聞こう 話そう 考えよう  裁判員制度全国フォーラム
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【提供:中日新聞社 平成17年11月13日掲載】
 裁判員制度全国フォーラム in 愛知
 一般の人が重要な刑事裁判に参加する裁判員制度をテーマにした「裁判員制度全国フォーラムin愛知」(最高裁、名古屋高・地裁、中日新聞社、全国地方新聞社連合会主催)が10月30日、名古屋市中区の名古屋商工会議所ホールで開かれた。森脇勝・名古屋地裁所長のあいさつに続くパネルディスカッションでは、市民の代表らが裁判官や検察官、弁護士と意見を交えた。約400人が耳を傾け、2009年5月までに始まる裁判員制度について理解を深めた。
 裁判員制度ポイント解説
名古屋地方裁判所刑事部上席裁判官
柴田 秀樹
■「平易に迅速に」争点絞る
 フォーラムでは柴田・名古屋地裁刑事部上席裁判官が司会者の質問に答える形で裁判員制度のポイントを説明した。
 裁判手続きはどう変わるの
 分かりやすく、迅速化する。現在は法律のプロだけが手続きにかかわっているので難しい言い回しや法律用語が使われてきた。裁判員が加わるとなると、裁判員に理解してもらわなければならないから、言い回しなどを分かりやすくする工夫が必要となる。裁判員は仕事を休んだり、家を空けたりして参加するので集中的に審理することが求められる。「公判前整理手続」といって裁判官、検察官、弁護士が事前に争点を整理し審理の対象を絞っておくことで公判を連日、集中的にできるようにする。
 裁判員の仕事は
 公判に出て、法廷での手続きに立ち会い、三人の裁判官とともに証拠に基づいて被告人が有罪かどうか、有罪ならばどのような量刑にするかを判断する。刑事裁判は難しいと思う人も多いが、経験を積んでいる裁判官が必要に応じて説明するので過度な心配はいらない。
 裁判員はどのように選ばれるのか
 裁判員候補者名簿をつくり、事件ごとに候補者を選び、選任手続きを経て決定する。(図参照)。七十歳以上の人や大学生ら勉学が必要な人、重い病気の人、同居の親族の介護や養育の必要な人などは辞退できる。
 裁判員の対象事件は。また、裁判員は年間どれくらい選ばれるの
 人が亡くなるような重大な刑事事件が裁判員裁判の対象となる(表参照)。対象事件は、全国では二〇〇四年度で三千三百八件。愛知県では二百三十九件。一つの事件で六人の裁判員を選ぶとすると、愛知県では千四百三十四人が必要になる。愛知の有権者数は約五百六十万人だから一年間で選らばれるのは約三千九百人に一人。二十歳から七十歳になるまで五十年の間に選ばれる確率でみると、七十八人に一人となる。

図 裁判員に選ばれるまで

表 裁判員制度の対象事件
 会場の声は
■無作為選任は不安
■PRもっと必要
 フォーラムでは、パネルディスカッションの中で紹介するため質問用紙を配って回収したが、約百四十通が寄せられるなど、裁判員制度への関心の高さをうかがわせた。真剣に聞き入っていた会場の人たちにフォーラムについての感想や制度への疑問、不安点などを聞いた。
名古屋市守山区、会社員井口典子さん(四〇)
 テレビドラマなどで見る裁判は難しく、不安を抱いていたが、(フォーラムに来たことで)大筋では解消できた。ただ、例えば裁判員に危害が及ぶ恐れなど、制度が始まってみないと分からない問題もあると思う。
岐阜県大垣市、無職藤井見龍さん(八一)
 裁判員が法律に詳しい必要はないとパネリストは言うが、例えば強盗と窃盗の違いなど基本的な法知識がなくても本当にいいのか。制度自体は賛成だが、裁判員を無作為に選ぶというのは不安が残る。
愛知県一宮市、高校3年野村知世さん(一八)
 私は法学部志望で、授業でフォーラムの話を聞いて自分で調べて参加した。細かい部分についても改善しようとしていることが分かって良かった。裁判員制度には賛成。ただ、自分のこととして考えると心配もある。先入観を持って事件や被告人を判断してはいけないが、自分にそれができるかどうかもしっかり考えていきたい。
