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社説:経済の姿 成熟国の発展モデル作ろう

 02年2月に始まった景気拡大は今月で丸6年になる。よくぞここまで続いたというのが偽らざる感想である。もっとも、名目が実質を下回る状況下では、景気が良くなっているという実感が乏しいのも無理はない。しかも、上場企業の利益は増え続けているものの、サラリーマンの給料はほとんど上がっていない。

 こうした経済環境は今年も大きく変わるようにはみえない。

 日本経済は世界から置き去りにされるのではないかという漠然とした不安も真実味を帯びてきた。昨年末、内閣府が公表した1人当たり国内総生産(GDP)の国際比較で、日本は経済協力開発機構30カ国中18位まで落ち込んだ。世界のGDPに占める比率も9.1%と1割を切った。06年の1人当たりGDPは3万4252ドルと決して低くはないが、90年代にはほぼ毎年5位以内を占め、95年には4万ドル台に乗せていた残像が国民の間にある。それが落胆を増幅する。

 ◇日本には底力ある

 しかし、そう失望することもない。ロシアを除く主要国首脳会議を構成している7カ国では、米国以外は3万ドル台だ。しかも、欧州勢はここ2、3年、ユーロがドルや円に対して高くなっており、その効果が出ている。それでもドイツ、フランスとほぼ肩を並べ、イタリアよりは上だ。

 これは日本の底力といっていい。日本の戦後経済の発展は製造業の躍進にあった。80年代から90年代にかけて、経済の主役交代が言われた。第2次産業からサービス業を中心とした第3次産業にということだ。現実はどうか。06年のGDPを産業別にみると、製造業は20.7%でサービス業と並び首位だ。シェアも4年連続で増えている。

 ただ、この状況が今後、続く保証はない。サービス産業主導の流れは止めようがないし、製造業でもソフト技術やサービス産業と結びついた高付加価値化が不断に進んでいる。自動車や鉄鋼が主導する日本の産業構造は高度成長時代の名残を色濃く残していると言わざるを得ない。

 小泉内閣以来、競争力強化や新産業創出は経済政策の重要な柱とされてきた。その成果を出さなければならない。1人当たりGDPで上位を占める北欧諸国の躍進が経済のハイテク化、ソフト化にあることを肝に銘じておく必要がある。政府も産業界も本気で取り組まなければならない。

 ただ、そうした戦略や戦術が成功しても、少子高齢化が急速に進む日本が、高い成長を享受できる条件は失われている。劇的な技術革新で生産性が一気に高まることでもない限り、2%程度の実質成長は自然だろう。いま、世界が直面している課題にかんがみても、それは望ましいことだ。

 21世紀の世界が安定的に発展していく上で制約要因は環境と資源である。20世紀には貧しい状況に置かれていた途上国が工業発展を高めれば環境は破壊され、資源は不足することは目に見えている。とりわけ、環境は経済社会活動の場であり、いったん壊されてしまえば、豊かさの追求もできなくなる。

 日本をはじめとした先進諸国の消費は浪費の域に入っている。これ以上、モノの面で富んだとしても、豊かさの実感が目に見えて上がるとは思えない。先進国は節度ある発展に転換しなければならない。それが成熟国の責任だ。

 日本人が豊かさを感じることができない背景には格差や年金に象徴される安心の欠如があることは間違いない。同時に、GDPや国民所得だけではとらえることのできない経済発展、経済成長の姿がある。言い換えれば質の低さだ。

 第二次世界大戦後、一貫して続けられた公共投資重視政策にもかかわらず、生活関連のストックは不十分なままだ。国土保全面でも問題が多い。人々の働き方や休暇の取り方も大きく変わったとはいえない。

 いずれも成長率が高まればいい方向に向かうというものではない。成長の質そのものが問われている。

 ◇豊かさ実感したい

 環境配慮型の経済構造構築や、社会資本のあり方の抜本的見直しは、二つの制約の解決にもつながる。豊かさの実感も高める。

 問題は日本人にはまだ低成長を受け入れる下地がないことだ。低成長に対する恐怖心かもしれない。1~2%程度の成長では給料も上がらないし、社会保障も心配ということだ。

 給付が租税や社会保険料によって支えられている以上、国民負担の増加は避けられない。同時に、国民が安心を取り戻すことができるように、財政の役割も再検討しなければならない。小さな国家論が責任の放棄につながりかねない危うさを持っているからだ。

 日本人は改革好きだ。では、それによって経済の構造や行政システム、行政手法はどこまで変わったろうか。残念ながら、まったく不完全だ。小泉改革にしても壊した後は二の次だった。その意味では、いまこそ改革が必要だ。底力が残っているうちに着手し、成熟国の経済発展のモデルを世界に示したい。

毎日新聞 2008年1月4日 0時13分

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