マルチメディア英語教育教材の利用方法の研究
 
A Study of How to Use Multimedia English Teaching Material
 
林 正雄
Masao HAYASHI
 
(平成11年10月4日受理)




 

はじめに

 マルチメディア教材とは、文字情報や音声、画像、動画、ビデオをくみあわせた教材を意味している。視覚と聴覚の情報を同時に利用するマルチメディア教材は、現実の英語使用環境に近づくと同時に、現実の英語事象とは異なった仮想現実である。その利用方法については教育現場からのフィードバックを参考にしながら確立してゆく必要がある。本稿ではテレビ番組の中で扱われている英語によるインタビュー番組、ルポルタージュ、及びポップス、名曲アルバムなど音楽を含んだ英語教材など身近なマルチメディア教材を用いてどのような共通英語の授業構成が可能であるか考察した。
 
      Multimedia teaching material contains printed texts, voices, still pictures,
    moving images, video materials and so on.  Making use of audio-visual
    information, multimedia material creates a virtual context. When we use
    this kind of material, we should pay careful attention to the feed back from the
    actual educational setting.
 This paper is a study on how to use multimedia material such as TV interview program in English, TV reportage containing English conversation, 'Famous Music Album,' a TV program containing classical music, and pop song lyrics.
 

§1. インタビュー番組を用いた例

 下のスクリプトはギタリストのジョン・ウィリアムズのインタビューの(「ステージドア」、1999.1.17、日曜日、NHK教育テレビ)一部を書き出したものである。自然な会話においては、繰り返し、言いよどみ、文法的破格、訂正、追加陳述などが頻発している。校正書きの入った原稿を読むようなもので、通常の会話においては、聞き手がそれを整合して理解している。自分自身の感懐とか、思索内容について回想しながら語る場合においては特に言いよどんだり言い直したりすることが多い。したがって、ここではいかに正確に聞き取れるかと言うことと同時に、いかに文脈をとっていくかということが重要な作業となってゆく。
 
 
1−1.この教材の導入方法
  以下の手順に従って、内容理解を深める。
1.  ビデオ一斉放映(各ブースで音声録音)
2.  各ブースにおける個別的な聞き取り
3.  要点作成(日本語または英語で要約発表)
4.  聞き取り−書き取り
5.  英問作成(内容理解を深めるためにペアによる英問英答)

1−2.インタビューのトランスクリプトおよびその大意

(1) When I was with some friends in the group ‘Sky,’ for the guitar world, the
 amateur guitarists, the professional guitarists, there was some criticism. But if
 you are living your life, what you believe in and what you enjoy, what can you do?
 You continue to do it ...  It's natural to continue.  You know, I have an idea.
 It applies in music, in society, in politics, and everything.  The people who are
 opened to new thingswho want to see things develop and improve, improve with
 communication and, you know, with their hearts to communicate, to enjoy other
 people.  But many people are conservative and they're frightened, they're a
 little fear . . . , they have fear, and they find it very difficult to accept
 change.  It's in politics, but it's also in art and music.  And I think you know if
 you continue to do what you wantpeople in time, people will come to understand, they will understand it.  And those that don't.  Well it's bad luck.  It's their
 loss.
 (クラッシック・ギターリストとしてのジョン・ウィリアムズ氏がスカイというロックグループと共演したときに周囲から批判の声がわき起こったという。そのことに関して氏は次のように説明している。
 人は自分が正しいと信じ楽しいと思えることを続けるべきで、新しいことに心を開きいろいろな人との交わりを楽しむべきなのだ。それなのに、人々は変化を恐れ、保守的になってしまう。しかし自分の好きなことを続けていると、やがて人々も理解してくれるときがやってくるものだ)。
 (2)Yes, I think I agree.  You're right.  I would say even more.  What I'm going
to say is not possible, but there should not be any CDs.  For the good of people,
for the happiness for society there should be no recordings.  It's not good for our
professions, I agree, but it would be better because many musicians not only
guitarists obviously but on all instruments, they hear a perfect example always,
they put CD.  And they aren't (are) discouraged.  They are . . . .  They feel it's
not worth . . . .  that their playing is not so good.  But it is.  You know,
everyone's playing what they want to express, what they want to communicate to a
friend or to a family.  It's important.  But many people then don't play, because
they think "Oh it's not so good as Shin-ichi Fukuda or John Williams.  It's not as
good as they play on record or CD.  But really you know it's awful for us to know
that someone doesn't fit the nicest thing, I think. And you must have to say is
when someone comes after one of your concerts, they come round and they say, "It was wonderful I wanted to go home and
practice immediately."  It's great, isn't it? 
When someone says they're inspired into play.  When people come round and they say,
"Oh it was great and it was wonderful, I'm never going to play again because I can't
play like you do.  That's depressing.  That's awful.
 (音質の劣化が少なくきわめて質の高い音楽を身近なものとしたコンパクト・ディスクについての会話である。CDが一般的に用いられるようになって音質が飛躍的に高くなったのは結構なことではあるが、あまりにも高度のテクニックが簡便に聞けるようになって、自分自身で演奏を楽しむことが少なくなってきたという)。
 