名古屋市中村区、公務員川口章夫さん(五四)
 裁判員制度は何だかひょこっとやってきたという感じで、多くの国民が、なぜ裁判員なのかということをまだ理解していないと思う。私自身はフォーラムで理解が深まったが、もっともっとPRが必要なのではないか。
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パネルディスカッション
 ■みんなで話そう裁判員制度
【パネリスト】
釜田 武(名古屋検察審査協会副会長)
丸山 豊明(フジスタッフ名古屋支店長)
日紫喜 友紀(女性起業家創造委員会リーロ主宰)
【アドバイザー】
柴田 秀樹(名古屋地方裁判所刑事部上席裁判官)
北原 一夫(名古屋地方検察庁公判部長)
山田 幸彦(弁護士)
【コーディネーター】
飯室 勝彦(中日新聞社論説委員)
釜田 武
釜田 武
丸山 豊明
丸山 豊明
日紫喜 友紀
日紫喜 友紀
柴田 秀樹
柴田 秀樹
北原 一夫
北原 一夫
山田 幸彦
山田 幸彦
飯室 勝彦
飯室 勝彦
         
■圧力や仕返し心配/丸山
■多彩な視点プラス/山田
■映像機器の活用も/北原
■職場の理解に努力/柴田
■託児サービス望む/日紫喜
■人を裁くのは重責/釜田
飯室: 法律の専門家として素人が加わることに何を期待しているか。
柴田: 三人の裁判官に加えて、経歴や職業の異なる裁判員六人が新たな視点から意見を述べることで、より正確な事実認定ができ、量刑も変わってくるだろう。
山田: 調書の役割が大きかった裁判が公開の場の証言で判断する本来の姿になる。迅速な裁判のため取り調べのビデオ化や録音など手続きも大きく変わってくるのでは。陪審員制度は民主主義の学校という言葉があり、社会を変える基盤にもなりうる。
北原: 裁判が国民の良識や感覚に合った分かりやすいものになる上、裁判への参加で犯罪は人ごとでないという感覚が広まり、犯罪防止への関心が高まることが期待される。
飯室: 市民の側はどう受け止めるか。
日紫喜: 裁判員制度は前向きに考えたいが、働く女性が増える中、選任されたら裁判所に託児所を作ってもらえるのか、女性特有の病気の際はキャンセルできるのかなど不安がたくさんある。
丸山: 客観的にありたいと心がけて、冷静な自分を大切にして裁判に臨みたい。有罪と思っても、無罪としても見ることができるような自分でありたい。
釜田: 正規の裁判官と対等の立場で素人の感覚で人を裁くということで責任が重い。白紙の状態で真実を突き止め、情状酌量の余地を探り、凶悪犯罪の被告にも予断を持たないという認識で取り組みたい。
飯室: 会場の質問では素人に裁判ができるのかという質問が目立った。
柴田: 法律は前提だが、まずは一番の問題である事実認定をやっていただきたい。過度の心配はいらない。法律的な知識については裁判員の方に説明する。
山田: 法律家は狭い社会にいるので、裁判員がいろんな視点で意見を出し、ものの見方を立体的にして深みを増すという点でプラスになる。
北原: 事実認定が難しいと先入観を持つと思うが、それはテレビドラマの影響が強く、現実にはサプライズはほとんどない。検察は証拠が確実でないと起訴しないし、難事件でも経験豊富なプロの裁判官が三人も加わるのだから不安はない。
飯室: 専門用語や量刑判断の難しさを指摘する声が出た。
柴田: 専門用語は使わず、平易な言葉を使う必要があり、私たちも話し方の勉強を一部で始めている。量刑については、過去の事件でどのような判断がなされたかが、データベース化されている。裁判員の判断材料として、提示させてもらうことになるだろう。
山田: 用語の見直しは弁護士会でも始めている。法廷では文章を読むだけでなく、(立証を)ビジュアル化する方策も検討している。
