよ」
とか、僕が5州をまたいだ連続殺人犯でアリゾナを恐怖に震え上がらせた絞殺魔だったら間違いなく殺ってるようなセリフを言うんですよ。で、トボトボと券を売ってるとこに行くんですけど、危うく
「次の回の恋空、大人一枚、ブス一枚」
って言いそうになりました。危ない危ない。
そんなこんなでいよいよ上映開始と相成ったわけなんですが、まあ、あまりストーリーをネタバレしちゃうと本気で怒り出す人がいるので軽く流しますけど、良くも悪くも恋愛映画といったところでしょうか。半分くらい寝ていたのでアレなんですけど、それでもストーリーが分かってしまう親切設計になってました。
まあ、内容はおセックスてんこもりっていうか、僕がよく読むエロマンガに、テストで100点取ったら家庭教師が性器を見せてくれるってやつがあって、生徒が虫眼鏡で性器を見ていたら先生に火がついちゃってっていう、いくらなんでもそりゃねーだろ、なんでもセックスにもっていきすぎだってのがあるんですけど、それ以上にセックスてんこ盛りです。淫乱人妻シリーズ3本立ても真っ青。まあ、ザラッとあらすじを紹介すると
オープニング→セックス→レイプ→セックス→セックス→セックス→セックス→エンディング
とこんな感じです。非常に面白かった。しかもこれだけセックスが溢れているにもかかわらず、主演の新垣さんは柔肌一つ見せないという徹底ぶり。エロビデオに、いかにモザイクを回避するかって目的の作品があって、性器とかその辺が見えると強制的にモザイクを入れないといけないんですけど、それを徹底回避、ちっちゃこい紙みたいなのをギリギリの形で貼り付けてエロいことをいたすって涙ぐましい努力をしてるやつがあるんですけど、それに近いものを感じました。
でまあ、なんか金髪の人が死んでしまうんですけど、劇場からはすすり泣く声が。横見たらブスも泣いてました。目からビーム出しそうな感じで、劇場内をサーチライトのように照らしそうな勢いで泣いてました。
これで泣けるのってある意味才能だよなって思うんですけど、これならばハッキリ言って全財産の4万5千円をスロットで負けて魂が抜け出した時の僕の方が全然泣けるからね。失意のままパチンコ屋から出ようとしたら、魂が抜け出しすぎて人間として判定されなかったらしく自動ドアが開かなかったからね。これで泣けない人は本当に心が冷たい人だと思う。
とにかく、非常にステレオタイプというか、ある意味王道な恋愛映画でして、恋をする、セックスをする、相手がガンで死ぬ、泣ける、という、本気で書いたら2行くらい終わりかねない、セックスコンボくらいしか目新しさがない作品なんですけど、そこで僕はあることに気がついてしまったのです。
映画の前半、主人公の新垣さんがヤンキー崩れみたいな金髪と付き合うんですけど、そこでヤンキー崩れの昔の恋人が嫉妬のあまり新垣さんをレイプするよう男に命令するのです。哀れ、幸せの絶頂にありながら男たちにレイプされていく新垣さん、まあ、生々しさなんて全然なくて僕の大好きなエロビデオ「レイプレイプレイプ」っていう懲役10年物のエロビデオのほうがよっぽど迫力あるんですが、とにかくここは結構悲しい場面です。
恋愛には障害がつきもの、障害があるからこそ燃えるものだってのは誰が言った言葉か知りませんが、新垣さんとヤンキーはレイプという悲劇を乗り越えてそれでも愛を育んでいきます。その後も昔の恋人の嫌がらせなど続きますが、それでも愛を貫く二人、その健気な二人の愛に観客は心奪われ、その後に訪れるヤンキーのガンというさらなる悲劇に涙するのです。
しかしですね、ここでちょっと考えてみて欲しい。少し立ち止まって、この映画に隠された裏の意味を考えてみて欲しい。僕らはきっと試されているんだと思う。
この問題のレイプシーンは、ヤンキーの昔の恋人であるプリズンブレイクのマイケルみたいな顔した人が嫉妬に狂ってレイプを仕向けたことが分かるんですけど、そこで思うんです。果たしていくら嫉妬に狂ったといえどもあんなにカワイイ新垣さんにレイプを仕向けるほど人は鬼になれるのだろうか、ということに。
この元カノレイプ主犯説に疑問を持つと様々なことが不思議と怪しくなってきます。様々な点が線で繋がるとでもいいましょうか。ある一つの答えが導き出されるのです。
レイプされた新垣さんは失意の状態にいます。そこになぜか彼氏であるヤンキーが現れます。「愛がウンタラカンタラ」とか言ってますが、拉致されてレイプされた犯行現場に何故ヤンキーが現れることができたのか。僕はこのシーンを見たときにコイツが黒幕だ!って思いましたからね。
では、なぜヤンキーは自分の彼女をわざわざレイプさせたのでしょうか。世の中には色々と酔狂なアベックがいますが、自分の彼女をレイプさせるなんてなかなかできないことです。となると、最初から全て仕組まれていたと考えるのが妥当でしょう。
新垣さんとヤンキーの恋は、新垣さんが携帯電話を落としてしまったところから始まります。なぜか携帯を拾ったヤンキーは携帯のデーターを全て消去、全く不可解な行動に出ます。頭おかしいんじゃねえかって思うんですが、実はコレが絶妙な伏線だった。
つまり、ヤンキーは最初から新垣さんの携帯のデーターが目的だったのです。おそらく、新垣さんの両親の関係でしょう。特に父親(トラブリューの人)は怪しかったですから、たぶんですが、武器商人かなにかだったのでしょう。
日本政府は、中東に展開するアメリカに国際貢献を迫られていた。しかしながら、日本国憲法第9条がが邪魔して武力行使に繋がるような活動はできない。今現在でもインド洋における給油活動なんかで揉めてますね。国内からの反発とアメリカからの圧力、特にアメリカは中東へ展開したのは間違いだったという国内世論の高まりもあってどうしても日本に国際貢献させたかった。給油活動以外の、そう、武力行使に近い活動をさせたかった。
そこで苦肉の策として政府が目をつけたのが新垣さんの父親だった。闇の武器商人として活動していた父親を頼り、秘密裏に武器を供給、アメリカ軍へと貢献させる。表向きは給油活動であっても、中東で使われる兵器の9割が親父ルートで調達されたものだった。これにはアメリカ政府も満足し、日本政府も胸を撫で下ろすこととなる。
しかしながら、親父が欲を出して日本政府を脅迫し始めたものだから物語は急展開する。親父に全てを話されたら政権が倒れるどころか野党からの追求で与党すら危ない。与党が下野する最悪の展開すらありえる。焦った政府は口封じにかかります。しかし身の危険を察した親父は娘の携帯に極秘のデーター、日本政府が関与して中東に兵器を輸出していた証拠を潜ませます。「俺が死んだらあのデーターが出回ることになるぜ」。
問題のデーターが娘の携帯にあることを突き止めた政府は秘密裏にそのデーターを消去しようと企みます。こういった表舞台にでない汚い仕事を担当する内閣特別室所属のヤンキーがその任にあたることになりました。携帯内のデーターを消去せよ、そして娘に接触して手中に収めること、政府は娘を通じて親父をコントロールしようと企てたのです。
そして、新垣さんに接触することに成功し、おまけに携帯内のデーターを消去することに成功したヤンキー、完全に娘を掌握しますが、それでも親父は強気なまま、莫大な口止め料を政府に要求します。
「総理、このままでは・・・」
「ふん、あくまで強気、というわけか・・・枯れても武器商人よのう」
「いかがいたしましょうか」
「少し分からせてやる必要があるようだ」
日本政府の毒牙は娘の新垣さんに向かいます。
「最愛の娘が悲しい悲しい悲劇に遭う、それでヤツも大人しくなるだろう、くっくっくっ」
こうして、政府主導で娘の新垣さんはレイプされます。この計画に最後まで反対したのはヤンキーでした。最初は任務のはずだった、政府の飼い犬として与えられた使命を全うするだけだった。けれども、いつしか純粋な新垣さんの心に彼自身が惹かれていたのです。任務なんて抜きにしてただ彼女のことを好きになっている自分がいた。だからレイプ後に彼女に駆け寄った、命令を無視して駆け寄った。
「ふふふ、ヤツも人の親、すっかり大人しくなったようだ、相当堪えたようだな」
「しかし、なにもあそこまで・・・」
「黙れ小僧!貴様には分からんのだよ!この日本国という歪な国の実態がな!」
「しかし・・・」
「それより、きちんと任務を遂行して欲しいものだな。また命令違反となったら・・・どうなるかわかってるな?」
自分が憎い、自分の体に染み付いた汚い色、幼い頃からエリート官僚の父に英才教育を仕込まれ、政府のために働くべく染み付いてしまった自分が憎い。政府のためを免罪符に様々な汚い仕事もやった、殺しだってやったし、政府に批判的だった学者を痴漢冤罪においやったこともあった。真っ黒に血で汚れてしまった自分の両腕、この澄みきった青い空のように純粋に彼女を愛することなんてできないんだろうか。苦悩するヤンキー。
迷いを断ち切れないヤンキーは、それでも新垣さんとデートします。今デートしているのは政府の犬として任務を遂行しようとする自分なのだろうか、それとも純粋に彼女を愛するだけの一人の人間なのだろうか。ふと視線を上げると、怪しげな人物が二人を尾行していることに気がつきます。
「あれは・・・モサド!(イスラエル総理府諜報特務局)」
呆然と立ち尽くすヤンキー。
「どうして・・・モサドがここに・・・」
ここで場面が変わって星条旗はためくアメリカになります。国務長官が執務室で極秘資料に向き合っています。
「つまり、こういうことかね、この男はまだ生きてると」
「はい、日本国内に・・・」
「何故日本に・・・」
「イスラエルが嗅ぎつけて狙っているようです。モサドが動いているという情報も」
アメリカで情報開示された極秘文書によると、ケネディ大統領暗殺に関与した男が日本へと逃げ延び、その息子が日本国内で生存している、そして中東において反アメリカを貫くイスラエルが交渉材料としてその存在を狙っているというものだった。
そして視点は再び日本へ。
「残念ながら君には表向きは消えてもらうことになる。日本国民がケネディ大統領暗殺に関与していたと公にするわけにはいかないし、イスラエルに協力するわけにもいかない」
不敵な笑みを浮かべる総理大臣(石坂浩二:友情出演)。ヤンキーはキッと総理を見据えて言い放った。
「分かっています」
「出来るだけ自然な形で消えてもらうよ、アメリカもイスラエルも欺かなければならないのだから・・・」
こうしてヤンキーは表向きはガンによって死亡したと偽装することになりました。映画を観た方なら分かると思いますが、物語後半のヤンキーはガンにしては元気すぎると思いませんでしたか。それは偽装死だからっていう監督からのメッセージが込められていたのです。
人は自分が愛する人が悲しむことこそ苦しいはずです。自分が傷つき、悲しみ、涙に暮れる、それは幾ばくか我慢できようとも、最愛の人がそんな目に遭うことだけは我慢できません。国のため、最愛の人を欺いて偽装死をしなければならなかったヤンキーの気持ちが分かりますか。最愛の人どころか自分の気持ちすら欺いて。
「モサドのやつらは彼女にすら危害を加えかねない、自分が消えるのが一番だ」
ヤンキーは決意します。そして、彼女の前から死という形で姿を消すのです。誰も幸せになんかならない、もし許されるならば、次はみんなが幸せになれるような恋がしたいね。このシーンがムチャクチャ泣ける。
純粋に悲しむ新垣さんの姿をビルの屋上から見つめるヤンキー。彼女は悲しみのあまり自殺しようとしますが、抑え切れなくなったヤンキーがなんとか思い留まらせます。そうして表向きの物語は終わり、エンドロールとなるのですが、実はこの話には続きがあります。
相変わらず武器商人を続けていた親父が商談で中東のとある国に向かいます。小さな農村で散歩をする親父、部下が「気をつけてください、まだ治安が安定してませんから」と言い添えます。フラフラと街を歩いていると、米軍の攻撃で傷ついた人々が目に飛び込んできます。そして、脇にある小屋からこんな最果ての地で聞こえてくるはずのない日本語が聞こえてきます。
その日本人と思わしき男は、傷ついた村人を一生懸命看護しています。こんなところにまで日本人ボランティアが・・・親父は少し興味を持ち、小屋を覗きます。
「世界中どこだって空は繋がっている」
「お兄ちゃんは好きな人いるの?私も恋したいよ!」
「ああ、この国が本当に平和になったらできるさ、この空のように澄んだ恋がな、恋空が・・・」
小さい子供の頭を撫でながら、少し汚れた金髪をなびかせる日本人青年がいたのでした。何かから解き放たれたような満面の笑みで。
おわり
表面的には恋してレイプされてセックスして相手が死んじゃうエーンって感じのストーリーなんですが、実は裏にはこれだけの事実が隠されている。それが読み取れるかどうか僕らは試されていたんですよ。
とまあこんな感じのことを、恋空の裏に隠された悲恋ストーリーって感じで観終わった後にブスに話してやったんですよ。回転寿司食いながら話してやったんですよ。そしたらブスが大激怒しましてね、アワビ食いながら大激怒しましてね、あんな綺麗な話をそんなムチャクチャにしないで!って寿司代も払わずに帰っちゃいました。アワビみたいな顔しやがってからに。
それだけならまだいいんですけど、休み明けに職場に行ったら、映画の後にしつこく誘われた、恋空に感化されちゃったのかしらとか、私の胸元を見る目がいやらしかった、とか訳の分からないファンタジーが風説の流布されてり、本当に心の底からブス死ねって思ったのでした。すごい悪意のある感じで。
11/16 過去ログサルベージ
いやー、まいったまいった。なんかですね、各地の遊園地に行くっていう訳の分からない仕事をやらされてまして、僕なんか絶叫マシンに乗るくらいなら舌噛んで死ぬくらいの意気込みなんですけど、全く楽しくないのに遊園地に朝から晩までいないといけないんですよ。
ハッキリ言って平日の遊園地なんえ周り中カップルだらけですからね、そのへんの植え込みでいつハメ撮りが始まってもおかしくない、そんな雰囲気がモンモンしてやがるんですよ。
そんな中にあって僕だけ仕事でスーツ姿、そんな孤独の中で恋人たち御用達し
みたいなラブリーな園内のカフェで昼飯食って御覧なさい。しかも外から持ち込んだカツ丼っすよ。この世の中のありとあらゆることがどうでもよくないりますから。
そんなこんなで孤独と言う名の悪魔と絶叫マシーンという名の見えない闇と戦いつつ日本全国を転々としておりますので、とてもじゃないが日記が書けないくらい忙しい。いやいや、別に書く時間くらいはありますけど、出張費を浮かせようとネカフェ難民していて名探偵コナンを全巻読破したとかそんなのはどうでもよくて、とにかく日記が書けませんので半年に一回くらいは皆も許してくれるだろうと勝手に認識している過去ログサルベージを行います。
主にめんどうだとかそういった理由のときに過去に書いた日記をモサッとコピペしてきて事なきを得るこの過去ログサルベージもいよいよ定着してきた感があり、そろそろ3ヶ月に1回くらいの頻度でもいいかもしれないって思ってるのですが、とにかくコピペします。
もう何をサルベージしたんだかすら覚えてないので適当にやっちゃいますけど、とにかく適当に読んでやってください。それではどうぞ。
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2002年12月02日 男性用トイレ問題
とある清掃員さんとお話した際のこと、その人はトイレなどを専門に清掃している人で、いわゆる「トイレクリーナー」なのだ。
どんな職業にも悩みがあるもので、トイレクリーナーさんの目下の悩みは、男性便所の尿らしい。
なんでも、最近の若者たちは、便器から離れて排尿をするらしいのだ。小便器からかなりの距離をあけて排尿をする。
自分の飛距離やコントロールに自信があるのか、自分のイチモツに自信があるのか。昔の人なんかは小便器に下半身が入り込むぐらいの勢いで排泄したものだ。隣の人に見られたくないから。
小便器から距離を開けて排尿をする人が多くなると、便器周りに飛び散る尿もすさまじい量になってくるらしい。自分では、ど真ん中ストライクと思っていても、尿というのは意外と飛び散るものなのだ。
掃除する側としては、飛び散った尿は非常に厄介らしく、こすってもこすってもなかなか落ちないそうだ。清掃員さん、困ってた。
そういえば、よく行く立体駐車場のトイレに、
「尿が飛びますので、便器に近づいてください」
と注意書きされているのを見たことがある。手書きの紙に赤と黒のマジックで書かれた紙が、便器の上に貼ってあった。多分、駐車場の管理人さんが掃除しているのだろう。飛び散った尿に頭を悩ませているのが伺える。
それでも、距離をおいて排尿をする人は絶えないらしく、しばらくすると
「1歩前に出てやれ!」
と喧嘩のような口調に変わっていた。よほど怒っているのだろう。
それでも聞き分けのない駐車場ユーザーたち、ロングディスタンスで小便をするのをやめない。すると、張り紙による注意書きは
「前進しろ!」
に変わっていた。もはや意味が分からない。それを読んだ僕は、なんだか妙に励まされたような気がした。頑張って前進していこう。
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いやいやいや、いくらなんでも短すぎるだろ。しかも芸風が違うし、テンションがおかしい。しかもこれNumeriに書いた文章じゃないですからね。ということでちゃんとサルベージ。
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2003/8/2 合コン事変
合コン、それは男と女の出会いの社交場。そこで繰り広げられる骨肉の争いは目を覆うばかりである。あるものは同じ女を取り合い、あるものは実りがないと嘆き、あるものは割り勘要員として呼ばれた自分を恥ずかしく思う。
連夜盛り場で繰り広げられる合コンと言う名のドラマ。それ故、ネタになりやすいのも確かである。今日は、またもや合コンにまつわるお話です。
大学三年生の頃、合コンに誘われました。懇意にしていた4年生の先輩に「人数足りないから合コンに出てくれない?」などと誘われたんです。ハッキリ言って合コンには良い思い出がありません。ブランカのような女性に追いかけられたり(1月の日記参照)、プレデターみたいな女性を押し付けられたり(3月の日記参照)、と自殺物の思い出ばかりをプレゼントされています。ハッキリ言って行きたくない。
けれども、親切にしてくれている先輩の頼みです。誰がこの誘いを断れようか。僕は、仕方なく参加することを決意しました。その瞬間から背筋に悪寒が走り、言い知れぬ不安が僕を包んだのは言うまでもありません。
先輩は笑顔で
「カワイイ女の子ばっかり来るから!お互いに美味しい思いしようぜ!」
ってな感じで、満面のスマイルで親指たてながらジョニーのように言ってました。僕はただただ元気なく「はぁ」などと気のない返事をするのみに留まったのです。
さて、いよいよ合コン当日。待ち合わせ場所に向う僕の足取りも重い。様々な合コンにまつわる忌々しき思い出がフラッシュバックするのです。もうね、待ち合わせ場所に行ってブランカやプレデター級の女性がいたら大暴れしたかった。狂ったように暴れて合コンをぶち壊したかった。でもね、そういうのって先輩の顔を潰す行為ではないですか。どんな状況でも黙ってジッと耐えるしかないのです。なんて過酷な合コンなんだろうか。
とか思うのですけど、さすがに何度もメジャー級の選手が出てくるとは考えにくいんですよね。街を歩いてる女性ってのは皆かわいくて、かわいくない人でもそこまで濃い感じはしないのです。つまりブランカ級の女性ってそうそういるものではないんですよ。あの体験はかなり特異な体験に違いない。運悪く凄いのを引いてしまっただけだと思うんですよ。そう考えると、まさか今回の合コンまでブランカ級の選手が参戦してくるとは思えない。カワイイ子でなくても、せめて普通の子が来て、楽しく過ごせるに違いない。そう思うとなんだか足取りも軽くなってきました。もしかしたら今日の合コンは楽しいかも!うひょひょひょ
などと思いながら、ちょっと遅れ気味に待ち合わせ場所へ。見ると、先輩達男性陣は既に到着してるらしく、皆で談笑しながらタバコを吸ってました。そしてその横には5人の女性がオドオドしつつ立っていたのです。なるほど、もう全員集合してるんだな。
僕は先輩に「遅れちゃいました、すいません」と話しかけます。先輩も「お!来たな。コレで全員集合だ。ちょっと紹介しとくわ」などと僕にとっては初対面となる先輩の友人を紹介してもらいました。今日の合コンの戦友であり敵でもある男たちです。ココだけの話、ドイツもコイツも冴えないツラしてらっしゃいます。こりゃあ今日の合コンは俺の1人勝ちか?などと高笑いですよ。
さらに先輩は続けて女性陣を紹介します。「こちらが○○女子大学の方々」などと紹介され、初めて彼女達5人の顔を眺めました。
・・・・・・なんですかこれ?
ホントに素で先輩に聞きそうになりました。彼女達を指差して「なんですかこれ?」って言いそうになりましたもん。もうすごいの。なんていうか、全員がブランカクラスの一流の方々なんですよ。アレですか?あなた達は、夜は墓場で運動会ですか?
いやね、ここまで読むと「うわっ!patoのやつ見た目で女を判断してやがる、サイテー」とか思う人がいるかもしれません。でもな、ちょっと腹割って話そうや。綺麗事は捨て去って話そうや。いくらな「見た目は気にしない、中身重視」とか言ったってなソレは机上の空論でしかないんだよ。みんなある程度の「これ以上は勘弁」っていう最低ラインを持って生きてるはずなんだよ。確かにな、いくら一目で見てホラーお面つけてるような婦女子の集まりだからって、妖怪の集まりだからって嫌がるのは良くないよ。でもな、彼女達は僕のボーダーラインをはるかに超えてるわけ。洒落にならないほど突破しちゃってるの。そうだったらさ、もう綺麗事はやめてさ「性格が良いなら」とか言うのやめようや。ダメなもんはダメなんだからさ。
で、僕もブランカやプレデターの悪夢がフラッシュバックしだして、足がガクガク震えてきちゃって、先輩にも「先輩、僕だめっす。だめっす」とかヒッソリと懇願するかのように訴えかけてました。でも、先輩は
「ガハハ、だいじょうぶ、だいじょうぶ、さあいこうか!」
などと僕を引っ張るかのようにして会場である居酒屋に連れて行くんです。もう泣きそう。
で、移動する際に、「何かの見間違いかもしれない・・・もう一度見ればそこまで妖怪ってってこともないんじゃ・・・・」などと彼女達を見るんですが、やっぱり妖怪なんです。
しかも、妖怪どもは女の子同士で手を繋ぎながらベタベタして移動してるんです。なんていうか、「私たちは男に興味がないのー」っていうアピールのように女同士でベタベタして歩いてるの。死ね妖怪どもめ。お前らが男に興味あろうがなかろが関係ねぇんだよ。俺は早く帰りてぇぇぇぇんだよ。
居酒屋に到着し、各々の席に座る面々。そこで先輩が提案します。「男女で交互に座ろうよ」とか言うんです。アホかコイツは。オマエはそんなに妖怪と混ざって座りたいのか。両手を妖怪に挟まれて酒を飲みたいのか。俺なんか妖怪に挟まれたら裏返って妖怪になるんじゃないかって心配だよ。
でもやっぱ、先輩の言うことだから逆らえないんですよ。もう座るしかないじゃないですか。妖怪と妖怪の狭間に座るしかないじゃないですか。大人しく座りましたよ。これでもう右を見ても左を見ても、前を見ても妖怪です。ここは妖怪アイランド。早めに酒に酔ってしまうしかない。
乾杯もソコソコに酒を飲みましたよ。もう肝試しみたいなものだって割り切ってグイグイ飲みました。なんておぞましい合コンなんだって思いながら飲んでました。
でもね、見ると先輩も、その友人もみんな楽しそうに飲んで妖怪と談笑してるんですよ。それはそれはジョイフルに談笑ですよ。なんかね、そうなってくると、妖怪妖怪って気にして楽しめないのが自分だけみたいな気分になってくるんですよ。そもそも、彼女達はさほど妖怪ではないのかもしれません。そう見えるのは僕だけ。
大体ね、僕はいつからそんなに偉くなったんだと。いつから合コン相手が妖怪だからって嫌がるほど偉くなったんだと。向こうに取ったら僕だって妖怪みたいなものですよ。それをね、自分だけ不機嫌に飲んでて何様のつもりなんだと。なにが肝試しだ。オマエはいつからそんな大口叩けるようになったんだよ。なんかね、僕はこの妖怪どもと楽しい一時を過ごす必要があるんじゃないかって思い始めましたよ。それがあるべき大人の姿だって思いました。
見た目で異性を判断したっていい。見た目で判断して洒落になってない人を認定しても良い。それは人として仕方のないことだから。でもね、その感情を表に出してムスッとしてるのはよくないんですよ。笑顔で妖怪に接してればいいんです。
それからの僕は違ったね。妖怪に対してもスマイル満点で接した。最高にジョイフルな会話で妖怪を楽しませつつ、気配りを忘れない。そんな最高の合コン戦士としての姿を披露してた。
そいでもって、場が盛り上がってくると、なんか妖怪5人衆が連れ立ってトイレに行くんですよ。きっとトイレで「ねえねえ、誰がいい?」とか妖怪なりに会話してるんだと思います。座席に残されたのは男性陣5人だけですよ。その瞬間でした。
先輩の友人の人が怒り出すんです。先輩に向って憤怒してるんです
「てめー!なんだあの女どもは!何がカワイイ子だー!」
とかあらん限りの勢いで怒ってるんです。もう殴りかかりそうな勢い。さっきまで笑顔で妖怪と談笑してた人が、妖怪が席を外した瞬間に怒りだすんですよ。
しかも、それに触発された他の友人達、俺も俺もとばかりに先輩に怒りをぶつけます。
「なんだアレは、核兵器級じゃねえか」
「俺は待ち合わせ場所で我が目を疑ったぞ」
「俺たちを殺す気か!!」
などと、僕が思ってた以上に罵詈雑言の嵐です。さっきまで笑顔だったのに、あんなに楽しそうだったのに。きっと先輩の友人たちも我慢してたんだろうな思いました。
で、皆に罵声を浴び去られ半泣き状態の先輩。精一杯の言い訳をします。
「だってよ、俺だって彼女達に頼まれて仕方なくさあ・・・かわいくない子が来るって言ったってお前ら来ないだろ」
とか弱々しく言うんです。アレか、俺らは生贄か。と思ったのは僕だけではないようで、友人達は「ふざけるなっ!」「俺はもう帰るっ!」などとツバでも吐き捨てそうな勢いで帰っていきました。
残されたのは僕と先輩のみ。先輩はすっかりしおらしくなっちゃって
「ごめんなぁ・・・・こんな合コンに呼んじゃって・・・・すまんなぁ・・・」
とか言ってました。そこまで言われると僕も悪い気がするではないですか、だから
「いえいえ、楽しいですよ。いい人達ばかりで」
なんて心にもないこと言ってしまいました。それが失敗だった。
それを聞いた先輩は急に笑顔になり
「マジで!?じゃあ後はおまえに任せていいかな?実は俺も帰りたくって帰りたくって、彼女達の相手するのはマジでしんどいよ」
とか狂ったこと言ってるんです。
「ちょちょちょちょ、任せるってどういうことですか!?」
焦って僕が聞くと
「ん・・・・俺は帰る」
「かえる?」とか素っ頓狂に繰り返してしまいました。冗談じゃない、なんでお前ら俺を残して帰るんだよ!とか思うんですが、時既に遅く、先輩は笑顔で帰っていきました。明らかに妖怪どもを押し付けられたようです。
その数分後、妖怪御一行様がトイレよりご生還。
「およよ?他のみんなは?」
などと、ぶりっ子に聞いてきます。黙れ妖怪め!なにが「およよ?」だ。俺はなお前らの飼育を押し付けられたんだ。皆逃げちゃったんだよ!とか思いながらも気の弱い僕は
「ちょっと事件が起こっちゃって・・・・みんな帰っちゃいました」
とか訳の分からない弁明をしてました。事件があったから帰るってなんだよ。みんな刑事でもあるまいに事件があったからって。
「そっか・・・帰っちゃったんだ」
妖怪のうちの一匹が呟きます。このまま妖怪どもがトーンダウンし、「帰ろうっか?」となったらベスト。僕も解放されるというものです。
とか思ったら、
「しょうがないね、じゃあ6人で飲もうよ」
ろくにん!?