1−3.Communicative Language Teaching (CLT)教材としてのインタビュー英語
 このインタビューの英語を書き取りながら気づくことであるが、ネイティブスピーカーであるかないかに関わらず、自分の意見を考えながら述べるときに、言い直しや、言いよどみが非常に多いと言うことである。それにも関わらず、聞き手が不快感を覚えたり、苛立ちを感じることはない。
 言い違えや言い直しを含んだ発話こそが現実に存在する発話形式であるが、英語教材として使用されているテープやビデオの英語で、言い直しを含んでいるものはない。端正に整備されすぎてかえって不自然であり、これをモデルとすることは学習者に過重な緊張を強いることになる。つっかえたり、言い直しながら、乱雑に述べられた発話は、聞き手が再統合して理解する現実の発話・理解のモデルであり、聞き手はリラックスして対話を続けることができる。Communicative Language Teaching (CLT)では言語表現に於いて、あまりに正確さを求めるあまり、発話者がコミュニケーションを行おうとする意欲や自信を喪失させてしまうことを問題にしている。Accuracyよりfluencyを優先させようというのである。[i]現実の英語事象としては、言い換えたり言い直したりする発話が頻繁に登場するにも関わらず、言い直しをする英語会話教材は見あたらない。インタビュー番組やルポルタージュ番組の英語教材としての適切さはこの点からも裏付けることができる。
 

§2. 音楽番組を用いた例−名曲アルバムを用いた英文構成練習方法 

  クラシック音楽には精神を鎮静化する働きをもつものが少なくない。サジェストペディア(暗示加速学習法)ではコンサート・セッションにおいて、古典音楽や初期ロマンのゆったりしたテンポの音楽が用いられる。これは学習者がリラックスすることを目的としたものであり、情緒的に解放された状態で、精神的エネルギーを浪費することなく、知的・創造的活動が可能になるとする仮説に立つ外国語学習法である。リラックスした状態の時に脳波として現れる「α波」は長期記憶に有効で、学習効果が上がるという。[ii]本稿ではこれにヒントを得て、より簡便な形態で、クラシック音楽を取り入れた英語表現力養成方法を考察してみた。音楽は人の心に直接働きかけて、心を動かすことができるメディアであり、喚情言語としての文学作品と一部目的を共有している。
2−1. 作業内容
 このビデオソフト[iii]は音楽に合わせて作曲家にゆかりの深い英国の自然や人々の生活が映し出され、その説明がテロップで流される。そのテロップを英語で翻訳表現する作業である。
学生の能力に応じて次のような段階別作業に分かれる。
@テロップをあらかじめプリントして配布する。
Aプリントを用いず、ビデオを一時停止して一文ずつ英語にする。
B同時通訳してゆく。
C注の大意を英訳、和訳して説明する。
 英訳作業にはいる前に、余り細部にこだわらず、大意を伝えればよいといった緩やかな条件を提示することが必要である。
 

2−2.愛のあいさつ  エルガー作曲 

イギリス中央部の古都ウースター。
セバーン川に沿った美しい町である。
街にはチューダー王朝期のたたずまいを今でも見ることができる。
ここはウースター・ソースの発祥の地としても知られている。
17世紀の内乱では人々は国王側につき最後までクロムウェルの軍隊と戦った。
ウースターは歴史を感じさせる街である。
ウースター郊外の村ブロードヒ−ス。
作曲家エルガーの故郷である。
エルガーは1857年この村で生まれ、ウースターで76歳の生涯を終えた。
その生家は現在記念館として残っている。
エルガーは多くの名曲を残し、国民的な作曲家として
暖かい支持を得た。
彼の作品は夫人の熱意と愛情から生まれてものである。
フランス語のタイトルを持つ小品「愛のあいさつ」は
良き伴侶であった夫人キャロラインにささげられた。
うるわしい夫婦愛をはぐくんだこの村は
今も名曲とともに生き続けている。
(注)
たたずまい:(an) appearance; (a) shape.
発祥地: the birthplace of
生家:the house where one was born; one’s (parents’) home.
ささげる:Dedicated to (本書を)…にささぐ.
麗しい:beautiful; lovely; charming;
記念館: a memorial hall.
ねつい 熱意:enthusiasm; zeal
夫婦仲よく暮らす: have a happy married life
 
