神秘と謎―。岡山市デジタルミュージアム(同市駅元町)で開かれている「インカ・マヤ・アステカ展」(三月十六日まで)は、そんな言葉がよく当てはまる。現在のグアテマラ、メキシコ、ペルーといった中南米の古代都市遺跡などから出土した展示物は、副題の通り「失われた文明」の一端を物語っている。
ただ、歴史を知らなくても見応えは十分。クジラをデフォルメしたそのセンスに脱帽してしまう千五百年以上前のインカの壺(つぼ)、ラテンアメリカの音楽に乗って踊っているようにも見える五百年以上前の等身大「ワシの戦士像」(アステカ)―と、現代のわれわれから見ればユニークな創造力、造形性に目を奪われる。
さらに驚かされるのは、高度な建築技術や暦を基に農耕社会を築いた一方で、自然を神として信仰した故にいけにえといった独自の風習もあった点である。これらの文明は十五世紀に入り、ヨーロッパ人に滅ぼされ、多くの遺産が失われた。
大航海時代のヨーロッパには銀はあったが金がなかったため、コロンブスらが西を目指したという。ラテンアメリカ歴史研究の第一人者、増田義郎氏は「中南米大陸の不幸は富を求めた西洋の人たちによって、素晴らしい文化が滅んでしまったことだ」と指摘する。
今は失われた時に思いをはせ、歴史のロマンに浸るしかないが、それが文化財の楽しみ方の醍醐味(だいごみ)でもある。そしてもう一つ。歴史の事実と真摯(しんし)に向かい合い、こうした悲劇を繰り返さぬよう受け止めることも、現代文明を享受するわれわれの責務だと思う。
(文化家庭部・金居幹雄)