川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」

クールジャパンと職人気質の合体

技能五輪やノーベル賞歴から日本の推進力が見えた

 「近頃の若いもんは…」。

 古今東西、いつの世にも年配者に語り継がれてきたこのフレーズに始まり、いじめやニートなどが頭に浮かんで「ああ嘆かわしい!」と締めるのはオトナのたしなみでしょうか。凛々しさに欠ける軟弱さ、伝統文化や礼儀に対する軽視、忍耐力や責任感の欠如などが、年配者の眉をひそめさせる原因のようです。

 しかし昨年11月、日本で22年ぶりに開催された「技能五輪国際大会」で若者たちが大活躍というニュースです。47職種の競技のうち、「移動式ロボット」「自動車板金」「電子機器組立て」「洋菓子製造」をはじめ日本は16職種で金メダルを獲得しました。“ものづくり横綱”の地位の完全復活を世界に知らしめた快挙です。あの若者たちの活躍を目の当たりにすると、さしずめ「近頃の若いもんには……頭が下がります」と言わなくてはならないかもしれませんね。

日本の「ものづくり総合力」を分析してみる

「2007年技能五輪国際大会」の競技風景
「2007年技能五輪国際大会」の競技風景
「2007年技能五輪国際大会」の競技風景

「2007年技能五輪国際大会」が昨年11月、静岡県沼津市で開催され、46カ国・地域の若者が技の世界一を競った。日本は16職種で金メダルを獲得するという大活躍で、「ものづくり国ニッポン」の健在ぶりを示す。技能五輪の職種は、左官(上)、ポリメカニクス(中)、ビューティーセラピー(下)などに加え、造園のように企画設計能力を競う種目もあり幅広い

 ものづくり論が語られる時は、長い年月にわたる忍耐で体得した「技巧」や、精神修養と不可分な「道」の世界にスポットライトが当てられることが多いように思います。しかし実際のものづくりとはそれだけではありません。「研究」や「企画」から「設計・開発」「製造」「販売」に至るあらゆるプロセスが漏れなく必要となります。

 科学者の活躍する基礎研究の領域、エンジニアたちの活躍する開発設計の過程、クリエーターやデザイナーの創造性が活躍する商品企画などと並列して、技巧の活躍する生産技術〜製造の領域があるわけで、これらのバリューチェーンがバランスよく尊敬し合って成り立っている状態こそがトータルとしての「ものづくり力」なのです。

 ということで、ものづくりの一連のプロセスをあまねく網羅したトータルのパフォーマンスで日本が置かれた状況を定量的に分析できないものかと思い立ち、いろいろと統計データをあさってみました。生産技術に相当する力量コンテストを「技能五輪」だとすると、同じような考え方で以下のような指標を統計的な数値比較の対象に選んでみました。

【ものづくり総合力についての国際的な力量比較に用いた6つの指標】
  1. 生産:技能五輪の金メダル数
  2. 設計:国際特許の出願件数
  3. 開発:技術論文の提出件数
  4. 研究:ノーベル賞(物理学、化学、医学)の受賞総数
  5. 理論:フィールズ賞など数学の世界的に知られる8つの賞の受賞総数
  6. 企画:イグノーベル賞の受賞総数

 生産プロセスの技巧を競う技能五輪の1つ上流工程には、設計者としての創意工夫に頭を使うプロセスがあります。その工夫の結果は特許という形で権利が担保されます。PCT(Patent Cooperation Treaty)という国際特許の規格がありますので、「設計」はここに出願された「各国特許の件数」を比較することにします。

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このコラムについて

このコラムでは、商品の機能やデザインにフォーカスし、その商品が生まれた発想の起源を探ります。特に日本の商品に密かに隠れたいかにもニッポン的な「和」のテイストに注目しながら、日本のものづくり文化に息づく競争力の源泉を紐解いていきます。

筆者プロフィール

川口盛之助
(かわぐち・もりのすけ)

川口盛之助

慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社シニアマネージャー。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社)がある (写真:山西 英二)

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