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社説

2008年01月21日(月曜日)付

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希望社会への提言(13)―医療・介護に頭とカネを使おう

・地域政府が福祉サービスの責任をもつ

・子どもこそ未来の希望、子育て支援を手厚く

  ◇

 これから数回は、私たちの暮らしを支える社会保障の未来図を描きたい。今回は総論として、社会保障を全体的にどう組み立てるのかを提言する。

 少子高齢化が進みながら日本の人口が減り始めた。経済もかつてのような成長は期待できない。もうバラ色の社会保障像を望むことはできない。

 そんな厳しい中でも、年金・医療・介護は、少なくとも今の水準を維持していこう。子育てや貧しい人々への支援、そして教育は手厚くしたい。そのためには保険料や消費税の引き上げも受け入れざるを得ないが、さらに市民も手を差しのべ合って福祉の質を高めていく。

 この社説シリーズの初めに、希望社会のイメージをそんなふうに示した。要は、やみくもに「小さな政府」にするのではなく、「中福祉・中負担」で連帯型の福祉国家をめざそうという考え方だ。

 それを実現するため、次の三つを提案する。(1)年金より医療や介護にもっと頭とカネを使う(2)分権を進め、医療や介護は基本的に地域政府にまかせる(3)子育て支援に力を入れる。この3原則で、持続可能な社会保障を組み立てたい。

 まず最初の提案を説明しよう。

 年金で生活を支え、医療や介護への出費も年金から払ってもらう。そんな年金中心の高齢者福祉を政府は描いてきた。それを修正したいのだ。限られた財政資金を有効に使うためである。

 

 

 もちろん年金は老後の柱だ。ただ、日本の年金水準は欧州とほぼ肩を並べるところまできている。現行の水準を維持できれば、ひとまず安心できるのではないか。それで足りないなら、若いころから計画的に蓄えることもできる。

 それより老後で本当に困るのは、重い病気や介護が必要になったときだ。ふだんより格段にお金がかかり、年金では足りないかもしれない。しかも、そんな状態がいつ来るのか来ないのか予測はできないので、備えておきにくい。

 その結果、お金のあるなしで受けられる治療に大きな差が出たり、オムツ交換の回数が変わったりするのではつらい。

 同じ財政資金を使うのなら、年金を手厚くするのと、こうした不時のための備えに回すのと、どちらの方が老後の安心により役立つだろうか。一人ひとりが万が一に備えるより、社会全体でカバーし合った方が効率もよくなる。

 現在でも、医療は医師不足や病院の赤字といった問題を抱えている。介護もヘルパーの報酬が低すぎて、穴があきつつある。このままで老後は大丈夫か。

 社会保障への毎年の公的支出は、25年度までの20年間に40兆円以上も増えると大まかに試算されている。そのうち20兆円を医療が、10兆円を介護が占める。高齢者が急速に増えるからだ。

 もっと効率をあげて支出の増加を抑え負担増を極力抑制する。それと同時に、サービスの質も高める。ここにこそ、頭とカネを使っていくべきだ。

 その工夫のひとつが2番目の提案だ。医療や介護は思い切って地域政府にまかせ、住民が必要とするサービスの内容は住民が決める仕組みにしよう。

 全国民が加入し、支え手が多いほど制度が安定する年金は中央政府、つまり国が責任をもつ。しかし、医療は都道府県が責任をもって運営する方がいい。2000年にできた介護保険は市町村が担当しているが、いままで以上に独自性を発揮できる仕組みにしたい。

 医療や介護の負担とサービスを地域に合わせて組み立てる。住民の自主的な活動もからませて、出費を節約しながら、きめ細かな福祉を提供する。

 地域政府がちゃんと運営できるか、不安がないわけでもない。だが、選挙や行政への参加を通じて住民が意向を反映させられるようになれば、納得もできるし制度が安定するのではないか。

 

 

 最後は子育て支援である。子どもは未来の希望の星だ。子どもが減れば働き手が減り、消費も落ち込み、経済は縮小する。社会保障の担い手も減る。

 子どもが欲しければ安心して産めて、立派に育てていける。子育て支援を強めてそんな社会をめざそう、という提案に異存はないだろう。

 社会保障の公的支出はいま、高齢者へ70%が振り向けられ、子どもなど家庭へは4%ほどしか行っていない。

 高齢者が増え続けるので、比率を大きく変えるのは難しいかもしれない。だが新たな財源を工面して、若い世代への給付やサービスを手厚くしたい。

 いまのペースで少子化が進んでいくと、50年後には日本の人口が4千万人近く減って9千万人を切る。さらに今世紀末には、その半分にまで落ち込んでしまうとも推計されている。

 それを食い止め、できれば反転させる。持続的で希望のもてる社会をつくるには、それが何よりも大切だ。

 前述のように、高齢化によって社会保障支出は急激に増えていく。保険料や税金による負担も増やさざるを得ない。それを極力抑えるため、社会保障の中にもある無駄を徹底して排除し、効率化させていく。これは改革の大原則だ。

 次週は社会保障の各論編として、まず医療から考えてみることにしよう。

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