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2008年01月22日(火曜日)付

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国会論戦―説得力の競い合いだ

 「税金のムダ遣いの一掃は、民主党中心の政府ならできる」

 「言葉が踊るだけでは何も変わらない。政治は行動であり、結果だ」

 通常国会の論戦が幕を開けた。代表質問のトップバッターに立った民主党の鳩山由紀夫幹事長が早速、衆院の解散・総選挙を迫る。福田首相は国民生活の安定と政治の責任を語ってこれを退けた。

 この対決構図を基本に、今後の論戦が繰り広げられていく。

 鳩山氏は、質問のかなりの部分を費やして、民主党が政権をとれば実現する政策を説明した。政府・与党からは自民党の伊吹文明幹事長が、財源がさだかでないと民主党の無責任さを非難した。

 国民に対してどちらが説得力を持つか、これからの予算委員会などでの応酬で競い合うことになる。政権交代の可能性をはらんだ2大政党時代の、あるべき論戦の姿ではないか。

 鳩山氏は、ガソリンにかかる暫定税率の廃止を主張の中心に据えた。では、2兆6000億円もの税収がなくなる後をどう手当てするのか。民主党2番手の質問者、古川元久党税調副会長は税金の無駄遣いなどをやめれば、必要な道路はつくれると訴えた。

 であれば、民主党がやるべきことははっきりしている。今後の委員会審議などを通じて、具体的に政府の税金の無駄遣いを明らかにしていくことだ。財政事情が逼迫(ひっぱく)するなかで、真に必要な道路とは何かの議論を詰めることも必要だ。

 それによって自らの政策の妥当性を訴える。官僚機構を抱える政府・与党を相手に簡単ではないが、政権をとるために越えなければならないハードルだ。

 古川氏は、特定の業界などを税の面で優遇する租税特別措置についても見直しを主張した。これは形を変えた補助金のようなものだ。優遇する理由や効果はあるのか、既得権益になっていないか、一つひとつ洗い出すという姿勢は歓迎だ。

 こうしたことを解明するためにこそ、国政調査権を生かしてもらいたい。政府側もデータの開示に積極的に応じるべきだ。そのうえで、国民の暮らしや活力ある経済のためにどちらの主張に理があるかを論じ合うのだ。

 歩み寄れる部分があれば、修正を話し合えばいい。政策協議の土俵を敬遠しては、国民の信頼は得られない。

 衆参で多数派が異なるという新しい政治状況下での予算審議である。政府・与党は「原案のままで年度内成立」というこれまでの常識にこだわるべきではない。場合によっては、予算案の一部組み替えもあっていいはずだ。

 一方、民主党にも注文がある。議論を始める前から、予算案や関連法案について「年度内成立はさせない」との発言が聞こえてくるのはいかがなものか。

 衆院解散に追い込むための国会戦術はわからないではない。だが、真正面からの論戦を避けては有権者は共感しまい。

岩国市長選―問われる「アメとムチ」

 選挙の争点は米軍の空母艦載機を受け入れるかどうかだが、その背後で問われているのは、政府の露骨な「アメとムチ」の政策だろう。

 2月におこなわれる山口県岩国市の出直し市長選のことである。

 米軍厚木基地からの艦載機の受け入れに反対していた井原勝介市長が、市議会と対立し、昨年暮れに辞職した。井原氏は改めて市民に信を問うとして、再び立候補する。これに対し、移転容認派から推された自民党の福田良彦衆院議員が立候補を表明している。

 騒ぎの発端は、05年秋の日米両政府による在日米軍再編計画だ。岩国基地には厚木基地から艦載機59機が移されることになった。市街地にある厚木基地の騒音問題が深刻になっていたからだ。

 岩国市はかねて米軍基地の街である。だが、井原市長は受け入れを拒んだ。米軍機の数がいまの2倍になり、住民生活に深刻な影響を与えるという理由だけではない。地元に何の相談もなく決められたことへの反発も大きかった。

 これに対し、政府が決めたのは、新市庁舎建設への07年度分の補助金35億円を打ち切ることだった。

 もともと新市庁舎への補助金は、米軍普天間飛行場の空中給油機を受け入れることを97年に決めた見返りだった。艦載機とは無関係のものである。

 だが政府は、米軍再編の計画を進めるにあたって、基地などの受け入れの表明から実現までの段階ごとに、自治体に交付金を出す方法を法律に盛り込んだ。

 こうした「アメとムチ」の政策を岩国でも徹底しようとしたのだろう。補助金の名目を一方的に変え、新たに艦載機を受け入れなければ打ち切るというのは、あまりに乱暴ではないか。

 井原市長は補助金に代わる財源を予算化しようとしたが、受け入れ容認派が多数を占める市議会に抵抗され、けっきょく市長の辞職、出直し選挙となった。

 市長が移転に反対してきた背景には、市民の意思がある。合併前の一昨年3月の住民投票では、「移転反対」が多数を占めた。その後の合併に伴う新市の市長選でも、「移転撤回」を公約に掲げる井原氏が移転容認派を抑えて当選した。

 とはいえ、井原氏も何がなんでも艦載機を受け入れないというわけではない。いま工事中の滑走路の沖合への移設が終わった後、改めて騒音を測ってはどうかなどと提案し、場合によっては移転を受け入れる考えを示したこともある。

 だが、防衛省は「受け入れが先決」として、歩み寄ろうとしなかった。

 井原氏が選挙に勝って再び市長になっても、政府が艦載機の移転を強行すれば、それを阻止する権限はない。防衛省はそれを見越しているのかもしれないが、市長や市民の批判にさらされ続ける基地が安定するはずがない。

 一連の経過を踏まえ、岩国市民がどう判断するか。選挙の結果を注目したい。

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