 

2−3.英訳例

‘Salut d'Amour’
Worcester is an ancient town located in the middle of England.
It' s a beautiful town along the River Severn.
Even today we can see the appearances of the Tudor Era.
It is also known as the birth place of Worcester sauce.
During the Civil War in the 17th century, people of the town stood for
   the king and fought against the army of Cromwell to the end.
Worcester is a town with a sense of history.
Braodheath is in the suburbs of Worcester.
It's the hometown of Elgar.
Elgar was born in this village in 1857 and died in Worcester at
   the age of 76.
The house where he was born remains today as a memorial hall.
Elgar composed considerable pieces of famous music and gained warm
   recognition as a national composer.
His music was produced with the aid of his wife’s enthusiasm and affection. 
‘Salut d'Amour’ titled in French is a short lovely piece
   dedicated to his wife Caroline.
This village inspired their happy marriage and is remembered
   through this excellent piece of music.
 

2−4.各種CD−ROM資料を利用した注

 テロップの内容として、その曲が生まれた土地の解説や歴史的背景が語られているのであるが、その説明内容に指示される固有名詞をキーワードにして参考文献を容易に例示することができる。出典は、エンカルタ98、平凡社百科事典、小学館百科事典、ブリタニカ百科事典などがある。これらはきわめて利用しやすいCD-ROM形式の参考資料であり、次にその引用文を例示する。
 

2−4−1. Worcester

 イギリスのイングランド西部、ヘリフォード・ウースター州の州都。セバーン川沿いに位置する。周辺の農産物取引や革手袋製造の中心地である。良質のウースター磁器とウースター・ソースでも有名。人口は89500(1994年推計)。ウースター大聖堂は、そのほとんどが1213世紀にたてられたが、最古の部分は11世紀に司教ウルフスタンによって建設された。古い教区教会や1718世紀の半木造の家が現在も多くみられる。キングス・スクールが1541年に、王立グラマー・スクールが61年に設置された。ウェールズとの国境に近く戦略的に重要な地だったため、くりかえし攻撃をうけた。ピューリタン革命の際には国王軍がここに本拠をおいたが、1642年と46年の2度にわたって議会軍に包囲された。51年のウースターの戦では議会軍がクロムウェルの指揮のもとにチャールズ2世の軍をやぶり、この地で最終的な勝利をおさめた。[iv]

2−4−2.エルガー Edward William Elgar 18571934 

 イギリスの作曲家。ウースター近郊生まれ。いくつかの音楽の仕事をへて、1885年父の後をついでウースターのセント・ジョージ・ローマ・カトリック教会のオルガン奏者となった。89年に結婚。それを機にオルガン奏者をやめ、以後、作曲に専念する。
 1890年に序曲「フロワサール」でみとめられ、99年にハンガリーの指揮者リヒターのロンドン公演で「創作主題による変奏曲」が演奏されて有名になった。この曲は、主要主題がぼんやりとしているため、「謎(エニグマ)」という通称で知られるが、エルガーの作品中もっとも高く評価され、またしたしまれている。
 エルガーの名声はイギリスの司祭ジョン・ヘンリー・ニューマンの詩にもとづくオラトリオ「ゲロンティアスの夢」(1900)で不動のものとなる。後期ロマン主義を反映し、彼の作品は、ウィットと抒情(じょじょう)性、独特の形式を特徴としている。
 作品には、カンタータの「黒騎士」(1892)と「カラクタクス」(1898)、オラトリオの「使徒」(1902)と「神の国」(1906)、バイオリン協奏曲(1910)、チェロ協奏曲(1919)5曲の有名な行進曲「威風堂々」(19010730)などのほか、序曲「コケイン」(1901)、交響的習作「ファルスタッフ」(1913)、交響曲第1番変イ長調(1908)と第2番変ホ長調(1911)がある。1934223日、ウースターで交響曲第3番を作曲中に死去した。[v]
 

2−4−3.SIR EDWARD WILLIAM ELGAR

(b. June 2, 1857, Broadheath, Worcestershire, Eng.--d. Feb. 23, 1934, Worcester,
Worcestershire), English composer whose works in the orchestral idiom of late 19th-
century Romanticism--characterized by bold tunes, striking colour effects, and
mastery of large forms--stimulated a renaissance of English music.
  The son of an organist and music dealer, Elgar left school at age 15 and worked
briefly in a lawyer's office. He was an excellent violinist, played the bassoon, and
spent periods as a bandmaster and church organist. He had no formal training in
composition. After working in London (1889-91), he went to Malvern, Worcestershire,
and began to establish a reputation as a composer. He produced several large
choral works, notably the oratorio Lux Christi (1896; The Light of Life), before
composing in 1896 the popular Enigma Variations for orchestra.
 
