正平調
2008/01/23
年に十三万便近い航空機が発着する大阪空港。そのすぐ北西にある集落が、間もなく姿を消す。伊丹市の中村地区だ◆住民の八割が在日韓国・朝鮮人である。三ヘクタール余りの地区の大半は国有の空港用地などで、国はここを「不法占拠」とみなしてきた。しかし二〇〇二年に、住民への移転補償を決め、隣接地に市営住宅が建てられた。五十世帯が昨年入居し、残る四十五世帯への鍵渡しが先ごろあった◆地区の歴史は戦前にさかのぼる。軍用化へ向け飛行場を拡張する工事で、千人の労働者が朝鮮半島から集められた。むしろ敷きの簡易宿舎に住み、猪名川の砂利をトロッコやもっこで運んだ。そんな過酷な生活や作業の証言は多い。同じ戦中の空港建設で朝鮮人が住むようになった京都・ウトロ地区の歩みとも重なる◆中村地区は戦後、残った人に加え、住む場所や仕事を求める人々が移ってきた。民家が軒を連ねており、火が出ると瞬く間に燃え広がった。国は焼け跡を囲って建築を差し止めたが、住民はこっそりと建て替えたそうだ。しかし、「不法」のため下水道は今も未整備のまま。もちろん騒音対策の対象にもならなかった◆「地区の歴史を残すため、せめて碑でも」。住民からそんな声を聞いた。移転にこぎ着けた安(あん)堵(ど)、地区への愛着、在日コリアンを生んだ歴史的な背景、「不法占拠」とされてきた悔しさ…。さまざまな思いが込められた一言だろう◆中村地区の跡地は、あと二カ月で更地になる。ここに刻まれた思いと歴史は、しっかり心にとどめたい。
正平調
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