どうやら、「妖怪五匹+僕=六人」のようです。もうね、やってらんない
結局、僕は泣きそうになりながら、妖怪五匹に囲まれて深夜まで酒を飲むのでした。死。
もう妖怪とか酔っ払ってさらに醜くなるわ、服とかはだけてるわ。乳をすりつけてくるわ。僕の箸を勝手に使うわで、何度か殺したい衝動に駆られました。殺意の波動が出てたね。
さすがに、居酒屋を出て、妖怪の一匹が「もう、朝まで飲んじゃおうよ!雅子の部屋で朝まで飲もうよ!」とか狂ったこと言い出したときは走って逃げました。死ぬかと思った。
兎にも角にも、合コンとは恐ろしいものです。下手したら生命すらも危険なこともありますので、これから合コン初体験という方は十分に注意して臨んでくださいね。あと、逃げる時は思い切って逃げる決断力も必要ですよ。
僕はこの合コン妖怪事件を契機に、二度と合コンに参加しないことを誓うのでした。
おしまい
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というわけで、一人でお化け屋敷はいったらあまりの怖さに泣いてしまい、もうどうしていいか分からないままコナンの続き読みます。
11/8 都市伝説をぶっとばせ
口裂け女、トイレの花子さん、人面犬に死体洗いのアルバイト、はたまた宇宙人の存在をアメリカはひた隠しにしている、30歳まで童貞だと魔法を使えるようになる、などなど、最近では何かとこれらの「都市伝説」と呼ばれる出所不明な噂話を耳にする機会が増えたように思います。そういった関係の書籍がいくつか出版され、結構な売れ行きを誇っているなど静かなブームと言えるかもしれません。
僕はこういった都市伝説的な噂話ってのが大好きでしてね、大学時代に物理学の課題で電磁コイルに関するレポートを出されましてね、何を書いていいのかさっぱり分からなかった僕は思いっきり都市伝説に関することばかりを書いて提出、思いっきり単位を落としたなんて逸話を持ってるほどなんですよ。で、常々思うんですが、こういった都市伝説、今でこそはけっこう怪しげな噂話的な扱いを受ける感じがするんですが、実はこれってけっこう大切なことなんじゃないかって思うんです。
人から人へ語り継がれる都市伝説、それも多くの場合が誰かを戒めるような内容を含んでいたり、勧善懲悪だったりしています。冷静に考えるとありえないことばかりなのですが絶妙にその当時の世相というか生活様式を反映していたりするもので、よくよく考えるとこれは昔話や民話はては神話なに通じるものがあるんじゃないかって思うんです。
ですから、何十年後、何百年後の日本では、さらに形態を変えた口裂け女が当たり前の昔話として語り継がれているかもしれません。人面犬が鬼を倒しにいく話とかになってるかもしれません。きっと桃太郎や浦島太郎なんかも最初は都市伝説的な与太話が形態を変えて行ったのではないかと思うのです。
ちなみに、全然関係ないですが僕は国語の教科書に載っていたアカ太郎という話が大好きです。何年も風呂に入ってない老夫婦が風呂に入ったら垢が出まくって人間ができちゃったっていうとんでもない話で、確かそのアカ太郎が鬼を倒しに行く話です。当時の僕は、老夫婦なのに一緒に風呂に入るとか仲睦まじいなってニンマリしたのを覚えています。
そんなことはどうでもいいとしまして都市伝説ですが、問題は今の僕らが未来の日本昔話を作っているという事実です。都市伝説を語り継いでいく上でいつしか自然と桃太郎、浦島太郎と肩を並べる日本昔話になる。そうなった場合、あまり恥ずかしいエピソードを残してはいけないんじゃないかって思うんです。
例えば、桃太郎を考えましょう。おそらく日本昔話で一番有名なこの話の冒頭は、おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯にではじまります。この話を聞くたびに、ああ、当時は電化製品が何もなかったんだな、川に行かないと洗濯もできないし、柴刈りに行って薪を取らないと料理も作れないし暖房にもならない、当時の人達は自然と共に生きていたんだな、って生活様式に思いを馳せることになります。
それと同じで、現代の都市伝説が遠い未来に昔話となった場合、今現在の様子を想像する材料として使われることになると思うのです。その時に口裂け女やら人面犬やら、そういったエピソードなら別に恥ずかしくはないですけど、例えば熱烈にオナニーして性器を擦ってる青年がいて、あまりに毎日やってるもんだから右腕の筋力だけ異常に発達してしまってですね、あまりの高速ピストンに性器から煙が噴出、その煙の中からランプの精ならぬ性器の精が出てきて願いを何でも叶えてくれる。青年は性器の精を狙う悪者と対決し、見事勝利、姫を救出して性器の精と共に宮殿で幸せにくらしましたっていう都市伝説だったらどうしますか。僕、恥ずかしくて未来の人に顔向けできないっすよ。
とにかく、語り継いでも恥ずかしくない、未来の人が聞いて「昭和・平成時代の人間はなにやってんだ」と思うことがない堂々たる都市伝説を残していかないといけないと思うのです。
さて、そんな「都市伝説」ですが、僕はこの名称に大きく異論を唱えたい。何も疑うことなく純粋に噛み砕くと「都市」で伝承されていく「伝説」となるわけなのですが、その大半は実際には「都市」でブレイクしないと思うんです。そりゃいくらか都市部でも流行するんでしょうけど、他に娯楽のない田舎、人と人の繋がりが濃厚なうら寂れた農村なんか噂の伝承パワーが違いますからね。もうとにかく、この手の噂なんてのは田舎ほど盛んなんじゃないかって思うんです。だから「都市伝説」って名称は微妙にシックリこない。
僕が育った街はそれこそ牛車とか走ってる本気の田舎で、うら寂れた漁村って雰囲気がモンモンとしている掛け値なしの田舎だったわけですが、やはり噂の伝達力ってのは恐ろしく、こういった都市伝説的な話は子供たちの間で一番の感心ごとでした。
大人たちってのは都市伝説とはいえないようなもっと生々しいスキャンダラスな噂で盛り上がっていたのですが、やはり子供たちはありえないような都市伝説に夢中、やはり子供ですもんね、そりゃあ30歳くらいのニートお兄さんが本気で口裂け女の存在を信じて部屋でプルプルしてたらそれ自体が都市伝説ですからね、やはり子供が噂の中心になると思います。
やはり田舎ゆえに情報伝達に大きな障壁があったんでしょう、今みたいにインターネット全盛というわけにはいきませんから、口裂け女、人面犬なんてメジャーレーベルな、それこそ全国規模の都市伝説ってのはそんなに盛り上がらなかったんですよ。その代わり、もっと地域的な言い換えるとローカルで局地的な都市伝説が大ブレイクしていました。
中でも、以下の3つの都市伝説が根強い人気で、しかもけっこう身近な話題だから信憑性があって生々しい。地域の子供たちはみんなこの噂を信じ込んでいたのです。
一つが、3丁目の廃屋近くで大声を出すと猟銃を持ったキチガイ爺さんが追いかけてくる、というもの。これは妻に先立たれた爺さんが気が狂ってしまい、おまけに子供たちまで爺さんを見放し、爺さんは子供たちを憎んでいるというもっともらしい理由がついてました。4年前に田中君のお兄さんが3丁目の公園でサッカーをしていたらいきなり猟銃で狙撃されて死んだ、なんてとんでもないエピソードまで伝わってました。
二つ目が、松山商店の周りには四つんばいで歩く化け物オッサンが出て、四つんばいのまま恐ろしい速さで追いかけてくる、というもの。これはウチの地域で駄菓子などの子供騙しな商品を売ってる商店があって、そこは酒屋も併設していたんですよね。で、そこで夜遅くまで買い食いしていると四つんばいの化け物オッサンがでてくるというもの。しかも鬼のような速度で追いかけてくるらしい。この話はいくらか信憑性があって、ウチの学年でもけっこう人気のあった、僕も秘かに恋心を抱いていた友子ちゃんという子が実際に目撃して追いかけられたという生々しい体験を語っていました。
三つ目が、タバコの灰は売れる、という噂。これは真実なのか嘘なのか良く分からない、調べてもよく分からなかったんですが、タバコを吸うと灰が出ますよね。吸殻を除いてその灰だけを一升瓶に満タンに貯めると、それを農家が1本5万円で買い取ってくれるという話。なんでもタバコの灰は栄養価が高く、畑などの土壌に撒くと野菜が成長する、だから農家が高値で買い取ってくれる、なんてことも伝わってました。
僕ら子供たちはこの3つの都市伝説を本気で心の底から信じ、3丁目に近づく時は静かにしていましたし、夜遅くなったら松山商店には近づきませんでした。ウチのキチガイ親父がタバコの灰を捨てるのをMOTTAINAI!とか本気で思っていたものです。
そんな都市伝説も成長していくに従ってそんなの本気であるわけないと大体分かってきます。そりゃあ、子供を猟銃で撃ち殺した爺さんがいたら今頃塀の中です、四つんばいで子供を追いかけるオッサンがいたら鉄格子のついた病院の中です。タバコの灰だってきっと売れないでしょう。なんとなく大人たちが恣意的に流した噂なんじゃないかなって思うんです。
3丁目の公園は住宅街の真ん中にあって子供たちが大騒ぎしていた。それを静かにさせるために大人たちが猟銃爺さんの噂を流した。松山商店で夜遅くまで買い食いしていると危ない。あそこは酒屋も併設しているから危ない大人だって来るかもしれない。じゃあ近づかないようにしようと噂を流した。タバコの灰はよくわかりませんが、きっとこんなことだと思うのです。
そういうことが大体分かり始めてきた高校生くらいの時、結構なろくでなしブルースだった僕は同級生の家にたむろし、まあ一種の溜まり場ですね、そこで悪ぶってタバコなどをスパスパ吸っていたんです。
仲間達とタバコを吸いつつワルな自分に酔いしれていたのですが、そこで子供の時に本気で信じていた都市伝説の話になりました。そういや、タバコの灰が農家に5万円で売れるって信じてたよなーから始まり、3丁目のキチガイ爺さん、松山商店に出没する四つんばいの化け物オッサンと昔話に華を咲かせる感じで大変盛り上がったのです。そして、仲間の一人が言い出しました。
「でもさ、タバコの灰は売れるんじゃない?」
確かに、キチガイ爺さん、四つんばいオッサンってのは明らかにあり得ないじゃないですか、でもね、タバコの灰はなんか一刀両断してはいけないような絶妙な信憑性があるんですよ。なんとなく、もしかしたら売れるんじゃないかって思うところがあるんです。
それにまあ、高校生といえばお金がない時期ですよ。お金はないけど遊びたいでも働きたくないなんていう生物的に見ると最下級なんですけど、やっぱお金が欲しいじゃないですか。エロ本とか買いたいじゃないですか。タバコの灰が1本5万円で売れる、これはもう驚くほど魅力的だったわけなんですよ。
「俺たちで灰を貯めて売りに行こうぜ!」
誰が言い出すでもなく、僕達は一致団結しました。とにかくこの溜まり場で吸うタバコの灰を貯める、一升瓶1本貯めて農家に売りに行こう。売れた金は皆で山分けだってことになったんです。
そこからは凄かったですね、みんな狂ったようにタバコ吸うのはもちろんのこと、各々の家庭で出た灰までこっそり持ってきましてね、どこにこんな情熱があるんだろうと思うほど熱心に灰を集めたんです。で、ついに決起から2ヶ月経ったある日、一升瓶満杯のタバコの灰が僕らの目の前に現れたのです。僕らのようなクズだって目標を持って頑張れできるんだ、よくわからない感動が身を包んだことを今でも覚えています。
しかしながら感動に打ち震えているわけにはいきません。すぐに次なる問題が浮上します。これをどこに売ればいいのか。普通に考えると、本当にタバコの灰が売れるならば買い取ってくれる機関があってそこに売ればいいわけなんですが、僕らはれっきとした高校生なわけなんです。高校生が我が物顔でタバコの灰を売りに来る、これはどう考えてもマズいわけなんです。
「そうだ!農家に直接売りに行こうぜ!」
これが飛びぬけた発送でした。もし農家が本当にタバコの灰を欲しているのならば、難しいこと考えずに直接売りにいけばいい。急に光明が差した僕ら4人、いてもたってもいられず早速一升瓶を持って近くの農家へと赴きました。
この辺では結構広大な畑を所有しているという農家のことを山本君が知っていました。そこになら売れるんじゃないかってことで山本君が案内するままその人の家へ。実際に行ってみると本当に大農場主なんだろうかという貧相な家で、今にも崩れそうな廃屋でした。
「こんにちはー、すいませんー」
土間みたいになっている玄関で大声を出して呼びかけます。しかし、一向に反応がありません。
「すいませーん、タバコの灰を売りに来たんですけどー」
僕ら四人で大声を出して呼びかけるのですが反応なし。磨かれた板間に反射した光と、玄関から襖の隙間に見える居間、その奥にある立派な仏壇だけが妙に印象的でした。
「どうする?だれもいないんじゃ?」
誰も居ないのに玄関に鍵すらかかっていない、これは田舎では割とよくあることです。もう諦めて帰るか別の農家に売りに行くか相談していたところ、異変が起こりました。
ガチャリ
何か不振な物音が家屋の奥から聞こえてくるのです。他の連中は相談に夢中で気付いていないみたいでしたが、僕は確かにその物音を聞きました。何かいる。この家には何かいる。逃げなくてはいけない、動物的な直感が背筋を伝いました。その刹那、とんでもない事態が捲き起こったのです。
「テメーら!泥棒か!」
長い長い廊下、あまりに長すぎてその奥は暗がりになっていたのですが、その闇の中から何やら奇声を発した生物が猛然と突っ込んでくるのです。何が起こったのか分からずにマゴマゴしている僕達、よく見ると老人が手に猟銃を持ってこちらに突進してくるではないですか。
「銃持ってる!逃げろ!」
何故か殺されると思った僕らは脱兎の如く逃げます。しかし、猟銃を持った老人はなにやら奇声とも雄叫びとも思える大声を出しながら追ってきます。なんか僕らは逃げる時に玄関の戸を閉めて逃げたのですが、その戸を蹴破って追いかけてきた。
なんで追いかけられててしかも生命の危機に瀕しているのか全く分からないのですが、僕らは家の前の畑を横切って本気で逃げます。それでもキチガイが追ってくるものですから自然と4方向に分かれて逃げました。
こうなるとキチガイ爺さんは一人しかいませんから殺されるのは1人で済みます。すると、一番足の遅かった山本君が獲物として狙われることになったのです。
「hckすえふえvlヴぇwv」
猟銃片手に奇声を上げる爺さん。
「助けて!助けて!」
泣き叫びつつも必死で逃げる山本君。
僕らはもう追いかけられることがないので物陰に隠れてそのシュールな光景を見守っていました。最終的には、道路まで逃げた山本君が、手に持っていた一升瓶を地面に叩きつけ、モワーッとタバコの灰が爺さんを包み、その隙に逃げることに成功していました。
それぞれがそれぞれの方法で逃げおおせ、なんで追いかけられたのか、なんで殺されかけたのか分からないまま溜まり場に再集合します。
「なんで俺だけ置いて逃げるんだよ!」
「置いて逃げてねえよ!物陰から見てたよ」
「よけい悪いわ!」
なんていうハートウォーミングな会話を交わし、まだ激しく荒れている呼吸を整えながら冷静に議論します。
「あれは僕らが悪いことしたとかじゃなくて、単純にあの爺さんがキチガイだったんだな」
「キチガイに猟銃持たせるなよ」
「なんで俺だけ置いて逃げるんだよ!」
活発な議論が進む中、2ヵ月間必死の思いで貯めた灰を煙幕代わりに使った山本君の弾劾裁判が始まります。
「お前のせいでタバコの灰がなくなった」
「どうしてくれる」
「だいたい、あのキチガイ農家を案内したのはお前だろ」
必死で責め立てる僕ら、
「なんで俺だけ置いて逃げるんだよ!」
山本君はもう涙目でした。そして僕はあることに気がついてしまったのです。
「なあ、あの農家って何丁目?」
「3丁目だよ」
一同が沈黙します。
「おい、それって3丁目の猟銃爺さんじゃないのか」
なんてことだろうか、子供の頃に信じていた都市伝説、そんなのはどうせ嘘だろうと思っていたのに、まさか本当に実在したとは。きっとあの爺さんがあの調子で子供を追い回したんだと思う、それが噂になって都市伝説として語り継がれることになった。そういうことなのかもしれません。
「ということは・・・」
都市伝説は嘘でもデマでも誇張でもなくて本物だった。3丁目には本当に猟銃を持ったキチガイ爺さんがいた。つまり他の都市伝説も本物である可能性が高い、ということは・・・
「タバコの灰も売れる可能性が高いってことだな」
山本君が言う。違う、そっちじゃない。だいたいタバコの灰はお前が煙幕に使ったじゃないか。
「松山商店の四つんばいオッサンもいるかもしれないってことだろ」
「その謎を解き明かすしかないな!」
いつの間にか目的が変わっていた僕達、我が町に伝わる都市伝説の謎を解明しなければならないという使命感に燃えてしまい、最大の謎である「松山商店の四つんばいオッサン」の謎に迫ることになったのだった。
子供の時に聞いた内容などから考えると、ほとんどの場合で四つんばいオッサンは夜に出没している。暗闇の怖さや、その周辺に街灯が未整備だったことが四つんばいオッサンのミステリアスさを演出していた。
早速、僕ら四人は松山商店の近くで張り込みを開始する。高校生にもなってなにやってるんだって思うんだけど、僕らは至って真剣だった。猟銃爺さんもいたんだから四つんばいオッサンもいるはずだ。ウチの学年のアイドルだった友子ちゃんだって襲われたんだ、あの子は嘘つくような子じゃない、きっと本当にいるんだ。
どうせ溜まり場にたむろするくらいしかすることなかった僕らでしたから、その溜まり場が松山商店近くの物陰に変わっただけで、僕らはそこで何日も張り込みをしました。張り込んでいて分かったのですが、松山商店は駄菓子屋と酒屋を併設している商店で、それと同時に立ち飲みやって言うんでしょうから、酒買ってその場で飲むこともできるシステムになっていたんです。
で、ですね、夜もそこそこに深まってくると、けっこう酔っ払いの親父どもがフラフラと通りを歩くんです。ウエーイとか叫ぶダメな大人もいましたし、道端でゲロ吐いているダメな大人もいました。こりゃあ、これだけ酔っ払いがいるならば四つんばいオッサンがいてもおかしくない。きっと酔っ払いなんだろう、と心のどこかで思っていましたし、あんな大人にはなるまいと心に誓ったりしていました。
何日経ったでしょうか、その日もいつものように張り込みを続けており、暗がりの中でトランプなどをして暇を潰している時でした。松山商店の前の通りから普段は感じないような異様な熱気というか殺気というか、とにかく触れてはいけないような異常な思念を感じ取ったのです。
「なにかくる・・・」
僕らの手は止まり、トランプそっちのけで通りを注視します。見ると暗がりの中に一つの影がありました。しかしながら、それは人間のものとするにはあまりに低い、まるで地面に這うような物体。
「でやがった!」
色めき立つ僕たち。やはりこの都市伝説も真実だった。あまりのことに狼狽する面々、そんなものはお構いなしに謎の物体はなにやら呻き声を発している。
「ウェーイ」
どでかいエリマキトカゲのようにノシノシと通りを四つんばいで歩く黒い影。しかしながら呻き声はオッサンのそのもの。間違いない、都市伝説どおりの四つんばいオッサンだ。
「どうするんだよ!」
「捕まえるしかないだろ」
「どうやって!」
できればそんな恐ろしいものには触れたくない。しかしこの目で真実を見なくてはならない。お前が行けよ、お前が行けよと言い争った結果、多数決で山本君がいくことに。それでも渋る山本君を半ば投げ出すような形で道路に押しやりました。
「うわ!」
情けない声を上げる山本君、その声に反応して黒い影がこちらを向きます。
「なんかこっちみたぞ!」
ビビる山本君、こちらを向いて微動だにしない黒い影。物陰に隠れていた僕らは息を呑みました。静寂、緊張、興奮、永遠と思われるほど時が止まる。ジッと対峙したまま山本君と黒い影。ゴクリと生唾を飲む音が聞こえてしまうんじゃないかと思うほど。
次の瞬間。黒い影が山本君に向かって動いた。動いたかと思ったらありえない速さ。ワサワサワサとあっという間に間合いをつめる。
「山本!逃げろ!」
何かが危ない!危険が危ないと思った僕は叫んでいました。しかしながら、あっという間に間合いを詰めた黒い影はもうすぐそこまできています。ああ、山本君が殺されてしまう。
大切な大切な親友が危険な目にあっている。いてもたってもいられなくなった僕らは誰が言い出すでもなく物陰から飛び出しました。
「おい!捕まえろ!」
「そっちいったぞ!」
「抑えろ!抑えろ!」
「何で僕ばかりこんな目に遭うんだよ!」
闇の中を四つんばいですばしっこく動き回る黒い影。しかしこちらは4人がかりです。さあ観念しろ!とばかりに捕まえます。
「やった!捕まえたぞ!コイツ!」
誰かの叫び声が高らかに響き渡ります。ついに捕まえた。ついに都市伝説の正体を掴んだ。全く、俺たちの永遠のアイドル友子ちゃんを怖がらせるとはふてえやろうだ。この酔っ払いめ!と四つんばいオッサンの正体を確認すると、
うちの親父でした
ムチャクチャ酔っ払ってて「よう!」とかハニカミながら言ってました。オッサンなにやってますのん。
つまりはこういうことです。松山商店の立ち飲みブースで酩酊するまで飲む親父、これはもうライフワークでほぼ毎日と言っていいくらい通っていたそうです。なぜか酔うと四つんばいで歩きたくなるらしく、そのまま這うようにして家路へ。その光景を友子ちゃんや誰かに目撃されて大騒ぎ、といった按配のようなのです。どおりで、酔って帰ってくる親父の膝とかが汚いと思ったわ。おいおい、この地域の子供たちが本気で恐れている都市伝説の一つがウチの親父かよ。
都市伝説の正体がウチの親父だったということが判明してしまい、最初は「コイツ!暴れるな!」とか血気盛んだった友人たちも「あ、おじさん、こんばんは」とか何故か礼儀正しくなってる始末。酔っ払って前後不覚なの親父はご機嫌でウェーイとかなってました。
「じゃあ俺、親父連れて帰るから・・・」
「うん、おやすみ・・・」
「また明日ね・・・」
微妙に気まずい気持ちを抱えつつそれぞれの家路へと着く僕たち。
なんてことだろう、この街の都市伝説は本物だった。しかもそのうち一つがウチの親父だったとは。その瞬間、友子ちゃんを襲う四つんばいウチの親父という非常にシュールで嫌な絵図が浮かんでしまい、僕はただただ涙するのでした。