The first English composer of international stature since Henry Purcell (1659-95),
Elgar liberated his country's music from its insularity. He left to younger
composers the rich harmonic resources of late Romanticism and stimulated the
subsequent national school of English music. His own idiom was cosmopolitan, yet
his interest in the oratorio is grounded in the English musical tradition.
Especially in England, Elgar is esteemed both for his own music and for his role
in heralding the 20th-century English musical renascence. [vi]
 
 
 

2―5.学生アンケート

 方法論改善のためには、実際実施した方法が学生にどのように受け止められているか、その反応を調査し授業方法を修正してゆく必要がある。学生アンケートの回答には次のような指摘があった。
 

2−5−1.メリット

@  クラシックを聴いてその曲ができた背景や、作曲家についての資料を英語で表現することにより、ふだんなかなか使うことのない単語を知ることができる。特殊な書き方や発音の仕方をする地名や固有名詞のスペリングについて学習できる。(例Worcester /wústir/ 
A  静かなクラシック音楽を聴くと気持ちが休まる。退屈な英語の授業が楽しくなって、眠気が消える。
B  歴史を感じさせる静かな町のたたずまいや、街角を通り過ぎる人々の落ち着いた表情が見るものの心を和ませてくれる。音楽も良いし、ナエレーションもいい。ナレーションを英語にすると、内容が良く理解できる。いつまでも覚えるているので、教養がついた気がする。
 

§3.ポップスを利用した英語レッスンの例 

 ローリング・ヒル、メアリー・J・ブライジなど、ポップスに対する学生の関心はきわめて強いものがある。ゆったりしたテンポのポップソングは音声を長く延ばすことが多くリスニング教材としての利用価値が高い。また、ポップソングの歌詞はリズムや押韻形式において詩的構造を取るものが少なくないので、文学教材として用いることができる。ここでは英詩の導入教材として利用する方法を考察する。
 

3−1.‘Looking in’の場合

 1995年に発売されたアルバム 'Daydream'の最後に収録されている 'Looking in'は、他のほとんどの恋愛感情を綴った歌とは違って、テーマの上からも一風変わった歌となっている.スローなテンポのメロディーで切々と胸に迫る歌は、マライア自身の歌手としての苦悩を訴えかけているように聞こえる。 [vii]
 
Looking in
 
  @SONG: Looking In, @LYRICS: M. Carey , @MUSIC: M. Carey, W. Afanasieff
 
You look at me and see the girl
Who lives inside the golden world
But don't believe
That's all there is to see
You'll never know the real me            5
 
She smiles through a thousand tears
And harbours adolescent fears
She dreams of all
That she can never be
She wades in insecurity               10
And hides herself inside of me
 
Don't say she takes it all for granted
I'm well aware of all I have
Don't think that I am disenchanted
Please understand                  15
 
It seems as though I've always been
Somebody outside looking in
Well, here I am for all of them to bleed
But they can't take my heart from me
And they can't bring me to my knees         20
They'll never know the real me
 

l.2. golden : radient, destined for success
l.6. smile through:涙を流しながら微笑む。
l.7. harbour : to hold esp. persistently in the mind
l.10. wade : make ones's way through difficulties
l.12. take it for granted : cease to appreciate through familiarity. (ありがた味を忘れて)_…_当たり前のもの[当然なこと]と考える,特に注意を払う必要のない人[もの]とみなす._He takes for ed all that I do for him. 彼は私が彼のためにしてやることをすべて当然なことだと思っている._She takes her husband for ed. 彼女は自分の主人を特別気を使う必要のない人だと思っている.
l.14. disenchanted : free from enchantment or illusion, to be let down.「幻滅している」
l.18. bleed : 〈人が〉(…のために)心[胸]を痛める《 for... ;〈心が〉(…に接して)血の出る思いをする《 at... v.t. draw blood from. 「彼らは私から生気を奪って行く」.瀉血のメタファーが用いられている.舞台に立つ度に彼女はぼろぼろになって行く.命がけの公演であることが暗示されている.
l.20. bring a person to his knees : force a person into submission or compliance
 
