「国民本位の政治」と「低炭素社会への転換」を掲げた福田康夫首相の施政方針演説に、野党はどう切り込んでいくのか。国会論戦の初陣となる各党の代表質問が始まった。
民主党の鳩山由紀夫幹事長は、日本の大問題として格差の拡大と国力の低下を挙げた。
小泉純一郎元首相が「弱肉強食のニセ改革」を進めた結果、地方の力が失われ、国民生活はほころびに〓(ひん)している。同時に日本の経済的地位の下落と、次世代を担う子どもたちの学力の低下はゆゆしい問題だ、と鳩山氏は警告した。
そのうえで鳩山氏は、福田内閣に対して「国民生活や経済運営はそっちのけにして、インド洋で米軍艦船等にただで油を渡すことに汲々(きゅうきゅう)としていた」と、強烈な無策批判を展開した。格差を放置し、株価下落にも防衛省不祥事にも手をこまねいていたというのだ。
当たっている部分もある。大田弘子経済財政担当相ですら経済演説で「もはや日本は『経済は一流』と呼ばれる状況ではない」と嘆いたのに、首相の演説にさほどの危機感は感じられなかった。原油価格の高止まりと急激な株安が同時進行しているだけに、その感が一層強くなる。
では、民主党ならどうするのか。鳩山氏は相当の時間を割いて「民主党の政府ができたらこうする」という説明に充てた。
基礎年金は全額税方式とし、消費税をすべてつぎ込む。1人2万6000円の「子ども手当」を創設し、高校教育の無償化も進める。農家を直接支援するため「戸別所得補償制度」を創設する。高速道路は一部大都市を除き無料化する。そして原油高に苦しむ国民の声に応え、今国会を「生活第一・ガソリン国会」と位置づける--。
大半は、昨夏の参院選で同党が政権公約として提示したものだが、こうして並べられると、ばらまき色の強さがかえって目に付く。実現すれば国民は喜ぶかもしれないが、その財源はどう捻出(ねんしゅつ)するのか。景気対策の名の下に築かれた赤字国債の山を見て、私たちは財政規律の大切さを学んだのではなかったのか。
鳩山氏は財源について、談合・天下りの根絶や国家公務員総人件費の削減など「無駄遣いの一掃」によって確保できると主張した。しかし、あまりに抽象的かつ楽観的な説明だ。国民の痛みには触れず、選挙に向けて果実のみを喧伝(けんでん)するようでは、民主党政権のリアリティーは生まれない。
新テロ法の採決を途中退席した小沢一郎代表は「大事な法案とは思っていない」と自らへの批判を一蹴(いっしゅう)した。野党の役割は政府との権力闘争であり、勝敗が決まれば関心はないと言わんばかりだ。これから始まる本格的な国会論戦がそんな権力ゲームに堕することのないよう望む。
毎日新聞 2008年1月22日 0時06分