北原: (立証を)分かりやすくする責任を第一義的に負っているのは検察で、内部では試行錯誤しながら模索している。分かりやすく、かつ誤解を受けないことが大事だ。例えば現場の略図を示した方が言葉だけより(裁判員らの)正確な理解につながることも考えられ、(映像)機器の活用も検討している。
釜田: 従業員が裁判員に選ばれ、職場を離れるのは会社にとっては一大事だ。裁判所から雇用主にもお願いするようにすれば、制度が円滑に進むのではないか。
柴田: 私どもも、企業には「従業員が裁判員の呼び出しを受けた場合、快く応じてください」と説明会でお願いはしている。ご意見は検討したい。念のため付け加えると裁判員には日当や旅費が出される。ただ、金額は決まっていない。
日紫喜: 託児施設の設置など、子育て中の女性へのサービスは検討しているのか。
柴田: 託児施設は今のところ難しい。
山田: 子育て、介護中の場合、裁判員の辞退が認められる可能性はある。ただ、多くの国民が参加できる環境づくりに向け、裁判所も予算獲得に努めてほしい。
飯室: 裁判員制度が、“お任せ民主主義”からの脱却につながるとの見方はどうか。
山田: これまで日本社会は、行政中心の“護送船団方式”が幅を利かせていたが、大きく変わってきている。フェアで開かれた形で物事が議論、解決される社会にしなければならず、司法は大きな役割を担う。国民も誰かにお任せするのではなく自ら担っていくという形が必要だ。社会全体につながる大改革ととらえ、取り組みたい。
飯室: 裁判員制度への注文や不安、疑問があれば。
丸山: 裁判員への圧力や仕返しが心配だ。
柴田: 危害が加えられるおそれのある事件は裁判官だけで裁判をする。被告人とかかわりがある場合には裁判員の辞退を認めるほか、法廷では裁判員の住所や氏名を決して明かさず、接触も禁止するなど何重もの防護策を採っている。
北原: これまで報復の例は聞いたことがなく、仮に報復の兆しがあるとの情報があれば、当然法曹三者と警察で協力して防止する。
日紫喜: 今までと違った体験で、裁判員がストレスを感じるケースがあるのでは。
釜田: 裁判員用の法衣を用意してはどうか。私服のままでは法廷で目立ちやすく、仕返しの問題など後が心配だ。
柴田: 急病などに備え、前もって補充員を選任しておく制度がある。国民参加という意義からも、それぞれが普通の服装で来ていただくのが良いと思っていた。警備面での不安を感じるのであれば、今後の検討課題にしたい。
飯室: 守秘義務が叫ばれているが、雇い主に説明を求められるケースもある。家庭内で全く黙っているわけにもいかないのでは。柔軟性が求められる。
柴田: 守秘義務の範囲は、評議の内容や関係者のプライバシーに属する部分。公の場である法廷で見聞きしたことは、どんどんお話ししていただいても結構だ。
飯室: 最後に感想と制度への期待を。
釜田: 裁判員制度が円滑に進むよう、私たちもPRに努めていきたい。
丸山: 他人ごとのように事件を見ていたが、自分のこととして身近に感じられるようになった。この意識を持ち続けていきたい。
日紫喜: いろいろな話を聞いて、安心することができた。
北原: 裁判員制度はわれわれにとっての「プロジェクトX」。国民の目線に立った、分かりやすい裁判の実現のため工夫していきたい。
山田: 市民の皆さんが「参加して良かった」とやりがいを感じられる制度にすることが大切。肩の力を抜いて参加してほしい。
柴田: 日本の高い教育水準を考えれば、きっと成功裏に終わると確信している。実施に向け万全の準備に務めたい。
※掲載にあたり、出席者などの敬称はすべて省略させていただきました。
<主催>
最高裁判所、名古屋高等裁判所、名古屋地方裁判所、中日新聞社、全国地方新聞社連合会
<後援>
法務省、名古屋地方検察庁、日本弁護士連合会、愛知県弁護士会、愛知県、名古屋市、名古屋商工会議所、名古屋青年会議所、共同通信社
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