都市伝説はその全てが完全なるでっち上げというわけではない。噂の発生源には必ず何かしらの原因、元となる事件事故や事実、それに加えて誰かの意図が入っているのだ。なんにせよ未来へと語り継がれて昔話となるだろう都市伝説。それだけに、現代人として恥ずかしい話だけは語り継いではいけない。決して、ウチの親父が松山商店の近くで四つんばいになって徘徊するなんて噂は語り継いではならないのだ。
酔っ払って歩けない親父を引きずりながら月夜の帰り道、この都市伝説をどうやって打ち消すか思案に暮れるのでした。
ちなみに今現在、ウチの地元ではどうも友人の誰かがウチの親父が発生源だとばらしたらしく、それが形を変えて間違って伝わってしまい、松山商店の近くに四つんばいの親子が出るという意味の分からないものに形態を変えています。これだから都市伝説はおそろしい。そのうち親子でやって都市伝説を真実にしてやろう。
10/31 光と影
光ってのはものすごい。ただただ驚愕するしかない。
真空中における光の速度は秒速30万キロメートルで地球を7周半。波動の性質と粒子の性質の両方を備えた二重性を持っている。そんな理科チックな話しはどうでもいいとして、とにかく光ってヤツは途方もなくすごい。アツい、ヤバい、間違いない。
小学生くらいの時、僕らクソガキの間では光ってヤツは圧倒的な速さの象徴だった。理科の時間に聞いたかなんか知らないけど、光の何たるかななんて全然知らず、とにかくすごい速いもんだと認識し、様々な場面で活用していた。
中でも、足が速い琢磨君って男の子がいて、彼は頭がバカでどうしようもなかったんだけど足だけは一級品に速かった。いつもいつも運動会の主役で、クラスの女子にもモテモテだった。そんな琢磨君が「俺は光より速い」と途方もないことを言い出すもんだから僕らは色めき立った。
早速、四区の児童公園に集まった僕らは懐中電灯片手に琢磨君と光どちらが速いか試した。カチッと懐中電灯を照らすと同時に裸足の琢磨君が走り出す。僕らはどちらが先にゴールにたどり着くか真剣に判定をした。そう、あの頃、確かに僕らはバカだった。
当たり前の話だけど、光ってのは琢磨君より全然速くて、いくら彼が顔を真っ赤に染め上げて走っても全く敵わなかった。それくらい光ってのは凄いものだったし、絶対的な領域だと思っていた。
僕が20歳くらいだった時。大学の関係で名古屋のとある工場に送り込まれ、そこで2週間くらい監禁されるという研修という名の地獄の日々を過ごしていた。そこではクソ暑い工場のど真ん中に座り、落ちてるゴミみたいな綿毛を5分ごとに拾って重さを量るという、正常な精神の持ち主なら発狂しかねない単純作業に従事していた。
2時間もやってると測定数も20を超えて綿毛の重さとか心底どうでもよく思えてき始めてきて、記録紙に適当な重さとか記入し始めるのだけど、ふと工場の隅が気になった。そこでは何か半透明なチューブのようなものがウネウネと蠢き、その傍らにはうず高く積み上げられたチューブタワーがそびえ立っていた。夏だね!と言い出しかねないくらいのチューブっぷりだった。
「あれはなんですか?」
この工場ではゴミのような綿毛しか作ってないはずだ。あんなチューブが存在するのがそもそもおかしい。不審に思った僕は通りがかった社員の人に尋ねた。
「ああ、あれね、光ファイバーだよ」
光ファイバーという言葉が出てきた。その言葉を聞いてもクリスマスなどに街角に並ぶあのインチキ臭いイルミネーションしか浮かばず、
「へえ、確かに綺麗ですもんね、光ファイバーのツリーとか」
とか雑談に花を咲かせると社員の人は鼻で笑った。
「いやいや、そんなんじゃないよ。インターネットなんかの通信に使う光ファイバーの開発をしてるんだよ」
当時はまさにインターネット初期で、みんなゴリゴリとモデムと電話回線を使ってムリムリとインターネットに繋いでいた。24時間繋ぎ放題なんて素敵なプランもなく、テレホーダイなんてキチガイじみたサービスがあるだけ、回線速度だってムチャクチャ遅くて画像でもヒイコラ、動画なんてダウンロードしようものなら一日仕事だった。けれども、それが普通であって特に不便とも感じずに皆がシコシコと繋いでいたんです。
そんな事情もあってか、「光ファイバーでインターネット」ってのがどうもピンとこず、あんな綺麗なだけのインテリアがインターネットに使えるもんか、だいたいファイバーってなんだよサガットが変なビーム出す時の掛け声か、などと思ってました。
あれから10年余り、インターネットを取り巻く通信環境は激変しました。電話回線ダイヤルアップからISDN、ケーブル、ADSL、そして時代はついに光ファイバー(FTTH:Fiber To The Home)へと移行したのです。あの日、あの工場で見たファイバーの山たち、あれが普通に実用レベルで普及したと考えると感慨深いものです。
さて、今や多くの人がADSLやケーブル、光でインターネットに接続し、高速通信、常時接続などが当たり前のように展開されています。そして、それらの中でも頂点に君臨するのがやはり光ファイバーではないかと思います。
その実態や構造は良く分かりませんが、やはり「光」というネーミングが秀逸すぎます。前述したとおり、僕らの多くは「光」に対してこう考えるはずです、速度に関しては絶対的な存在であり、これ以上速いものは存在しない、と。
東海道・山陽新幹線で考えると分かりやすい、開業当初、新幹線は「こだま」と「ひかり」の2種類が存在し、「ひかり」は速度が速く、「こだま」はその下位的な扱いだった。つまり、音である「こだま」よりも光のほうが速いというネーミングセンスだ。そして、1992年に、当時熾烈な料金値下げ競争によって利用者数を伸ばしていた航空機路線に対抗する形で新型車両を開発、さらに上位の新幹線として「のぞみ」が導入された。これはもう、光より速いものは人間の精神世界くらいしかないだろうという、光の絶対的速さに対する諦めともとれるネーミングだった。よけい分かりにくくなった。
とにかく、それほど絶対強者として存在する「光」、それをインターネットに使うんですよ、とした「光インターネット」は名前の勝利だと思う。誰もが鬼のようにクソ速いインターネットを連想する。それほどに「光」の存在は強烈だ。
しかしながら、ことインターネット回線に関しては、僕個人はあまり恵まれているとは言えない歴史を辿ってきた。なにせ、数年前のADSL花盛りの時代においてもシコシコとダイヤルアップで繋いでいて、調子に乗ってインターネットやりすぎて電話代に卒倒したこともある。
やっと、ADSLを導入した数年前においても、立地条件が悪かったのか速度が死ぬほど遅かった。そして、度々の利用料金延滞により幾度となくネット回線を停められ、酷い時はエロ動画をダウンロードしている途中でやられたこともあった。「舐められたらでちゃう01.zip」をダウンロードして調子悪かったので再起動して続きをやろうとしたら停められてて「舐められたらでちゃう02.zip」「舐められたらでちゃう03.zip」「舐められたらでちゃう04.zip」とダウンロードできなかった。01には絡み前のインタビューしか入ってなかった。こんなので抜けるか。
さらには賢明なヌメラーの皆さんなら記憶に新しいことかと思うけど、
こんな意味分からない利用料金の請求が来たこともあった。なんだよ、35円って。
とにかく、あまり良い思い出のなかったADSL、これも度重なる料金延滞により契約解除、同時に電話回線もなくなるという悲劇に遭い、あっという間にか我が家からインターネット回線が消えた。
別にインターネットなくてもいいや、職場でやるし、って感じで数ヶ月、ネット無し我が家を堪能していたのだけど、さすがにそういうわけにもいかないのでそろそろ何とかしようと職場からネットを徘徊、そこで「ADSLより安い光インターネット」「今なら工事費無料!」という魅惑的な言葉が踊るサービスを見つけてしまったのです。
なんと、あの確固たる絶対強者、最強で孤高の存在である「光」、それを利用した最強のインターネット回線が我が家にやってくるというのか。それもADSLよりも低料金で工事費も無料、こりゃもう、申し込むしかない!もうね、光の速さで申し込みしましたよ。
それからまあ、妙齢のお兄さんが我が家に工事下見にやってきてエロ本の山を見られたり、工事の日をすっかり忘れてて、ゴミだらけのカオスな部屋で工事してもらって、工事の人が嫌な顔してたり、という悲劇を経てついに9月中旬、我が家に光インターネットがやってきたのです。
あの光が我が家にやってきた。思えば長い道のりだった。ダイヤルアップモデムの接続音や、ADSLを停められた時の無慈悲なエラー画面「リダイヤルしますか?」という画面などが走馬灯のように頭の中を駆け巡る。僕はこの日、ついに世界を制する力を手に入れたのだ。
まずはエロ動画のダウンロード。
鬼のように速い!光インターネットすげえ!
次にこのNumeriファイルのアップロード。
一瞬!光インターネットすげえ!
メールチェック、普段、一日にスパムを含めて500通くらいメールが来るのですが。
500通が数秒で!光インターネットすげえ!
もう感動しすぎて10Mくらいのファイルを意味もなく何回もアップロードしてはダウンロード、感動に打ち震えていたのでした。
さて、そんな素敵過ぎるインターネットライフを満喫し、やっぱ光はすげえやって思ってたのですが、そんな平和で平穏な日々を送る僕の元に1通の手紙が届きました。
頼もしすぎる赤い文字、光インターネット会社からのハガキでそこには請求書と書かれていた。
あれれ、おかしいな、確か工事費は無料で利用料金も最初の1ヶ月は無料のはずなのに。何かの間違いかしら。でもまあ、あまりに素晴らしい光インターネットだ、ちょっとくらいの料金なら払ってもいいんじゃないか。あんな素晴らしいサービスを提供してもらってるんだ、それくらいしたってバチはあたらないはずだよ。そう考え、シールみたいになってるハガキを開き、いくら払えばいいのかしら、なんて軽い気持ちで確認したのでした。そして、そこには驚愕の事実が。
初期費用142万6800円
高額!光インターネットすげえ!
ありえねーだろ、おかしすぎるだろ。なんか10万くらい値引きされてるみたいなんですけど微々たるもの、もうとんでもないことですよ。払えるわけがない。
いやいやいやいや、落ち着け、ちょっと落ち着け。冷静に考えろ。これは何かの間違いだ。架空請求とかでもここまでの高額は要求しない。っていうか光インターネットの導入にこれだけかかってたら石油王くらいしか導入できない。きっと何かの間違いだ。
まあ、そもそも消費税の額が142万にしちゃ少なすぎるので明らかに何らかの壮大なミスだったんでしょう、予想通り後日にはきちんとした7000円くらいの請求書が届いたので一安心したのですが、何も謝罪とか説明もなく、なんかイライラしましてね、もしこれで本当に払う人がいたらどうするんだよ、何もしらないお婆ちゃんとか払っちゃうかもだろって怒りに打ち震えてしまったんですよ。
というわけで、この140万あまりの請求書、実際に窓口まで行って払ってみることにしました。このミス請求書片手に払いに行って嫌味っぽく払おうとして窓口の人困らせてやる。
142万円。どこにこんな金があったのかって?これだけのためにプのつくところとアのつくところのサラ金から借りてきました。早く返さないと金利が恐ろしいことになる。
ちょー分厚い。とにかく、現金ちらつかせながら払う気マンマンって感じもプンプン匂わせてみたいと思います。
さて、光インターネット提供会社を調べて現金片手に赴きます。なんか受付っぽいカワイイ、大塚愛さんに少し似ているお姉さんがいたので札束をチラチラとのぞかせつつ話しかけてみました。
「あのー、すいません、この料金を支払いにきたんですけど」(札束をチラッ)
そう言って頂戴したあのとんでもない金額の請求書を渡します。これでこの受付の姉ちゃんも驚愕するに違いない。
「ああ、私どもの手違いでなんて酷い請求額を!」
「いえ、いいですよ、気にしないで。間違いは誰にでもある」
「気にします!私にできる償いならどんなことでもさせてください!」
「いえいえ、いいですから、気にしないで。それにはした金ですよ、こんなもん」(また札束をチラッと)
「私の気が済みませんから!どんなことでもします!」
「うむ、しゃぶってくれい」
もう、こうなるに決まってます。そうに決まってる。ああ、サラ金まで行ってきて良かった。
しかしながら、お姉ちゃんは請求のハガキに一瞥もくれず、まるで僕のことを鼻で笑うような蔑んだ視線を投げかけてくると一閃ですよ。
「申し訳ありませんが当社は窓口での支払い業務はやっておりません。このハガキを持ってコンビニなどで支払っていただけますでしょうか?」
なんか、最近、NTTをはじめとするほとんどのネットワーク関連の会社がそうみたいなんですけど、窓口での直接的な接客ってやらないみたいなんですよね、まあ、人件費かかりますし、で、やってないからと一蹴ですよ。もう恥ずかしくなっちゃいましてね。
「いや、あの、その142万・・・」
とか訳の分からないことを口走りつつ逃げ惑う僕。もう顔真っ赤、耳まで真っ赤にして命からがら逃げ出し、僕はなにやってんだ、ととんでもない自己嫌悪に陥るのでした。で、コンビニ窓口で払ったら本気で全額取られかねないので、後から来た正規の請求書のほうで7000円くらいを払い、大金もサラ金に返済しておきました。金利は700円くらいだった。
僕は受付で味わったあの恥ずかしさを一生忘れない。あの逃げ足の速さと顔の赤さは遠きかの日の琢磨君よりも速く赤く、もしかしたら光すらも超えていたのかもしれなかった。
10/28 時計じかけのオレンジ
人を見かけで判断するなって話があるじゃないですか。
いくらかの規律が守られた整然とした社会生活の中で、僕らは公然と人を見かけで判断することをしません。いくら心中でそのようなビジュアルによる選別を行っていようとも、それを前面に出すことはほとんどないはず。それが美徳とされているのです。あの人見てくれが悪いからきっと性格も悪いぜ、そんなことを公然と口にする人がいたとしたら、それは社会通念上あまり好ましくないのが現状です。
あれは僕が小学生の時でした。あれは母親がやけにハッスルしている時のことでした。学校を終えて家に帰るとなんか母親がスパークしていて、何をどう考えたらそういう思考に至るのか皆目理解できないのだけど、
「おソバ食べに行くわよ!」
と大車輪のごとき勢いを見せる母、幼かった僕は母のその熱い想いを受け止めきれずただただ狼狽することしかできなかった。
なんでも、少し遠い山の裾野に美味しいおソバ屋さんがあるという情報をキャッチした母はなんとしてでも食べたい、そう思ったそうだ。しかしながら、変にアクティブで変にアクティブじゃない母は一人で行くのは嫌らしく、僕を誘ったようだった。
「友達も連れて行っていい?」
こういったアクティブモードに入ってしまった母は、「仕事と私どっちが大切なの?」とか言い出す妙齢の女性くらいにウザったいことは分かりきってましたので、友達を誘ってなんとか友達のほうに逃げようと画策したわけです。
「車に乗れるのはあと3人だよ」
母のセリフはあと3人誘っても良いと暗に示すものでした。あまり乗り気ではないようでしたが、早速電話をかけて近所の友人を誘います。みんな暇だったようですぐに2名の友人が捕まりました。きんじょということもあって鼻垂らしながら走ってやってきたわけで、タダでソバが食える、しかもドライブにまでいけると大はしゃぎ。すぐにでも行こう行こうって感じになったのですが、そこで一人が言い出したわけなんです。
「あと一人誘えるんじゃない?」
もうこの友人もずうずうしいにも程がある。彼は後に人の家に勝手に上がりこんで勝手に冷蔵庫開けて「たいしたもん入ってねえなー」と口にする豪胆な男へと成長を遂げるわけですが、そんなことはどうでもいいとしてあと一人です。あと3人まで誘えるという母の言葉を受けて誘ったのは2人だけ、単純な算数でもう一人誘えるというわけです。
「おい、だれ誘う?」
早速、僕と友人2人であと1人を誰にするか話し合います。塾とかがなくて暇そうにしている近所の友人、それでいてあまりずうずうしくないやつがいい。この人選によってはソバ屋までドライブが楽しくないものになってしまいますから重要です。真剣に、真剣に話し合う僕たち。母はその光景を微笑ましく見守っていました。
「なあ、山本を呼ぼうぜ!」
友人の一人が言い出します。しかしながら、僕は正直、山本君のことはあまり好ましいとは思っていませんでしたので少し複雑な気分。いやいや、山本君自身の中身は大好きですよ。たまに公園でエロ本とか拾ってきますし、何より喋る内容が本当に面白い。中身だけ見たのならば本当に好きな部類なんです。
でもね、山本君、なんか顔がオッシコ漏らした時みたいな切ないことになってんですよ。常に「あー漏らしちゃったー」的な哀愁すら感じる表情をしておられるんです。まあ、そういった顔だから山本君が嫌いだとか、仲間外れにしようってことは全然なくて、僕だって途方もないブサイクフェイスですから言わないですよ、ただ、その山本君はドライブに向かないんじゃないかなって思ったんです。
考ええもみてください。少し遠めのソバ屋までルンルン気分でドライブですよ。そんな中にあってオシッコ漏らしたみたいな顔した山本君がいたらどうなりますか。もしかして山本君漏らしちゃったんじゃ、と気が気ではありません。山本君の顔を見る度にハラハラしてしまい、とてもじゃないがドライブ、そしてその先にあるソバ屋が楽しめるとは思えません。本当に漏らされたらそれこそたまったものじゃありません。
「山本君はやめておこう」
冷静に言い放つ僕。その言葉に友人たちは動揺しました。
「なんで、山本君と仲良いじゃん」
これはもう、僕が危惧している本当の理由を告げねば納得しない勢いです。山本君はいつもオシッコ漏らしたみたいな顔してるから我々もハラハラして色々と大変だと思う、そう伝えようと思ったのです。
「山本君は顔がさ・・・」
さあ、そう言った瞬間ですよ。これまでニコニコと僕らの話し合いを見ていた母が、見る見ると怒りの表情に。そこには母の優しさも穏やかさも弱々しさも欠片も存在しない勢いで修羅がおわした。
「アンタ!人を見た目で判断するような子に育てた覚えないよ!」
ズカズカと歩み寄ってきて殴る蹴る。あの優しい母が殴る蹴る。友人たちもその光景をポカーンと見ることしかできず、とんでもなくシュールな絵図。薄れ行く意識の中で見た母の顔は涙でグチャグチャでした。母の荒ぶる呼吸と、怒りから声にならない声が出ているのか、ヒョーヒョーと言いながら僕を殴る姿はバルログそのもので、そのうち金網にへばりついて飛んでくるんじゃないかってほどでした。
結局、怒り狂った母によってソバ屋行きは取りやめになり、友人たちもなんとも気まずい思いを抱えながら帰宅。その日の僕はソバ屋どころか夕飯も抜きで正座させられて説教されるという。事情を知らない人が見たら「なに?彼この後自殺するの?」って言い出しかねないほどの怒られっぷりでした。
僕が他人を見た目で判断したことが許せなかった。それだけを伝えたいようだった。ここまでヒステリックブルーな例は極端ですが、往々にしてそういうもんじゃないかと思います。やはり大っぴらに人を見た目で判断するってのはあまり良くない。僕らはそうやって育てられてきたし、今尚そういったモラルの中で過ごしているはずだ。
けれども、ちょっと待って欲しい。ちょっとだけ立ち止まって考えてみて欲しい。そもそも、人を見た目で判断するってのはそんなに悪いことなのだろうが。バルログに突付かれるくらい悪いことなのだろうか。
ここで一つの例を挙げるので考えてみて欲しい。
僕は先日、2027という名前の極悪なスロット台に歴史的に金を巻き上げられるという大失態を演じてしまい、給料日までの30日間を600円で過ごさなければならないという地獄の一丁目に到達した。もちろん、その600円すら光の速さで使ってしまい、もうここまで絶望的だと意味もなく部屋の掃除とか始めてしまうのだけど、そこで一つの考えに至った。
「この電子レンジ、売っちまったら金になるんじゃ?」
だいたい、なんでウチに電子レンジがあるのかすら分からないくらい使用しない。ずいぶん前にガスがとまってしまい、カップラーメンを作ろうと容器ごと中に入れてチンしたらアルミの部分が放電して火を吹いた。それ以来使ってない。こんなもんなくなっても大して困らないじゃないか。
もうすぐに電子レンジ担いでリサイクルショップに行きましたよ。電子レンジっていったらアンタ、むちゃくちゃハイテクな家電製品ですよ。22世紀からやってきた家電製品ですよ。なんでも温めることができる。下手したら飯だって炊けますからね。いくら買い叩かれたとしても1万円は固いと睨んで行きましたよ。
そしたら、外見の油汚れが酷いという理由で2500円ですよ。買い取り価格2500円ですよ。スーパーハイテク家電が2500円、悪い夢でも見てるかと思いました。
結局、こういった場では見た目が全てなんですよね。リサイクルショップにとっては見た目が綺麗かどうか、それだけが大切なんです。こう見えてもこいつは結構いい温め方する、だとか、優しい温め方をする気のイイヤツ、なんてのは全く関係ないんですよ。見た目汚い、2500円。これですよ。世の中ってだいたいこうなんですよね。
そりゃ僕だって人間と電子レンジを混同するつもりはありませんよ。でもね、やっぱそういうことなんですよ。よく知りもしない電子レンジを買い取る時、やはり見た目で判断するしかないわけなんです。この「よく知らない」ってのが実はポイントで唯一見た目で判断しても許されるポイントなんじゃないかなって思うんです。
前方からナイフ持った正体不明の亀田家みたいなのが歩いてきたとしましょう。アナタはその亀田家をよく知らない。するとどうすると思いますか。そう、完全に見た目で判断して、チンピラじゃねーかと警戒するはずです。それは至極当然で誰にも非難されるべきものではありません。多くの場合において見かけってのは一番最初に手に入る情報ですから、よく知りもしないものを判断するのに必要不可欠なんですよ。
問題はある程度知ってる人を見かけで判断することです。その人の内面やその他のことを知っているにも関わらず、それでいて見た目で判断する。これはあまり褒められたものではありません。
実際にはそんなに匂うわけじゃないのに外見が匂いそうだからと職場で噂する人。
実際には逮捕歴もないのに、いつか性犯罪やりそう、あれはやる顔よ、とか職場で噂する人。
職場のロビーにウンコのついたパンツが捨てられているというテロ事件があった時に、あの一ブリーフはいてそうな顔よね、犯人よ、と噂する人。
これらは決して許すことのできないモラル違反なのです。そして癒えることのない心の傷なのです。クソッ!僕はトランクス派だよ!
