越境してきたガザ住民の群衆で埋め尽くされたエジプト側のラファの通り=前田英司撮影 |
【ラファ(ガザ地区南部)前田英司】パレスチナ自治区ガザ地区南部の町ラファで、エジプトとの境界にあった高さ数メートルの壁が一夜にして姿を消した。23日朝から続々と押し寄せてはエジプト側へ越境する住民たちが持ち帰るのは、経済封鎖下のガザ地区では入手困難な燃料や食糧などだ。牛やラクダを連れ帰る住民も。「きょう『封鎖』が破られた!」。そう叫ぶ住民の興奮は、制裁下でうっ積した不満の爆発でもある。
境界にはかつて、イスラエルが建設した壁が距離約3キロにわたって立ちはだかっていた。23日朝には、このうち1キロ以上に及ぶ鉄製の壁が地面から80センチほどの高さで切断され、倒壊した。地元住民によると、昨年6月のイスラム原理主義組織ハマスによるガザ地区制圧後、数カ月間かけて壁に亀裂が入れられ、23日未明に爆発物が仕掛けられたという。コンクリート壁も一部がブルドーザーなどで破壊された。
事実上の「無国境」状態だ。境界を管理するハマスの警官は「薬物やアルコール、武器さえ持ち込まなければ何も問題はない」と話す。エジプト側の警備兵も「経済封鎖に苦しむパレスチナ人に対する手助けだ」と住民の越境を黙認していた。
ガザ地区南部ハンユニスのパレスチナ自治政府職員、アガさん(25)は、越境して車のディーゼル燃料を約25リットル買い込んできた。「これからもう一度行ってチーズ、服、靴など必要な品をすべて買いそろえてくる」ときびすを返した。
ラファに住む5児の母サバさん(48)は、地元では価格が高騰している洗剤を半額で購入できたと笑顔を見せる。境界付近では、たばこやディーゼル燃料を大量に買い付けてきた人が「即席市」を開き、商売を始める姿も見受けられた。
記者はガザ住民に紛れてエジプト側に越境した。通りは、大挙して押しかけた住民で埋め尽くされ、街頭で通貨の両替を始めるエジプト人商人もいる。医薬品を買い込む人、テレビを買って担いで戻っていく人。中には、ハマスのガザ制圧に伴う境界封鎖で半年近くエジジプト側で足止めされ、ようやくガザに帰ってきた男性もいた。
エジプト側の雑貨店主は「おかげで商売は絶好調だ。この際、どんな通貨でも受け取るよ」と話していた。
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