潮待ちの港町として知られる福山市鞆地区の名産と言えば、文人墨客に愛され、今に飲み継がれている保命酒ではなかろうか。
十五日付の本紙に、地元の鞆保命酒協同組合が、江戸時代の保命酒を復元したというニュースが載っていた。創業者の中村家文書の中から、製造法を記した十七世紀以来の秘伝書が見つかり、鞆の魅力づくりの一環として再現を試みた。
香りの強いビャクダンや強壮作用のある地黄といった生薬や菊の花などの薬草は、現在より三種少ない十三種を使う。みりんにつけ込み、試行錯誤の末に「とろりとなめるような」現在よりも香りと味の強い飲み物に仕上がったという。
十七世紀半ば、大坂から移り住んだ商人の中村吉兵衛吉長が、漢方医の父に伝授された方法で醸造したのが始まりで、滋養強壮に効果があるとして評判を呼んだ。漢詩人の頼山陽は、亡くなるまで保命酒を楽しんだ愛好家だった。
幕末の政変で逃げてきた公家の三条実美は「よにならず鞆の湊(みなと)の竹の葉をかくてなむるもめずらしの世や」と歌に詠んだ。日本を開国させた米国使節のペリーや領事のハリスを接待した幕府の宴席にも保命酒が並んでいる。
二―三月に鞆地区一帯の旧家などで、ひな人形を展示する鞆・町並ひな祭が行われ、そのイベントで試飲会が開かれる予定だ。江戸の味を体験してみたくなった。