とにかく、こういったネガティブイメージでの見た目判断はってのは悲しいことで、決して繰り返してはいけない重大な過ちなわけですが、実はその反対もあるのです。
この間のことなんですが、まあブラブラと、仕事するでもなく完全にサボるでもなく、まるで次元の狭間にでもいるような曖昧でファジーな感じで職場の廊下をプラプラ歩いていたんですよ。もう暇すぎて仕方ない、ウンコ付きパンツをロビーに投げ込んで平和な職場を恐怖のズンドコに叩き落してやろうか、とか考えていた時ですよ。
「おーい!」
まるで飼い犬を呼び止めるかのごとく声をかけられましてね、職場では空気みたいな存在で、僕といたしましても気配を殺して歩いているものですからなかなか声をかけられる機会って少ないんですよね。
「はい、なんですか」
僕もやぶさかでない感じで呼び止められた方を振り向いてみますと、そこには先輩の姿が。まあ、僕はこの人がウンコパンツテロの犯人じゃないかって疑ってる、だってブリーフはきそうな顔してるもの、って人を外見で判断してはいけません。とにかく先輩にそんなことは言えません。そこはかとなくどうでもいい雑談に花を咲かせます。すると、先輩がとんでもないこと言い出したんです。
「今日の夜7時から、近くの中学校の体育館で練習するから」
何の説明もせずいきなりですからね。何の練習かもさっぱり分からない。頭おかしい。
「え?練習?聞いてませんけど?」
そもそも話の繋がりがさっぱり分からないんですが、色々と聞いてみると何やらおかしな方向に話が展開してるんです。
ウチの職場の近くには○○工業というモロ体育会系みたいな会社がるんですが、どうもウチとそことは結構犬猿の仲らしいんですね。ことあるごとにいがみあってるというか互いに互いを意識し合ってるというか。近くなんだから仲良くすればいいじゃんって思うんですけど、大人の世界って結構複雑みたいなんです。
で、そのギクシャクした関係が一気に表層化するのが、毎年恒例の親善バレーボール大会らしいんです。これは先輩に言わせると親善の名を借りた戦争で、お互いの名誉を賭けて本気で戦うらしいんです。で、ここ3年ばかりウチの職場は負けているという体たらく。さらにメンバーも足りてないって言うじゃないですか。
「はあ、大変ですね」
僕はすっかり他人事で聞いていたんですが、そこで先輩がとんでもないこと言い出すんです。
「お前、メンバーだから」
もうね、意味が、わから、ない。
何を食って育ったらこんな思考に至るのか皆目分からないんですけど、僕が職場対抗バレーボール大会のメンバーになってるんです。
「いや、何で僕なんですか。僕バレーボール下手ですよ」
何とか食い下がるのですが先輩は譲らない。
「お前、背が高いしバレーうまそうじゃん、頼んだよ、7時からだから」
これですよ、これ。確かに僕はなぜか身長だけは高いのですが、背が高いからバレーも上手いだろう、この短絡思考ですよ。これこそが見かけ判断と言わずに何を見かけ判断と言うのか。世の中にはですね身長が高くてもバレーがド下手な人間がいるんですよ。ハッキリ言って僕なんか身長が5メートルあっても満足にできない自信があるからね。
「無理ですってば!」
なんとか勘弁してもらえないかと食い下がる僕。
「大丈夫、大丈夫、レクリエーションのノリだから気楽にきてよ」
実は、「あの人悪そう」「あの人バカそう」「臭そう」「死んだらいい」なんていうネガティブな見た目判断ってのはそんなに困らないんですよ。そうだけど何か?的な大いなる心で受け止めていればそんな偏見の目で見られてもそう痛くはない。問題はポジティブな、良い方向での見た目判断ですよ。
背が高いからバレーボールが上手なはずだ。
これはエリッククラプトンとプランクトンくらい違いがあります。もう本当に困る。困りすぎる。そんな見た目だけで判断されて過剰に期待だけ膨らまされる。実力が伴っているならそれも良いんでしょうが、問題はその見た目に内容が追いついてない場合です。
とにかく、なぜか見た目でバレー上手いと過度の期待をされています。もうどうしようもないので「レクリエーションのノリだから」という先輩の言葉を信じて仕事終わりに体育館に行ってみます。最近運動不足気味だし、まあ軽いノリならいいかなって感じで気軽に体育館へ。
「オラァ!立て!立て!そんなんじゃまた○○工業に負けるぞ!」
そこには修羅と化した先輩の姿が。いつもの朗らかな姿からは想像できない鬼のような先輩の姿が。なんか倒れてる後輩にバシバシとボールぶつけてました。全然レクリエーションじゃない。
「なにやってんだ!早く練習に入れ!」
烈火の如く怒られましてね、朗らかな先輩を信じてやってきたら地獄の鉄火場ですよ。
まあ、そこから狂ったように練習させられましてね。しかも僕が期待してたほど上手じゃないもんですから先輩さらに怒っちゃってね、大変だった。
「おいおい、なんだあ、ずいぶん期待はずれだな!」
とか、苦行のような練習の合間に何度も嫌味を言われるんですよ。そんなん、見た目で判断して勝手に期待してたのはそっちですからね。それで期待外れとか嫌味言われてもどうしようもない。これだから見た目判断は困る。
とにかく、地獄のような練習が何回か続き、相変わらず先輩に「この期待はずれ!」と罵られる毎日、そしていよいよ○○工業との親善バレーボール大会の日がやってきました。
「みんな今日まで辛い練習に良くぞ耐えてくれた」
試合前、メンバーを集めて神妙な顔で話し出す先輩。
「俺はこんな性格だからみんなには迷惑かけたと思う。でも今日の試合に勝つことだけを考えて練習してきた。ついてきてくれてありがとう」
先輩・・・。
心なしか声が涙声になってくる先輩。他のメンバーも何かグッときてるようだった。最初こそは先輩に騙されてメンバーにさせられ、練習にいきたくないばかりに仕事を辞めることも考えた。チャンスがあれば先輩を暗殺しようかとも考えた。でも今ならハッキリ言える。今日、僕らは勝つ、先輩のために勝つんだ。
「さあ、○○工業のメンバーがきたぞ!」
ゾロゾロとやってくる○○工業メンバー、コイツらが今日の僕らの相手。コイツらを倒すために苦しい練習に耐えてきたんだ。キッと○○工業のメンバーを睨みつけます。いよいよ決戦の時、僕らの苦しみの集大成が試される時です。
「さあ、いくぞ!」
再度チームメンバーで円陣を組んで気合を入れなおします。そして、試合前練習をしている○○工業のメンバーを睨みつけます。どんなやつらが来たって俺たちは負けない!
って見るんですけど、何やら様子がおかしい。いや、様子というかなんというか、○○工業のメンバーが根本的におかしい。
いやね、他のメンバーから、やけにバレーが上手いオッサンがいるとか、高校時代に全国大会に出た経験のあるメンバーがいるとか色々と伝え聞いており、かなり強力なメンバーを想定していたのですが、そえらを遥かに凌駕する強力メンバーがいるじゃないですか。
和気藹々と練習している○○工業のメンバーなんですけど、ユニフォームこそ○○工業って名前の入ったやつ着てるんですけど、その中身が根本的におかしい。明らかにおかしい。
いやね、全員黒人なの。6人全員黒人なの。
もう黒人も黒人、超黒人。黒人がヒャッホーとか言いながら陽気にバレーボールしてやがるんですよ。パニック物の映画で一番最初に死にそうな黒人がウジャウジャいるの。タイソンゲイみたいな黒人がバシバシスパイク打ってんの。これにはYujiOdaも大喜びだよ。
「冗談じゃねえ!全員助っ人外人じゃねえか!」
メンバーに一人とかなら分かるけど全員助っ人とか頭おかしいんじゃないか、と僕らも○○工業の監督に抗議するんですけど、なんでも研修でブラジルかどっかからやってきている人々らしく、日本での親善の一環として出てもらうことにしたとか何とか。この試合は我が職場と○○工業との戦争だと言いましたけど、建前上は親善試合です。そう言われちゃあ何も言えない。
とにかく、黒人の身体能力ってのは桁外れですから、どうやっても勝てる光明が見出せず、僕らは試合前から意気消沈ムード。
「黒人チームと試合するんだけどどんな気持ち?」
「別に」
って感じでした。ほとんど諦めてた。
だってジャンプ力とかパワーとか桁違いですよ。スパイクするとバレーボールがピンポン玉みたいな勢いで飛んでいくんですよ、おまけに筋肉ムキムキですよ。卑猥なくらいにムキムキですよ。その反面、こっちのメンバーなんてスターダストレビューのメンバーみたいなもんですからね。勝てるわけがない。ていうか、スポーツにおいて黒人が相手ってだけで見た目の時点で勝てる気がしない。
けれどもね、いざ試合を始めてみると黒人たちがルールを分かってなくて大騒ぎ。サーブ2回打とうとしたり、ネットに手をかけてスパイク打ったり。しかもベンチにいたもう一人の補欠黒人がいてもたってもいられず勝手に出てきてましたからね、いつの間にか7人とかになってた。もう黒人の面白さは異常と言うしかない展開に。
結局、25−4とか圧倒的な点差で勝利を収めてしまい。僕らの至上命題だった勝利を手に入れたのでした。
僕らは多くの場合において見た目のみで判断を下します。背が高いからバレーが上手いだろう、黒人だからスポーツが上手いだろう。僕ら人間は何をどうやっても心と心で通じ合えるはずがない。自分のことは自分にしか分からないのだ。ならば人を判断するときどうするか。これはもう、電子レンジを売るときと同じで外観で判断するしかないのだ。
外見で人を判断するのは決して悪じゃない。問題はそこで思考停止してしまうことで、いつまでも外見からだけ受ける印象に左右されてしまうのが最も愚かで残念な行為なのだ。見た目が悪そうでも話してみるといいやつ、見た目がいやなやつっぽくても話してみるといいやつ、見た目が黒人で勝てる気がしない、でもやってみると練習の成果で勝てたじゃないか。そうやって外観の情報を受け止めつつ、その先に進むことが大切なのだ。
試合後の打ち上げの居酒屋。黒人チームを倒して俺たちのバレーは世界レベルだ、と検討違いも甚だしい話題で盛り上がっていると、いつの間にかあの職場ウンコパンツテロ事件に話題が及んだ。
「誰があんなテロ行為を・・・」
「小学生くらいのときは、ウンコ漏らした子が処理に困ってパンツごと捨てるとかあったけどさあ」
「社会人にもなってするやついるのかよ」
と大盛り上がり、自然と誰が犯人だろうかという話題になったのですが、そうすると満場一致に近い感じで皆が僕を見るじゃないですか。なんで僕なんだよ、なんでそんな満場一致でそうなるんだよと反論したのですが、皆が口々に言います。
「だって、やりそうだもん」
「ブリーフはいてそうだもん」
「なんかいっつもウンコ漏らしたみたいな顔してるじゃん」
と見た目で判断して好き放題ですよ。なんだよ、漏らしたみたいな顔って。
とにかく、見た目で人を判断するのはそんなに悪いことじゃない。そこで思考停止せずに先に進むことこそが大切なのだと思ったのでした。
それにしてもたまたまブリーフはいた日にあんな悲劇が起こるなんて。金がなくて水ばかり飲んでたら下痢したんだよな。しかし、ちゃんとゴミ箱に捨てたはずなのになんでロビーなんかに、と冷や汗をかきながら勝利の美酒に酔いしれるのでした。
10/22 ハロウィーン
10月31日はハロウィンという良く分からないお祭りみたいなのがあるらしく、街には繰り抜いたカボチャの仮面などが溢れ、魔女っ子のコスプレをした女の子がエッチなことをされるエロビデオがリリースされるなど、微妙な盛り上がりを見せるものです。でも、そこはかとなくぶっちゃけますけど、実は僕、このハロウィンってやつを22歳くらいまで知らなかったんですよ。
確かに当時は、今ですら微妙な盛り上がりであるハロウィンがさらにマイナーな盛り上がりを見せてる時期で、知ってる人のほうが少ないというか外国かぶれというか、とにかく知らないことは罪ではなかったんですよ。
大学生だった僕は、学生食堂で卵かけご飯を食べつつ、友人に「卵かけご飯は世界一、いや宇宙一美味しいと思う、21世紀に残したい料理だね」みたいなことを話していました。時はまさに世紀末、殺伐とした世の中にあって卵かけご飯に一服の幸福を求める、そんな大学生でした。
「ねえねえ!きいてきいて!」
そこに駆け寄ってきたのは同期の女の子で、異常なほどにブスな満子でした。僕も人の容姿をどうこう言えるほどのもんじゃない、むしろ言ってはならない、泥棒が泥棒を批判するのに近い構図があるのですが、それでもあえて言わざるを得ないくらいブスでした。例えるならば、普通レベルの「あ、ブスだね」って感じの人が皆既日食などの天体ショーとするならば、満子さんはグランドクロス、太陽系の全ての惑星が十字型に配置される世紀の天体ショー、その中心に位置する地球が重力の影響を受けて粉々に砕け散る、それくらいのブスといっても過言ではありませんでした。
で、このブス、じゃないや満子さんが何を発狂していたかと言いますと、何でも10月も後半に近づいてきてハロウィンが近づいてきた、同期のみんなでハロウィンパーティーをやろうよ、と持ちかけてきたのです。
僕がいた学部ってのが特性上すごい女の子が少ないところでしてね、華のキャンパスライフとは程遠い少しグレーがかったキャンパスライフでして、しかも山奥過ぎて稀にマムシとかが出没するとんでもない大学だったんですけど、学部内で女の子に遭遇する確率とマムシに遭遇する確率がイコールに近いという、花ざかりの君たちへブサメンパラダイスだったんですよ。
そうなると、やっぱ女の子が少ないから希少価値な訳ですよ、世の中の価値あるものって宝石でも何でも稀少であるってのが大前提なんですよね、金にしてもダイヤにしてもその辺にゴロゴロしてたら全く価値がない。で、満子さん、学部内ではかなりの希少種である女の子ですから、それはそれはモテたんですよ。ありえないくらいモテてた。
メンズノンノって感じの同期のイケメン男たちを次々と食い散らかしてですね、季節ごとに彼氏が変わるっていうんでしょうか、とにかく花から花へ華麗に舞う蝶のようにイケメンたちを食い物にしていったんです。もう、同期のイケメンはそこそこいかれてたんじゃないかな。
もちろん、ブサイクフェイスグループに属していた僕などは全くお目に留まることもなく、ブス満子から「あんなダサいのと付き合うのなんてまっぴらごめんよ」といった差別的な視線を投げかけられてたのですが、なぜかハロウィンパーティなる怪しげな催しに誘われてしまったんです。
実はこの満子さん、けっこうアツい人でして、何がアツいって「せっかく同じ大学の同期になったんだから仲良くしようよ!」とやけに同期の団結を煽るというか、これが高校生くらいだとクラスの団結とかあるんでしょうけど、大学生にもなると結構ドライじゃないですか。なのにことあるごとにイベントごとを企画して団結を深めようとしていたんですよ。
男ばかり30人くらいいる中に満子さん一人女性で飲み会したりとかキャンプに行ったりとか、満子さんはその度にイケメンを引っ掛けて満足気だったんですが、ブサメンな僕らとしては1ミリも楽しくなく、ただ河原に行ってカレー食べてテントで寝るだけですからね、桃鉄でもしていたほうがいくらかマシ、けどやっぱ同期の付き合いって大切ですから嫌々参加してたんですよ。
「今度さ、みんなでハロウィンパーティやろうよ!」
ブサイクタイフーンこと満子さんがハロウィンパーティっていう、当時まだそんなに馴染みがなかったイベント事を持ち出してきたんです。カボチャの仮面みたいなか顔しやがってからに、すごいやる気十分の顔で誘ってきたんです。正直、すごい面倒で行きたくなかったんですけど嫌々参加せざるを得ない状況でした。
そしてハロウィンパーティ当日、同期の面々が大学近くのパーティルームみたいな場所に集結しましてね、僕も友人たちと早めに切り上げて桃鉄しようぜ、今日は99年するぜ、寝かさないぞーとか話しながら会場のドアを叩いたんです。
中に入るといきなり魔女のコスプレをした満子が猛り狂ってましてね、変なステッキ持って右へ左へ大暴れですよ。誰か麻酔銃持って来い!というしかない見事な暴れっぷりだった。魔女と言うよりはゴキブリみたいだった。しかも集結している同期の面々ってほとんどが満子に食い散らかされているいわゆる元カレですから、なんとまあ、表現し難い微妙な空気が蔓延しているんですよ。お通夜みたいな沈痛な雰囲気の中、お互いがお互いを牽制しつつ厳かに飲み食い、そこにコスプレ満子が一騎当千の大暴れ。えいっ!とか言われてステッキで魔法かけられたりしたからね。どうリアクションしていいかわかんなかったよ。
こ、これがハロウィン!
ハロウィンについて全然知識がなかった僕はもう何が何やら。何が楽しいのか全然分からなかった。後から調べて分かったことですが、ハロウィンとはケルト人の収穫感謝祭が起源になっているとか何とか。ケルト人が何者なのか全然知りませんけど、とにかく収穫感謝祭が形を変えて英語圏を中心に広まっていった。
ではこの感謝祭とは何なのかといいますと、ケルト人にとって10月31日が一年の終わりの日に当たり、そこで死者や精霊、魔女などが訊ねてくると考えたそうです。全然関連性が分かりませんけど。で、それらの化け物から身を守るために仮面をかぶったり魔除けの焚き火をしたりするそうです。日本のお盆に近い感覚かもしれません。それがいつしか形を変え、クリスマスと同じノリみたいになったんでしょう。
僕のハロウィン初体験は全く楽しくなく、ある意味化け物がやってくるって部分だけ共通していたのですが、そこで「成敗!」とかやって焚き火で満子を燻せばよかったと思うことくらいしかできませんでした。ハロウィン、全然楽しくない。
ちなみに、ハロウィンパーティの直後、ついにイケメンだけでは飽き足らずブサメンにまで手を出し始めた満子に、図書館の準備室で「私、寂しい」と迫られ焦る僕、さらにそれを聞いた元カレイケメンが嫉妬に狂い、満子までもが「patoのゲスにしつこく言い寄られて困ってたの」とシャブでもしゃぶってシャブシャブしてんじゃねえのってことを言い出し、山奥のキャンパスを舞台に骨肉の愛憎劇が展開したのですが、この話は本論から外れるので続きはWebで!とにかく本論に戻ります。
そんなこともあってか、僕はこれまでハロウィンってヤツに非常に懐疑的な思いを抱いていたんですよ。何も楽しくないしパーティをやってなんになるのか。それに僕らはケルト人じゃないですからね。だいたい、欧米のものを無理矢理日本でやるってのが無茶な話なんですよ。
10月に入るとコンビニなどにハロウィングッズが売られたりするじゃないですか。それも年々ド派手になってきていて、年を増すごとにカボチャのお面がクローズアップ。アベックなんかが深夜のコンビニに仲睦まじくやってきてですね、ハロウィンコーナーで言うわけですよ。
「あ、もうすぐハロウィンだねーみてみてーこれかわいいー」
「そういえば、俺たち、付き合い始めてもう1年になるのか」
「去年のハロウィンパーティーだよね・・・」
「そこで俺と芳江が出会った」
「うん」
「芳江は魔女の格好してたんだよな、かわいくて一目惚れだったよ」
「高志はカボチャかぶってたよね。ずっとかぶってるから変な人って思っちゃった」
「照れちゃって取れなかったんだよ…」
「高志カワイイ!」
「バカにすんなよ!」
「そうやってすぐに照れるところが大好き!」
「ったく!」
「ねえ、来年も再来年も何十年後も、ずっとずっと高志と一緒にハロウィンできるかな?」
「知ってるから?ハロウィンってのは死者が復活してくるってのが起源なんだよ」
「うん」
「もし俺が先に死んだとしても、ハロウィンにはきっと復活して芳江に会いに行く。ずっと一緒にハロウィンを迎えよう」
「高志……私も…私も死んだら高志に会いに行くよ…魔女の服着て」
「バカ!芳江が死ぬなんて耐えられない!そうなったら俺も死ぬよ」
「もう!」
「アハハハハハ」
「ウフフフフフ」
とまあ、コンドームをダースで買っていく、それもベネトンのやつをゴッソリ買って行きプレイがエスカレートしてカボチャとか入れるんでしょうが、なんていうか久々に言わずにはいられない。カップルは死ね!7回死ね!っていう感じなんですよ。いかんせん、日本人ってのはイベントごとに対して悪乗りが過ぎる。クリスマスだけじゃ飽き足らず、西洋の祭りかこつけてセックスしようって風潮がハロウィンにまで蔓延してるような気がするんですよ。
そういった理由と、学生時代の満子さんのハロウィンパーティーの悪夢があってかずっと心の中でハロウィンをスルーしてきたのですが、先日というか今年、決して避けることの出来ないハロウィンが我が家にやってきたのです。10月に合わせて家に化け物がやってくるハロウィンそのものが巻き起こったのです。
異変は10月に入った頃合に始まりました。もう10月だというのに異常に暑い、なんとかならないものかと思いながら釣り番組を見ていたんです。釣りなんて最近ではビタイチやらないんで興味もないんですが、磯釣りに夢中になるその辺のオッサンとかを公共の電波に乗せてどうするんだろうって視点で見るとけっこう面白いんですよ。
「引いてる!引いてる!」
とテレビの中のオッサンが大興奮になった時、なにやら右後方で異様な物音がしました。
ガサガサ
その瞬間に思いましたね、ああ、ゴキブリかと。こういっちゃなんですけど、僕ってばゴキブリとか全然平気なんですよね。だてにゴミ屋敷みたいな部屋に住んでませんから、ちょっとやそっとゴキブリが出たくらいでは全然動じない。動かざること山の如しってなもんですよ。
どうもコンビニのビニール袋に触れたゴキブリがガサガサと音を立ててるみたいなんですが、それがまあ、結構大きい音なんですよね。なんか比較的洒落にならないサイズっぽい音声が聞こえてくるんですよ。
そうなるとね、やっぱ気になるじゃないですか。動じないといってもどれほどの大物ゴキブリなのか知的好奇心から拝見したくなるじゃないですか。で、仕方ないからその音がしているビニール袋を取り去ってみたんですよ。
そしたらアンタ、ムチャクチャ大物、マグロで言うと近海物みたいな極上のゴキブリが燦然と鎮座しておられるじゃないですか。これにはさすがの僕も唸るしかなかったね。「すげえ、大物だ…」とゴクリと唾を飲んだ瞬間、テレビ内でも大物が釣れたらしく「大物だ!」とオッサンが大はしゃぎしていました。
まあ、気の弱い人、潔癖な人、ゴキブリ大嫌いな人、なんてのはこの時点で卒倒もの、この文章を読むことすら苦しいかと思いますが、あいにく僕は平気、平然いたって冷静。ただジーッとゴキブリを見つめ、先に動いた方が負け、みたいな意地っ張り勝負を展開していました。こんなのはまあ、取り留めのない日常の1コマ、別に特別あげつらうほどのイベントではないんですが、ここからが異常だった。
普通、皆さんの庶民感覚で一日にどれくらいの頻度でゴキブリを目撃したら「ゴキブリ多いなあ」って思いますか。まあ、人によって様々でしょうが、中には1度目撃しただけで発狂するような感じの人もいるかと思います。少し豪胆な人でもさすがに3回ほど目撃したらもう家中がゴキブリだらけみたいなイメージを持つかもしれません。
しかしまあ、僕なんかは明らかに平気な部類ですから5回くらい目撃しようがなんてことはない。お、活発だね、って思うくらいなんですけど、ここでそんな僕すらも驚愕させる異常事態が巻き起こったのです。
いやね、1日に15回くらい部屋でゴキブリ目撃したら驚きもしますよ。しかも1日中家に居るとかじゃなくて、仕事を終えて帰宅して寝るまでの間とかでそんな数値ですからね。同じ1匹を何回も目撃とかじゃなくて確実にシリーズが違いますからね、明らかに異常すぎる。
普通、ゴキブリを見つけたらその30倍はいると思え、家中ゴキブリだらけだぞ!って言いますけど、ウチの場合、背後に控える30倍のゴキブリを考えなくても普通にゴキブリだらけ、30倍なんて想像したら恐ろしいことになります。闇に蠢くゴキブリの背後組織、もう想像したくありません。