 
 
 

3−2.質問

(1)この歌は、舞台の上のわたしとその姿を外側から眺めるわたしとの分離状態を歌にしたものです。 The girl(1行目)と対比されている存在を表す言葉を第1連から選びなさい。
(2)golden world(2行目)とはどのような世界だと思いますか。
(3)611行にかけての内容は、誰が誰について観察したものですか.
(4)6行目の she が指示する名詞を記しなさい
(5)7行目の adolescent fears とはどのようなことだと思いますか。
(6)この歌詞の押印形式は不完全ながら、かえって面白いものなっている.そのような押 印形式について説明しなさい.
(7)この歌の主題を説明しなさい.
 

3−3.回答例

(1)この歌は、舞台の上のわたしとその姿を外側から眺めるわたしとの分離状態を歌にしたものです。 The girl(1行目)と対比されている存在を表す言葉を第1連から選びなさい。 (◎は回答例)  ◎The real me.
(2)golden world(l.2) とはどのような世界だと思いますか。
 ◎活気に輝く世界.具体的には芸能の世界とも考えられる.
(3)611行にかけての内容は、誰が誰について観察したものですか.  
 ◎the real me the girl の内面世界について語っている.
(4)6行目の she が指示する名詞を記しなさい。
 ◎the girl
(5)7行目の adolescent fears とはどのようなことだと思いますか。
 ◎青春期に特有の将来に対する漠然とした不安感や恐れ
(6)この歌詞の押印形式は不完全ながら、かえって面白いものなっている.そのような押印形式について説明しなさい.  
  girl-world, tears-fears, granted-chanted, been-in
(7)この歌の主題を説明しなさい.
 ◎舞台が跳ねた後で一人に戻ったときの寂しさを噛みしめている.
 ◎私には、ステージで見る「私」とはかけ離れた、「本当の私」がいる.本当の私は 華やかな芸能の世界から常に遊離して、部外者として冷静に芸能の世界を覗き込んで いる.
 

3−4.設問作成 

設問作成の作業は、試作品の深い理解を前提としている.学生が設問に答えるばか りではなく、立場を逆転して、設問作成の作業を行うことによって、作品の主旨を読 みとろうとする意欲を引き出すことができる.次に掲げる応答は、学生自身が作成し た設問とその回答である.
 
(1)あなたはこの歌のどこが一番気に入りましたか.
Don't say she takes it all for granted
I'm well aware of all I have
(この一節は次のような解釈ができると思う。 舞台の上の「彼女は」自分の仕事を苦もなくこなしているようではあるが、それが自分に与えられた能力の限界まで出しきって、ぎりぎりのところで活動していることは 、他ならぬ私にはよく分かっている)。
(2)「私」は今どのような状況にいると考えられますか.
 世の中を渡るきびしさを痛いほど感じながら、明るさをよそおいながら強く生きていくことを決意している。
(3)16行目の I をテキスト中の他の語句で置き換えるとすればなにが適当ですか。
 the real me
 

§4.ルポルタージュを用いた例1――「沈黙の春」

 ルポルタージュュ番組は時事的に最も関心が寄せられているトピックが特集されているので、学生の関心も強く、社会科学的内容も盛り込むことができる。教材は、平成10年の年度末にPerfect TVNNN24で放映されたルポルタージュである。

4−1.作業内容

(1)番組の中で語られる英文音声を書き取る。
(2)環境ホルモンの番組をビデオで見て、その要点を英語で表現する。
(3)立花隆の講演集ホームページとの関連づけ。
   http://www.iijnet.or.jp/wgendai/TACHIBANA0/KOUEN971101.html
(4)英字新聞を併用して時事英語の表現を学ぶ 
   ホルモン攪乱物質(hormone disrupting substances),
   環境ホルモン(environmental estrogen),
   拡散された汚染物質(Widespread pollutants)
 

4−2.英文音声書き取り、及びナレーションの英訳例

 (1) 次のパッセージは、殺虫剤の毒性についてのレイチェル・カーソンの警告が根拠のないものだと言明する薬品製造会社の研究員の英語書き取り例:
“Silence of Spring” has been called the most controversial book of the year.  The major claims in Miss Rachel Carson’s book, “Silence of Spring”, are gross distortion of the actual facts completely unsupported by scientific experimental evidence.
テロップ:
「沈黙の春」は大きな反響を呼んでいます。レイチェル・カーソンが書いた「沈黙の春」は科学的根拠がなく事実をねじまげています。
レイチェル・カーソンの反論:
First I hope this committee will give serious consideration to a much neglected
problem, that of the right of the citizen to be secure in his own home against the
intrusion of poisons applied by other persons . . . .
ナレーション英訳例:
レイチェル・カーソンは執筆に当たり、数百通の手紙を専門家に送り世界中から論文を取り寄せた。科学的裏付けがあったのだ。
(Rachel Carson wrote several hundreds of letters to the experts to get their technical thesis.  She was actually supported by the scientific evidence.)
 
