日本はかつて「経済一流・政治三流」といわれた。その意識は根強く残っているが、大田弘子経済財政担当相は通常国会の経済演説で、日本経済は「もはや一流と呼ばれるような状況ではなくなった」との認識を示した。
大田経財相は、理由として世界の総所得に占める日本の割合が二十四年ぶりに10%を割り込んだことなどを指摘し、日本経済の国際的な地盤沈下に危機感を表明した。経財相自らが日本経済の低落を明言するのは異例だが、現実を認識することで打開機運を高めようとするショック療法を狙ったとみられる。
福田康夫首相も「国内総生産(GDP)も所得もあまり伸びていない」と、日本経済に停滞感があるとの見方をした上で、経財相は頑張れの意味で言ったと、発言の趣旨に賛同した。問題はどう頑張っていくかであろう。
経財相が強調するのは、新たな成長戦略構築の重要性である。成長力強化の方策として、特に三点を挙げた。第一は海外との経済連携の加速や対日直接投資の増加など、オープンな経済システムをつくる。第二には、地域に根を張るサービス産業を活性化し、生産性を高める。第三は、人材の活力向上で、働きながら子育てしやすく、六十歳以降も働きやすい環境をつくるとする。
財政については、健全化を目指して二〇一一年度までに国・地方合わせた基礎的財政収支を確実に黒字化する。歳出・歳入一体改革をこれからも堅持すると約束した。
少子高齢化という、過去に経験したことのない未踏の領域へ入り込む日本が、手をこまねいていては元気がなくなってしまう。経済演説が「立ちすくむのではなく、新たな挑戦の中で、柔軟に自己変革を続ける日本経済でありたい」と力を込め「この数年間の改革努力が将来のカギを握っている」との認識は当然で、異論はなかろう。
演説には「政府一丸となって」「政府全体で取り組む」などの言葉が躍る。しかし、意気込みが伝わらず、空々しささえ感じてしまう。演説内容に新味が乏しい。さらに、福田内閣になって改革意欲が減退したと思えるからだ。衆参で与野党の勢力が逆転するねじれ国会によって、政治の混乱が懸念されることも、先行きに展望が開けない大きな原因だ。
米国経済の変調や発展途上国の急発展など世界経済の変化は激しい。日本が経済一流を取り戻すには、政治も一流でなければ難しかろう。福田内閣こそ危機感を高めて新たな挑戦の先頭に立つべきだ。
有力製紙会社六社が、年賀はがきなどに使う再生紙への古紙配合率を偽装していたことが明らかになった。高まる環境保護への関心や活動に冷水を浴びせかけた。
偽装発覚の発端となった年賀はがきは日本郵政グループが古紙の40%配合を指定したが、各社は大幅に下回る製品を納入していた。偽装はコピー用紙やノートなどにも広がった。二〇〇一年に施行された国の機関に環境配慮製品の購入を義務付ける「グリーン購入法」の対象品も偽っていた。しかも、長年続けてきたというからあきれる。
古紙の配合率を下げれば、それだけコストが上がるのになぜ偽装を続けたのか。各社が同様の行動をとったのは偶然か。疑問は多い。製紙会社側は「現在の技術では品質を低下させかねない」と偽装の理由を釈明する。古紙も中国など海外へ流れ確保が難しくなったともいわれる。
しかし、技術的に無理なら事前に発注側へ説明すべきだ。偽装からは、厳しい経営環境の中で大口購入先を手放せない、高まる環境への関心を追い風にしたいとの意図がうかがえる。製造者側の身勝手な考えであろう。
品質が良ければ問題ないとはいくまい。再生紙の購入で環境保護活動に参加した実感を得る消費者は多い。古紙の配合率はバロメーターともいえる。それが偽りとなれば、消費者の失望感は大きい。
製紙業界は、木材の大量伐採など環境破壊のイメージを一掃するため環境重視を強調してきた。再生紙の利用促進もその一つ。「リサイクルの優等生」といわれた製紙業界の環境に対する意識と企業倫理が問われる。業界挙げて問題点を洗い出し、信頼の回復に努めなければならない。
(2008年1月20日掲載)