さすがにゴキブリは平気だと言っても大量に存在するってのは勘弁で、実は僕、ゴキブリに限らず大量の虫ってすごい苦手なんですよ。単体や少数なら別になんてことはない、普通に平気なんですが、それが大量になるともう恐ろしい。幼少期に家に入ってくるアリの大群を見て卒倒して以来、大量の虫ってやつがどうも苦手なんですよ。
ゴキブリは平気、っていってもやっぱ大量にいるとなると例外なく苦手でしてね、明らかにおかしい、こんなに大量にいるなんて何かがおかしい、と珍しく取り乱してしまったんです。
いやいや、皆さんは普通に考えて部屋を汚くしてるからゴキブリがでるんじゃん、とか考えるかもしれませんが、ちょっと立ち止まって考えてみて欲しい。いやね、部屋が汚いのは今に始まったことじゃないんですよ。冷静に考えると部屋なんて常に汚いもんじゃないですか。
僕は今の部屋に住むようになってから3年半になりますけども、その間、一度として部屋が綺麗だったことがない。常にゴミだらけ、僕が何か異常な犯罪を犯してワイドショーの取材なんかが部屋に踏み込んだとしても、たぶんレポーターが嘔吐する、とんでもないブツがゴロゴロ出てくる、それくらいカオスな部屋なんですよ。別に部屋が汚いのは今に始まったことじゃない。汚いのが原因ならばとうにゴキブリ王国になってるはずだ。
じゃあ、なぜ今になってゴキブリが大量発生するに至ったか。これはもう、僕の政敵か何かが部屋にゴキブリを投げ込んでるとしか考えられないのだけど、あいにく僕は政治をやってないので政敵はいない。となると、やはり10月になってから大量発生したことと付き合わせてハロウィンの化け物ってのがゴキブリだった、そう考えるしかないんです。
ハロウィンになると化け物が家にやってくる、それを必死で迎え撃つ住人達。本来、ハロウィンとはそう殺伐としているべきなんです。ウカレポンチでパーティとかやってる場合じゃない。ブスが魔女の格好してる場合じゃない。セックスしている場合じゃない。この大量のゴキブリどもを撃退することが俺たちのハロウィンだ。こうして僕の戦いは始まったのでした。
まず、ハロウィンの祭りから考えてどうやって撃退すべきか。前述したとおり、あのハロウィン的なカボチャの仮面をかぶって自分の身を守るのが先決でしょう。ということで、早速ハロウィンに浮かれる町に繰り出してカボチャの仮面を買いにいったのですが、人気過ぎて売り切れてるのか、そもそも仮面をかぶってまでハロウィンを楽しむ人がいないのか、雑貨屋とかに行っても全然売ってませんでした。仕方ないので代用品として天狗のお面を購入、これを装備してゴキブリに挑みます。
まあ、カサカサと壁を伝って動くゴキブリに天狗のお面をつけた僕が対峙しているわけですが、それだけですからね。ゴキブリの黒に天狗の赤、赤と黒のエクスタシー、そこで時が止まったかのように両者が制止してますからね。傍目に見たらムチャクチャシュール、現代美術とかになりそうなくらいにシュール。天狗のお面全然役に立たない。
仕方ないので、無益な殺生はしたくないのですが、ゴキブリを根こそぎ駆除してやろう、それも叩いて殺すとかはやめてなるべく苦しまないような方法で駆除してやろう、と思いましてね、薬局に行きましたよ。
ほら、あるじゃないですか、置くだけでゴキブリを根こそぎ退治!とか、なんかゴキブリを誘い込んで毒を持たせるか何かして、巣に帰ったところを根こそぎ退治!みたいな、コンバットっていうんですか、CM見てるとホントにコロコロとゴキブリが死ぬじゃないですか。あれを期待して買いにいったんですよ。
で、4個パックのやつを4つ買いましてね、計16個を部屋の至る場所に、それこそヒステリー的に置いてやったんですよ。これでもう、次から次へとゴキブリが死んでいくに違いない。「ひー!お助けー!」とゴキブリが大変なことになってるのを想像して独りでムフフとか笑ってたんですよ。
しかしアンタ、何日経ってもゴキブリが全く減らないじゃないですか。それどころか増えてるような気さえしてくる始末。もう、ふっとみたら壁に3匹くらいゴキブリがいて冬の大三角形みたいな配置を取ってる始末。そのうちもっと増えてオリオン座とかになったらと思うと背筋が冷たくなってきます。
決定的だったのが、家に帰って「ふいー今日もゴキブリ多いなー」って見回した時ですよ。普通にコンバットの上でゴキブリがくつろいでましたからね。なんか移動に疲れたからコンバットの上で休憩、みたいな哀愁すら漂わせてました。完全に舐められとる。全然効きやしねえ。
こうなったらもうアレしかない、ほら、なんか部屋の中にモワーッと煙が出て根こそぎ殺しちゃうやつあるじゃないですか。バルサンとかいう文明の利器、ゴキブリに対峙して退治する我々人類の最終兵器があるじゃないですか。もはやあれを使うしかないって思ったんですよ。ちょうどバルサンを焚く様子がハロウィンでの焚き火に似てるってのもあってこりゃあベストだって思ったんです。
で、今度は近所のホームセンターに買いに行ったのですが、今度はどこにそういったゴキブリ駆除関連の商品を売っているのか分からない。色々と店内を探すのですが、どうもこういう広い店内で探すのって苦手でしてね、いくら探しても見つからないんですよ。
こりゃしょうがない、店員さんに聞くか、って思うんですけど、僕は異常に対人スキルが低いので店員さんってのが大の苦手。吉野家でお茶のお代わりくださいって言えませんからね。服屋で服を選んでるところに店員さんが話しかけてきたら買わずに逃げますからね。唐揚げ定食美味しいなーって連日のごとく通ってる定食屋にいつものように行ったら、顔を覚えられてしまって「お疲れさん!今日も唐揚げ定食かい?」とかフレンドリーに話しかけられたらもう二度とその店にはいきませんからね。
そんな事情もあって店員さんに話しかけるのをためらったのですが、それでもあのゴキブリ王国に帰りたくない!もう限界だ!という思いが強かったのか、勇気を振り絞って尋ねることに。しかしながら、緊張して気が動転してしまったもんですから
「あの、シュワーッてなるやつありますよね?」
と、半ばキチガイみたいなことを言い出す始末。なんだそのシュワーってのは。もっとマシな言葉があるだろうに。
「あ、はいはい、ありますよ」
とか間違って伝わったみたいで入浴剤コーナーに案内されちゃってね、もうどうしていいか分からなかったんですけど、さらに勇気を振り絞って
「いや、そうじゃなくて、ほら、シュワーッとしてゴキブリを殺人するヤツ」
ですからね、微妙に頭がかわいそうというか、頭の中でバルサン焚いた方がいいというか、ゴキブリを殺「人」ですよ。頭おかしい。
やっとこさ僕の言葉が通じたみたいで、ついにバルサンを購入。これでゴキブリどもが死に絶える狂気の沙汰が見れるぜと軽い足取りで帰宅しました。
で、説明書もロクに読まずに試行錯誤でやってみると、ブシューっと煙が出てきましてね、これぞハロウィン、部屋に現れた化け物を煙で撃退する、これぞハロウィン。煙に襲われて「ひえーお助けー」ってなってるゴキブリを想像してたら煙に巻き込まれて死ぬかと思った。
数時間後。さて、これで部屋に現れた化け物も退治できただろう。ハロウィン的に煙を焚いて退治できた。図らずも今年は本来のハロウィンの趣旨に近い過し方ができたようですな!まだハロウィンには早いけど!と、満足気な表情で部屋に戻るとそこには地獄の光景が待っていたのです。
いやね、何がどうなったのか分からない。僕としては部屋のそこら中に煙にやられたゴキブリの死骸が転がってるのを想像したんですよ。あちこちに転がっていてそれを掃除すればいい、なんて考えていたわけ。ところが全く見ないんですよ。死骸も見なければ生きてるゴキブリも見ない。まるでこの部屋には最初からゴキブリなんていなかった的な平和な光景が広がってるんです。
おかしなこともあるもんだと、ゴキブリが好みそうな隙間とか、ゴミの山の辺りとか探索するんですけど、やっぱり死骸も姿も見えない。もしかしてバルサンってゴキブリを駆除するものじゃなくて、どっか別の場所に移動させるものなんかなーって思ったんです。
まあ、とにかくゴキブリがいなくなってよかった、やっと安息の日々が訪れた、ってエロ本読んだり風呂はいったりと普通の日常を過していたんです。で、さてそろそろ寝ましょうかなって感じで電灯を消そうと天井を見上げたその時ですよ。
天井にビッシリとゴキブリの死骸が。
天井と壁の間に段になった部分があるんですけど、渋滞中の首都高速みたいに色々な色のゴキブリがウワーっているんですよ。見た瞬間に吹き出したもん。
どうも、考えるに、僕のやり方が不味かったのか、多分バルサンの煙が弱かったんだと思うんですよ。で、普通なら瞬殺だったゴキブリたちも微妙に生き延びた。で、弱々しい力で皆が天井に上って言ったんだと思います。上ならば煙が薄い、あそこを目指すんだ。あそこに行くんだ。そして辿りついて息絶えた、というわけなんじゃないかと思います。
もうその光景が気持ち悪くて気持ち悪くて。遠足の時に隣りの堀田君がゲロ吐いて、もらいゲロしそうになった時以上の気持ち悪さだった。堀田君はバスに乗った時から様子がおかしくて終始無言。で、僕が後ろの席のヤツと普通にミニ四駆とかの話をしていたら、どうも堀田君も何か話していた方が気が紛れると思ったのか、話題に入ってきたんですよ。「そうそう、僕のファイヤードラゴゲボゲボゲボー」なぜか車種名を言いながら吐いた堀田君。話しかけられていた僕なんか直に浴びましたからね。堀田君、元気にしてますか。
とにかく、堀田君の話の続きはWebで!今はゴキブリです。もう部屋の真ん中で震えながら「ひえーお助けー」って言うしかなかったんですけど、ここで壁を蹴ったりしたらどんなことが巻き起こるんだろう、そんな邪悪な考えが浮かんできてしまったんですよ。
ガッシ!ボカッ!
思いっきり壁に振動を与えたんですよ。そうですよね、そうですよね、そんなの分かりきってますよね。そうですそうです。ゴキブリの雨ですよ。死骸の雨。
「ギャ!グッワ!」
と叫ぶことしかできず、ゴキブリの雨の中狂喜乱舞する。で、泣きながら掃除する。もうコリゴリなんですけど、それでも僕はハロウィンはこうでなくちゃいけない、なんて思ったんです。
化け物を煙で撃退するハロウィン。
そして、使者が復活するハロウィン。バルサンで退治したはずのゴキブリが次の日には普通に部屋の中を闊歩していました。
随分とポピュラーになったとはいえまだまだマイナーなイベントであるハロウィン。良い機会ですのでこのイベントが恋人達の、とか変な枕詞が付いて定着してしまう前に、もう一度原点に立ち返り、ゴキブリどもをバルサンで退治するイベント、にしてしまいましょう。さあみんな、10月31日は部屋でバルサンだ。
ちなみに、このまえ職場でハロウィンにちなんだ飲み会という訳のわからないイベントがあったのですが、意気込んで天狗のお面かぶっていったら誰にも相手にされませんでした。そこで職場のブスが黒い服来て魔女よとか言ってて、そいつが死ぬほど酔っ払ってしまい、僕が家まで送る羽目になったのですが、まあこの話の続きはWebで!
10/20 ぬめぱと変態レィディオ6周年記念スペシャル
放送開始 10月20日PM10:22
放送終了 10月21日AM2:04
放送URL終了しました
放送スレ 終了しました
さてさて、今年も開設記念日が近づいてまいりました。6年前の10月22日、このNumeriが産声を上げたわけなのですが思えば長かったような短かったような、思い返してみるとオナニーギネスにチャレンジとかモンゴルの大平原とか日本一週とかロクなことやってないのですが、まあ、それなりに感慨深いものです。
6年という歳月は短いようで長いものでして、1歳の赤子も7歳になって小学生やってる計算、14歳のロリっ子も20歳になって女ざかり、25歳だった僕も31歳になって加齢臭、80歳だった老人も今頃は天国から見守ってくれているはずです。
そんなこんなで、もう高齢じゃないや恒例のようになってきましたが、6周年を記念してラジオ放送をやったりしたいと思います。曜日の関係で開設記念日より2日早い20日夜に6周年記念放送をカックラキン大放送。
昨年から始まった開設記念ラジオの屋外生放送。いつものスタジオを飛び出して屋外から公開生放送。昨年は屋久島より放送し、暖かい島の人々に囲まれて鍋などつつきつつ心温まるハートフルな放送をいたしました。もちろん、今年もやっちゃいます。いったい今年はどこからの放送になるのか。お近くにお住まいの方はぜひぜひ駆けつけてください。
放送内容
・6年間の思い出
・6周年は○○思いっきりリスナー生電話
・2027で45000円負けた話
・サラリーマンを轢いた話
・大塚愛のDVDボックスを買い戻した話
・職場からパクったノートパソコンが大破した話
・現地の人々と心温まる交流
と盛り沢山でお送りいたします。メッセージなどはバンバンと左側のNumeri-FORMからお送りください。聞き方が分からない方は放送スレで質問すれば怖いお兄さんたちが優しく教えてくれます。
10/12 ダービーキング
「過って改めざる、これを過ちという」
これは孔子の言葉だったでしょうか。まさにその通りだと思います。人は失敗や間違いを犯す生き物です。そして、その失敗を悔い改めることによって成長できる生き物であると思います。何か失敗した時、間違いを犯した時、失敗しただけではそれは過ちと言えないのです。その失敗を悔い改めないことこそが最大の過ちなのです。逆に言うのならば、例え失敗したとしても、その行為を悔い改めることでそれは過ちではなくなるのです。
実は僕にもどうしても悔い改めなければならない過ちがあります。この失敗を悔い改めない限り、このまま放置している限り最低のクズ人間と言われてもおかしくない。そんな過ちがあるのです。今日はそんな失敗をこの場で吐露し、懺悔して少しでも昇華することができればと書いてみます。
ウチには爺さんがいて、生まれた時からいつも同じ居間の同じ場所に即身仏のように座っていた。右半身だったか左半身だったかが麻痺していて体が不自由で歩くことができず、飯を食うのも億劫な感じだったのだけど、それでも人の世話になるのが嫌いらしく、悪戦苦闘しながらボロボロ飯をこぼして食べていた。
それを知ってるウチの飼い猫が、飯の時、爺さんの近くにいればご飯が落ちてくると妙な悪知恵をつけてしまい、ひとたびご飯タイムともなると爺さんの膝の上にガッチリ待機していた。そのうち猫もどんどんエスカレートしてきて、落ちてくる飯だけでは物足りずに、爺さんが口に運ぼうとするフォークから煮魚などをダイレクトに盗むようになっていた。とんだシーフキャットだ。
煮魚を取られた爺さんは怒るでもなく、ただニコニコと笑っていた。むしろ、猫に対して怒ろうとしていた親父や母さんを制し、美味しそうに煮魚を食べる猫の頭を撫でていた。
少年だった僕は子供心におの爺さんという存在自体が謎で、たぶんバカだったから老いるという概念が理解できなかったんだろうけど、爺さんはなんで動かないんだろう、なんで活発に活動しないんだろう、四六時中同じ場所に座っていて楽しいんだろうか、とか考えていた。
そんな、本当に即身仏だった爺さんもすごく活発に動いたことがあった。あれは今でも忘れない、家に親父も母さんもいなくて僕と弟と爺さんしかいない時のことだった。
ちょうどその時、テレビかなんかでとんでもない悪者が主人公の彼女か何かのムチムチした女性を誘拐して廃工場で戦うっていう番組をやっていて、なんか女の人が天井から吊るされて「お願い!私のことはいいから逃げて!」とか文字通りの茶番を展開していた。
その「天井から吊るす」という行為に妙にハマってしまった僕は、親父も母さんも家にいない、これはチャンスだ!と弟を天井から吊るそうと企んでいた。嫌がる弟を捕まえて荒縄でグルグル巻きにし、本当は2階の部屋など人目につかない場所がベストなのだけど、吊るすための変なフックみたいなのがついてる居間で吊るしてやろうと画策していた。居間には爺さんがいるんだけど、なあに即身仏だ動くわけがない、ともうやりたい放題で弟を縛っていた。
いよいよ縛りも終わって泣き叫ぶ弟の声も弱々しくなってきた時、天井に吊るすぞーって意気込んでいると、ビューっと顔の横を何かが飛んでいった。それも物凄い速度で。とんでもない何かが顔をかすめていった。
その何かは仏壇の下のほうに当たり、ガシャーンと轟音を奏でて粉々に砕け散った。見るとそれは極大のガラス製灰皿で、いつも居間のテーブル中央に偉そうに鎮座している代物だった。
はて、なぜこの灰皿が飛んできて砕けちるんだ?と振り返ってみると、そこには修羅と化した爺さんがいた。立ち上がった爺さんは即身仏とは思えない禍々しきオーラを身に纏っており、今なら瞬殺されてもおかしくないとさえ思えた。大地が震えておった。
「弟をいじめるな!」
荒ぶる神々の怒りに触れてしまった。僕はとんでもないことをしてしまったんだ。幼い僕は未曾有の恐怖にただ震えることしかできなかった。とにかく、あれはとんでもない恐怖だった。
この爺さん激怒事件の他にも、完全なる無邪気、圧倒的無邪気、全く悪気がない状態、本当に純真無垢に疑問に思って爺さんに、
「お爺ちゃんはいつ死ぬの?」
と真顔で聞くとんでもねーガキだったんですけど、それらの発言や激怒事件なんか軽々と凌駕する、百万光年彼方に置き去りにするとんでもない失敗をやらかしてしまったんですよ。
高校時代のことだったんですけど、この頃になると子供の頃から即身仏だった爺さんはさらに即身仏に拍車がかかてましてね、ほとんど動かなかったんですよ。当時の僕は、まあ今でもそうなんですけど、どうしようもないチンカスでして、エロビデオとパチンコに夢中、なんていう途方もないろくでなしブルースだったんですよ。ホント、高校生でパチンコとか斬首刑でもおかしくない。
さらに最悪なのは、そのパチンコに猛烈にハマっちゃいましてね、ウチの近所にNASAっていう名前の、宇宙的な要素皆無なパチンコ屋があったんですけど、その店に足繁く通うようになっちゃったんです。もうクズですよね。
あくまで僕の名誉のために言っておきますが、当時はパチンコの持つギャンブル性に魅せられたとか、高校生でパチンコとかワルじゃん、とかそういうシャドーな自分に酔っていてわけでなく、単純に店員の女の子のことが好きだったんですよ。ホント、それだけだった。
まあ、別に好みだとかカワイイとかそういうのじゃなくて、なんかすげえ金髪でエロい感じで、口紅もピンクで、こうテクニシャンっぽかったんですよ。うごいエロスなんじゃって感じずにはいられなかった。とんでもない技を持ってるんじゃねえかって部分が高ポイントで、青き高校生だった僕には大変刺激が強かったんです。
でまあ、そのエロいお姉さん目当てでパチンコNASAに行くじゃないですか。全然宇宙的要素のないNASAにいくじゃないですか。この店は年貢を納める時の悪代官くらい慈悲のないボッタクリ店でしたから全然勝てないんですけど、それでもこう、色々な展開を夢見て通うじゃないですか。
「あら、今日も来たんですか?」
「ええ、他にすることないですし」
「またまたー、ウチ来たって勝てないでしょ」
「ええ、まあ、でも近いですし」
「あっ、わかった。お目当ての女の子がいるとか?」
「・・・・・・」
「え?ホントにそうなの!?誰?誰?ウチの店員なら紹介してあげるよ!」
「あなたです」
「え・・・」(トクン)
「あなたのことが好きでこの店に通ってます」
「え・・・やだ・・・年上の女をからかってるだけでしょ・・・バカにして!承知しないよ!」
「僕は真剣です」
「実は・・・私も、前からあなたのこと・・・」
鳴り響く軍艦マーチ、頬を染めるヤンキーお姉さん。あとはまあ、店のトイレでおセックスとかするじゃないですか。オッサン風に言うと彼女のチューリップが全台解放やな、玉じゃなくて別のものが出てきよるわ、じゃないですか。
まあ、実際には、僕はウブなトゥーシャイシャイボーイでしたから、話しかけることもできず、ただただ台に向かって金を消費し、彼女の姿をチラチラと横目で追うことしかできませんでした。
しかしながら、ここで大きな問題が。ハッキリ言っちゃいますとパチンコって儲かるようにはできてないじゃないですか。明らかに搾取されるしかない、一方的に奪われるのみ。そんな遊戯じゃないですか。じゃないとこれだけド派手にパチンコ店が乱立しませんし、ガンガンテレビでCM流さないですよ。そんな圧倒的不利なギャンブルに、アルバイトをしていたとはいえ金のない高校生が足を突っ込んで無事で済むわけないじゃないですか。
もう、あっという間に金がなくなるんですよ。4千円とかそれくらいの金しか持っていかないもんですから、店に入ってすぐに全財産が溶けちゃうんです。ホント、30分ももたなかった。
台に座って少しでも彼女の姿を見ていたい。けれども金がない。青年特有のジレンマとでもいいましょうか、青き青春時代の苦悩とでも言いましょうか。とにかく悩みぬいたんです。そんな悩める時、まるで救いの神のように出会ったのがダービーキングというパチンコ台でした。
これはまあ、今までNASA店内の端っこのほうにヒッソリと設置してあって見向きもしなかったんですけど、打ってみると非常においしい。いわゆる羽根物機種ってヤツで、まあ全然やらない人には分からないでしょうけど非常に遊べる機種だったんですよ。
なんていうか、あまり勝ちもしないけど、手痛く負けることもない、それでいて小額の金で長時間遊べる。少しでも長い時間ヤンキー店員を眺めていたい僕にはうってつけの台でした。
この台は中央に馬の置物が鎮座している珍しい台でして、チューリップに玉が入るとヒヒーン!パカッパカッ!という効果音と共にその置物が口を開くというシュールな台でして、その馬の口を狙って玉を入れるんです。でまあ、このヒヒーン!がとにかくうるさい。頭にくるくらいうるさい。チューリップに入れるたび、だいたい30秒に1回は入るんですけど、その度に馬がいななくんですよ。
しかも、このダービーキングのコーナーが死ぬほど不人気で、いつ行っても僕しかいない。誰もいないコーナーってムチャクチャ静かなんですけど、その中でキングのヒヒーンって声だけが響いてるんです。ムチャクチャシュールだった。
でまあ、やっぱりいくらかは遊べるとは言っても勝てないもので、アッサリ負けはしないものの、やはり金はなくなっていくんですよね。おまけに、僕の好きなヤンキー女店員は別のコーナーの担当で全然姿が見えない。この店はコーナーごとに店員が担当につくスタイルだったんですけど、いつ行っても毎晩幽体離脱してそうなオッサン店員がやる気なさそうにダービーキングのコーナーにいたんです。
来る日も来る日も少ない金を握り締めてNASAに通う毎日。ダービーキングのコーナーでヒヒーンと馬を鳴かせる毎日。しかも愛しの彼女は別のコーナー担当で少ししか姿が見えない。まあ、女性読者の方に「健気なpatoさん!抱いて!」と言って欲しくて書いてますが、それでも彼女のために通ったんです。それだけで幸せだったんですよ。
そしていよいよアルバイトの金も小遣いも、参考書を買うと嘘ついて親から貰った金も、弟がひっそりと貯金していた金も、あいつ貯金するとか頭おかしいんじゃねえかって思うんですけど、その全てが底をつきかけた時、祭りは起こったのでした。
確か最後の6千円くらいを握り締めてNASAに行ったと思います。いつものように彼女の姿を探しつつ足はダービーキングのコーナーへ。しかしながら、彼女の姿が見えない。いつもはフィーバーパワフルという当時大人気だった台のコーナーに燦然と咲き乱れる花のように立っているのにその姿が見えない。
まさか辞めてしまった?