 このように、ある文脈の中でナレーションを英訳するとき、前後の脈絡なしにその文を単独で英訳するのとは大きな違いが生まれる。科学的根拠がないといって非難した科学者こそが事実を歪曲していたのであり、レイチェル・カーソンには科学的裏付けがあった。理不尽な科学者に対する義憤を感じながらの翻訳は、学生にとっても強い動機付けとなる。
 
(2) ナレーションの英訳例
レイチェル・カーソンは、小さな虫の命も大切にする子供だった。蝶や鳥、読書が大好きで、大学では生物学を学んだ、このころ彼女が環境に興味を持つきっかけとなる出来事があった。その秘密は彼女が生まれ育った家に隠されていた。階段を上ったすぐ横に生前彼女が過ごした部屋がある。窓の向こうに見える景色。子供の頃にみた空が、日に日に灰色に濁り、大学生の頃にはついに山が見えなくなった。これが環境問題に取り組むきっかけとなった。
 
In her childhood, she liked small insects. She was fond of butterflies, birds and
reading.  At college she studied biology.  In those days she had an experience that
caused her to pay attention to the environment. It happened in the house where she
was born and raised up.  Beside the top landing of the stairs was her room that
commands a view of the landscape through the window.  The clear sky in her childhood
became smoggy day by day, till she could not see the mountain on the other side. 
It led her to work on environmental problems.
 

§5. ルポルタージュを用いた例2―「我が心の旅」イギリス:嵐が丘の風に誘われてー

 この番組は、旧小和田国連大使が若干22歳の時、新進気鋭の外交官の卵として初めて英国に留学したときの模様を綴った回顧録である。[viii]一人の謹厳な紳士の半生が時間的経過と共に映像で映し出される。エディンバラの堅牢な石造りの街並み、雨に濡れた石畳、ケンブリッジ大学の学寮風景、ケム川の流れ、ハワースの古めかしい街角、ヒースに覆われた荒涼とした荒野の遠景等々の映像は英国の文物について貴重な情報を提供するものであり、何度見ても飽きがこない。
 この「何度も見る」と言うことが、実は映像を教材として用いる場合、留意しなければならないことである。一般に映像メディアは情報量が多すぎてしかも各フレームが動画として流れてゆくので、ほとんど記憶に残らない。これを見るものは一方的な受容に終わってしまいがちである。映像は所詮ブラウン管に映し出される視覚的世界であり、実体験が伴っていない。これを少しでも疑似体験化するためには、静止画像を活用して学習者の想像力を刺激することが必要になる。
 
 
 

5−1.作業内容

(1)   英語によるインタビュー部分の聞き取り
(2)日本語ナレーションの英訳
  ナレイターの音質、トーンの教材としての適性にも注意する。
(3) 静止画像の利用方法
   画像を静止させて、その画像について英語で何らかのコメントをする。
(例:ケンブリッジの学寮風景、ケム川、中庭、図書館など)
   パターン化された英文の機械的な繰り返しによるレッスンではなくて、
  simultaneousな反応の訓練を目的とする。
 

5−2.英語によるインタビュー部分の聞き取り

 次に掲げる英文は、ケンブリッジ大学時代に小和田氏が師事した国際法の恩師との再会の場面の英文を書き取ったものである。恩師との出会いは心温まるものであり、初めての留学生活を始めた頃の苦労話が語られる。流暢な英語を話す日本人の英語の聞き取りであり、ネイティブにも聞き取れないところもある。下に書き取った英文を掲げたが、学生はあまり細かな部分にこだわらずに大意を聞き取るように指導する。このような英文は、post-reading activity として consolidation を目的として利用すればよい。
 
