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米国発「モノラインショック」 新たな不安呼ぶ

2008年01月22日

 米低所得者向け(サブプライム)住宅ローン問題で動揺が続く金融市場を、新たなショックが襲った。サブプライム関連の証券化商品の信用を支えた「モノライン」と呼ばれる金融保証専門の保険会社が格下げされ、他の証券化商品や米地方債市場などにも混乱が広がる恐れが出てきたためだ。

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モノラインショックの仕組み

 「モノラインショックだ」。日経平均が2年3カ月ぶりに1万3500円割れした21日、大手証券の担当者からは、こんな指摘が相次いだ。

 格付け会社のフィッチ・レーティングスは18日、米国で「4大モノライン」とされる大手の一つ「アンバック・アシュアランス」の格付けを最上位のトリプルAから2段階引き下げた。資本増強策の予定を取りやめたのが直接の理由だ。

 信用力が低いサブプライムローン関連の債権を集めた証券化商品が高い格付けを得ていたのは、借り手が払えなくなっても、モノライン保険が元利金の支払いを保証していたことが大きな理由だ。格付けの高いモノライン保険の保証が付くことで投資家の安心感が増し、証券化商品の売り買いを支えてきた。

 ところが、サブプライム関連の債務の不履行が増えて、モノライン保険が実際に支払わなければならない事例が増えると、まず中小のモノライン保険の信用力が低下。その流れが、大手にも波及してきた格好だ。

 他の格付け会社でもモノライン保険大手を格下げする動きが広がる可能性もあり、三菱UFJ証券の藤戸則弘・投資情報部長は「モノラインは『信用創造の大元』。格下げの影響は計り知れず、さらなる信用収縮を招く可能性も否定できない」と指摘する。

 モノライン保険は、もとは米国の州政府などが発行する地方債の保証からスタート。現在もそれが業務の中心だ。高格付けのモノライン保険の保証で地方債の格付けも上がり、自治体は低コストで地方債を発行できた。外資系保険会社関係者は「モノラインの影響が深刻化したら、地方債市場など米国の債券市場全体の問題になる」と話す。

 国内の損害保険会社にも影響は及びそうだ。損保ジャパンは11日、金融保証保険で3億ドル(340億円)の保険金を支払う可能性が生じたと発表。サブプライムローンを一部に含む証券化商品の保険を引き受けていたが、その格付けが想定以上に悪化。格付けが一定以上悪くなると清算できる条件だったため、支払うリスクが生じた。

 損保ジャパンは自ら保険を受ける「元受け」だが、他の国内大手損保では、米モノライン保険会社がいったん受けた保険のリスクを小分けにした再保険の形で受けている例もある。 金融庁の佐藤隆文長官は21日の会見で「(取引は)大手損保会社が主で、ヒアリングなどの結果では、それぞれの会社において十分にコントロール可能な範囲内」と指摘。国内金融機関への影響はそう大きくはないとの見方を崩さなかった。

 だが、国内金融機関は大量の国内株を持っており、モノラインショックによる株安の深刻化は無視できない。「日本の株式市場の低迷につながった時が最も警戒する必要がある」(金融庁幹部)との声も出ている。

 〈キーワード:モノライン〉 直訳すると「単一の事業」の意味。自動車や火災など様々な保険を扱う「マルチライン」に対し、金融商品の保証を専門に手がける保険会社をこう呼ぶ。自治体や金融機関、事業会社が、地方債や社債、住宅ローン債権をまとめた証券化商品などを発行するときにモノラインと契約。保証料を支払う代わりに、債務不履行に陥った場合には、モノラインが金融商品の購入者に元利金を払う。これまでは、債券発行元の格付けが低めの場合も、格付けの高いモノラインの保証を得れば低い金利といった好条件で債券を発行できる利点があった。

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