一番怖いのはこれでした。こう言っちゃなんですが、パチンコ屋の店員さんって結構回転が速いんですよね。すぐに辞めちゃっていなくなるとかザラで、僕もいつ彼女が辞めていなくなっちゃんだろうってすごく怖かったんです。
ああ、もう彼女に会えないのか・・・そんなバカな・・・ガックリと肩を落としながらダービーキングのコーナーに行くと、そこに彼女の姿が。神々しい後光すら感じる可憐な彼女の姿が。もう盆と正月がいっぺんに来て、ついでにいつも小遣いくれる叔父が山梨からやってきたようなもんですよ。
単純に考えて今日のダービーキングコーナーは彼女が担当。前述したとおり、ダービーキングコーナーなんて客がいませんから僕と彼女二人っきりですよ。これはいける、いけるかもしれない。下手したらダービーキングコーナーでおセックスとかできるんじゃないか。ヒヒーンとか彼女がいっちゃうんじゃないか。期待と興奮でどうにかなっちゃいそうでした。
震える手で6千円全てを500円玉に両替、彼女から見て近からず遠からずな位置のダービーキングに座って馬を鳴かせ始めます。コーナー内に響くヒヒーンがいつもは哀愁すら感じるんですけど、彼女がいるというだけで結婚行進曲にも聞こえるんですから不思議なものです。
彼女はすごいダルそうに立ってるだけで、早く仕事おわんねーかなーみたいな顔してて僕のことなんて眼中にない感じなんですけど、多分照れてるんでしょう。心中は穏やかじゃなくて、やだ、アタイ、なんでこんなにドキドキしてるんだろう!とか思ってるに違いありません。
話しかけたりしてみたほうがいいんだろうか。
何かきっかけがあったほうがいいかな。
いきなり話しかけて驚かないかな。
それより手紙でも書いて渡したほうがいいかもしれない。
乳首の上にパチンコ玉のせるプレイしたい。
とまあ、純情な想いが駆け巡ったんですけど、こういう時って本当に間が悪いというかタイミングが悪いというか、あっという間に6千円がなくなろうとしていたんです。ああ、持ち金が尽きてしまう、彼女と二人っきりの時間を過ごすためのチケットがなくなってしまう、心の中は喜びと同時に悲しみに支配されていました。
しかし、神様ってのは本当に粋な計らいをするものです。最後の500円玉を投入した時、ドラマは起こったのです。
なんと、台の下部の穴、外れたパチンコ玉が回収されていく穴があるんですけど、台が古すぎたのかなんなのか、その穴の奥のほうで玉が詰まり始めたんです。打つ玉なんてほとんどハズレですから、どんどん回収穴にいくんですけど、そこが詰まってるもんですからどんどんと貯まっていくんですよ。
普通はそうなったら店員さんを呼んで詰まりを直してもらうんですけど、僕は逆にこれをチャンスと捉えました。回収穴が詰まる→玉が貯まる→ハズレ穴が塞がれる→アタリ穴にしか入らない→玉がたくさん出る→素敵と彼女がしなだれかかってくる→おセックス→両の乳首にパチンコ玉。コレですよ、コレ。
もう彼女と大金を同時に手に入れる大チャンスと考えたんです。よし、もっと打ってどんどんハズレ穴に玉を蓄積させていくしかない。
そう決意したのはいいんですが、あいにくもう金がない。弟の貯金まで全て盗んだシーフな僕でもさすがにもう先立つものがなかったんです。幸いにして穴の詰まりはまだ目立たない程度、普通なら巡回する店員に見つかってすぐに直されるのだろうけど、彼女はやる気がない様子。こりゃあみつからないはずだ。よし、家に金を取りに帰ろう。
そこからはもう、クレイジーホースのごとく家に帰りまして金を探しましたよ。洗濯機の中からテレビの裏、ありとあらゆる場所を探しました。弟が隠し財産を築いていないかも入念に調べました。しかしながら、全然金が出てこない。
金を求めて家捜ししている様を、唯一家にいた爺さんが即身仏のように見ていたんですけどそんなの関係ありません、徹底的に居間の中も探します。それでもお金は見つからなくて、どうしよう、その気になってる彼女を抱けないなんて、女に恥をかかせるつもり?とか悲しませちゃう、とか何かが根本的に間違っている見当違いな絶望に身を委ねていると、ポロッと預金通帳が出てきたんです。
爺さんは居間の隅のほうに自分の昔の写真とか置いていたんですけど、そこにモモヒキがありましてね、そのモモヒキに包まれるように預金通帳が入ってたんです。中を見るとそこには12万円という天文学的金額の貯金が。
たぶん、爺さんが貯めていた貯金なんでしょうけど、これは神が与えたもうたチャンスだと思いましたね。ホント、当時の僕は最低でミジンコ以下なんですけど、盗んでやろうと思ったんですよ。もうシーフ過ぎて自分でも泣けてくる。
しかしまあ、いくらなんでも爺さんの目の前で盗むわけにはいかないじゃないですか。眼前で盗むとか強盗じゃないですか。ですから、あえてワザとらしく爺さんにアッピールしましてね。
「僕は今、貯金通帳を見つけたけど盗まないよ!ほら、ちゃんと元の場所に戻すから!」
と、爺さんに対して聞かれてもないのに答える始末。ほっかむりつけて風呂敷担いだドロボウくらい怪しいアッピールですよ。で、貯金通帳を元のモモヒキの場所に戻すと同時に同封されていたキャッシュカードだけマジシャンのごとく盗んだんです。
ホント、最低で、今でも職場の女の子とかに「最低!死んで!」とか言われますけど、それすら軽いアメリカンジョークに聞こえるくらいの最低っぷり。
でもまあ、さすがに心が痛んだのか、12万も盗まないよ、1万だけ、1万借りるだけだから、ちゃんと返すよ!とか、爺さんが持ってるより僕が使ったほうがいい、とか訳の分からないことを呟きながら金を下ろしにいきましたよ。どうせ暗証番号は爺さんの誕生日だろうってやったらビンゴでした。あの歓喜は今でも忘れないね。
魂の1万円を握り締めてNASAのダービーキングへ再飛来。やはりさっきと同じ状態で愛しの彼女はやる気ないそぶり。問題の台もそのまま玉が詰まった状態で放置されていました。
早速両替して打ち始めます。もう面白いくらいに台の下部のほうに玉が貯まっていきましてね、見てて笑えてくるんですが、モモモモモモモって感じで台の下半分全部がパチンコ玉で覆いつくされたんですよ。
ビクトリーロードは作られた。もう打つ玉全部がアタリのチューリップに吸い込まれていくんです。その度に馬がヒヒーンって鳴くんですけど、あまりにもボコボコ連続で入るもんですから鳴きすぎてヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒーンとかDJみたいになってるんですよ。ダメ!そんなに鳴いちゃダメ!バレちゃう!
さあ、その異常な音声に気がついたのが彼女ですよ。愛しの彼女ですよ。そりゃあ、そんな異音がしてたらすぐに気がつきます。で怪訝な顔で近づいてきて僕の台を見るじゃないですか。そしたらアンタ、台の下半分が全部パチンコ玉ですよ。ムチャクチャ銀色ですよ。
「ぎゃ!」
って悲鳴上げて走ってどっかいっちゃいましたからね。で、すぐに怖そうなパンチパーマ引き連れてやってきましてね。
「はーい、ストップ!打つのやめてー」
とか、とても接客業とは思えないパンチパーマが逆に怖くなる優しい口調で言うんですよ。
「ダメじゃない、僕。こういうことしちゃさあ」
「こういうのゴトっていって犯罪なんだよ?」
「それに君、高校生でしょ?」
とか、すげえドスがピリリと効いた声で言われましてね、その間もなんか一番良い大当たりの場所に玉が入ったみたいで、タービーキングの馬が勝手に「ヒヒーン!頑張るぞ!」とか騒いでました。頑張るぞじゃねえよ。
この犯罪者が!みたいな蔑んだ、汚物を見るような視線で彼女に睨まれ、出玉も全て没収されて二度と来ないように、と言われたんですけど、その瞬間に思いましたね、ああ、この恋終わったな、と。失意のままNASAを後にし、泣きながら家路に着いたのでした。
さて、それから数ヶ月、口座に残ってた金は裏ビデオ通販に騙されたり、ナショナル会館っていうパチンコ屋の店員に恋してそこでもダービーキングを連日打ったりして綺麗になくなったわけなんですが、まあ、正直に言ってしまうと、弟の貯金を盗むなら分かるけど爺さんの貯金を盗んだのは良くなかったよなー、ってちょっと反省していたんです。けど、ミジンコ以下ですから全然事の重大さを分かってなかったんです。
さらにそれから数ヶ月、大学進学が決まり、これから一人暮らしをするぞっていう最後の春休みに爺さんは亡くなりました。最後に立ち会うことができなかったのですが、病院で安らかに息を引き取ったそうです。
入学の準備、一人暮らしの準備に重なって葬儀やらなにやらで大変だったんですが、やっとそれらが落ち着いた時、母さんから預金通帳を手渡されました。それは、見紛う事なきあの、あのダービーキングの日に手をつけた預金通帳なんですよ。
「これは?」
「お爺さんがお前のために貯めてたお金だよ」
ウチの地方は敬老の日に老人に敬老祝い金とか称して1万円が支給されるとかそんな訳の分からない制度があったみたいなんですけど、爺さんはそのお金を12年間ずっと貯めていたんです。1年1年、何ににも金を使わず即身仏のように過ごしてお金を貯めていたんです。
「お爺さんは、お前が小さい時に灰皿を投げつけたことを過ちだとずっと悔やんでた。だからお前が大学に入る時に少しでも足しになるようにって貯めてたんだよ」
そう言って手渡された預金通帳は、これホントに預金通帳かよと思うほどに重かった。もうどうしていいかわからなかった。
通帳を開くと、何で気付かなかったんだろう、1年ごと敬老の日の前後に1万円が入金されている。そして、印字された文字はあの盗んだ時から変わらず12万円で止まっていた。当然と言うか、その後僕がド派手に引き出していたことは記帳されていなかった。
なんかその12万円の印字を見てたらすごい泣けてきましてね、爺さんがコツコツ貯めてそれを大切にモモヒキに包んで保管してたことと思い出しちゃって、なんかギュウッと心が締め付けられたんです。ここまで気付かない方がおかしいんですけど、恥ずかしながらやっとこさ自分の行った行為の愚かさを痛感したんです。
「大切に使いなさいよ」
そう言った母さんの言葉がまた痛くて、使うも何ももう盗んで使ってしまったがな、とは言えず、ただただ泣くことしかできなかった。そして誰にも言うことができず今まで過ごしてきた。
「お爺ちゃんはいつ死ぬの?」
少年の無邪気さで聞いたあの日、爺さんは
「お前が大学に入るまでは生きてるよ」
と笑いながら答えた。けれども、入学前の春休みに爺さんは逝ってしまった。何で死ぬんだよ。僕、爺さんの金盗んだままだよ。それもとんでもないバカな使い方しちゃったよ。
人間とは愚かな間違いを犯す生き物です。別に間違いを正当化するとか開き直るとかそんなつもりはないのだけど、せめて間違いを犯した時くらいはその事実を悔い改めて昇華したい。そうしないことこそが最も深刻な過ちなのだから。
そんな僕が先日、寂れたゲームセンターに行くと、そこには妙にくたびれたパチンコ台が置いてあった。レトロコーナーと銘打たれたそのコーナーには懐かしのパチンコ台が置かれていて、少し浅黒く汚れたあのダービーキングがポツンと置かれていた。
試しに100円入れて打ってみると、これまた静かなゲームセンター内に、あの日のままのヒヒーンという泣き声が少し疲れた感じで響いていて、なんだかすげえ泣けてきた。
悔いるだけではダメなんだ、悔いてその先に改めなくてはいけない、さもなくば一生後悔することになる、それは犯した罪以上に罪深いことなんだ。僕は改めなければいけないんだ。
あの日、あの時、僕は言い訳しようがないほどに最低だった。潔いほどにシーフだった。これからは改めなければならない。もう30歳も超えてるんだ弟の貯金を盗もうと画策するのはやめよう、今日から僕は生まれ変わるんだ。僕は改めるんだ。もう絶対に帰省した際に弟の金を盗まない。鳴り響く馬の鳴き声にそう誓う。
いつまでもいつまでも寂れたゲームセンター内にダービーキングの鳴き声が響いていた。
10/8 first-letter
お姉さん系と言えばいいのでしょうか、今風とでも言うのでしょうか、妙に大人っぽい、それもかなりの美人さんがコンビニにツカツカと入ってきたのでした。いつも思うのですが、こういう「いい女」てヤツは何故かおかしいくらいに尻を振りながら歩いているものです。
なんていうか、フリッフリッとシリを振ってですね、それこそ脱腸するんじゃないかってこっちが心配になるほど左右にケツ振って歩いているわけですよ。いやいや、おかしいじゃないですか。どう考えてもおかしいじゃないですか。
ニヒルに笑うハードボイルドな紳士が集う社交場みたいな場所で尻を振るなら分かりますよ。そりゃあこんだけ美人ならば、いくらでも金持ちをゲットできます。でもね、ここは夜明け前のコンビニなんですよ。店内には大塚愛さんが表紙のnadesicoを立ち読みするブサメンパラダイス31歳しかいないんですよ。僕のような野武士が女性ファッション誌nadesicoを手に取るのはちょっと恥ずかしいんですよ。
ーーーーーーーーー!と声にならない驚きとはまさにこのこと。明らかに驚きすぎて尻こ玉が抜け落ちるかと思いましたよ。だって考えてみてくださいよ。蛍ってのはなんで尻が光るのか。あれは幻想的な光で異性を引き付けて交尾するためなんですよ。幻想的で綺麗、なんていう人いますけど、要はセックスしたいだけですからね。
しかしながら、人間はどう頑張っても尻は光らないわけなんですよ。むしろ光ってたら交尾どころの騒ぎじゃないんですけど、とにかく光らない。そうなった場合、やっぱ尻を左右に振るしかないわけなんですよね。尻を左右に振って熱烈にセックスアピールをしている、ここはそう見るのが正解でしょう。
ていうか、ここはもうnadesicoを立ち読みしている場合ではない、早く彼女の想いを受け止めてあげなければいけないっておもうんですけど、いきなり抱きつきにいったりなんかしたらダメじゃないですか。レベルとしては小学校の下校時に出没する露出狂となんら変わりがないやないですか。ここは冷静に彼女のほうからアプローチしてくるのを待つしかありません。なんとかnadesicoを読みつつ彼女のプリプリの尻を横目で追うんです。しかし、視線に気づいた彼女がキッとこっちを見たりなんかしてね。
るるるるるー。
とか、何故か鼻歌を歌って誤魔化すんですけど、今時音声に出して「るるるー」もありませんよ。どこの不審者ですか。
こうなってくると非常に怪しいのですが、それでも彼女の尻は諦めきれない。そう簡単に諦めてたら奇跡なんて起きないよ!と自分を奮い立たせてですね、さらに彼女の尻を目で追ったんです。
ローマは一日にして成らず、という格言が示すとおり何事も積み重ねが大切。こうやって目で追うことによって彼女の淫靡な想いを受け止める準備があることをアッピールしなければならないのです。
上気する息遣い、高鳴る鼓動、もうちょっとクーラーを効かせてくれよ思うほどに体温が高鳴るのを感じます。もう我慢できない!と彼女が襲い掛かってきたらどうしよう。いくら明け方のコンビニで人がいないと言えども店員はいるんだよ、それはさすがにまずいよ、大胆すぎるよ、もっと人がいないところで。
司法の場ってのは本当に容赦ないですから、公然猥褻などの性的犯罪には容赦ない判決が下されているものです。つまり、いくら相手が誘ったからといてコンビニで行為に及んでしまっては間違いなく有罪なのです。この尻に誘われて襲い掛かってしまってはいけない。絶対にいけない。
にも関わらず、やっぱ目が離せないものでコンビニ内で踊り狂う美女の尻を眺めていたんですよ。左右左右とまあ素晴らしい振幅で振られてるんですが、そうなるとね、不思議な現象が起こるんですよ。
みなさんは催眠術ってご存知でしょうか。インチキ臭い外国人が出てきてキンタマみたいな金属の玉を左右に揺さぶるじゃないですか。あなたはだんだん眠くなるーとか言われて左右に揺れる玉を見てたらコテッと寝ちゃったりしてね。
つまり、この美女の左右に揺れる尻が極上の催眠効果をもたらしましてね、徹夜明けということも手伝ってかウツラウツラと眠くなってきちゃったんですよ。nadesicoを立ち読みしながら船を漕いでる状態、まあ、色々と危ないですよ。
かなりヤバイ状態になってしまい、うわっ、これは家に帰って寝たほうがいいかなって一瞬考えたんですけど、やはりケツ振り美女は捨てがたい。このまま立ち読みを続けていたら彼女のほうから誘ってくるかもしれない。あら、nadesicoなんて男の人が読んでるの?なんて話しかけられて、いやーえへへとか受け答え、その間も彼女は尻をプリップリッ振ってるわけですよ。私、nadesicoとか読んでる男性好きなの、抱いて、そこからはもう、コンビニ内ではまずいですからいかがわしいモーテルなんか行って濃厚プレイですよ。もうプレイ中も尻振ってね、そりゃ凄いんですから。
リラックス状態とでも言いましょうか。そんな理想的展開を妄想していたら気持ち良くなてきちゃって、本当に眠くなっちゃいましてね、実は、そこで記憶が途切れてるんですよ。そこからゴッソリと記憶がないんです。
まあ、眠かったんでしょうね、徹夜明けの明け方ってのは特別に眠いですから。そこにきて尻の催眠術ですから思いっきり眠っちゃいましてね、ホント信じられないんですけどコンビニで本気寝ですよ。
しかも、立ち読み状態で静かに眠るという即身仏状態ならまだいいんですけど、何を間違ったのかその場で倒れこむように眠ったらしいんです。眠るというよりは卒倒に近い状態だったのかもしれません。
ただでさえ怪しい汚い男がnadesico読んでたんですよ。見るからに怪しいのに、そいつが女性客の尻を見てたと思ったらいきなり倒れる。これは店員さんとしては大変ビックリな状態ですよ。次の瞬間気がついたら、なんかアニメとか好きそうな店員さんが「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」とか僕の体を揺さぶっていた。「救急車呼びましょうか?」とか言われたんですけど、まさか「美女の尻を見てたら催眠術にかかって」とは言うことができず、存分にお礼を言ってエロ本買って帰りました。もうあのコンビニには行けない。
週末ってやつは恐ろしいもので様々なドラマが待っています。一週間、仕事に学校に頑張って週末を迎える。そこで開放的な気分になるわけなんですよ。抑圧された色々な何かが解き放たれるわけなんです。
明日から休みだ!って時と明日は月曜日だと思いながらサザエさん見てると時では明らかにテンションが違うでしょう。そんなテンションで日常と違う日々を過ごす週末、こいつはどんなトラップよりも恐ろしい罠なんです。週末ってのはどんな時よりもテンションが高すぎる。それ故に尻を見て卒倒なんて悲劇が起こる。
けれども、例えば休みであるはずの週末に思いっきり仕事だったらどうでしょう。それも重要な会議が催され、職場の人間多くが休日出勤となった場合、どうなってしまうんでしょう。誰もが体に染み込んだ週末ハイテンションで仕事場に来てしまったら。そこには想像だにしない悲劇が待ち構えているのです。
ニックネーム「綺麗なジャイアン」、彼はうちの職場の同僚で、すっげえ真面目で熱血漢、綺麗なジャイアンに似てるんでそう呼んでるんですけど、彼なんかすごいですよ。普段は結構真面目にスーツでビシッと決めてるんですけど、休日出勤で発奮したのかトチ狂ったのか、とんでもない格好できやがったんですよ。
会った瞬間に尻こ玉が抜け落ちるくらい驚いたんですけど、テレビ番組で正月とかにハワイ行く番組があるじゃないですか。二流くらいの芸能人がレポートするんですけど、絶対に日本では着ないようなド派手なアロハ着てるじゃないですか。それを綺麗なジャイアンが思いっきり着てるんですよ。むちゃくちゃ似合ってない。
議題は結構真面目で、それこそシリアスで深刻なことを皆が難しい顔して話し合ってるんですけど、右斜め前にアロハがいるんですよ、アロハが。スーツの中にアロハ。地味な色合いの中に咲き乱れる一輪の花。そのアロハが難しい顔しやがってからに発言とかするんですよ。笑い殺す気ですか。ホント、恐るべし週末ハイテンションですよ。
にも関わらず会議は粛々と進行していくんですけど、さらに週末ハイテンションの被害者が。僕の隣に座っていた後輩なんですけど、まあ、佐竹君なんですけど、彼がもう週末ハイテンションすぎて本当にやばかった。
かれはまあ、掛け値なしにバカなんですけど、それでもまあ会議の席では真面目でしてね。最近流行の要領のいい若者って奴で、お偉方とか権力者がいる時はいい子ちゃん、僕のようなカスな先輩の前だと悪い子ちゃんとまあ、分かりやすいくらいに舐められちゃってるんですけど、やっぱ偉い人が多い会議の席では神妙な顔してるんですよね。
けれども、この週末ハイテンションでの彼は違った。もう週末ってことで何を発奮しちゃったのかわかりませんけど、僕の隣の席でなんかコソコソ隠れて雑誌を読んでるんですよ。高校生くらいの時にちょっと不良が授業中にコソコソとマンガ読んだりするじゃないですか。あんな体勢で思いっきり何かを熟読してるんですよ。会議中に何をそんなに夢中になってんだよって思ってチラッと見てみるんですけど
らくらくナンパ術
レジャー情報これで決まり!とか頼もしいばかりの文字が躍ってるんですよ。で、アホそうな女の子が水着で表紙に写ってました。
まあ、おおよそ会議とは関係ないんですけど、どうもタウン情報誌っていうんですか、地方ごとのローカルな話題を扱う極めて田舎臭い雑誌を読んでるんですよ。
すでにこの時点で週末ハイテンション過ぎる。神妙な会議中にタウン情報誌を読むなんてありえない。普段の彼から考えたら逸脱しすぎている。と思うんですけど、問題はそこだけで終わらなかった。
人が一生懸命発言とかしてるわけじゃないですか、みんな週末に会議とか死ぬほどダルいとか思いながら、それでも最低限の理性で思い留まって普通に会議を進行させているわけですよ。
生活がかかてるってわけではないでしょうけど、それでもみんな仕事を成立させようと頑張っている。それなのにアロハとかタウン情報誌とか許されていい問題じゃない。週末ハイテンションだからって見過ごしていい問題じゃない。だから言ってやったんですよ、会議の支障にならないように、極めて小声で言ってやったんですよ。「おい、そういうのはやめろ」って極めて男前な感じで言ったんです。
終ってから読めばいいだろ、とも言いました。しかしですね、佐竹君はバカというかキチガイというか、聞く耳持たないというか、僕の注意が聞こえてないのか満面の笑みで言うわけですよ。
わかってますってー、ちょっとまってくださいよー
って言いながらそれでも読み続けるわけなんですよ。全く聞いていない。全く分かってない。もう頭おかしい、週末ハイテンション過ぎる。
ただでさえ週末会議で憂鬱なのに、こんなに週末ハイテンションな後輩が横にいると陰鬱になってくる。でもまあ、頭ごなしに怒るってのもどうかと思うので、少しフレンドリーに接して、やんわりと注意するのが得策だと思いましてね、「何をそんなに夢中で読んでるんだい?」とピロートークみたいな優しさで話しかけたんですよ。
死ね!ホントに死ね!とか思いながらも優しく話しかけると佐竹君は嬉しそうな顔しましてね、なんか満面の笑みであるページを見せてくるんですよ。「いやーちょっとここ読んでくださいよー」とタウン情報誌のあるページをこちらに押し付けてくるんです。
にじり寄るように雑誌を押し付けてくるんですけど、おいおい、そんなに情熱的にやったらバレちゃうだろうが、今は会議中だぞと思いながら見てみると、なんか読者投稿のページなんですよ。雑誌の読者が雑誌に投稿して、今日は片思いの人と目が合っちゃってドキドキしちゃった、とか死ぬほどどうでもいい、インクと紙の無駄遣いみたいなことを書いてるページなんですよ。
ただの読者投稿ページじゃん、こんなの何が面白いのか全然分からないよ。頭おかしいんじゃない?みたいなニュアンスのことを佐竹君に伝えたんですけど、すると彼が続けるわけですよ。「そのペンネーム赤丸花子さん(21)の投稿を読んでみてください」とか、気持ち悪い笑顔で言ってくるんです。
いやいや、赤丸花子さん(21)の投稿なんて普通じゃない、近所に美味しいケーキ屋さん見つけて犬の散歩が楽しくなった、みたいな至極どうでもいい、むしろ腹立たしさすら覚える内容じゃないですか。
会ってすぐにハメて!ハメ狂って!とか赤丸花子さん(21)が書いてたら会議そっちのけで夢中になるのもわかりますよ。それなのにケーキ屋とか微塵も夢中になる要素がない。頭おかしい。週末ハイテンションってこういうものなのか。
社長みたいな偉いっぽい人が会議で発言しています。そんな重要な場面を無視して夢中になるほどのポテンシャルがないんですよ。赤丸花子の投稿には。
やっぱさあ、こういうの会議中に読むのは良くないよ。いくら週末会議で面倒だからってさ、ちゃんとやろうよ、みたいなニュアンスのこと言いながら彼に雑誌を返すと、彼がカッと目を見開いて言うわけなんですよ。「ちょっと待ってください!もっとちゃんと読んでください!」どんな時でもこんな彼の真剣な顔を見たことがない。こりゃ、何かあるに違いない。
めんどくせーなって思いながら再度読んでみると、やっぱり普通の投稿だ。赤丸花子さん(21)の投稿におかしいところはない。それでも熟読してると
佐竹が言ってくるんですよ。「赤丸花子さんの投稿の最初の一文字目を続けて読んでみてください」とかなんとか。赤丸花子さん(21)はどうでもいい文章を複数行に渡って書いてるんですけど、その頭の文章を繋げて読んでみるんですけど、なんと、驚くことに「おまんこ」になってるじゃないですか!頭の文字だけを読んでいくとしっかり「おまんこ」になってるじゃないですか。エロい!エロすぎるぞ!