Owada: Hi! Professor Jennings.  So good to see you.   
Jennings: Nice to see you. I remember you so well.  In a day like this ..., everyday
you worked away, didn't you?  And in those days it must have been quite cold
sometimes, because there's no central heating and you're just supposed to
, so you didn't feel cold.
Owada: Here of course it's all based on case law and positive approach on
international law, whereas in Japan what I learnt at the University was very
conceptual, abstract, and principles and no authorities to substantiate. The first
question he asked me when I brought an essay to him, just as I came,  it was a very
basic question like, 'what is a legal nature of the international laws or force?' 
And I produced a short essay and took to him.  And the first question he asked,
"Your statement here is accurate but what is your authority? And I didn't
understand the meaning of the word authority. 
Jennings: To a common lawyer, the first thing you need.
Owada: I was very diffident, because it was totally new environment and of course
English was not my language, and I had great difficulty. But one word that you gave
me after the examination gave encouragement tremendously. You said that you've done
very well. I have never expected that.
Jennings: Yes, well, I'm going to (remember) I did do that. Because I've always
been..., most of my career I was a teacher, and it's quite clear that the secrete
of good teaching is encouragement.  It's very, very important, because everybody
has something.

5−3.日本語ナレーションの英訳

 次に小和田氏が、外交官生活を回想しながら原稿の用意なしに外交術の要諦を語った箇所と、番組構成の主軸をなすナレーションがある。前者は口語的な生の回想談であり未整理の生命感を持ち、後者は整理された端正な日本語が使われている。学生は翻訳作業に当たることにより初めて、日本語の多様さと質の違いについて実感として識別することができる。
 
小和田:
〔外交交渉には〕戦略と戦術と両方必要だと思います。その意味では、戦いの手段は基本的に違いますけれども、戦争と非常に似たところがあるといえると思います。戦争はいざとなったらぶん殴ることによって問題を解決するということができるわけです。外交にはそれが許されない。従って、結局、相手に対してなるほど、お前のいってることはもっともだと、なるほどそういうことであれば自分たちもそのことは確かに考えなければいけないなと思わせることによって、解決点を見いだしてゆくということですから非常に人間的な関係であり、葛藤であるけれどもその葛藤は、相手に対する説得力というものを通じて和解点を見つけなければならない。
 
We need both strategy and tactics (for diplomatic negotiation). In that sense, it
may be similar to war, though the means of fighting is basically different.  In war
one can solve problems by beating, but foreign negotiations do not allow it.  They
only aim to solve problems by making people notice of their own misunderstandings
and reconsider their policy.  So they are based on humane relation, and contain
emotional conflicts that must be reconciled through persuasion.
 
ナレーター:
ある国の国民性を知るには、その国の小説を読むことが欠かせない、というのが小和田さんの持論です。留学中に読んだ多くの作品の中には、高校生の時代から親しんだ小説もありました。エミリー・ブロンテの「嵐が丘」です。小和田さんは留学中、「嵐が丘」の舞台となったヨークシャー地方を訪れたいと願いながらも、その夢は果たせませんでした。
 
It's Mr. Owada's cherished opinion that to know a national character of a nation the
novels of the nation cannot be dispensed with. During his study abroad he read many
novels, and among them there was a novel he used to read in his high school days. It
was "Wuthering Heights" by Emily Bronte.  During his stay abroad Mr. Owada vainly
wished to visit Yorkshire where the scene of the novel is laid.
 
 
 
 
 
 

まとめ

 
 以上本稿では、日常生活の中で容易に入手できるマルチメディア教材を用いた英語教育の試みについて考察してきた。
 本稿で取り上げたマルチメディア教材は初心者向けに平易に作り直されてものではなく、各場面が母語話者にとっても全く違和感無く、啓発的で感動的な内容を持つものを選定した。これらの種々の場面で使用される英語内容は実際に使われているなまの英語であり、周囲の雑音、話者の言い間違え、言い直し、など現実の会話がそのまま教材内容の一部となっている。高校までに相当の英語力をつけてきた学生にとっては、できる限り現実の生の会話状況を教材としてとりあげ、そのような状況の中で使用可能な英語力を養成する必要がある。
 また本稿で取り上げた教材に見るように、今日の日本において、身の回りには本格的な英語運用能力を修得するための教材に不足することはない。不足しているのは、習得した英語運用能力を生活のために使用し続けなければならない必要性である。Situational context を伴わない「閉ざされた知識」としての教育内容は学習後間もなく忘れ去られてしまう。
 身の回りの英語教材は生活に密着していて、時流に即したテーマが取り上げられており、日常生活の一部として扱うことができる。単なる娯楽の対象としてしか見なされていないポップソングにしても、学習者自身が強い関心を持つもので、利用の仕方次第では英詩の導入教材として利用価値が高いものである。また、「我が心の旅」で小和田氏は、文学作品の持つ深層の価値について発言しておられるが、長い間第一線で外交活動を続けてこられた元外交官のたくまざる回想のことばだけに、印象深いものがある。このような新しい発見もまた、マルチメディア教材ならではのものである。
 以上身近に求めることのできるマルチメディア教材を中心として、その利用方法について考察を進めてきたが、この方法を参考にして学生自身が自分にふさわしい利用方法を編み出してゆけば、相当な学習効果が期待できる。なお本稿は、平成11年度科学研究費補助金[ix]に基づいて行なわれた研究成果の一部である。ここに記して謝意を表する次第である。

