政府はきのう、犯罪被害者や遺族への新たな公的支援を検討する会議を開き、給付金大幅アップなどの具体策を決めた。二年前にできた基本計画に基づく。
殺人事件など凶悪な犯罪が多発しているだけに、いつ、誰が巻き込まれても不思議ではない。突然、経済的な窮迫に追い込まれる家庭もあるだろう。
金に困っての犯行も頻発している。加害者に賠償を請求しにくいケースも多いだけに、公費による救済策の拡充は時代の要請と言ってもいいのではないか。
今回の給付金の拡充策は、支給最高額を倍増させるなど思い切った内容が盛り込まれている。
現行では、遺族への給付限度額が千五百七十三万円、本人に障害が残った場合は最大で千八百四十九万円にとどまっている。
この金額をそれぞれ倍増させ、車の所有者に義務付けている自動車損害賠償責任(自賠責)保険の支払限度額(死亡三千万円、重度後遺障害四千万円)並みに近づけるという。最低額の引き上げも目指す。
財源については、加害者負担や罰金の特定財源化は難しいと判断。一般財源での対応を見込んでいる。予算措置にめどをつけ、早期実施を求めたい。
この給付制度は一九八一年一月に始まった。死者十一人、負傷者五千人余りを出した地下鉄サリン事件などの無差別殺傷事件をきっかけに支給額を段階的に増やしてきた。
こうした理不尽な犯罪に巻き込まれた時、被害者や遺族が被る経済的なダメージは、精神的な打撃に劣らず甚大といえる。自賠責に加えて任意保険への加入が常識になっている交通事故の加害者に比べ、犯罪加害者の賠償能力が著しく劣る場合も少なくないからだ。
その意味で、最高額を自賠責の限度額に近づける今回の決定は一定の前進だ。多くの国民の支持も得やすいのではないか。
公的な給付制度の拡充とともに、民事訴訟を通じて被害者や遺族が簡単に損害賠償を請求できる方策も必要だ。
欧米では、刑事裁判の立証成果を民事での賠償請求に活用している。論議を重ねる中から、新たな救済の道筋や制度のあり方も見えてきそうだ。
犯罪被害者や遺族が刑事裁判に参加する改正刑事訴訟法も来年末までに施行される。論議を深める好機である。
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