ただもんじゃねえよ佐竹!よくこんなの見つけたな!ケーキ屋とか犬の散歩とかお嬢様風味の投稿に「おまんこ」を見出すとはな!とマジで尊敬しました。そんなわけありません。
いやいや、頭おかしいじゃないですか。投稿の頭文字だけ読んで「おまんこ」とかどうでもいいじゃないですか。赤丸花子(21)とかどうでもいいじゃないですか。そういう読み方して喜ぶなんて中学生でもしないですよ。週末ハイテンション過ぎる。週末ハイテンション過ぎてどうしようもない。とか思ってると「こら!さっきから何をやってるんだ!」とか偉いっぽい人に怒られちゃいましてね、満場の会議室で僕が立たされてやり玉に挙げられる始末。佐竹が悪いのに立たされて怒られた僕は狼狽しちゃいましてね、「いや、佐竹君が赤丸花子・・・投稿がおまんこで・・・」、と狼狽し、職場の面々の失笑をかったのでした。しかも綺麗なジャイアンが、アロハジャイアンのやつが「週末だからうかれてるんですよ」とか言いやがって、お前が言うなって感じなんですけど、とにかくやり玉に挙げられて、僕が一番週末ハイテンションだったってことになったのでした。一人だけ立たされて、恥ずかしいやら何やらで、尻を見た時とは別の意味で卒倒しそうになったのでした。
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10/6 ぬめぱと変態レィディオ-テレクラ100番勝負スペシャル:破-
放送開始 終了しました
放送URL 終了しました
放送スレ 終了しました
聞き方 適当に調べてください。わからなければ放送スレで聞いてください。
放送内容
・テレクラにかける
・軽やかに雑談
・トイレが詰まってしまい1ヶ月くらい放置していたら・・・
・初恋の人がMixiに・・・
前回までの戦跡(簡易版)
No.01 マキ 24歳 変態トークにひかれて終了
No.02 タエコ38歳 繋がった瞬間にイク男
No.03 練馬のエミ 19歳 本気で口説く
No.04 ユリ 24歳 エヴァオタMAX
No.05 マナミ 26歳 ウンコでスゴロクプレイ
No.06 美穂 28歳 モノマネ対決
No.07 サキ 25歳 江戸プレイ
No.08 ユリ 25歳 ねっとりした会話
No.09 女王様 ちょっといいかしら? あなた気持ち悪いわ
No.10 ユカリ 28歳 ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ
No.11 マナミ 23歳 惑星プレイ
No.12 タカコ 52歳 心が折れる
No.13 ツカサ 24歳 それはペテンです!!!
No.14 ユウコ 大塚愛さんと魔王を倒しに行く話
No.15 女王様2 オナニーしてみてごらピッ!
No.16 女王様3 サンヨーじゃなくてセンズリヨーでしょう!
No.17 マミ 19歳 渋谷のDJ
No.18 カナコ 28歳 宅配便プレイ
No.19 クミコ 26歳 女王様に逆らうM男
No.20 ユウコ いくら?
No.21 ケイコ エキサイトバイクプレイ
番外編 リスナー ユカ♀27歳&シゲ♂32歳 シゲとガチホモ
9/29 駐車場クライシス
最近、駐車場が熱い。
いやいや、いきなり熱いって言っても何のことやら分かりません。もちろん、駐車場だけが亜熱帯の如く独自に熱を発してるわけでもありませんし、何故だか知らないけど灼熱の炎に包まれているわけでもありません。あくまでも僕の中の個人的熱量として駐車場が熱いのです。「アツい」と書き換えた方がこの熱量を理解しやすいかもしれません。とにかく、駐車場がアツい。
ではなぜそんなにも駐車場がアツいのか、それを説明する前に駐車場について語らねば話が始まりません。そもそも駐車場とは何なのか。まず、これは読んで字の如く「車を駐車する場所」と理解することができます。しかしながら、問題の駐車場がただ駐車するだけの場所だと認識していると手痛いしっぺ返しを喰らうことがあるのです。
僕の大好きなエロマンガにこのようなものがあります。深夜、繁華街近くの駐車場に特に目的があるわけでもなく駐車し、カーオーディオなどを聞きつつマッタリと過している男がいたのです。男は鼻歌交じりで上機嫌、マイカーの中というプライベート空間を心から楽しんでいました。
ふとサイドミラーに目をやると、何やら怪しげな影が車の後部に。おいおい、もしかして車上荒らしか、と怪訝な表情でサイドミラーを注視しました。しかし、そこには妙齢の、いやピチピチと若さ弾ける黒髪の女性がいたのです。女性はソワソワと落ち着きがなく、車を探すでもなく周囲を伺っています。
ミニスカートにブーツ姿という今風ファッションで決めた女性をサイドミラー越しに眺める主人公、こんな時間になにやってるんだろうか、そう、もう時間は深夜、それもかなり深い時間なのです。そして、そこで信じられない出来事が起こりました。
なんと、女性はガバッとその場でかがむと下着を脱いで小便をし始めたのです。これには主人公もビックリ。サイドミラー越しではなく運転席から振り返って女性の姿を確認します。まさか小便を見られているとは思わない女性はホッと安どの表情。なんか、出し切ってフー、危なかったとか言ってます。で、視線を上にやると、マジマジと覗き込んでいる主人公と目が合ってしまうのです。
「きゃー!」
「いや、ごめんなさい!」
ま、この辺のやり取りはどうでもいいとして、問題はこの後の展開です。何故か小便をしていた彼女を助手席に乗せて話し込む主人公。普通なら小便見られた女性なんて脱兎の如く逃げそうなものですがこのマンガはそうはいきません。
「もう!恥ずかしい!」
「いやいや、こっちだってビックリしたよ!」
近くで見ると女性はかなりカワイイ顔をしています。妙に胸が高鳴る主人公、そこで信じられない出来事が起こります。
「飲み会帰りなんだけどどうしても我慢できなくて」
「へえ、そうなんだ。俺もビックリしたよ」
「ねえ、私の恥ずかしいところ見たんだから、お兄さんの恥ずかしいところも見たいな」
「なななななな、なんだって!?」
こっちが「なんだって!?」と聞きたい展開ですが淡々とエロスな物語が展開されていきます。もう、車内でジュルジュルピッチャ!しかもその後ラブホテルに移動してジョルダルバッジャ!とまあ、物凄い有様でしてね、なんか道具とか使い出してるし僕なんか読みながら胸の高鳴りを抑えられない状態になってしまったんですよ。
まあ、こんなアメリカンドリームならぬ駐車場ドリームなんてのはありえないことで、僕だって現実とエロマンガの区別くらいはつきますから、そういうエロスな展開ってのはないって分かってるんですよ。バカにしないでいただきたい、それくらい区別つきます。いくあなんでも分別ある大人ですよ。
でもね、ここまでは行かなくても小便くらいは目撃できるんじゃないかって少しだけ期待してるんですよ。駐車場に居れば若い娘の小便をアリーナ席で観戦できるかもしれない、駐車場にはそのような無限の可能性があるんですよ。だから僕の中で一番アツい。
と、書くとまた「小便」とかの文字が小躍りしている話を書きますと、純真無垢な女性などから「patoさん死んで」「一生のお願いです、死んでください」などとソウルフルなメッセージが記載されたメールを頂くことになりますから、ホント、そんなの送るくらいなら小便の一つでも送って来いよ、まっ黄色のヤツをな!って思うんですが、さすがにアレなので真面目に書きます。
駐車場の面白さとは何か。それはひとえに単体で成立しうる物ではないということにあるのではないかと思います。単体で存在できない付随的な代物、それを単体として捉えた時に面白さを発揮するのです。例えば小便と大便ってのはセットの物ですが、小便を単体で捉えた場合、うん、やめておきますね。
恋人同士でディズニーランドに行くのでもいいでしょう、どこかにショッピングでもいいでしょう。そこには広大な駐車場が存在します。高速道路を通ればパーキングエリアがあって、家に帰れば所定の駐車場に車を停めます。ディズニーランドに付随したもの、商業施設に付随したもの、高速道路に付随したもの、家庭に付随したもの、と全ての駐車場が何かに寄生して存在しているのです。世界中に存在する全ての駐車場が何かに付随した形でのみ存在を許されているのです。
「今日は3丁目の駐車場に行こう!」
「やったね父さん!」
「アナタ、いいの・・・?」
「仕事仕事で寂しい思いさせたからな、たまには家族サービスさ」
「父さん!三丁目の駐車場って白線が綺麗だよね!」
「ああ、それにコインパーキングだ!」
「アナタ・・・素敵・・・」
「芳江・・・」
「父さん、母さん、なんだったら僕、ちょっと散歩してこようか?」
「バカ!何気を使ってるんだ!」
「もう!この子ったら!」
「えへへへへへ」
とまあ、こんなことはありえないわけなんです。目的地として単体では存在し得ない、あくまでも通過点でしかない駐車場、そこに注目すると今まで見えなかったものが見えてくるのです。
ウチのアパートの駐車場は、まあ田舎ですから車無しの生活なんてありえないといった事情から結構広めな敷地を有しているんですね。だいたい20台くらいの車が停められるように、よくよく考えたらアパート部分の土地よりも駐車場部分の土地の方が広いじゃんってくらいに威風堂々と存在しているんです。
ある日の朝、さあ出勤するぞーと思ってアパートの入り口から自分の車まで駐車場を横切ってたんです。ウチのアパートは朝遅い人々が住んでるみたいで僕が出勤する時は満員御礼フル状態で車が停止してましてね、ギュウギュウに詰まってるもんですから車と車の間を抜けるようにしてマイカーまで行かないといけないんですよ。
もう毎朝のことですから慣れたものでして、体を横にしながらスルスルと抜けていったんです。で、あることに気がついてしまったんです。
「駐車場にタバコの吸殻を捨てているキチガイがいる」
もうモッサリと白線の上にタバコの吸殻が山のように捨ててあるんですよ。いやいや、僕が圧倒的マナーでそういうことはけしからん!だとか、僕らの地球を汚さないで!とか言うつもりはないんですけど、それを見て、ああ、こんなのアリなのか、と気がついてしまったんです。
僕はこれまで駐車場というのは車を停めるだけの場所だと思っていた。それ以外に許されないと思っていた。何も考えることなく毎朝通過するこの駐車場も深く観察することなく通り過ぎていた。これはある意味盲目で非常に勿体ないことじゃないだろうか。現に、目の前にはゴミ捨て場としての駐車場が存在している。僕が思ってる以上に駐車場ってのは何でもありなんじゃないだろうか。
よくよく周囲の駐車場を見てみると、みんな結構何でもありみたいで様々な物を駐車スペースに置いたりしている。車のタイヤだとか何か部品みたいなものとか、それはまだ分かるとして理解できないけど植木鉢なんか置いて駐車場でガーデニングしてるおばさんまでいる始末。今までスルーしてたけど注意深く観察すると結構何でもありだぞ、駐車場。
それからはもう日々、駐車場を通過するのが楽しくてですね、あ、また荷物が増えてるだとか、植木鉢が増えてやがる、またゴミ捨てやがったなと、日々変わる駐車場が楽しくなってきたんですよ。
しかも、僕も負けじと駐車場に何か置いてやろう、皆がやってるように駐車場を駐車以外の事にも使ってやろう、って決意しましてね、とりあえず何も置くもの考え付かなかったので古いジャンプを山盛りに入れたダンボール箱を置いておいたんですよ。
駐車スペースの端っこにダンボールを置くと車を出し入れするのが難しくなって微妙にスリリングなんですが、これで僕も駐車場は駐車場であるべきという固定概念から解き放たれた新人類だ!と少し誇らしい気分になったんです。
そしたらまあ、同じように「え?駐車場に荷物置くのってありなの?」と気付いてしまった他の住人が荷物を置き始めちゃってですね、あっという間に我がアパートの駐車場が何でもアリのカオスな状態になってしまったんですよ。
サーフィンの板っていうんですか、ああいう女にモテそうなアイテムを置く住人が出だしたり、何に使うのか全く分からないんですけど動物の死体を安置するような小さな台とか置かれ始めてさあ大変。多くの住人が気にも留めていなかった駐車場の存在意義に気がついてしまったんです。
それからはアツかったですね、もう毎日がアドベンチャーの連続。仕事を終えて家に帰ってくると変に対抗意識を燃やしたガーデニング婆さんの鉢植えとかが増えてるんですよ。それどころかプチトマトみたいなのを植えだす始末。そんなことして本来の駐車という目的が満足できるのか甚だ疑問ですが、とにかく日々刻々と我がアパートの駐車場が変化していったんです。もうアツいアツい。
しかしながら、それと同時にあまりよろしくない現象も垣間見えるようになりました。皆さんは割れ窓理論(ブロークン・ウィンドウ理論)というものをご存知でしょうか。一台の車が空き地に放置されているとします。その車がきちんとした車であるならば荒れるのに時間がかかります。しかしながら窓ガラスを割った状態で放置するとあっという間に荒れ果て、他の場所壊されるわ部品盗まれるわの大騒ぎ、雪崩式に事態が悪化するのです。
同じように街中において、建物の窓ガラスが割れていたりすると、それが「この周辺は誰も気を配ってない」というサインになり、ゴミのポイ捨てなどが増加、軽犯罪が増加、挙句には重大な凶悪犯罪を引き起こしてしまう。どんな些細な事でも見逃さないのが大切だ、という理論です。
我が駐車場も見事にこの割れ窓理論を辿ってしまいましてね、最初はタバコの吸殻捨ててあるだけだったのに、それに触発されたキチガイがダンボール箱を置き始めた、それにさらに触発された住人達が一気に荷物を置き始め、さらに誰がやったか知りませんけどアスファルトにスプレーで落書きとかされるようになっちゃったんですよ。
さすがに住人ではなく、外部から来たクソガキだとは思いますが、荷物とか置かれまくってて荒れてる駐車場を見て落書きしてもいいじゃん、とか思ったんでしょうね、アスファルトにデカデカとマンコマークみたいなの書かれてるんですよ。落書きとかされちゃうとさらに荒廃した雰囲気がムンムンになるもので、一気にスラム街みたいな雰囲気が漂ってくるものです。
恐ろしいもので、割れ窓理論はここで止まらない。さらに放置を続けると落書きの数も増え、さらにはアパートの壁にまで芸術的な落書きが施される始末、なんかチーム名っていうんですか、最強連合っぽい文言と何とか連合とかデカデカと書かれるようになったんですよ。
おまけに、週末の夜ともなると何やら駐車場が騒がしくてですね、ウチのアパートは住宅街のど真ん中にあるんですけど、近くの住宅のご子息が暴走族に興味を持っているようで、なんか族どもがその彼を迎えに来るんですよ。これまでもそういうことはあって迎えに来た時とかバリバリとバイクの音がうるさかったんですけど普通にアパートの前を通り過ぎるだけだったんですよね。でも、今はスラムのように荒廃した我がアパートの駐車場がありますから、こりゃちょうどいいってなもんでそこでご子息を待ったりしてるみたいなんですよ。
恐るべし割れ窓理論。ただ、いつも通過してるだけの駐車場に注目し、駐車以外の使用方法に気がついてしまった。そこから一気に積み木が崩れて暴走族の待合所ですよ。もう殺人事件とか起こっちゃうのは時間の問題です。
日々荒廃していくマイアパート駐車場を眺め、なんだかなーとか思う日々、しまいにはその暴走族どもがハンバーガーのゴミとか平気で捨てていくようになっちゃいましてね、ソウルフルな落書きと共に掛け値なしでスラムな雰囲気がムンムンしてきたんですよ。そんなある日、事件は起きました。
ある金曜日。明日からは休みで週末をエンジョイしちゃうぞって勢いで帰宅したんですよ。ちょうどその日は仕事が微妙に忙しくてですね、珍しく遅い時間の帰宅、まあ、明日休みだからいいかってコンビニで夜食を買い込んでアパートに帰ったんです。
アパートの駐車場はやはり荒れ果てて入り口のところにゴミとか捨ててある始末。それも一部分だけゴミ屋敷みたいになてるもんですから、こりゃあ酷いなって思いながら所定の場所に車を走らせたんです。
僕に与えられた駐車スペースは駐車場の端っこで、どっかのガキが描いたマンコマークみたいなピースフルな落書きの近くだったんですけど、もう夜ですよ、灯りもないし真っ暗な駐車場ですよ、ガッと曲がるとヘッドライトに照らされたマンコマークがデーンと大登場ですよ。もう慣れてしまったから別にいいんですけど、それにしても荒れすぎだろ、と思いながら駐車しようと所定の場所でハンドルを切ったんです。
そしたらアンタ、僕の駐車スペースに暴走族がいるじゃないですか。見るからに悪そうって言うか、ヒップホップ育ちというか、悪そうなやつは大体友達って言うか、とにかくそんな輩がまるで我が家のように僕の駐車スペースでくつろいでるんですよ。エビフライみたいななった下品なバイクも3台くらい泊ってて北斗の拳みたいな状態になってはるんですよ。
これだから駐車場は恐ろしい。駐車場を単体と捉えて駐車以外の使用用途を模索し始めた時、そこは荒れ果て、また暴走族たちも待合所としての活用を始めるのです。普通に生活してて自分の駐車スペースが暴走族で溢れかえってるなんてそうそうありませんよ。
薄々は勘付いてました。あの荒れようや落書きの数々、捨てられたゴミたち、暴走族が使ってるだろうなってのは前述した通りなのですが、まさかリアルタイムでその場面に遭遇してしまうことになるとは。
で、暴走族たちは僕の車のヘッドライトが眩しいって感じの顔して不快感を顕にしてるんですよ。これはね、ハッキリ言ってマズイですよ。非常にマズイですよ。このままそこは俺のスペースだ、どけとか言っちゃって彼らの逆鱗に触れ、ああーん、ハードラックとダンスってみるかとかボコボコニされたら目も当てられません。明日の朝刊あたりに「駐車場を巡るトラブル、31歳会社員撲殺、狂った果実」とか書かれてブログとかでも「バカなオッサンがいたものです」とかネタにされるかもしれない。ワイドショーがきてアパートの住人にインタビュー、「ああ、死んだ○○さん(僕)は気持ち悪い人でね、よくパンツ姿で出歩いていたよ、迷惑だった」とか言われちゃうかもしれません。
とにかく、ここで彼らと衝突してしまっては生命の危機ですので、何事もなかったような顔でバックし、全然違う駐車スペース、空いていたのでガーデニング婆さんの場所に車を停めました。後で婆さんに怒られるかもしれないけど生命には代えられない、早く安全なマイルームに帰らねば。
なんとか車を降りようとするんですけど、婆さんの置いた鉢植えがむちゃくちゃ邪魔すぎる。くそっ、駐車場にこんなもの置くなよ、邪魔すぎるじゃねえか。と、マゴマゴしてるとこの憐れな子羊に暴走族のリーダ格みたいな奴が話しかけてくるんですよ。
「あれえ、おじさん、もしかしてココの人?」
ココってのは紛れもなく彼らが占拠している駐車スペースのことなのですが、それ以前に「おじさん」は酷い、酷すぎるよ、と半ばブロークンハート、こりゃあ下手に返答を間違えたら死ぬぞ、とビクビクしながら答えました。
「う、うん・・・」
31歳にもなって今度会社の決まりで無理やり人間ドッグに入るようになった僕、いわば熟年の域に達した僕ですよ。加齢臭立てだってでています。そんな僕が10代そこらのガキどもにブルッちゃってるわけで本当に情けないのですが、この荒れ果てた駐車場ではいつ惨殺事件が起きてもおかしくありません、なるべく彼らを刺激しないようにしなければなりません。
「なんだあ、早く言ってよ、ごめんね、今場所空けさせるから。おじさん遠慮なく停めてよ」
暴走族どもは結構フレンドリーでエビフライみたいになったバイクを移動させるではないですか。ここで無視とかしたら本気でリンチ遺体になるので僕も早く部屋に逃げ込みたいんですけどもう一度車に乗って所定の位置に駐車します。
なぜか両脇で暴走族どもが腕組みして見守り壁みたいになってる中で駐車ですよ。意味がわからない。っていうかハンドル操作を間違えて彼らを轢こうものなら間違いなくリンチに遭う。生きては帰れない。自動車学校の卒業検定より緊張したよ。
なんとか命からがらの駐車も終わり、ヘコヘコと部屋に帰ろうとしたんですけど、やけにフレンドリーな暴走族はさらに話しかけてくるんですよ。もう勘弁してください。
「あれ、それおじさんの夕ご飯?」
とか僕が手に持ってるコンビニの袋とか指していうわけですよ。
「うん、まあね」
とか人生の中でベスト10くらいに入りそうなどうでもいい会話を交わすんですけど、彼らの会話は終わらない。その暴走族の中にもヤンキーな女の子がいましてね、多分、メンバーから肉便器的扱いを受けてるんでしょうけど、こういうワルの中にいる女の子ってカワイイこと多いじゃないですか、カワイイしたぶんツンデレでしょうし、頭も尻も軽い、けっこう付加価値があるんですよ、ヤンキー少女って奴は。で、その少女が僕を少し小バカにした感じで話しかけてくるんですよ。
「おじさん年いくつ?」
「28歳だけど」
なぜ暴走族相手にサバ読んでるか僕の心理状態が分からない、何を狙ってるのか分からないって状態なんですけど、人生でベスト5くらいに入りそうな死ぬほどどうでもいい雑談が続くわけなんですよ。で、そんな中、その肉便器少女が問いかけてくるんですよ。
「おじさん、KYって知ってる?」
え、AM11:00とか歌ってた人?今も活動してるの?とか、君の小便を夜まで飲みたいの略、とか答えようかと思ったのですけど、返答を間違えるとマジで死ぬので、
「空気読めない?だよね」
と恐る恐る答えたんです。すると暴走族たちもたいそう喜んでくれたみたいで、「ほらみろ、やっぱ知ってんじゃん」「やるじゃんオッサン」みたいな機運が高まってきたんですよ。さすがにそこまで褒められると僕も悪い気がしないもので、なんでも答えちゃうぞってちょっと調子に乗ってしまったんですよ。
そしたらまた肉便器、じゃないやヤンキー少女が聞いてくるわけなんですよ。
「じゃあさ、ZAって分かる?」
これがね、ほんとにわかんなかった。この後もインターネットなどを駆使して調べたんですけど全然分からなかった。多分、彼ら穴兄弟の中でブレイクしている言葉なんでしょうけど、ホントに意味が分からなかった。で、答えられなくて困っちゃいましてね、苦し紛れに発した言葉が、
「えっと、ざんぎり頭の略?」
文明開化してどうする。明治時代か。同じ間違うにしてももっと色々あるだろうに。
「ちげーよ、もういいよ、早く行けよ」
あまりに微妙な返答にエビフライのボス格もちょっと不機嫌な感じになっちゃいましてね、呼び止めたのはお前らだろ、それより人の駐車場にいるのはお前らのほうじゃないか、と思いつつもスゴスゴとマイルームに戻ったんです。
戻ってからも大変でしたよ。僕の部屋は3階なんですけど、ベランダから覗いてみるとあいつらまだまだ帰らずに僕の駐車スペースでたむろしてるんですよ。駐車場は暗くて彼らの姿は見えないんですけど何やら音声だけは聞こえるんですよね。そのうちエロいことで始まって肉便器少女のエロボイスだけでも聞けるんじゃないかってワクワクしながら覗いてたんです。
いくら若者の性が乱れてるとは言ってもさすがに駐車場で乱交とかはないと思うんですよ、でもね、これだけ長時間たむろしていたら、「あーん、もう我慢できない」「もうそのへんでしちまえよ妙子」「あーん」っていう小便的な、ってそろそろやめておきますね。
とにかくそういった展開を期待してコソコソと盗み聞きしてたんです。そしたらアンタ、
「やっちゃえやっちゃえ」
「マジいっちゃう?」
的な不穏な音声と共にプシューっていう小便にしてはやけに情熱的な音が聞こえてくるんですよ。どうもスプレーが噴霧しているサウンドらしく、あいつら落書きしてやがる、それも僕の駐車スペースで思い切り落書きしてやがる。おいおいやめてくれよーと泣きそうになっちゃったんですよ。
考えても見てください。僕の車にマンコマークとか落書きされてですね、それで職場のマミちゃんとデートとかするじゃないですか。待ち合わせ場所に颯爽と現れる僕の愛車。それにデデーンとマンコマークっすよ。いくら「イカしてる!」を「イカレてる」と本気で「この秋はマフラーがイカレてる!」とか本気で言ってたマミちゃんでも引きますよ。
おいおい、車にマンコマークとか本気でやめてくれよなー、さすがに警察に通報したほうがいいのかしら、でも逆恨みされたりしたら嫌だなーと、闇夜に響くスプレー音を聞きながらベランダでオロオロしてました。
さて、翌朝、まあ車にマンコマークくらい書かれても別にいいかと諦めの境地に達してしまって眠りについたのですが、目が覚めるとやはり気になるものです。もし、マンコマークカーになってたら休日を使って消しきらねばならない、と意気込んで駐車場へと降りました。
やはり駐車場は荒れ果てていて、暴走族どもが食い散らかした食物のゴミなどが散乱して目を覆いたくなる状況。小走りに車まで駆け寄って念入りに確かめます。
よかった、車に落書きはされていない。
やはり暴走族といえども人の子、いくらなんでも人の車に落書きするほど外道ではなかったか。うんうん、昨日話してみてそんなに悪い奴らじゃないとは思ってたんだよな。僕は最初から彼らを信じていたよ。信じていた。
しかし、あのスプレー音はなんだったんだろうか。あの音は間違いなく僕の駐車スペースで落書きが施されていたサウンドだ。車じゃないとするとどこに落書きをされたんだろか。注意深く周囲を観察します。壁やアスファルトの落書きは増えていない。では一体どこに・・・。
そして見つけましたよ。僕が駐車場を荷物置き場代わりにして置いていたダンボール箱に思いっきり青のスプレーで落書きが施されていましたよ。それを見た瞬間、僕は目ん玉を見開いて驚き、尻こ玉が抜け落ちる想いがしたのです。
BOX
意味が、わから、ない。
いやいやいや、箱に「BOX」って書いてどうするんですか。そんなの書かれるもなく百も承知、千も承知なわけですよ。これを書いて彼らが何をしたかったのか分からない。理解できない。アイツら頭おかしいんじゃねーか。ざんぎり頭なんじゃねえか。ZAだ、ZAだよ。
とにかくどうしていいものか分からず、荒れ果てた駐車場を眺めていたのですが、そこで彼らの仕組んだ巧妙なレトリックに気がついてしまったのです。
箱は箱であって、BOXなんだよ、それ以外の使い方はない、あくまでも箱だ。この世の万物には全て決められた役割がある。それを曲げたって何もいいことはない。君らはどうだい?駐車場を駐車場以外の使い方してるんじゃないかい?その結果がこの惨状だ。君らは間違ってるよ。そう警鐘を鳴らしてくれたのです。
なんだかね、偉い先生に怒られたような気がしたよ。僕間違ってた。駐車場は駐車場であって荷物置き場じゃない。与えられた使命ってもんがあるんだ。この「BOX」を見てそう思ったね。
休日を利用して駐車場を片付ける僕。駐車場は駐車場でなくてはならないんだ。「BOX」と書かれたダンボールも片付けようとそっと手に持つと、ほんのりと濡れていて猛烈な臭いがした。あいつら箱に小便しやがった。駐車場は駐車場であってトイレじゃないぞ、と思いつつも、あのヤンキー少女の小便だったらいいなって思いながら、そっとBOXを片付けた。
そして青い空はいつまでも青い空だった。
9/23 ぬめぱと変態レィディオ-テレクラ100番勝負スペシャル:序-
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放送スレ (終了しました)
聞き方 適当に調べてください。わからなければ放送スレで聞いてください。
放送内容
・テレクラにかける
・軽やかに雑談
・小文字を多用したギャルから殺害予告メールが来た話
・パソコンの部品を買いにコアなパーツショップにいったら・・・
ぬめぱと変態レィディオ-テレクラ100番勝負スペシャル:破-に続く
9/18 God Knows...