 


[1] Cf. Brumfit, C. J., and K. Johnson (eds.)  1979.The Communicative Approach to
 Language Teaching. O.U.P.
[1] Cf. Lozanov, Georgi and Evalina Gateva. 1988. The Foreign Language Teacher’s
 Suggestopedic Manual. Gordon and Breach Science Publishers.
[1] NHKソフトウェア、『NHK名曲アルバム/イギリス・北欧編』
[1] "ウースター" Microsoft(R) Encarta(R) 98 Encyclopedia.
[1] "エルガー,E.W." Microsoft(R) Encarta(R) 98 Encyclopedia.
[1] Edward Elgar, Copyright 1994-1998 Encyclopaedia Britannica.




[1]ポップスを利用した英語レッスンの例については、次の筆者のホームページを御参照いだきたい。(http://www.ipc.shizuoka.ac.jp/~ekmhaya/public_html)




[1] 「我が心の旅」(1999.7.10放映、NHK―BS2)
[1] 「マルチメディアを利用した英米文学の授業方法の研究」(課題番号10680262
 
 
 
 
第2部    
 
マルチメディア英語教育教材の利用方法の研究
目次
 
はじめに........................................................ 181
§. インタビュー番組を用いた例................................ 181
1−2.インタビューのトランスクリプトおよびその大意............................ 182
§. 音楽番組を用いた例−名曲アルバムを用いた英文構成練習方法.. 183
2−2.愛のあいさつ  エルガー作曲...................................................... 184
2−3.英訳例........................................................................................... 185
2−4.各種CD−ROM資料を利用した注................................................ 185
2−4−1. Worcester...................................................................... 185
2−4−2.エルガー Edward William Elgar 18571934............... 186
2−4−3.SIR EDWARD WILLIAM ELGAR............................................ 186
2―5.学生アンケート.............................................................................. 187
2−5−1.メリット................................................................................. 187
§3.ポップスを利用した英語レッスンの例......................... 187
3−1.‘Looking in’の場合................................................................... 187
3−2.質問.............................................................................................. 189
3−3.回答例........................................................................................... 190
3−4.設問作成........................................................................................ 190
§4.ルポルタージュを用いた例1――「沈黙の春」................. 191
4−1.作業内容......................................................................................... 191
4−2.英文音声書き取り、及びナレーションの英訳例............................... 191
§. ルポルタージュを用いた例2―「我が心の旅」イギリス:嵐が丘の風に誘われてー...................................................... 192
5−1.作業内容........................................................................................ 192
5−2.英語によるインタビュー部分の聞き取り......................................... 193
5−3.日本語ナレーションの英訳............................................................. 193
まとめ.......................................................... 195
 
 
 
 
 
 
(目次の頁数は静岡大学教育学部研究報告、教科教育学篇、第31号の抜き刷りに使われているものである。)
 








[i] Cf. Brumfit, C. J., and K. Johnson (eds.)  1979.The Communicative Approach to
 Language Teaching. O.U.P.

[ii] Cf. Lozanov, Georgi and Evalina Gateva. 1988. The Foreign Language Teachers
 Suggestopedic Manual. Gordon and Breach Science Publishers.

[iii] NHKソフトウェア、『NHK名曲アルバム/イギリス・北欧編』

[iv] "ウースター" Microsoft(R) Encarta(R) 98 Encyclopedia.

[v] "エルガー,E.W." Microsoft(R) Encarta(R) 98 Encyclopedia.

[vi] Edward Elgar, Copyright 1994-1998 Encyclopaedia Britannica.

[vii] ポップスを利用した英語レッスンの例については、次の筆者のホームページを御参照いだきたい。(http://www.ipc.shizuoka.ac.jp/~ekmhaya/public_html)

[viii] 「我が心の旅」(1999.7.10放映、NHK―BS2)

[ix] 「マルチメディアを利用した英米文学の授業方法の研究」(課題番号10680262)



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