誤報だらけの地球温暖化情報 (上)
映画「不都合な真実」は、科学とは無関係なエンターテインメント?
MSN産経ニュースによると、今年7月の北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)で議長国を務める日本は、京都議定書に定めのない2013年(平成25年)以降の新たな国際枠組み作りに、現状、温室効果ガス削減義務を負わない途上国を引き込むために、今後5年で1兆円超の途上国支援を目指しているようです。〔参照:MSN産経ニュース1月10日付「
地球温暖化策で途上国支援5年100億ドル」〕
しかしながら、そのような温室効果ガス削減の根拠となっている、肝心の「地球温暖化情報」は、いったいどれほど正しいのでしょうか。
現在、この問題については、国家間の利害にまで及ぶ非常に複雑で広範な利害関係や思惑によって情報が交錯しています。
そこで、そのような利害関係の蚊帳の外から科学者としての所見をお聞きするため、今回、米国・フェアバンクスのアラスカ大地球物理研究所と国際北極圏研究センター(IARC)前所長で名誉教授の地球物理学者、赤祖父俊一氏に、メールインタビューをお願いしてみました。
「人の影響による温度上昇だけを測定してこそ初めて規制の話ができる」
───アル・ゴア氏の「不都合な真実」は社会現象まで引き起こしました。しかし地球温暖化に関する報道にはバイアスがかかっているという指摘もあります。科学的には現在の温暖化現象をどのように理解したらいいのでしょうか?
地球温暖化は実際に起きています。問題はその原因です。気候変動には自然変動と、人間の活動による変動とがあります。私は手元にある実データをもとに、気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)が示すことをしていない、この2つの比率を独自に算出しました。結果ですか? 観測されている温度上昇の6分の5ほどは自然変動によるもの、残りの6分の1ほどが人間の活動によるものだということが分かりました。
詳しくお話しすると、西暦1400年ごろから地球は小氷河期という寒冷期に入りました。そしてその約400年後の西暦1800年ごろから、気温の回復つまり温暖化が始まっています。この自然変動が、西暦1800年ごろから大体同じ回復率、つまり0.5度/100年で現在まで続いています。IPCCの現在の報告はこの自然変動をほとんど無視して、1900年ごろからの温暖化は、おおむね炭酸ガス等による温室効果、つまり人間の活動によるものとしています。これはまったくの誤りです。
IPCCは温暖化率、つまり人間の産業活動等による影響を0.6度/100年としています。しかし小氷河期からの回復率は0.5度/100年ですから、実際に炭酸ガス等による温室効果率は、実は0.6-0.5=0.1度/100年程度になります。今後、多くの研究者がこの点を研究すべきです。
〔これらの点に関する赤祖父氏の学術論文「Is the Earth still recovering from the "Little Ice Age"? - A possible cause of global warming」(英文)はこちらを参照〕
「炭酸ガス増加の直接の影響であるかのように氷河が崩れる映像を流すのは問題」
───北極圏に存在する種々の氷が確かに縮小しているといった異変に関する報道は、どう理解すべきなのでしょうか。
最初に、北極圏という極めて特殊な地域の実情がこれまでほとんど知られていなかったため、北極圏でいつも起きている多くの自然現象が「異変」として報道されているという側面があります。
今は小氷河期からの回復期です。したがって全地球的に氷河は縮小しているものの、これは1800年前後から世界全体で起きていることに過ぎません。1950年代に炭酸ガスが急速に増え始めたころから突然始まったものではないのです。
例えばゴア氏らが使っている氷河の末端で氷が落ちるシーンですが、氷河は氷の川であって、川の水が流れるのと同じく氷が動いているというごく普通の自然現象が起きているだけです。温暖化にはまったく関係がありません。ましてこれを炭酸ガス増加の直接の影響であるかのように映像を流すのは問題です。
北極海の海氷の縮小についてですが、海氷は1枚の板のような形状ではなく、バラバラな状態で風や海流の影響を受けつつ常に動いています。私たちは3隻の砕氷船で、これを特に夏の間観測しているのですが、大西洋側から流入している温暖な海流の影響がかなり大きいことが分かってきました。南極の氷も炭酸ガスの影響を受けるはずですが、ほとんど変化がないのです。北極海の海氷に直接影響を与えているのはあくまで海流であって、炭酸ガスの直接の影響を論じることなどできません。
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赤祖父氏は以前から、人の影響による温度上昇だけを観測してこそ初めて規制の話ができると言っています。直接自分の目で、その半生をかけて北極圏の自然を見守ってきた赤祖父氏にとって、北極の自然現象を無理解にまた意図的に曲げて使うのは「問題」と言わざるを得ないようです。赤祖父氏はゴア氏による「不都合な真実」の映画を「科学とは無関係なサイエンス・フィクションまたエンターテインメント」と評しました。
では、地球温暖化情報にはほかにもどのような「不都合な真実」があるのでしょうか。
次回「誤報だらけの地球温暖化情報 (中)」では、特に温暖化の影響としてよく引き合いに出される海面上昇と気温と炭酸ガスとの関連について、引き続き赤祖父氏を交えて検証します。
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