僕らは知ることに対してあまりに無防備だ。
落ちついて身の回りを見回してみると様々な「知る」が溢れていることに気づく。テレビをつければニュースに情報番組にバラエティに、流れ出る洪水のように情報が溢れている。僕らはそれを視聴して「知る」ことができる。
コンビニに行けば山のように雑誌を売っている。それらから適当に1冊手にし、パラパラと流し読みしただけで余程の情報が詰まってることが分かる。数多くの「知る」が印刷されて綴られている。
インターネットにアクセスすればリアルタイムで数多くの「知る」が流れている。ゴミのような「知る」から高尚な「知る」まで様々、その中をマウスで泳いでいるようなもんだ。
現代社会はあまりにも「知る」が多すぎる。とめどなく溢れる情報は僕らが望む望まないを関係なく否応なく「知る」ことを強いる。その圧倒的な量の「知る」が僕らから「考える」を奪ってるのではないだろうか。
例えば、一人の囚人がいたとしよう。その囚人には情報を一切与えない。何日も何日もあらゆるメディア、人との接触を奪って完全なる無の中に置く。何もない真っ白い部屋に入れておくといい。そして1冊の文庫本を与えたらどうだろうか。
おそらく囚人はその本を貪り読むだろう。例えそれが死ぬほど退屈な本であろうとも、死ぬほどクソな本でも、何度も何度も繰り返し読む。その本に書かれている情報を「知る」ために深く深く読み込むだろう。
「知る」が終わると次は「考える」だろう。ほかに情報のインプットがない、与えられた「知る」はこれだけなのだから、その本の内容を「考える」だろう。この作品を通して著者は何を言いたかったのか。ここでの主人公の心情はどんなものだっただろう。こんな展開ではなくこういった展開のほうがいいのではないだろか。「知る」の次に「考える」が現れるのだ。
しかしながら、現状の僕らのようにあまりにその「知る」が多すぎたらどうだろうか。次々と工場の生産ラインのように押し寄せる「知る」は僕らから「考える」を奪ってしまう。あまりにインプットが多すぎてそれを吟味する暇などない、結果、「知る」だけが僕らの中に蓄積されていく。
先日、100本あまりのエロ動画をダウンロードした時、僕はこの溢れる「知る」に気がついてしまい愕然としてしまった。元々僕はインターネットを利用したお手軽エロ動画ダウンロードに興味がなかった。いや、むしろ軽い憎しみすら抱いていた。許しがたい行為だとすら感じていた。
エロビデオってのは、まるで家に帰るまでが遠足だという有名すぎる格言のごとく、エロビデオコーナーで多くの同胞と戦って幾多の死線を乗り越え、カウンターで大学ではテニスサークルに入ってるんだろうなって感じの爽やか女店員の凍てつく視線をかいくぐり、ここで事故を起こしたら死んでもしに切れんとハラハラする思いで家路へ。鑑賞して、返却日に気だるい思いをして返しに行くまで全てをひっくるめてエロビデオだと思っている。だからおウチのパソコンでダウンロードポンッ!なんていうエロ動画が本当に許せなかった。
しかし、やはり僕も年頃の男の子。どうしても今すぐにエロいやつが見たい!という欲望には打ち勝てず、満月を見たゴクウみたいになってエロ動画をダウンロードしまくったことがあった。
エロ動画はものすごい。その量は圧倒的だ。いくら僕が頑張ってもやはり社会的体裁というか色々あるからエロビデオを借りたとしても7本くらいが限度だ。いや、むしろ旧作を7本借りると安くなるので7本しか借りない。それ以上でもそれ以下でもない、7本だ。しかしインターネットの世界には7本どころでは済まない大量のエロ動画が溢れている。
メイドのお姉さんが酷いことされてる動画だとか、ナースのお姉さんが性の回診をしてる動画だとかとにかく雑多なエロスが溢れている。欧米人が見たらビックリするかもしれない。それらの気になる動画をダウンロードしてしまくってやり、気づいたら100個近いファイルをダウンロードしていた。それらを興奮気味に鑑賞しながら上記の考えに至ったのだ。
とにかくエロ動画は興奮する。もう数々のエロい女がファイルごとに登場し、それぞれ違った趣を見せる。言うなれば雅だ。エロの雅がここにある。しかし、それらは何かが違うのだ。
無限大に近いほどにネット世界に溢れているエロ動画、それらはさして考えるまでもなくダウンロードするだろう。ダメな動画だったら消去してしまえばいいのだ。深く考えることなくどんどんダウンロード。どうせ山ほどあるんだ、さして考える必要はない。
そうやって手に入れた動画には思い入れも何もない。あれ、こんなのダウンロードしたっけと思うこともあるはずだ。そして、適当にゲージを動かして絡みの部分をチョイチョイ見る、そんな楽しみ方しかできない。
逆にエロビデオを考えてみよう。エロビデオを7本、7泊8日でレンタルする。旧作だ。新作はすぐ返却しないといけないし値段も高いので旧作だ。旧作を7本レンタルセット料金で少しお得だ。そうなるとどのような布陣で行くべきか考えるはずだ。3本は企画物で、2本は手堅く女優物でいこう。1本はインディーズに走って最後の1本は脱糞で攻めよう。おいおい脱糞いっちゃうかー!とニンマリ。他にも、このメーカーの作品は外れが多い。このシリーズは手堅い。この監督とは趣味が合わない。考えることは山のようにあるはずだ。パッケージに書いてあるエロビデオ情報を「知る」では収まらない、「考える」という行為が確かに存在する。
エロビデオに限らず、多くの場合でそうだ。あふれ出る雑多な情報は僕らを「知る」で留まらせている。「考える」を奪ってる。何も分かりにくいエロ動画の話しなくてももっといい例があった。ニュースだ。マスメディアが報じるニュースは毎日新しい事件が山盛りだけど、事件自体を振り返ることはそんなに多くない。それは「知る」で留まってるに他ならないのだ。
この「知る」のみで留まってしまってる行為、よくよく観察してみるとやっぱり身の回りに多い。嫌になるくらいに溢れている。例えば仕事場でこんなことがあった。
僕の職場は結構年代的区分がしっかりしてまして、団塊の世代、団塊ジュニア世代、松坂世代みたいな感じで歴然とした区分けがあるんですよ。で、僕が所属する20代後半から30代前半くらいの年齢群をなぜかビックリマンシール世代という訳の分からない呼び方してるんですけど、まあ、年齢的に見ても若手の1個上くらい、一番下っ端じゃないけど中堅でもないっていう微妙な立ち位置なんですよ。
でまあ、我が職場には一番下っ端の世代がプロジェクトを企画立案しプレゼンテーションするっていう行事があるんですよ。そのプレゼンでは若手の案やプレゼンに望む姿勢を一個上の世代、つまり僕らビックリマン世代が強烈に批判しなければならないっていう暗黙のルールがありましてね、それこそ自殺者がでるんじゃねえのってくらいに若手が徹底的に凹まされ、決して逆らうことの出来ない力関係を叩き込まれるんですよ。
多分まあ、上の世代の偉大さみたいなのを「知る」だけじゃなくて、凹まされることで実感させる、「考える」行為に通じるものがあり、非常に性格悪い行事なんですけどそのプレゼンに参加したんですよ。
僕らビックリマン世代と何か偉い感じの人が会議室のテーブルに座り、オドオドした若手が次々とプレゼンしていくんです。で、同世代の同僚達や偉い人達が次々とダメだししていくんですよね。見通しが甘いとか、分かりにくい、そんなのしてなんになるんだね、みたいな感じでガンガン行こうぜ!なんですよ。
僕はそれを見ながら、やばい、この若手どもの方が仕事ができる!とあまりの出来の良さに恐れ戦いてしまい、批判することもできず、誰かが批判した後に「そうだそうだ!」とか付け加えることしかできませんでした。とんでもない雑魚っぷりを発揮してやがる。
で、次々と血気盛んな若人たちがあたら若い命を散らしていたんですけど、そんな中にあって一人のヒョロッとした若手が壇上に立ったんですよね。おいおい大丈夫かよとハラハラしながら彼のプレゼンを聞いていたんですけど、彼が言い出すわけですよ。
「この件に関しましては徹底的に調査してまいりました。こちらの資料をご覧ください」
ヒョロっちい子が自信満々に言うわけですよ。逆に頼もしくなるくらい自信満々、血気盛ん、魑魅魍魎って感じで言うんですよ。
で、聞いてる我々に分厚い、それこそ夏休み前に貰う算数のドリルを思わせるような重量感のある資料を手渡してくるんです。こりゃあすごい、まるで彼の熱量が伝わってくるようだ、とペラペラと資料をめくるんですけど、僕はそれを見た瞬間に言ってやったんですよ。このまま雑魚では終わらない、村人Aでは終わらないぜって勢いで言ってやったんです。
「あのさ、調べるのは大変良いことだと思うし、よくこれだけ調べたなって思うんだけどさ、残念ながらこれは「知る」で終わっちゃってるんだよね」
まあ、職場でしょっちゅうファミスタやってる僕が言うセリフじゃないんですけどとにかく言ってやったんです。彼の資料は本当にテーマに沿ってよく調べてあったんですよ。それこそここまでやるかってくらいに調べてあった。でもね、その内容があまりにもあれだったんです。
テーマに関連した事柄が記載された書籍のコピー、関連した内容が記載されたインターネットサイトをプリントアウトしただけのもの、そんなものがただ綴じられているだけなんですよ。プレゼンの方を聞いてみても、この調べてる事柄に関してほとんど触れないんですよ。
「たぶん調べることで満足してしまったんじゃないかな。こんなの調べましたって結果だけポーンと渡されてもこっちは興味ないわけ。本当はその先が重要だなんだよ。調べたことによって君は何を思ったか、どのような結論を導き出したか、それがどう関連してくるか、それがないと何の意味もない」
彼もまた「知る」ことのみで満足してしまったのです。今の時代、ある事柄を調査しようと思えば本当に簡単です。検索ワードに入れてポンッとやればいくらでも関連するページが出てくる。それをプリントアウトして綴ってしまえば資料の出来上がりだ。あまりに簡単に大量の「知る」を手に入れられある程度の形になってしまう。だからその先にある「考える」を忘れてしまうのだ。
結局、そこからヒョロい子に対する総攻撃みたいなのが始まってしまいましてね、あれもダメ、コレもダメ、全部ダメ、もうダメ、みたいな感じになっちゃいましてね、終いには多分一番偉い人なんでしょうけど老師みたいな人が出てきて「君は明日やり直し」と告げるという地獄の展開。こうして嵐のようだったこの魔女裁判は終わったのでした。
その後、いやー、仕事してないのに偉そうに先輩面するのは疲れるぜーと肩の荷が下りた感じで職場のジュース販売機がある休憩所みたいな場所に行ってですね、ガコンとコーラを買って飲んでたんですけど、そうしたら何かメソメソとすすり泣く声が聞こえてくるんですよ。
なんだなんだ、ここにはタチの悪い自爆霊でもいるのか!と驚いて辺りを見回すとですね、さっきのヒョロい子がすすり泣いてるんですよ。うわー嫌なもん見ちゃったなーってのが正直なところだったんですけど、彼がすすり泣いているっていう事実を知ったからには考えて行動しなければなりません。
「どうしたのかな?」
僕を含むビックリマン世代があれだけ攻め立てておいてどうしたもクソもないんですが、やはり彼は先ほどのプレゼンにいたくショックを受けた様子。オマケに明日までに作り直してやり直すなんて無理だ、みたいなこと言うんですよ。
僕もコーラを飲みながらどうしたもんかなーって困り果てちゃったんですけど、まあ、僕が「そうだそうだ!」の雑魚キャラじゃあ体裁が悪いから彼の時だけ悪いところを指摘した、それが火種になって大爆発したっていう経緯がありますから、手伝ってあげることにしたんですよ。
「諦めんなって、手伝ってやるよ!」
クソッ!なんでこのシーンを普段は僕を毛虫の如く嫌っている女子社員どもが見てないんだと口惜しい思いをしつつ、二人はその師弟関係を育み、それと同時に休憩所に差し込んでいた夕陽が夜の闇へと変わっていったのでした。
「でも今日は夜遅いから明日の早朝からやろう、6時に集合だ!」
正直疲れ果ててましたので、明日の朝からやることを堅く約束し、それぞれの家路へと着いたのでした。
さて翌朝、手伝うと言った手前「眠いでちゅー」なんて言って行かなかったらマジで後味の悪い結末が待ってそうなので行きましたよ。約束の6時より早い5時半に到着し、共同作業場みたいな部屋でヒョロい子の到着を今や遅しと待ち構えていたんです。
まあ、仁王立ちで待ってるって訳にもいかないですから普通にデスクに座ってネットサーフィンなぞに勤しんでいたわけなんですけど、まあ、その、ほら、やっぱ、ほら、なんていうかエロっぽいページを見るじゃないですか。男の子ですし、そういうの見るじゃないですか。
でもさすがに職場からエロ動画をガッツリダウンロード!とか色々な意味で終わってると言うか先祖まで遡って頭の構造を疑われかねないと言うか、まあ、こう書いてますけど本当のところは本気で職場ダウンロードしててエドガーみたいな管理者に怒られたからなんですけど、やっぱ信じられない行為じゃないですか。
だから、動画も画像も我慢して主にエロい文章のみで楽しんでいたんです。エロい話題で盛り上がる掲示板を閲覧し、歴戦の猛者たちの書き込みを見てその滾る血潮をさらに沸騰させていたんです。で、そこで見つけた衝撃的な書き込みが僕の脳髄をズシンと揺さぶったのです。
投稿者:俊哉
この間、彼女にアナル舐めてもらったけどすげー良かったよ!もう舐めてもらわないといけない体に(笑)
(笑)じゃねーよ俊哉。ふざけんじゃねーよ俊哉。あのな、あまり言いたかないけどここは生々しい体験談を交えて皆で興奮を共有する掲示板なの。こうもっとどういった経緯で舐めることに至ったのかとか詳細がないと全然興奮できないじゃねえか。もっと考えろよな。
とまあ、俊哉がやけにムカつくのはいいとして、有益な情報を知ることが出来ました。アナルをペロリされると気持ち良い。これは貴重な情報ですよ。何度かアナルを舐められたという男性側の体験談は聞いたことありましたが、それらは全て征服感を満たすだけの行為だと認識しておりました。こんな汚いところを舐めさせちゃう俺、ワイルド?みたいな。気持ち良い、というユーザーの生の声を聞けたのは初めてかもしれません。
「アナルをペロリされると気持ちいいかもしれない」新たな情報を知ることができたのですが、ここで止まってしまってはダメです。その先にある「考える」に至らなければならないのです。
アナルをペロリされると気持ちいい、ということは女性にアナルを見せなければならないシチュエーションがやってくるということか。ペロリされる時はどうしても見せなければならない。どうしよう!恥ずかしい!見せるなんて恥ずかしい!
いやいや、その辺のアバズレにならいくらでも見せますがな。名刺に印刷して配ってもいいくらいですがな。でもね、もう大塚愛さんにだけは恥ずかしくて見せられない。顔が真っ赤になってしまって見せられない。大塚愛さんがペロリしてあげるよ、とか言っても恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
ここここここここうしちゃいられない!どんな状態かも分からないアナルを大塚愛さんに見せるなんて考えられない、あってはならない。ホント、早朝って人を狂わせますね、今まで自分でもほとんど確認したことなかった自らのアナルを確認しなきゃって義務感に襲われたんです。
早朝すぎて誰も居ないから大丈夫。ヒョロッ子が来るまでまだ時間もある。ホント考えるって大事だよな。考えるに至らず、ふーん、アナペロ気持ちいいんだって知るのみに留まっていたら見たこともない大自然のアナルを大塚愛さんに差し出すところだった。客人になんたる失礼なものを見せるんだってなるとこだった。考えたからこそシッカリ確認したアナルを差し出すことができる。
ええ、手鏡を使って確認しましたよ。そのポーズはとてもじゃないがマトリックス的だったとか言ってはいけないレベル。街中に張り出されたら自殺物、国辱物のポーズでしたが、なんとか確認したんですよ。
まあ、こういうことを書くと僕のことを天から落ちてきたエンジェルだと本気で信じていてpatoさんはウンコなんてしない!って幻想を狂信している女性読者の方は卒倒・・・ってそんな人いないですよね、普通に書きます。いやね、アナルモジャモジャだったわ。モジャモジャ、モジャモジャ、超モジャモジャ、略してアナモジャ。まるで密林の如くビッシリと茂ってるんすよ。密林ですよ、アマゾンですよ、amazon.co.jpっすよ。
うわーやっちゃったなー、そう思いましたね。いくらなんでもこんな海の端っこみたいな汚いアナルをペロリするのは大塚愛さんといえども難しいはず。どうしたものかどうしたものか。
新たに自分のアナル周辺が密林であったことを知ってしまった僕はそれだけで終わりません。知るだけで終わることが愚かなことだと分かってます。その先の考えるに突入しなければならないのです。
「うわービッシリだ、いくら愛でもこれは無理だよ」
「ダメかな?アナモジャだめかな?」
「愛の愛を持ってしてもダメね」
ダメだ!微妙に上手いこと言われて拒絶されてしまう。
もう剃ろう。剃ってしまおう。
ホント、朝方って人を狂わせますよね。僕の性格からいって思い立った時にやらないといつまでもアナモジャ、大塚愛さんが驚くことになりますので人として礼儀として剃らねばならないのです。
カミソリは、ある。僕は面倒なので最近はいつも職場でヒゲを剃るので立派なT字カミソリがある。時間は、ある。5時45分、約束の6時まで充分だ。いける、いくしかない。いける、やれるはずだ。
とりあえず、剃ってる現場を目撃されたら末代までの恥、というか末代の存在すら許されない状況になるのは明白。最悪の事態を回避するために職場のドア鍵を堅牢に閉めます。っていうか、アナル観察してる時に鍵閉めろよな。
シェービングクリームみたいなのもあったんですけど、そんなのアナル周辺に塗ったら別のプレイみたいなのでやめておきました。完全に素で剃ることを決意。鋭利なT字カミソリをアナルに近づけます。
いやね、やってみたことある人なら分かると思うけど、これが結構難しいんですよ。T字カミソリって読んで字のごとくT字じゃないですか。でまあ、お尻って谷みたいな構造になってますよね。これがもう、とにかく剃りにくい。T字の部分が谷間に入っていかんのですよ。とにかくこのままでは大塚愛さんがビックリしてしまうので何とか強引に谷間を広げて刃を谷間へ・・・。もう下半身裸で片足椅子に乗っけた状態ですよ。親が見たら一瞬で天涯孤独にされかねない体勢ですよ。とにかく・・・なんとかして・・・剃らないと・・・。
ズシャアアアアアアアア
アナル切れたー!いやいやいやいやいや、正確にはアナルの横の婆さんの肌みたいになってる部分ですけど、アナルから見て3時の方向にザッシュリと切り傷が。男性の方なら分かると思いますけど、カミソリで切った傷って物凄い血が出るんですよね。ひいいいいいい、ポタポタ血が出てるー!血がしたたたたたたたたってるー!
コンコン!
そこにドアをノックする音ですよ。あまりに狼狽した僕は
「誰だ!」
「○○です」(ヒョロッ子)
「何しにきた!」
「いや、今日の準備に・・・」
自分で呼んどいて誰だ何しに来たもないんですけど、とにかくこの現場だけは隠滅しなければなりません。出血を何とかしないといけないのでティッシュを棒状にして尻の谷間に押し込み、神々の如き素早さでズボンをはく、そしてカミソリの処理と、床に滴った血を掃除、同時に床に落ちたモジャ毛も処理します。
「おはよう。さあやろうか」
ドアを開けて、まるでアナルなんか剃ってなかったっていうサワヤカ顔で彼を招き入れます。で、二人でPCの前に座ってプレゼンの準備ですよ。
「言ったろ、知るだけじゃダメなんだ。この知った資料をどう活かすかが大切なわけだ。考えるんだ。」
って凄い男前の、カクテル飲む時みたいな顔で言ってるんですけど、尻からはドクッドクッって心臓の鼓動に同調して血が出てるのが分かるんですよ。
「だから、この資料を丸でポイッて渡されても困るだろ。誰も読まないよ。自分なりに何が読み取れるかまとめて解説すればいい。都合の良いとこだけつまみ食いでいいんだよ」
ってすごい男前の顔で、娘さんをくださいって言う時みたいな顔して言ってるんですけど、尻のほうは臨界点。谷間に詰めたティッシュでは吸いきれないくらい血が出てるのが分かるんですよ。クソッ、ナプキンが欲しい。
結局、なんとかプレゼン資料の方も目処がつきましてね、発表時間までには間に合いそうな様子。安心したヒョロッ子が言うんですよ。
「ほんとありがとうございました。patoさんが先輩で俺、俺、よかったっすよ!マジ尊敬してます!」
フフフフフ、その尊敬する先輩は今まさにアナルから血を出してるけどな。それもかなりの量をな!
「じゃあ自分の持ち場に戻るから」
椅子から立ち上がるとティッシュに吸収されなかった血が椅子に染み出してそうで、それを見たヒョロッ子はその血液の理由を知ろうとするに違いない。そして心を入れ替えた彼は知った先を考えるだろう。何故そうなったかを考えるだろう。そうなってしまっては先輩の尊厳台無し。アナルっ子などと呼ばれて石を投げつけられるかもしれない。
椅子についた車輪を利用して滑るように部屋から出て行こうとする僕。
「椅子のままいくんですか!?」
「その理由は知らなくていい」
颯爽と長い長い廊下を朝日を浴びて椅子のまま滑る僕、出勤してきた多くの人とすれ違って怪訝な目で見られたけど、その理由を知るものはいない。知られてはいけない。
多くの「知る」は「考える」ことを停止させる。しかし、いくら「知る」が沢山あろうとも、「考える」に至らないそれは何の意味もない。
「知識」という言葉を国語辞典で引いてみると「知ること。認識・理解すること」としっかり書かれている。知っただけでは知識に成り得ないのだ、知って考えて理解してこそ初めて知識になる。雑多な情報に触れて知っただけで知識が増えたような顔をするのは大間違いなのだ。
情報過多なこの時代、僕らは「知る」ことに対してあまりに無防備すぎる。そして、僕らの「尻」もあまりに無防備すぎる。ちょっと剃っただけで切れるなんて。